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『初詣に行こう 』
ガル・ゼーガイア(gc1478)

毎年の如き、年末年始は色々と慌ただしい。
新年という事もあり、神社などは初詣客でいっぱいだ。

「‥‥なのに、それなのに‥‥何でここには初詣客が来ないんですか!」

巫女姿の少女が拳を高く突き上げて、青い空に向かって大きな声で叫ぶ。

「(男だけど)美人の巫女さん(ちなみに俺)もいるのに! 営業スマイルはそこらの女よりめろめろのキュンってなるはずなのに!」

はぁぁぁぁ、と新年から盛大なため息を吐き、いつ客が来てもいいように境内の掃除を始める。

ちなみに、この神社はそこら中に幽霊が出ると噂が立ったせいで、お客が毎年ぜろなのだ。

「日当たりもいいのに、初詣客の為にがらがらの鐘も買い換えたのに!」

こんな巫女さん(男ですが)がいる神社にあなたは初詣に行きませんか?

視点→ガル・ゼーガイア

「あ、あと‥‥通話ボタンを押せば――‥‥」
 ガル・ゼーガイアはがたがたと震える手で携帯電話を握りしめていた。その携帯電話にはキルメリア・シュプールの電話番号が押されている。
「よ、よし‥‥もやしの竜騎士、意地の見せ所だぜ!」
 ぽちっと通話ボタンを押すと数回コールの後に「もしもし?」と電話の向こうからキリーの声が聞こえてくる。
「お、おう! もやし、新年あけまs「何の用? 大した事ない用事だったら今すぐ頭地べたにこすり付けて私に謝りなさい」‥‥‥‥」
 新年にも関わらず、いや――むしろ新年だからこそキリーの魔王節に磨きがかかっているような気がしたが、ここで諦めるようならば普段からキリーとの付き合いはない。
(もやしに鍛えられたM根性、今こそ見せる時だぜ!)
 ぐ、と拳に力を込めて「は、初詣に行かないか!」とガルは一世一代最大の勇気を振り絞ってキリーを初詣へと誘った。
「‥‥初詣? 別に構わないわよ」
 キリーの言葉を聞いた後、ガルは(やったァァァァッ!)と心の中で叫ぶ――が、続くキリーの言葉を聞いてピシッと固まってしまう。
「私、財布持っていかないからちゃんとあんたが全て支払うのよ。まさかあんたから誘っておいて私に金を支払わせるとかないわよね?」
 ガルが言葉を返す前に電話を切られてしまい、ガルは慌てて自分の財布を見る。普通に初詣に行くには十分なお金は入っているのだが、一緒に行く相手が根っからのお嬢様であり魔王でもあり、キリーである。
(‥‥ちょっとお金をおろしていこう)
 ガルは心の中で呟き、新年早々銀行に走る羽目になってしまったのだった。


「ゲフンゲフン! よ‥‥よう、もやし‥‥誘いに乗ってくれてありがとな」
 キリーの姿が見え、ガルが手を振って挨拶をする――が、キリーの後ろにいた年配の男性から「お金、払っておくれよ」と手を差し出される。
「‥‥‥‥は?」
「この子のタクシー代、キミが代わりに払ってくれるんだろう?」
 請求書を見せながら男性が言い、ガルがその金額を見て驚きで目が飛び出そうになったのは言うまでもない。
(‥‥お金、おろして来てて正解だったな)
 タクシー代で最初財布に入っていたお金以上の金額が飛んでいき、ガルは新年早々から青くなりながらキリーと一緒に参拝する為に境内へと向かい始めた。
「それにしても何でこんな人気のない神社を選んだわけ? もっと初詣にふさわしい神社があったでしょうに‥‥まったく、あんたの考える事って私には理解不能な事ばかりだわ」
「お、おい‥‥神社の巫女さんが聴いてるから声を小さくしろって‥‥「私に命令するんじゃないわよ!」ぐっ‥‥」
 キリーの声の大きさを注意しただけなのに、何故か神様の前で殴られるという被害に遭ってしまう。
「まぁ、新年だから平手一発で勘弁してあげるわ。ほら、さっさと立ち上がってお参りするわよ‥‥ノロマは嫌いだからさっさと立ち上がりなさい!」
 平手一発で勘弁すると言った筈のキリーだったが、立ち上がり様のガルに軽い蹴りを入れる。お参りする前から既にガルはよろよろになっている気がするが、その辺は詳しく聞いてはいけないと掃除をしていた巫女さんは視線を合わせないように、少しずつ2人から離れていく。
「‥‥恋愛の神様、どうかお願いです‥‥どうかもやしを俺の彼女にしてください‥‥」
 手を合わせながら小さな声で、だが切実に願っている。
「‥‥願い事は心の中で言いなさいよ。小さい声で言っても隣にいるんだから聞こえるに決まってるでしょ」
 呆れたようにキリーが呟き「今年、私に逆らう人がいませんように」と声を大にして願い事を叫んでいた。
「それにしても‥‥殺風景な神社だな! 幽霊なんているわけねぇのによ!」
 ガルは神社を見渡しながら大きな声で叫ぶ。
「や、幽霊はいますよ。でも噂に立つほど悪い幽霊はいないんですけどねぇ‥‥」
 はぁ、と巫女さんが掃除をしながらガルに言葉を返していた。
「は? 幽霊なんて非現実的なモンが――‥‥「後ろに居ますよ」――‥‥ぎゃああああ!」
 巫女さんの言葉にガルが恐る恐る後ろを振り返ると血まみれの男性が申し訳なさそうに「存在してすみません」と謝ってきた。
「も、ももももももやしには手を出させねぇぜ! 俺のもやしは守る!」
「誰がお前のか!」
 まるで漫才のようにガルの言葉の直後、キリーからすぱーんと平手打ちが飛んでくる。
「え、幽霊を信じないのってその子?」
「マジで? もっと信じてもらえるように噂立てないと駄目なのかねぇ」
「悪い事は巫女さんから禁止されてるからなぁ。良い事しても幽霊のおかげって事にならないし、どうすれば信じてもらえるんでしょうねぇ」
 ぞろぞろと幽霊たちが集まって来て、井戸端会議のように話し込んでいる。
「何か、幽霊のイメージが変わったわ‥‥何、この和やかムード」
 キリーが呆れたように呟くと「もやし! 危ないから下がってろ」とガルが深く深呼吸をしながら「俺がもやしを護るんだー!」と叫び、幽霊たちへと向かって駆けだす。
「ガル‥‥!」
 キリーが止める為に叫んだのだが、既に遅かった。幽霊たちをすり抜けて、ガルは壁に激突して倒れていた。
「馬鹿ね‥‥幽霊なんだから触れるわけないでしょ。だから止めようと思ったのに、あんたはもうちょっと人の話を聞きなさいよ。言ってる傍からシカト? 良い根性してるわね」
 キリーがガルに言葉を投げかけるが、強く打ちすぎて意識を失っているのだからキリーの言葉が届くはずもない。

「‥‥面目ねぇ‥‥もやしを護れなかった‥‥情けねぇぜ‥‥」
 がっくりと項垂れ、ガルとキリーはとぼとぼと帰路についていた。
「馬鹿ねぇ、無理に適わない相手に立ち向かっても仕方ないでしょ。まぁ、私を護ろうとしてっていうのは褒めてあげるけど「もやしぃぃぃ!」調子に乗んな、この馬鹿!」
 バチーン、と本日何度目になるか分からない平手打ちを受け、ガルは痛さで頬を押さえる。
「まぁ、また今度一緒に遊んであげてもいいわ――また、お金は出してくれるならね」
 にっこりと天使の笑顔で微笑まれ、ガルは「お、おう! また誘うからな!」と言葉を返す。
 しかし、彼にはこの後、財布の中身がすっからかんという認めたくない現実が襲いかかろうとしていた――が、今のガルに知る由はなかったのだった。


END




―― 登場人物 ――

gc1478/ガル・ゼーガイア/18歳/男性/ハイドラグーン

gz0278/キルメリア・シュプール/13歳/女性/サイエンティスト

――――――――――
ガル・ゼーガイア様>

こんにちは。
こちらでは初めまして、ですね。
CTSの方ではいつもお世話になっています。
今回は迎春ドリノベにご発注いただき、ありがとうございます!
話の内容はいかがだったでしょうか?
辛口→普通→甘→激甘‥‥という事でしたが、
キリー自体が歩く激辛みたいなものですので‥‥
だ、大丈夫だったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていれば嬉しいのですが‥‥。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!


2012/1/3
WF!迎春ドリームノベル -
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2012年01月05日

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