▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『*冬物語* 〜綾嶺・桜〜 』
綾嶺・桜(ga3143)

シンッと静まり返った朝。
外を見てみると、辺り一面雪景色になっていました。
まだ足跡もついていない真っ白な世界。
そこに足を踏み出したあなた……。

――今日はクリスマス。
あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?



 * * *



 室内に響き渡る盛大な溜息。
 それを零したのは、机の上で何かノートと睨めっこをする綾嶺・桜だ。
 彼女は時折ペンを走らせ、そして電卓を叩いて、最後には必ず溜息を落とす。
「……何度やっても、同じじゃ」
 口にして見上げた先には、今年のカレンダーがある。
 そこに刻まれた月は『12月』。
 年の瀬も迫り、今正に、正月と言う年間を通して最も大きな行事に差し掛かろうとしている。
 それまでの期間はあと――
「――一週間」
 桜は再び大きなため息を零すと、手にしていたペンを置いた。
 彼女が今まで向かい合っていたのは家計簿だ。
 彼女の計算によると、今年残り僅かな日数を生き残るのも厳しいくらいに家系が圧迫されているらしい。
 しかも圧迫されているのは主に、食事に関する面だと言う。
「く、まさかこんなに食費がかかっておるとは」
 最近特に食費が嵩むとは思っていたが、まさかここまでとは。正直予想外で、もう何度溜息を零しても足らないくらいだ。
 そうして今一度溜息を零そうとした所で、この現況を作り出したとも言える相手が顔を覗かせた。
「わふぅ〜、今日は夜から雪らしいよ〜♪」
 楽しげに、そして笑顔で顔を覗かせたのは、同居人の響 愛華だ。
 その何とも言えない顔を見ていると、毒気を抜かれそうだが、ここはビシッとしなければ。
「天然(略)犬娘! これでは今年を越すことが出来ぬではないか!?」
「わう〜???」
 睨み付けた桜に、不思議そうに目を瞬く愛華。
 そんな彼女に、桜は更に眉を吊り上げると、家計簿を持ち上げて突き付けた。
「おぬしの所為で家系は火の車じゃっ!」
「わうわふ???」
「このままでは無事年越しなんぞ出来ん!」
「でも、今日はクリスマスだよ〜?」
 そう、今日は12月24日、クリスマスイブ。日付が変わればクリスマス本番。
 年越しが出来ないのであれば、クリスマスを迎える事も出来ないのでは。
 そう危惧する彼女に、桜は言い放つ。
「そのようなモノにうつつを抜かしている場合では無いのじゃ……」
 今年のクリスマスは、静かに過ごす予定だった。
 しかし現状を考えればそのような状況ではない。このままでは、先にも行ったが、クリスマスどころか、年越しする事すらできないかもしれない。
「そ、それじゃあ、私が――」
「こうなれば、稼ぎに行くぞ!」
「わふっ!?」
「アルバイトを探して稼ぐのじゃ!」
 言うが早いか、桜はクリスマス広告に紛れる求人広告を引っ張り出した。
 その中には多種多様の求人があり、どれも魅力手に映る。しかしそのどれもが年末から年明けにかけての短期バイトばかり。
「流石に、そこまで時間も裂けぬ……うーむ」
 能力者としての責務がある以上、一日より多くの時間を取られるのは正直痛い。となれば、超短期バイト、一日からのものに頼らざる負えないのだが、そう言ったものはこの時季ほとんど埋まってるらしくなかなか見当たらない。
「やはり、今からでは無理なのじゃろうか。しかし、諦める訳には……」
「桜さん、桜さん!」
「何じゃ。わしは忙し――」
「こんなの見つけたよ♪」
 そう言って愛華が差し出したのは、何かのチラシだろうか。
 ケーキとサンタの絵。その下には『アルバイト募集中』の文字。しかも期間は今日の1日だけだ。
「えへへ、さっきお外に出た時、見つけたから持って来ちゃったんだ♪」
 そう言えば、朝から姿が見えなかった気がする。と言う事は、その間に探してきた物なのだろうか。
 何にせよ、アルバイトは正午過ぎから夜までと、時間にはまだ余裕がある。
「そうじゃな。それに応募してみるかの」
「わう!」
 そう嬉しそうに返事をする愛華を見て、2人は早速バイトの応募に向かったのだった。

  * * *

 ケーキ屋さんの前でサンタクロースのコスチュームを身に纏った桜は、俯き気味にスカートの裾を押さえていた。
 その足は大きく外気に晒されていて、若干寒そうに見える。
「……ぬぅ、こんな恥ずかしい格好をせねばならぬとは」
 募集には衣装まで書かれていなかった。
 もし書かれていたならば、応募などしなかったのに。
 そう言わんばかりに表情を顰める桜。
 一方で、愛華は同じコスチュームを着て元気にケーキの販売をしてた。
 その姿は良く似合っていて、可愛らしい。
「いらっしゃいませ〜♪ 美味しい、ケーキはいかがですか〜♪」
「わしも、負けては……っ、しかし、このスカートが……」
 あまりに短い。
 そもそも、普段からこのような姿をするわけではないし、そもそも、自分が似合う訳もないし。
 ありとあらゆる言い訳が頭を過り、消えて行く。
「犬娘は似合っていると言うのに……しかし、これも仕事。割り切らねば……しかし……」
 チラリと目をやった、愛華は活き活きとしている。
 自分とて、そのように割り切れればどんなにいいか。そう、これは生活の為。
 お金の為、全ては仕事なのだ。
 心の中で呟き――
「――……生活費の、為じゃっ」
 言って、顔を上げた時だ。
「桜さん、可愛いの♪」
「!」
 えへっと笑って、覗き込んで来た愛華に、頬が熱くなるのを感じる。
「わうわうっ♪ 桜さんも、凄く似合っていると思うよ?」
「な、なななななっ!!」
 口をパクパクさせて口籠る桜に、にこっと笑って彼女の頭にサンタ帽を被せた。
「わぉん! 折角だからこの状況を楽しまないと、ね、ね?」
 えへへ。
 そう笑って愛華は、くるりと街道を振り返った。
 道行く人々は、今日のクリスマス準備に大忙し、と言った所だろうか。
 歩く速度もいつもより早く、荷物も多い。
 それに店頭から流れてくる曲や、あちらこちらに施されたクリスマスの装飾が普段と違う雰囲気を醸し出している。
「この状況を楽しまないと、か」
 確かに一理ある。
 今でしか出来ない事、今でしか感じられない事も多くあるだろう。そしてこのような格好をする事も、今後はないかもしれない。
 桜はポツリと零して足元を見ると、ぎゅっと手を握り締めて顔を上げた。
 その目に、クリスマスに彩られた街が飛び込んでくる。
 やや現実離れた空間。
 それを見ていると、何処となく楽しいような、くすぐったいような、そんな感覚に襲われる。
 そしてその感覚が彼女の背を押した。
「そこの者、わしが売るこのケーキを買わぬか?」
 思い切って声を掛けた桜に、道行く1人が立ち止まった。
 彼は桜と、ケーキ。その両方を見て、小さく肩を竦めてしまう。そうして何も言わずに歩き出すと、彼女たちの前から姿を消した。
「何じゃ、今のはっ! 失礼極まりないではないか!」
「桜さん、今の言い方だと駄目だよ〜。もっと、砕けないと、ね?」
 愛華はそう口にして、ミニスカートの裾を揺らして飛び出す。そうして親子連れに声を掛けると、ニッコリ笑って首を傾げた。
「美味しいケーキがあるよ♪ ふわっふわで、真っ白なクリームが綺麗な可愛いケーキ。1つ如何かな?」
 彼女の言葉遣いも接客としてはなっていない。
 それでも人懐っこく笑顔で発せられる声は共感を呼ぶらしく――
「ママぁ」
 強請る様に母親の服の裾を女の子が引っ張った。
 どうやら愛華の言葉に惹かれる物があったらしい。物欲しそうに見上げる娘を見て、母親は「しょうのない子ね」と頭を撫でてケーキを購入して行った。
「……ぬ、この言い方ではダメじゃと言うのか」
 ぬぅと眉を潜める事僅か。
 桜はスッと顔を上げると、小さく咳払いをして道行く人々に声を掛け始めた。
「い、いらっしゃいませ……じゃ」
 若干語尾に何かついたが、これが彼女の精一杯だったのだろう。
 顔を真っ赤に俯く姿に、男性客の足が止まり始めた。
「やっぱり、桜さんは可愛い♪」
 そう零すと、愛華はにこっと笑んで別の客に声を掛け始めた。
 そうしてケーキを販売してどれだけの時間が経っただろう。
 だいぶ少なくなったケーキと客足を前に、愛華のお腹が小さく鳴った。
「わふ……お腹、空いたなぁ」
 ふらふらとケーキに吸い寄せられるように動いた愛華に桜も気付く。
「やはり、危惧していた通りのことになったの」
 そう零す声は厳しいが、彼女の顔は笑っている。
 桜はケーキに伸ばした愛華の手を叩くと、ピシャリと言い放った。
「こらっ! つまみ食いは駄目じゃぞ!」
「わぅぅぅ、だって美味しそうで」
 子犬が耳を垂れて項垂れるように沈み込んだ愛華。そんな彼女に怒りの睨みを利かせてから、桜はポケットを探った。
「犬娘、口を開けるのじゃ」
「わふ?」
 開かれた口に放り込んだのは、こんなこともあろうかと持ち込んだチョコレートだ。
 チョコレートはその糖分が故に非常食にもなる。一粒と数は少ないが、これで残りの時間も過ごせる筈だろう。
「こんなこともあろうかと用意しておいたのじゃ。今は、それで我慢せい。そうすれば、きっと良いことがあるのじゃよ」
 そう言って笑った桜に、愛華は「わふぅ?」と首を傾げ、目を瞬いた。

  * * *

 辺りはすっかり暗くなり、街灯の明かりが灯って、街の其処彼処にイルミネーションが輝き出す。
 そんな中、桜と愛華は店長から給料袋を渡されていた。
「はい、これがお給料だよ。よければまた来年も宜しく頼むよ」
 そう言って手渡された給料袋の中身は、約束よりも少し多い。
 それを目にした桜の顔が上がった。
「店長殿。良ければ、売れ残ったケーキを買いたいのじゃが」
「桜さん! でも、お金……」
 愛華の言おうとしている事はわかる。
 確かに家系は火の車だが、これだけの給金を貰えれば充分だ。それに予定よりも多くもらえ多分で、ケーキは買えてしまう。
「先程、きっと良いことがある、そう言った筈じゃ」
 本当なら、一緒に働く必要など無かったのかもしれない。
 それでも働いてくれ、友に居てくれた彼女に何かしたい。
 そう思い、ケーキを買う事を決めていた。
 桜はニッと笑って給料袋を開くと、代金を支払おうと手を伸ばした。
 しかし――
「そ、それなら私が!」
 自分こそ、愛華とケーキを食べたいと思っていた。
 だからお金は自分が!
 そう言いだした愛華を、赤く彩られた箱2つが遮った。
「売れ残りにお金は要らないよ。2人とも、お疲れさま」
「店長殿……」
「店長さん、ありがとうっ!」
 言って店長に抱き付く愛華を見て、桜は笑みを零すと、有り難くケーキを貰い、店を後にした。

「ケーキも貰えたしよかったの。帰ったら遅めのクリスマスパーティーじゃ!」
「えへへ〜♪ 桜さん、帰って早速食べようね!」
 言って、小走りに駆けて前を行く愛華を見て、ふと桜の足が止まった。
 黒の空に何か、白い物が見える。
 それはチラチラと視界を掠め、徐々に数を増やしているような……
「……犬娘」
「わふ?」
 振り返った愛華を見ず、ただ伸ばした手に、白い結晶が舞い落ちる。
 それは桜の体温に触れると、すぐさま姿を消し、新たな結晶が彼女の手を濡らす。
 その様子を見て、桜の表情が柔らかくなった。
「雪じゃ……」
 ぽつり。
 零された声に、愛華も空を見る。
 そこに降り注いできた白く、花弁のような結晶に、彼女の目もまた瞬かれた。
「うわあ、綺麗だねぇ♪」
 徐々に増えてくる雪の花弁。
 それを見ながら、ハッとしたように顔を戻す。
「そうそう、忘れてた……」
 服のポケットを探って駆け寄った彼女に、桜は不思議そうに彼女を見た。
「メリークリスマス、だよ♪」
 言って笑顔で差し出したのは、この日の為に桜へと用意しておいたプレゼントだ。
「喜んでくれると良いな♪」
 えへへ。
 そう笑った彼女に、笑みを零した桜の手が伸ばされる。
「ふん、粋な事をするの……」
 嬉しいのに素直にそれを口にしない彼女に、愛華はそれでも満足そうに笑顔を返す。
 その顔を見て、桜は漸く子供らしい笑顔を零すと、プレゼントを胸に、空いた手を差し出した。
「――メリークリスマスじゃ。ありがとうの」
「どういたしまして、だよ♪」
 言って重ねた手。
 それを握り締めると、2人は雪が積もり始める道を、ゆっくり歩いて家路に着いた。


――END


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ga3143 / 綾嶺・桜 / 女 / 11 / ペネトレーター 】
【 ga4681 / 響 愛華 / 女 / 20 / ビーストマン 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『WF!Xmasドリームノベル』のご発注、有難うございました。

コミカルにいけてるか非常に不安ではありますが、如何でしたでしょうか?
少しでも心に残るクリスマスになっていれば良いのですが……
もし不備等がありましたら、遠慮なく仰って下さいね。

ではこの度は、ご発注ありがとうございました!
WF!Xmasドリームノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年12月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.