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『●躍動する牙 』
竜王寺・珠子5215)&ギルフォード(NPCA025)
 人間は重たい理性と引き換えに、軽やかな本能を失ったらしい。
 大半の人々は、飼いならされたような羊のように、安穏と平和を貪っている。
 だが、時として大きな時代の流れは逆行し、獰猛な野獣を世に生み出す。
 それが、運命と言うのならば、あまりに軽すぎる言葉であろう。

 だが、運命としか呼べない巡り合わせが、此処に存在する。
 ――東京、時刻は既に夜の2時をまわっていた。
「(だからって、今、遭うとは思わなかったわよ)」
 今、人気のない道へ向かって、全速力で駆けている竜王寺・珠子(5215)は己の運の無さを嘆きつつ、脚力を強めた。
「どうせ、暇なんだろ。遊ぼうぜ?」
 常識を逸した速度で走っている珠子の後ろから、つかず離れずの距離を保ち、ジワジワと追いつめるように速度を上げるのはギルフォード(NPCA025)。
 たまたま、ギルフォードの殺人現場を珠子が目撃してしまったのが、この因縁とも運命とも呼べる関係の始まりだった。

『……また、会おうぜ』

 その言葉が、こんなに早く成就するとは――!
 漸く人気のない所に避難し、腰に吊るした御神刀「九頭龍」を抜刀する。
 勢いを殺さず、突っ込んで来たギルフォードの右腕が巨大な爪となって襲いかかった。

 キ―ン

 金属同士の擦れ合う、甲高い音……刀と爪の奥で、ギルフォードの漆黒の沼のような瞳が、残虐な光を帯びた。
 左腕が、円を描くように珠子の脇腹へと伸びる、小型のバタフライナイフが月の光を帯びて妖しく輝いていた。
 後背に飛び退く事で回避し、刀の切っ先でギルフォードの顎を狙う。
 顔面に刀が迫れば、人間は反射的に目を閉じるか、防御の体勢を取るものだが……やはり、目の前の男は常識の枠から外れていた。
 刀と並行するように身を滑らせ、義手で掴むと珠子の瞳を狙って見せる。
「ちょっと、顔に傷が出来たらどうしてくれるのよ!」
「ああ?じゃあ、責任とってバラしてやる」
 頭の上を飛んでいくナイフ、それにしても、とギルフォードの関心は別の所に在るらしい。
「これ、悪くねぇ刀だな。この前、雷が鳴ったのもコイツのお陰だろ」
 ゾク、と背筋に冷たいものが走る……。
 魔を滅する一族の末裔、そんなものを信じている珠子ではないが、確かにこの『御神刀「九頭龍」』にはそう言った力があった。
 だからこそ、頭の中で鳴り響く警鐘――九頭竜を奪われれば、何が起きるかわからない。
「何が言いたいの?」
「今日は、此れを貰っていくぜ」
 冗談じゃない、とばかりに珠子は全体重を柄に駆け、切っ先を跳ねあげる。
 ギリギリ、と金属の削られる音、だが、九頭竜を放さないギルフォードは左腕からナイフを放つ。
 咄嗟に珠子が避けたところに、鋭い蹴りと、幾つもの刃が彼女を襲った。
 
 キン、カン、カンカンカン――

 革ジャンをナイフが裂いていく。
 本能と直感、全てを視認する事は諦め、身体が動くままに任せた珠子だったが、この程度で済んだのは彼女独特の格闘センス。
 そして、運の良さも関係している事だろう。
 正眼に構えた刀、常人なら3歩のところを、跳躍する事で距離を詰め、袈裟掛けに切り裂く。
 受けとめたギルフォード、ニヤリ、と歪な笑顔で力任せにはじき返す。
 その反撃は、想定済みだ――珠子も刀を滑らせ、返した刀でギルフォードの横腹を切り裂こうとするが、軽くかわされる。
 だが、頭に攻撃を受ける前に、足へと力を込め後背を取る。
 軸足を固定して、身体をギルフォードの方へと向ければ――彼は嗤っていた。

「ははははっ――ははっ!」

 壊れたように笑う姿に、ぞっとしたものを感じるが、それよりも早く逃走を計りたかった。
 だが、そんな躊躇いすら忘れてしまう程、次の攻勢に移ったギルフォードの速さは超越していた。
「――っ!」
 声にならない声、ナイフは何本投げられたのか、一つ、二つ、三つ、四つ……いや。
 気がつけば、腹部に刺さった一本のナイフ、同時に放たれた四本は弾き返した、だがもう一本は、視認すらままならない。
 後ろに殺気を感じ、慌てて振り向き刀の柄を両手で握りしめる。
 右から左へ、と強烈なフックを決められて刀で受けとめたにもかかわらず、珠子の身体は吹き飛ばされた。
 飛んだ彼女を追って、ギルフォードがナックル状にした義手で追撃をかける。

 バキ、バキっ!

 軋んだ骨が、綺麗に折れる音がした、三度目の追撃の前に、膝を付き地面を転がる事で回避する。
 そのまま膝立ちになる頃には、頭を叩き割ろうとギルフォードが爪を振り下ろしたのが見えた。
 咄嗟に、刀を頭上に掲げ、鍔迫り合いに持ち込む。

「(拙い、このままじゃ――やられる!)」

 不安定な膝立ちからの鍔迫り合い。
 上から見下ろして、ゆっくりと体重をかけて追いつめていくギルフォードの目に宿る、嗜虐的な色。
「ま、良くやった方じゃぁねーか」
「じょう、だんじゃないわ」
 刀を支点にして、ゆっくりと後退を計る……そのまま、後ろに飛び退れば鍔迫り合いの状況から抜け出せる、筈だった。
 珠子の行動の意図に気付いたのか、目の前の犯罪者は笑みを深くすると、足を使って珠子を蹴り飛ばす。
 続いて放たれたナイフは、避けきれず、身体で受けとめる事になる。
「くっ――!」
 鋭い痛みが、脳天まで突き抜けていく、ジワジワと身体から血があふれだしていくのが分かった。
「(目が、霞む……こうなったら、また雷を――)」
 ギルフォードが接近する、左手にはナイフ、右腕のナックル。
 ナックルをかわそうとするも、避けきれず頬の皮が裂ける。
 ナイフは何とか打ち払うと、鉛を流しこまれたような腕で、ギルフォードの右腕を受けとめ、雷を繰り出した。
 肉の焼ける臭い、金属が変色していく――ギルフォードはただただ、笑みを浮かべている。
「(何……一体?)」
 出血での脱力感だけではない、酷い痛みが彼女を襲う。
 疲れとは別の、指先までもが沼に入り込んだような、倦怠感。

「漸く、効いてきたか」

 ギルフォードの腕の中に倒れ込んだ珠子、痛みに細い眉が寄り、黒い睫毛が震える。
 カラン――と虚しい音を立てて彼女の手から九頭竜が落ちた。
 赤黒い血が、コンクリートを染め上げていく。
 ゆっくり、珠子が動きを止めるのを確認すると、ギルフォードは九頭竜へと手を伸ばした。

「これ、貰っていくぜ」

 地に伏した珠子を足の先で突きながら、ギルフォードは嘲笑うと夜の闇に消えていく。
「ま……っ!」
 待って――そう言いたくても、舌先まで痺れて動けない。
「(絶対に、取り返、して――)」
 遠くで、人々のざわめきを聞きながら、珠子は指一本動かせず、やがて意識を手放したのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【5215 / 竜王寺・珠子 / 女性 / 18 / 少し貧乏なフリーター兼御神刀使い】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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竜王寺・珠子様。
再度の発注、ありがとうございました、白銀 紅夜です。

敗北でも、美しい敗北であるように、また、珠子様の凛々しさを描く為、尽力させて頂きました。
戦闘シーンもですが、導入シーンにも力を入れさせて頂いております。
次に、珠子様がどうなるのか……私も、楽しみにしておりますね。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年01月12日

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