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『聖夜 〜神の御許に等しき幸あれ〜 』
秋霜夜(ia0979)

●序
 かつてジルベリアの多くの民が心の拠り所としていた神教会。忘却の彼方に流され、今ではその教えを知る者は僅かしかいない。
 帝国による禁教令により信仰を禁じられた神教会の教義であるが、今なお土着の習慣としてはささやかに受け継がれている。
 聖夜にサンタクロースがやって来る――そんな言い伝えも、神教会が発祥の、ジルベリアの民に浸透している習慣のひとつである。

 さて、天儀・神楽の都には、小さな神教会がある。
 教会を預かり多くの人に啓いている神父の名はエルディン・バウアー(ib0066)、開拓者だ。同じく開拓者の助祭や弟子と共に、日々様々な愛を説いている。

 これは、彼ら神教会の面々が、近しい人のサンタクロースになった物語――

●饅頭を作ろう♪
 どすっ、どすっ、と重みのある規則正しい打撃音が響いている。もし、エルディン教会の前を通りかかった人が何事かと覗き込んだならば、小柄な少女が小麦粉の生地に正拳突きを食らわせているのを目にする事だろう。
「気合入ってますねー」
「はい。任せてください! 泰国仕込みの本格的な生地にしましょう。コシが命なんです!」
 どすっ。どすどすっ!
 エルディンの声掛けに、秋霜夜(ia0979)は返事の合間に拳を生地へ打ち込んだ。拳に己が魂まで込めて生地に練りこんでいるのではなかろうかという力強さだ。
「泰国仕込みですか、それは楽しみです」
 他儀の様式ならばそういうものなのだろう。何ら疑問に思わず正拳突きで捏ねる方法を受け入れた助祭のティアラ(ib3826)、ところで――と神父様ことエルディンに視線を向けた。
「この生地やその他諸々の経費は、ご自分のお小遣いで賄われるのですね?」
「‥‥う」
 兄妹のように共に育った助祭の娘はエルディンに容赦ない。実用的な思考の持ち主であるティアラは教会の困窮を誰よりも理解しており、ともすれば羽目を外してしまいがちな彼の手綱を引くのが役割だ。
「タダでさえ、年末は物入りなんですから。教会のお金を使ったら‥‥解ってますよね?」
 修道服の裾を少したくし上げて、ブーツの踵を強調する。
 嗚呼、何度この踵に足蹴にされて来ただろう。妹に虐げられる兄、こくこくと頷いて言った。
「勿論ですとも。これらは皆、お嬢さん方から分けていただいt‥‥ぐえっ」
「またナンパしたんですにゃああ!!」
 神に代わって鉄脚制裁! エルディンが最後まで言い切らぬ内に、ティアラは神父の背に飛び蹴りを食らわせて、げしげし踏み付ける。
「あー‥‥いつもの事ではありますが〜 せんせ苛めすぎないようにしてくださいねー?」
「霜夜さんは神父様を甘やかし過ぎなのですにゃっ!」
 興奮し過ぎて語尾が完全に猫化しきっている。生地ならさぞコシが出ただろう位に踏みつけて、漸くティアラはエルディンを開放した。
「では、饅頭に詰める具を調理しましょう」
 さらり涼しい顔で言うティアラの足元にはボロ雑巾と化したエルディン――嗚呼。

 ――閑話休題。

 改めて、手を洗って白い割烹着など着込んで来て。
 ティアラとエルディンは霜夜の指示通りに饅頭作りを始めた。中に詰める具を調理した後、少し冷まして霜夜が作った生地を小分けしたものに包んでゆく。
 いつしか『自称・助祭』のエルディンのもふらさま、パウロがキッチンに来ていた。
「神父様〜 僕もお饅頭作りたいでふ」
「いいですとも。パウロの手では毛が生地に付いてしまいますから、手袋を嵌めてあげましょう」
 前脚に手袋を嵌めて貰ったパウロ、悪戦苦闘しつつも小さな饅頭をいくつか作ってご満悦。
「あ‥‥ティアラさん、縁起物ですし具はケチらないでねー」
「‥‥わ、わかっております」
 全体比五分減くらいならと思ったが――駄目か。つい節約精神を発揮してしまうしっかりもののティアラ、「多め、多め‥‥」自分比多めを心掛けて包み始めた。
 皆で包んだ沢山の饅頭は、順に蒸篭で蒸されてゆく。
 もうもうと湯気を立て蒸しあがった饅頭は、教会のシンボルマークの焼印を押した後、教区内のご家庭用、開拓者ギルド用‥‥等々、配布場所ごとに木箱に詰められて大八車に積まれていった。
「神父様、神父様〜 僕のお饅頭、ラッピングして欲しいでふ」
「贈り物ですか、お安い御用ですよ」
 パウロが作った、いくつかの小さめ饅頭を包んで赤いリボンで結んでやると、可愛らしい贈り物が出来上がった。

●トナもふでGO!
 暫くして、大八車の前にはパウロが繋がれていた。
 パウロの頭には鹿角に見立てた枝、首には鈴が赤いリボンで結ばれている。聖夜限定のトナカイパウロだ。
「わぁ‥‥パウロさんのトナもふさん可愛いー☆」
「天儀風のソリとトナカイですね」
 霜夜が年頃の少女らしい歓声を上げた。ティアラも角に見立てた枝振りの良さに満足気だ。
「ありがとうでふ。どこへ行くでふか? ギルド行くでふ?」
 ちりりん、と軽やかに鈴を鳴らしてパウロが尋ねた。短い首を巡らせて、大八車の上に乗った小さな包みを気に掛けている。
 包みがある辺りを示して、エルディンが言った。
「ええ、行きますよ。では出発しましょうか」
 エルディン先導でパウロが引く大八車を、霜夜とティアラが押して。一行は、聖夜の贈り物を配りに出発した。

 最初に回ったのは教会近辺、所謂教区内の家庭だ。
 扉を開けて貰うと、室内の暖気がティアラの頬を心地良く撫でた。夕飯時なのだろう、煮炊きの良いが匂い漂って来る。
「こんにちは、良い夜ですね」
 エルディン教会の助祭ですと名を名乗り、饅頭を一家庭に一包み、手渡して行った。
「来年も良い年でありますよーに☆」
 笑顔と一緒に魔除けの柊を添えて。霜夜も元気に家々を回ってゆく。
 そんな神弟子の姿を、ティアラは妹のように思っていた。少しばかり神父様を甘やかし過ぎるきらいがある弟子ではあるけれど――そう言えば神父様は?
 エルディンも、真面目に饅頭を配っていた。信徒を増やすべく、熱心に妙齢の女性に声を掛けていた。
「お嬢さん、ぜひとも私の説法を聞きに来ませんか?」
「え、と‥‥その‥‥」
「神父様、そちらはお済みになりま‥‥って、何をナンパしてんですにゃああ!!」
 悲しいかな、ティアラでなくともナンパしているようにしか見えなかった!
 ティアラがエルディンを蹴り倒している隙に、霜夜が女性を救い出す。
「すみません〜 せんせ、綺麗な人には見境なくて〜」
「はあ‥‥」
 どうやら相手の女性にもナンパと思われていたらしい。神父様、大変遺憾である。
「ナンパではありません! 神に誓ってナンパではありませんってば!」
「問答無用ですにゃああっ!!」
 ティアラにげしげし踏まれ、涙に暮れつつエルディンは神に問うた。
「おお、神よ、なぜあなたは私をこのように仕向けるのでしょうか‥‥」
 彼の神は黙して語らず――

 そんなこんなで教区内を回り終えた後、大八車は開拓者ギルドへ向かった。
「お疲れ様でーす。幸せ補給に来ましたよー☆」
 霜夜の声に何事かとギルド内の人々が振り返る。旧知の梨佳(iz0052)が寄って来て、どうしたですかと彼女に問うた。
「今夜は聖夜、そんな日にも働いている頑張り屋さんに差し入れですー☆」
「差し入れ? わぁ、お饅頭ですね! お茶淹れますよ〜」
 いそいそと、梨佳はお茶汲みの仕度を始めた。
 接客中の職員は後で、そうでない人はお早めにどうぞと饅頭を配ってゆく霜夜達。
 ギルドへは、大八車から外されたパウロも付いて来ている。茶器の盆を持って出て来た梨佳にちょこちょこ寄ってったパウロは、こそそと梨佳の服の裾を引っ張って言った。
「あのね、これ七々夜に渡して欲しいでふ」
「七々夜に?」
 パウロが差し出したのは赤いリボンの包み。パウロが頑張って作った小さな饅頭が入った包みだ。リボンにはカードが挟まれていた。
「神父様に書いてもらったでふ」
「読んでもいいですか?」
 パウロ本人に了承を貰って、梨佳は七々夜宛のメッセージに目を通した。

『いっしょに あそぼうね』

「パウロさん、ありがとです。また七々夜と遊んでやってくださいね♪」
 梨佳はにっこりと、包みは七々夜に必ず渡しますと約束した。
 目的達成で安堵して、もふふと微笑うパウロと、えへへと笑う梨佳。二人のそんな様子を霜夜は微笑んで見つめていた。

●親愛なるきょうだいへ
 開拓者ギルドへの差し入れを済ませた一同は大八車を曳いて教会へと戻って来た。
 行きは重かった車は空箱だけが乗っている。辺りはすっかり冷え込んで、真夜中には雪も降りそうだった。

「ジルベリアほどではないですが、天儀の冬は天儀の冬で凍みますね‥‥」
 おお寒いと呟きながら、エルディンは屈み込むと指先をパウロの毛に突っ込んだ。
 空を見上げていた霜夜の吐く息が白い。そっと近付き、後ろからパウロの毛色と同じ色合いの耳当てを霜夜に被せた。
「!! び、びっくりしました〜」
 もっふりぬっくり。
 耳元に手を添えて霜夜は笑う。エルディンはティアラにも近付くと、彼女の猫耳にもすっぽりと耳袋を被せた。
「ふわもこ耳でも耳の穴は寒いでしょう」
「え‥‥? 私の分まで、ですか?」
 まったくもう神父様はまた無駄遣いをして‥‥等々、ぶつぶつ小言を繰りつつも、ティアラの声音は何処となく嬉しげだ。何より口元の緩みが喜びを如実に物語っている――あ、咳払いして誤魔化した。
「では、お返しに。自分で編んだものですから元手は掛かっておりませんからね!」
 どこまでも締まり屋さんらしい言い草でエルディンに手渡した。ツンとソッポを向いた頬がほんのり赤いのは、キツく当たってはいても本当は彼が大好きだから。きっと編目のひと目ひと目に想い込めたに違いない。
「霜夜さんにもありますよ。私が編んだ手袋です」
「あたしから、ティアラさんへはハンドクリームです☆」
 奇しくもお互い手を護るものを贈り合っていた。ティアラからは寒さから身を護る手袋を、霜夜からは冬場の水仕事も厭わず家事を頑張っているティアラにハンドクリームを。
 霜夜はティアラが家庭的で優しい娘だと知っている。文句を言いつつもやる事はやる芯の強い娘だ――尤も、指摘すると全力で否定して来るだろうから触れない方が良いだろうけれど。
 パウロをもふりつつ娘達の贈り合いを眺めていたエルディンにも、霜夜の贈り物がある。
「エルディンせんせにはストールです」
「霞殿とお揃いですか」
 パウロ込みでエルディンを包み込んだストールは、霜夜の忍犬のバンダナと同柄だそうで。それもまたご愛嬌、と和やかに笑う。
 空を見上げていたパウロの鼻先に雪が落ちてきた。
「サンタさん、来るでふ‥‥?」

 聖夜に白い妖精を引き連れて、サンタクロースは幸せを運ぶ。
 教え信ずるもの、他の教えに導かれるもの、いずれも等しく幸あれと、人々は温もりと幸せを与え合う――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ia0979 / 秋霜夜 / 女 / 14 / 弟子】
【ib0066 / エルディン・バウアー / 男 / 28 / 司祭】
【ib3826 / ティアラ / 女 / 22 / 助祭】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております。周利でございます。
この度は、ご発注ありがとうございました♪

年少ながら周囲を良く見ている霜夜さん。
ギルドでのパウロさんのくだりや、ティアラさんへのプレゼントの選別を、
よく気が付く娘さんだなーと思いつつ描かせていただきました。

そして、冒頭の霜夜さんの正拳突き‥‥男前過ぎるっ
いつか是非、手打ちの饂飩や蕎麦をいただいてみたいものですv
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舵天照 -DTS-
2012年01月05日

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