▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『●あの場所でもう一度 』
宵藍(gb4961)

 小雪ちらつく冬の空。赤毛の少女、ティリス(gz0319)がカフェで街行く人をぼんやりと眺めていた。
 人々から視線を外してカップを手に取るのだが、八分目ほどにまで入っていた温かいコーヒーは空になっていて、カップ本来の重みしかない。
(‥‥‥‥)
 カップを戻し、腕時計に眼を落とす。勝手に考え設定した約束の時間はもうすぐ。待ち人は来なくても文句は言えず、それでころか相手の用事すら聞いていないので、来ない確率のほうが高い。
「‥‥どうしよう、かな」
 誰にともなく呟く。なんだか少し怖かった。時間前に席を立って、帰ってしまおうか、とも思って店員を呼び止めようと前を向いた時――ムスっとした顔の宵藍(gb4961)が、目の前の席に座っていた。
「ふぁっ‥‥宵藍さん!? い、い、いったいいつ来たんですかぁ?!」
 驚きすぎて反射的に引っ込めた手がカップに当たり、くるくると白いカップは回る。落ち着けと言いながら宵藍が手を伸ばし、カップの音と回転を止めた。
「おい、ティリス」
 不機嫌そうな宵藍の声に、ティリスの背筋がぴんと伸びた。
「はいっ」
「第一声が『いつ来たんですか』とは随分だな?! 大体『あの場所』じゃ分からんつーの! 散々悩んだだろうが!」
 わしっ、わしっとティリスの頭に手を置き、髪をくしゃくしゃにしながら撫で付ける。ひゃああ、と情けない声が聴こえても気にしない。
「だ、だって、来てくれるか分からなかったですしっ‥‥宵藍さんにも用事があるかもしれないじゃないですかぁ‥‥ちゃんと時間に間に合ってる、けど‥‥わ、ホント凄い」
 鳥の巣状態の髪の毛を気にしつつ、ティリスは理由らしき言い訳を口にする。が、宵藍はぐっと言葉を飲み込んで、バカ、と言った。
「ティリスが呼んでるから来たんだ。それが用事ってこと」
 頭をポム、と軽く叩いて手を離したが、傍目にはいちゃ付き合ってるカップルである。
 もー、だとか言いながら髪を手ぐしで整えつつ、ティリスは漸く宵藍の格好に注目した。
 普段依頼中に会うことが多かったせいか、中華風の衣服ではない。今日はジャケットに細身のパンツというカジュアルなスタイルだ。
「な、何見てるんだよ?」
「なんか、いつもと違って‥‥うん、格好良いですねぇ。あ、いつもの宵藍さんも、素敵なんですよ?」
 世辞だとは思っているが、異性に笑顔で言われるとそんなに悪い気はしない。しかも、本当にそう思ってます、なんて追撃が来ると頬も若干緩んだ。
「そうかそうか。ありがとな」
 上機嫌でカフェを出て、寒いですねと言いながらも勝手に腕を組んでくるティリス。宵藍もティリスの相変わらずな懐っこい性格と久しぶりの感覚に戸惑いながら、それを振り払わず街を歩く。
 
「で、どっか行きたいところはあるのか?」
「はい。ここの巨大ショッピングモールに、先日ニュースでウワサになったお店、支店が入ったって聞いたのでぇ、様子見に」
 要するに荷物持ちね、と一瞬遠い目をした宵藍だが、ティリスはうふふと笑う。
「で、見れば分かるけど一応。元気にしてたか?」
「もー大変ですよ? あの子、戦闘依頼ばっかり選ぶから‥‥私の援護が遅いと無表情で睨んでくるんですぅ」
 可愛い事してる暇も無いです〜と、旅先の事や同行者のことを語るティリス。
「仲間に置いていかれたのを助けたこともあったよな‥‥遊園地で首絞められたり」
 宵藍は話を聞きながら、ティリスと同じ依頼で遭遇すれば、絶対と言っていいほど振り回されていたのを思い出す。
 あれは大変だったと本心でそう思う一方、彼女と接する機会が減ってからは、時折胸中に寂しさを感じた。
「今日はお会いできて凄く嬉しいです。だから、いっぱい楽しみましょう、宵藍さん!」
「ん。そうだな。俺も会えて‥‥実は嬉し――って言った側から俺じゃなくて何見てるんだよ、ティリス‥‥」
 人に恥ずかしいことを言わせかけて‥‥とぼやきつつ、彼女がショーウィンドウに釘付けになっているものを探し、見つける。
 シルバーネックレス、らしい。
「あれ、可愛いですねぇ。時計の針をモチーフにしてるみたいです」
 シルバー製アクセサリーなので、値段もまぁこんなものだろうというあたりである。
 ふぅん、と軽く納得した後、宵藍はショップの中にティリスの手を引いて入っていき、先程眺めていたアクセサリーを店員に頼んでとってもらう。
「宵藍さん、それ欲しいんですか?」
「ティリスが欲しいんだろ? クリスマスプレゼントって事で」
 私に? ときょとんとしたティリスだが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。つられて宵藍も温かい気持ちで微笑む。
 会計を済ませている所で、ティリスがラッピング途中の店員に近づき、ひそひそ声をかけている。
 何を言ったのか、店員は楽しそうに笑うともう一つアクセサリーボックスを出して、ティリスに渡す。
 2つの箱を持ったまま、すたすた入口に向かうティリス。宵藍は後を歩いて店を出た。
 ラッピングしてもらわないのかと尋ねると、ティリスはくすぐったそうに笑って、先程購入してもらったネックレスを取り出すと、金具を軽く捻って2つに離す。
「これ、ペアネックレスにもなるんですよ‥‥買って貰ったのですけど、私とお揃いなんて、どうですかぁ?」
「な‥‥早く言え、そういうことはっ! もっと違うのだって選べただろ! ‥‥ティリスが希望するなら受け取るけどな‥‥」
 宵藍の受け取ったものは、青い長針ネックレス。ティリスのはピンク色の短針だった。
 お揃いですねと笑う彼女は嬉しいと何度も言いながら、宵藍の腕に抱きつく。
「じゃあ、どんどんいきましょう。次は何の買い物しちゃいましょうか‥‥あ! あれ可愛い!」
「どんどん!? ちょ、ティリス‥‥全部買ってやるとは言ってないぞ!?」

●真っ白な想い

 夜になると雪がちらつき始めた。
 通りで今日は冷える筈だと宵藍は言いながら、両手には大荷物を持たされている。
 大きなツリーの下で立ち止まり、ティリスは送ってくれるのはここまでで大丈夫ですよ、と振り返った。
「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
 いっぱい買ってもらったし幸せー、と言うのだが、買わされた宵藍は『でしょうね』と、この数時間で己が身に降りかかった厄災を思い出し、悲哀を滲ませる。
「まあ‥‥今日は俺も久しぶりに一緒に過ごせて楽しかったぞ。ティリス、今度‥‥また会えるよな?」
 宵藍が期待するように微笑みながら聞けば、ティリスはハイと元気よく返して頷く。即答だった。
「次会うときは、宵藍さんの好きな格好してきますよ?」
「そりゃ楽しみだな‥‥うん、そうしよう」
 割と乗ってくれた宵藍に、ふふっと楽しそうに笑うティリス。が、すぐに困ったような顔で俯いた。
「あの‥‥本当は、今日‥‥宵藍さん、多分来てくれないんだろうって思ってたから。待ってる間すごく怖かったですよ。
 連絡も全然してなかったし、それで‥‥会いたかったけど、もう忘れちゃってるかなって思って。名前も書けなくて。ごめんなさい」
「――馬鹿だな。ちゃんと分かったから来たんだ。ティリスみたいに強烈な個性もそうそう忘れられるわけ無いし。そんな顔しないで、笑ったらいい。俺も、会いたかった。だから満足だ」
 折角のクリスマスなんだし、と手を伸ばして頭を撫でてやる宵藍。頭に手を乗せられて、ビクッと身体を一度震わせたティリスだったが、優しく撫でられ、含羞と照れが混じった表情をする。
 こういう可愛いところもあるんだな、と思った宵藍に、ティリスは『あ』と短く声をあげた。
「‥‥宵藍さん、髪の毛に、綿ゴミがついてます‥‥取るので目を瞑ってください」
「ん」
 言われたとおりに目をつぶると、宵藍の鼻腔にふわっと甘い香りが漂った――のと同時、頬に柔らかい感触がそっと押し付けられた。
 驚いて眼を開けた宵藍。ティリスも小さい悲鳴を上げつつ、バッと数歩下がる。
「‥‥く、クリスマス、プレゼント、です‥‥! 私、こういうコト、人にはしてないですけど‥‥宵藍さんは特別です!」
 今日は色々ありがとうございました、と顔を真赤にしながら、ティリスは脱兎の如く走り去っていく。
 頬を押さえ、小さくなっていくティリスを見送りつつ何故か無表情になってしまう宵藍。
 わけが分からぬうちに逃げられてしまったが、嫌われたからでは――ないらしい。
「‥‥つーか、この荷物どうするんだよ‥‥」
 渡す間もなく別れてしまったので、両手は相変わらず空かない。がさがさ音を立てつつ彼も駅へ向かって歩く。
 仕方ない。連絡が取れない場合は、最悪ULTにメッセージと共に預けるしかないだろう。
「‥‥またな、ティリス。最後に良いもの、もらったぞ」
 ぼそっと呟き、どこか嬉しいような気持ちのまま、宵藍は煌びやかな街を歩く。
 ショーウィンドウに映る彼の表情は、とても楽しそうだったとか。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【gb4961 / 宵藍 / 男性 / 26歳 / エースアサルト】
【gz0319 / ティリス / 女性 / 20歳 / サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

こんにちは、お久しぶりです。CTSでは非常にお世話になりました〜!
宵藍さんだー!とノリノリで書かせていただいたのですが、いかんせん振り回し方が足りなくて心残りです(え)
クリスマス&久しぶりの再会&アドリブOKという萌えすぎる設定なので、頑張って甘めにしたのですが‥‥宵藍さんらしさが出ていれば嬉しいです。
ご発注ありがとうございましたー!
WF!Xmasドリームノベル -
藤城とーま クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.