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『聖夜、想いは満ちて 』
須佐 武流(ga1461)

 今でも、不思議に思うことがある。
 
 クリスマス――祝日の一つに過ぎない日だが、恋人達にとっては大切な意味を持つことも少なくない。
 けれども、まさか自分がこんなことになるなど思いもしなかった。

†††

 人は、想いを伝える時に何かを一緒に手渡したくなるものだ。
 大型のショッピングセンターに珍しく足を運んだ須佐 武流の目に飛び込んできたのは、クリスマスセールと銘打ったプレゼント特集の数々だった。しかも、女性がわんさかと群がっている。
「……」
 そもそもこういう場に行くことが少ない彼にとって、女性の間に割って入ることは結構難しい。仮にあそこに男が数人でもいればまだ行けたのだろうが。
「……仕方ないな」
 この売場は諦めよう。
 そう判断した武流は、長い髪をなびかせて次の階へと向かった。どうせどこの階もそれなりに何かしらの特集を組んでいるのだから、空いているところから探せば良いという算段である。
 幸い、次の階は人混みも少なく、武流は適当に売場を物色することにした。アロマキャンドルや『思い出に!』とプレートに大きく書かれた電子アルバム、どうやって持ち帰るのだろうかという巨大なぬいぐるみ――ともかく何でもあった。
「まつりは、何が好きなんだ……そういや、聞いたことねえな」
 最愛の恋人の好み――和物、それだけである。しかも、それは別に特別な好みでもなく、彼女が堂々と公言している好みであり、それ以外の自分だけが知っている好みというものが、実は武流にはなかった。
 だから、売場をうろうろしながら彼はものすごく悩んでいた。ぬいぐるみを買って、「あたし、そんなに子どもじゃないです」と怒られては洒落にならない。かといって、アロマキャンドルなんて何に使うんだ……と実用派に傾倒している武流には理解不能である。
「ああ、これ……これで良いな」
 うろうろすること半時間、別のフロアに移動しようかと武流が視線を動かした時、すぐ近くに陳列されている桜色のマフラーが目に入った。落ち着いた色合いで、適度な長さがあり、かつ材質も良い。
 何となくそのマフラーに惹かれるものがあって、武流はほぼ直感でそれを掴んでレジに直行した。


 恋人が家に来るには、もう少し時間がある。
 帰り道に材料を買い込んだ武流は、帰宅するなり料理の準備に入った。
 とはいえ、ずば抜けて料理の才能や経験があるわけでもないので、短時間でできるものばかりを作るつもりである。王道なところでフライドチキンとケーキだろうか。ケーキは土台を買って来ているので、実質デコレーションを残すのみだ。
 残りのサラダ等は店で丁度綺麗に盛りつけられたものが並んでいたのでそれを買って来た。まつりは未成年なので飲酒できないため、シャンメリーの瓶をテーブルに置き、空のグラスを二つ並べた。
 できたてのチキンを中央に置き、飾り付けたケーキをとりあえず冷蔵庫に入れたところで、呼び鈴が鳴った。
 普段からこの家に人の出入りは殆ど無い。誰が来たのかは確かめるまでもなかった。
「……っと、いけね」
 椅子に置かれたままのプレゼントを収納に隠して、武流は玄関に向かった。
 ドアを開けると、黒髪を揺らし、手袋をした手で顔を挟むように温めていた少女と目が合った。彼女は武流を見ると、ぱっと顔を輝かせて笑顔を見せる。
「よう」
「こんばんは、武流さんっ」
 そっけない挨拶でも、恋人の三枝 まつりは嬉しそうに返した。
 
†††

「それじゃ、乾杯」
「か、乾杯っ」
 シャンメリーの入ったグラスが小さな音を立てた。あまり慣れていないのか、まつりはたどたどしくグラスを手元に戻す。
 二人だけのクリスマスパーティだったが、心寂しいとは思わず、会話が途切れることもなかった。
「……えっ。こ、これ、武流さんが作ったんですか!?」
「変か?」
「あ、い、いえ……ちょっと、びっくりしました」
 料理が出来ないわけではないだろうが、いざこうして作られると驚いた、と言ったところだろう。意外にも食欲を発揮するまつりは、目を輝かせながら手料理に舌鼓を打っていた。
「美味しいですっ」
「そうか。それは良かった」
 会話は心なしかいつもより弾んだように思う。
 以前に依頼を受けて行った土地の事や、人々の事、出会ったばかりの頃の事――おおよそクリスマスに程遠いものばかりだったが、まつりはそれらを興味津々で聞いていた。話している武流も、それなりに話題は選んでいたが、それも特に苦には感じなかった。
 ふと、四国の話になった時だ。
「……そう言えば、まつりの家に結局ちゃんと行った事がないままだな」
「ほぇ? あ、うち今、改装中なので、来ても面白くないですよ?」
「改装? 何かあったのか?」
「単に古くなったからって聞いてますけど、多分増築するんだと思います」
 まつりの実家は四国にある料亭である。だが、どうも彼女の話を聞いていると、改装後は料亭なのか宿屋なのかよく分からない施設になるようだ。そもそも、料亭に温泉と卓球台は必要なのかと武流は内心突っ込んだが、それを今言っても仕方ない。
「つまり、よく分からないんだな?」
「みたいです。業者さんに丸投げしたみたいで」
 それで良いのか、三枝家。
 ちょっと恋人の実家を心配した武流だったが、ここでようやく冷蔵庫で出番を待つケーキの存在を思い出して立ち上がった。
 好みが分からなかったので、女の子が喜びそうなデコレーションにしたのは正解だった。ブッシュ・ド・ノエルのような洒落たものではなかったが、ケーキを見たまつりの目が更に輝いた。
「――サンタさんっ!」
「そこかっ」
 思わず声に出てしまった武流である。何に反応したのかと思えば、ケーキの上にちょこんと乗ったサンタクロースの砂糖菓子であった。
「……ま、まあ、良い。食えよ」
「はいっ」
 そう言って、まつりはサンタクロースを皿に置いた。勿論、ケーキ本体も綺麗に取り分けたのだが、何となく砂糖菓子に負けた気分になった武流である。
「……美味いか?」
「はい――……ふふ」
「……? どうした?」
 不意に微笑んだまつりに武流は首を傾げた。彼女はフォークの上に砂糖菓子を乗せると、満面の笑みで言ったものである。
「武流さんが、このサンタさんをケーキに真剣に乗せたのかなと思ったら……」
 小さな花が咲いたようにまつりが微笑んだ。
 そんなに真面目に砂糖菓子を乗せたわけではなかったが、自分がケーキをせっせと飾っているところを思い出して、武流も自然と口角を上げる。
 喜んでいる彼女を見られただけで、柄に合わない砂糖菓子も一役買ってくれたようだった。

†††

 本格的に陽が沈む頃に、二人は外へ出た。家の周りは高層ビル等の視界を遮るものが少ないため、夜空の星が良く見えるのだ。
「わぁ……」
 満天の星空とはこの事を言うのであろう。
 白い息を吐きながら嬉しそうに見上げる少女の背中を追って、横に並んだ武流は彼女が北風に当たるのをそれとなく防いでいた。
 そうして、彼女が立ち止まった時に、思い出したように抱えていた包みを差し出した。
「……クリスマスだからな。ちゃんとプレゼントがあるぞ? まぁ、たいしたものじゃないんだが…受け取ってくれると嬉しい」
「え……ええっ!」
 大仰に、けれども本気で驚いたまつりである。どうやら、暗くて見えなかったのか、武流がプレゼントの包みを抱えていたことに全く気づいていなかったようだ。
「あ、ありがとう……ございますっ」
 包みを開けたまつりの手に、桜色のマフラーは柔らかく馴染んでいるように見えた。ほわぁ、と息を吐いた彼女は、首に巻いていたマフラーをしまって、早速それを代わりに巻いてみる。肌の色と相まって、彼女の頬がいつもより桃色に染まっているようにさえ思えた。
「嬉しいです……大切にしますね」
「ああ。もっと気の利いたものでも良かったんだが、いざ色々見ると、な」
「良いんです。武流さんから貰った、ということが大事なんですから」
 にこりと微笑んだまつりにどんな表情で返せば良いのか分からずに、武流はわずかに視線を逸らした。真正直に感情を見せる彼女に即座に感情で答えられる程、彼は器用な人間でもない。
 不意に、まつりが口を開いた。
「……武流さん」
「何だ?」
 指先に、ひんやりとした感触があった。
 じんわりと暖かくなるそれがまつりの手だと気づくのにやや時間が必要だった。
 視線を僅かに下に向ければ、マフラーに顔を埋めた少女がいた。その表情は窺い知ることは出来なかったが、代わりに絡めた指先に力が籠もる。
 精一杯の、行動だったのだろう。
 立ち止まったままの二人は、上と下、それぞれ別の方向を向いていたが、星空を見上げる武流は何も言わなかった。言えなかったのではなく、この雰囲気を、もう少しだけ味わっていたかったのだ。
「クリスマス、か……」
 まつりに聞こえない程の小さな声で武流は呟いた。
 今でも、不思議に思うことがある。
 クリスマスなど、自分には縁の無いものだと思っていた。
 そして、隣にこんな少女が並ぶとも微塵も思っていなかった。
 けれども、武流はまつりを選び、受け入れた。縁遠かったクリスマスを一緒に過ごし、手を繋いだままこうして星空を見つめている。
 多分、これが正解で、これが一番良いのだろう。
 顔にも言葉にも、仕草にも表すことは難しそうだが、心からそう思える自分がいることを、武流は確かに感じていた。
 この、何もなかった自分と向き合ってくれる、あどけない少女と過ごす日常を――。
 
 
 了


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga1461 / 須佐 武流 / 男 / 20 / ペネトレーター】
【gz0334 / 三枝 まつり / 女 / 17 / ドラグーン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、冬野です。
 この度は、ご発注ありがとうございました。お待たせして申し訳ありません……!
 
 さて、今回で三度目ということですが、いかがだったでしょうか?
 お待たせした分、楽しんで頂けると幸いです!
 
 では、また御縁ありましたら、よろしくお願い致します!
 
 冬野泉水
WF!Xmasドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月12日

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