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『*冬物語* 〜響 愛華〜 』
響 愛華(ga4681)

シンッと静まり返った朝。
外を見てみると、辺り一面雪景色になっていました。
まだ足跡もついていない真っ白な世界。
そこに足を踏み出したあなた……。

――今日はクリスマス。
あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?



 * * *


 寒さがひと際厳しい朝。
 響 愛華は早朝のランニングにと、鼻歌交じりに外を走っていた。
「おや、愛華ちゃん、おはようさん」
「あ、おじさん、おはようだよ♪」
 いつも挨拶を交わす老人が、普段と変わらぬ様子で声を掛けてくる。
 それに足を止めると、彼は皺くちゃの顔に更に皺を集めて笑い返してくれた。
「愛華ちゃんは今日も元気だねぇ。ああ、今日は雪も降るって言ってたし、風邪には気を付けるんだよ?」
「わふ! ありがとう〜! おじいさんも、気を付けてだよ♪」
 言って駆け出した所で彼女の足が止まった。

――アルバイト募集中。

 そう貼られた張り紙の向こうに、美味しそうなケーキが陳列されている。
 今日は確かクリスマス。これからあのケーキを売りさばくのだろうか。
「ケーキ、買って帰ったら桜さん、喜ぶかな?」
 呟き、財布を取り出した。が、直ぐに表情が硬くなる。
 それもその筈。彼女お財布に現金など殆どなかったのだ。
「わう……これじゃ、買えない。何か方法――」
 そう口にして顔を上げた目に飛び込んで来たのは、先程スルーした張り紙だ。
 愛華は「これだ!」と声を上げると、張り紙を引っぺがして駆け出した。
 そうして辿り着いたのは、綾嶺・桜と同居している傭兵専用の兵舎だ。
 愛華はすぐさま桜の部屋に向かうと、ノックも無しに顔を覗かせた。
「わふぅ〜、今日は夜から雪らしいよ〜♪」
 ニコニコと声を掛けた愛華。
 しかしこの声を聞いた桜は、キッと眉を上げて彼女を睨み付けた。
「天然(略)犬娘! これでは今年を越すことが出来ぬではないか!?」
「わう〜???」
 何が何だかさっぱりわからない。
 突然振られた話題に目を瞬いていると、桜は手にしていたノートらしき物を愛華に突き付けてきた。
 それに彼女の目が落ちる。
「おぬしの所為で家系は火の車じゃっ!」
「わうわふ???」
「このままでは無事年越しなんぞ出来ん!」
「でも、今日はクリスマスだよ〜?」
 そう、今日は12月24日、クリスマスイブ。日付が変わればクリスマス本番。
 年越しが出来ないのであれば、クリスマスを迎える事も出来ないのでは。
 そう危惧する彼女に、桜は言い放つ。
「そのようなモノにうつつを抜かしている場合では無いのじゃ……」
 呟き、視線を落とした桜の表情は何処か寂し気だ。
 桜は普段からしっかりしている。しかしそのしっかりさ故に忘れそうになってしまうが、彼女はまだ幼い。
 年相応の生活、楽しみを知らないのは流石に可哀想だ。
「そ、それじゃあ、私が――」
「こうなれば、稼ぎに行くぞ!」
「わふっ!?」
「アルバイトを探して稼ぐのじゃ!」
 言うが早いか、桜はクリスマス広告に紛れる求人広告を引っ張り出した。
 その中には多種多様の求人があり、どれも魅力手に映る。しかしそのどれもが年末から年明けにかけての短期バイトばかり。
 真剣に広告と向き合う桜を見て、愛華は手にしているチラシに目を落した。
「流石に、そこまで時間も裂けぬ……うーむ」
 能力者としての責務がある以上、一日より多くの時間を取られるのは正直痛い。となれば、超短期バイト、一日からのものに頼らざる負えないのだが、そう言ったものはこの時季ほとんど埋まってるらしくなかなか見当たらない。
 桜は真剣に広告を見ているが、きっと今のままでは見つからないだろう。
「桜さん、桜さん!」
「何じゃ。わしは忙し――」
「こんなの見つけたよ♪」
 そう言って、愛華が見せたクリスマスケーキ販売のバイト広告に、桜の目が向かう。
 期間は今日の1日だけだ。
 これなら桜のお眼鏡に叶うはず。
「えへへ、さっきお外に出た時、見つけたから持って来ちゃったんだ♪」
 そう言って笑った愛華に、桜は何処となく嬉しそうな表情を浮かべて彼女を見た。
「そうじゃな。それに応募してみるかの」
「わう!」
 愛華はそう返事すると、2人は早速バイトの応募に向かったのだった。

  * * *

 ケーキ屋さんの前でミニスカサンタの衣装に身を包んだ愛華は、楽しげに髪を揺らして溢れんばかりの笑顔を零していた。
「いらっしゃいませ〜♪ 美味しい、ケーキはいかがですか〜♪」
 確かに外は寒いが、それは大したことではない。
 仲良しの桜と一緒に働けること、そして、一緒に行動出来る事が何よりも嬉しい。
「ケーキは、生クリーム、チョコに、バターケーキなんていうのもあるよ♪」
 鼻を擽る甘い香りは先程から異様な食欲をわき起こさせる。それでも我慢するのが大人だ。
 そう自分に言い聞かせてケーキを販売してゆく。と、そんな彼女の耳に小さな呟きが届いた。
「犬娘は似合っていると言うのに……しかし、これも仕事。割り切らねば……しかし……」
 声の主は桜のようだ。
 チラリと目を向けると、ミニスカートの裾を押さえて恥ずかしそうにしている。
「――……生活費の、為じゃっ」
「桜さん、可愛いの♪」
「!」
 えへっと笑って、愛華はひょいっと顔を覗き込んだ。
 思った通り、桜は顔も真っ赤にしている。
「わうわうっ♪ 桜さんも、凄く似合っていると思うよ?」
「な、なななななっ!!」
 口をパクパクさせて口籠る桜に、にこっと笑って彼女の頭にサンタ帽を被せた。
「わぉん! 折角だからこの状況を楽しまないと、ね、ね?」
 えへへ。
 そう笑って愛華は、くるりと街道を振り返った。
 道行く人々は、今日のクリスマス準備に大忙し、と言った所だろうか。
 歩く速度もいつもより早く、荷物も多い。
 それに店頭から流れてくる曲や、あちらこちらに施されたクリスマスの装飾が普段と違う雰囲気を醸し出している。
 きっと桜も、今の状況を楽しんでくれる。そう信じて再びケーキ販売を開始した。
 しかし――
「そこの者、わしが売るこのケーキを買わぬか?」
 思い切って声を掛けた桜に、道行く1人が立ち止まった。
 彼は桜と、ケーキ。その両方を見て、小さく肩を竦めてしまう。そうして何も言わずに歩き出すと、彼女たちの前から姿を消した。
「何じゃ、今のはっ! 失礼極まりないではないか!」
「桜さん、今の言い方だと駄目だよ〜。もっと、砕けないと、ね?」
 愛華はそう口にして、ミニスカートの裾を揺らして飛び出す。そうして親子連れに声を掛けると、ニッコリ笑って首を傾げた。
「美味しいケーキがあるよ♪ ふわっふわで、真っ白なクリームが綺麗な可愛いケーキ。1つ如何かな?」
 見本のつもりだったが、彼女の言葉遣いも接客としてはイマイチだ。しかし人懐っこい笑顔と、動きは共感を呼ぶらしく――
「ママぁ」
 強請る様に母親の服の裾を女の子が引っ張った。
 どうやら愛華の言葉に惹かれる物があったらしい。物欲しそうに見上げる娘を見て、母親は「しょうのない子ね」と頭を撫でてケーキを購入して行った。
「……ぬ、この言い方ではダメじゃと言うのか」
 ぬぅと眉を潜めること僅か。
 桜は意を決したように息を吸うと、目の前を通り過ぎようとする男に声を掛けた。
「い、いらっしゃいませ……じゃ」
 若干語尾に何かついたが、これが彼女の精一杯だったのだろう。
 顔を真っ赤に俯く姿に、男性客の足が止まり始めた。
「やっぱり、桜さんは可愛い♪」
 そう声を零すと、愛華はにこっと笑んで別の客に声を掛け始めた。
 そうしてケーキを販売してどれだけの時間が経っただろう。
 だいぶ少なくなったケーキと客足を前に、愛華のお腹が小さく鳴った。
「わふ……お腹、空いたなぁ」
 項垂れて、目に飛び込んで来たのはケーキだ。
 ごくりと唾が鳴り、口の端からダラダラと涎が垂れてくる。
 そうして伸ばした手に、ピシャッと何かが触れた。
「こらっ! つまみ食いは駄目じゃぞ!」
「わぅぅぅ、だって美味しそうで」
 愛華を引き留めた桜は、キッと睨んで注意を促す。
 ここでつまみ食いをしては本末転倒、そう言いたいのだろう。
 しかし愛華の目の前にあるケーキはどれも美味しそうで、やはり涎が垂れてしまう。
 せめて、空腹だけでも間切れれば良いのだが……
「犬娘、口を開けるのじゃ」
「わふ?」
 何だろう? そう口を開けた瞬間、甘く蕩ける触感が口の中で広がる。
 これはチョコレートだ。
「こんなこともあろうかと用意しておいたのじゃ。今は、それで我慢せい。そうすれば、きっと良いことがあるのじゃよ」
 そう言って笑った桜に、愛華は「わふぅ?」と首を傾げ、目を瞬いたのだった。

  * * *

 辺りはすっかり暗くなり、街灯の明かりが灯って、街の其処彼処にイルミネーションが輝き出す。
 そんな中、愛華と桜は店長から給料袋を渡されていた。
「はい、これがお給料だよ。よければまた来年も宜しく頼むよ」
 そう言って手渡された給料袋の中身は、約束よりも少し多い。
 それを目にした桜の顔が上がった。
「店長殿。良ければ、売れ残ったケーキを買いたいのじゃが」
「桜さん! でも、お金……」
 確か、家計は火の車で、年越しもまとものできない状況だったのではないだろうか。
 それなのにケーキを買うなど、そんな無駄遣い出来る筈が――
「先程、きっと良いことがある、そう言った筈じゃ」
 ニッと口角を上げた桜に、愛華の目が見開かれる。
 桜は初めから愛華と共にクリスマスと過ごすつもりだったのだろう。そしてそのケーキを買うお金をここで得た。
「そ、それなら私が!」
 自分こそ、愛華とケーキを食べたいと思っていた。
 だからお金は自分が!
 そう言いだした愛華を、赤く彩られた箱2つが遮った。
「売れ残りにお金は要らないよ。2人とも、お疲れさま」
「店長殿……」
「店長さん、ありがとうっ!」
 愛華は勢い良く店長に飛び付くと、2人は笑顔でケーキを貰い、店を後にした。

「ケーキも貰えたしよかったの。帰ったら遅めのクリスマスパーティーじゃ!」
「えへへ〜♪ 桜さん、帰って早速食べようね!」
 そう言って、嬉しくて小走りに前を歩く。
 そうして空を見上げていると、まるでイルミネーションが星のように光っていて綺麗だと気付いた。
「曇ってるのに、お星さまがいっぱい」
「……犬娘」
「わふ?」
 イルミネーションに思わず見とれていた耳を引き戻した声に振り返ると、愛華が空を見上げているのが見えた。そんな彼女の表情は、酷く穏やかで温かい。
「雪じゃ……」
 ぽつり。
 零された声に、愛華も空を見る。
 そこに降り注いできた白く、花弁のような結晶に、彼女の目もまた瞬かれた。
「うわあ、綺麗だねぇ♪」
 徐々に増えてくる雪の花弁。
 それを見ながら、ハッとしたように顔を戻す。
「そうそう、忘れてた……」
 服のポケットを探って駆け寄った彼女に、桜は不思議そうにこちらを見ている。
「メリークリスマス、だよ♪」
 言って笑顔で差し出したのは、この日の為に桜へと用意しておいたプレゼントだ。
「喜んでくれると良いな♪」
 えへへ。
 そう笑った彼女に、笑みを零した桜の手が伸ばされる。
「ふん、粋な事をするの……」
 嬉しいのに素直にそれを口にしない彼女に、愛華はそれでも満足そうに笑顔を返す。
 その顔を見て、桜は漸く子供らしい笑顔を零すと、プレゼントを胸に、空いた手を差し出した。
「――メリークリスマスじゃ。ありがとうの」
「どういたしまして、だよ♪」
 言って重ねた手。
 それを握り締めると、2人は雪が積もり始める道を、ゆっくり歩いて家路へ着いた。


――END


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ga4681 / 響 愛華 / 女 / 20 / ビーストマン 】
【 ga3143 / 綾嶺・桜 / 女 / 11 / ペネトレーター 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『WF!Xmasドリームノベル』のご発注、有難うございました。

だいぶ好き勝手に動かさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか?
少しでも心に残るクリスマスになっていれば良いのですが……
もし不備等がありましたら、遠慮なく仰って下さいね。

ではこの度は、ご発注ありがとうございました!
WF!Xmasドリームノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年12月29日

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