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『六花、舞う。〜ささやかなる幸い 』
セシル・ディル(gc6964)

 ふい、と思わず足を止めた。どこからか、誰かの声が聞こえてきた気がして、きょろ、と辺りを見回してみる。
 けれどもそこには誰も居らず、ただ、輝くように冷たい空気の中を泳ぐように、身をちぢこめた人々が足早に歩き去っていくだけで。
 誰かに呼ばれた気がしたんだけどな、とセシル・ディル(gc6964)は瞳をまたたかせた。けれどもそうした所で、その『誰か』がひょっこりと顔を出すわけもなく。
 どうしたの、と尋ねられた。尋ねられて、ううん、と顔中に幸せな笑顔を作って、セシルは兎々(ga7859)の暖かな手を握った自分の手に力を込める。
 そうして再び、微笑み合って歩き出した。道行く人々は誰も彼もが楽しそうで、そうして幸せそうだ――それもそうだろう、もうすぐクリスマス・イブ。宗教的には神の子が生まれた聖なる日かも知れないけれど、それが大事な人と過ごす日という意味を持つようになって、久しい。
 あちらこちらで街を彩る、美しいイルミネーションは見ているだけで華やかだ。赤、緑、白、黄金、銀、他にもたくさんの、色とりどりに鮮やかな光。
 そんな街の中を、パーティーグッズやお料理の材料や、そんな『幸せの欠片』がいっぱいに詰まった買い物袋を抱えて歩いていたら、それだけで嬉しくなるものだ。まして傍らにいて、ぎゅっとしっかり手を繋いで歩いているのが、誰よりも大切で大好きな恋人ともなれば、深々と雪が降り続ける中だって、心はとても暖かだ。
 ほとんど同じ高さにある兎々の顔を振り返ると、ばっちりと目が合った。ただそれだけでも嬉しくて、幸せに顔を綻ばせたセシルを見て、兎々がわずかに目を細める。
 街をゆく、幸せな人たち。その中でも一番幸せな、間違いなく最高に幸せな、自分達。
 ぎゅっと、繋いだ兎々の右手に力が籠もった。

「綺麗だね」
「うん」

 息を押し殺すように呟かれた言葉に、強く頷き、セシルもまた繋いだ左手に力を込める。そうして降り続ける雪の白い帳と戯れながら、自宅へと歩き続ける。

『あなたの願い事は、なぁに?』

 さきほど、聞いたような気がした言葉が耳に蘇った。冷静に考えてみればそんなはずはないのに、けれどもその時は確かに、確かに誰かの声が耳元でそう、囁いたと思ったのだ。
 願い事。聖なる夜に聞かれるには、なんだかくすぐったい心地がして、それからちょっとだけ不思議な気持ちがする、その言葉。
 願い事、と聞こえた言葉を胸の中で繰り返す。あなたの願い事は、なぁに?
 ふと空を見上げれば、相変わらず降りしきる雪がセシルの視界を白に染め上げた。兎々の手を無意識にもう一度、握り直す。

(私の願いは、一つ。唯、あなたと共に‥‥)

 手の中の温もりを与えてくれる兎々と共に、唯ひたすら共に在り続けられますように。今のセシルの中に、それ以外の願いなんてどこを探したってありはしないのだから。
 ああ、だから、願わくは。兎々もまた、セシルと同じ気持ちでありますように。





 帰り着いたセシルの自宅で、兎々と2人、パンパンに詰まった買い物袋の中身を広げ、ああでもない、こうでもないと言い合いながらパーティーの準備をした。
 きらきらとしたモールやクリスマスツリーを飾っている、兎々。そんな彼の気配を感じ、時々は覗きに行きながら、キッチンで普段は買わないような食材と格闘し、レシピと睨めっ子しながら、セシルはパーティーのお料理を作ろうと奮闘する。
 本当はあんまり、お料理は得意じゃない。けれども精一杯の気持ちを込めて、丁寧に、大切に。
 せっかくだから、兎々には美味しい料理を食べて欲しいし。それより何より、兎々のために料理をしているというだけで、セシルの胸の中には言いようのない幸せがこみ上げてくるのだ。
 セシルの料理を食べて、兎々はどんな顔をするだろう。美味しいと言ってくれるだろうか。ただ一言だけでもそう言ってもらえたなら、きっとセシルは天にも舞い上がる心地になるに違いない。
 そんなことを考えながら、包丁を握り、フライパンをふる。どうか兎々のために、少しでも美味しくなりますように。
 その甲斐あってか、すっかり窓の外が暗くなる頃には準備も終わったホームパーティーは、ささやかながら暖かみの籠もった、2人きりのクリスマスにはふさわしい雰囲気あるものに仕上がっていた。心を込めて作ったお料理と、精一杯に華やかに飾り付けた部屋。シャンパンの琥珀色がライトの光を受けて、きらきらと煌めく気泡を幾つも弾けさせている。

「メリークリスマス!」
「メリークリスマス」

 テーブルに向かい合い、ムーディーに絞ったライトの下で、カチン、とシャンパングラスを鳴らした。そうして軽く口を付け、微笑む兎々に微笑み返す。
 まるで息の仕方を思い出したかのような、ほっとした彼の微笑み。そうしてセシルがいそいそと、取り分けた料理を口に運んでまた、にこ、と柔らかな笑顔になる。

「美味しい! すごく美味しいよ、セシルさん」
「本当? 良かった、まだまだあるからたくさん食べてね」

 じっと彼の反応を見ていたセシルは、兎々の言葉にほっと安堵の息を吐いた。精一杯頑張ったけれども、あまり自信はないものだから、やっぱり心配だったのだ。
 もちろん、とセシルの言葉に兎々が頷き返す。そうして言葉通り、あっと言う間に目の前の料理を平らげて、お代わりをお皿に取り分けている。
 良かった、ともう一度、安堵した。こくり、シャンパンを一口飲んで、それからセシルもフォークを手に取る。
 2人きりのホームパーティーには少し多いかも、と実はこっそり心配していたお料理は、やがて、殆どが兎々のお腹に収まってしまった。無理をして食べた様子ではなく、とても満足そうだ。
 とはいえさすがに一杯になったのだろう、少しお腹をさする兎々に、くすくすとセシルは笑った。そんなに一杯食べてもらえたのが、すごくすごく嬉しい。
 そう、笑うセシルにちょっと目を細めて、それから兎々は少し大きめの、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。ぱっ、と顔を輝かせてセシルも、戸棚の中に用意しておいたプレゼントを取りにいって。
 小さなクリスマスツリーの前で。はい、と相手に手渡したのは、同時。

「これ、セシルさんへ」
「これ、兎々さんへ」

 クリスマスと言えば、プレゼント交換。綺麗にラッピングされた箱に添えた、言葉までも被ってセシルと兎々は目を見合わせ、ぷっ、と吹き出した。それからお互いに『ありがとう』と微笑み合って、プレゼントの箱を交換する。
 どきどきしながら、リボンを解いた。兎々は一体、セシルに何を選んでくれたのだろう? そう、考えながら包装紙も丁寧に開けて、中に大切に仕舞われていた箱の蓋をそっと開け。

「うわぁ‥‥これ、プラネタリウム?」
「うん。つけてみようか」

 ぱっと目を輝かせ、兎々を振り返ったセシルに、彼は頷いて立ち上がると、部屋の電気をパチリと消した。窓からの僅かな灯りでプラネタリウムのスイッチを入れると、パッ、と天井に一面の星空が生まれる。
 うわぁ、と言葉も失くして、俄かに生まれた星空を見上げた。数え切れないほどの星々に、なんだかめまいがしそうになる。
 知らず、満面の笑みを浮かべて兎々を振り返ると、彼もまたセシルのプレゼントを開封した所だった。ほんの少しだけ首を傾げてから、ひょい、と首に巻いたそれはマフラーだ。
 ぁ、と目を見開いたセシルを見て、兎々が目を輝かせ、ありがとう、と嬉しそうに微笑んだ。

「大切にするね」
「あ、うん、あの、その、手編みなの‥‥」
「そうなんだ」
「で、出来については目を瞑ってね! 下手糞なの、自分で判ってるもの‥‥」

 わたわたと、弁解を重ねるうちに自分の言葉に打ちのめされて、セシルはしょんもり肩を落として、目を逸らした。彼に何をあげようかと、色々と考えた結果、頑張ってマフラーの手編みに挑戦してみたは良いのだけれど――編目は不揃いだし、なんだかよれた感じがするし、模様もうまくいってない気がする。
 それでも精一杯編んだマフラーだから、その気持ちは判って欲しい。そう、思いながらちょっとだけ唇も尖らせたセシルに、暖かいよ、と兎々は優しく微笑んで。
 ごそ、と懐から何かを取り出す。ん? と首をかしげたセシルは、次の瞬間、彼の手の平を見て今度こそ、大きく目を見開いた。
 小さな、ビロード張りのアクセサリーボックス。中に入っているものが何なのか、開けてみなくてもすぐに判る。
 それでも。

「こっちが、セシルさんの誕生日プレゼント。――これでセシルさんは兎々さんのものだからね?」
「‥‥ッ」

 イタズラっぽく囁かれながら、手の平に握らされたアクセサリーボックスを、もどかしい気持ちで開けた。その中に入っていた繊細な細工の指輪に、大きく息を呑む。
 兎々を見て、また指輪へと視線を落とした。それからまた兎々を見て、震える声で言葉を紡ぐ。

「私が貰って良い、の‥‥?」
「もちろん」

 確かめれば、当然のように頷きが返った。それに、遅れてこみ上げて来た喜びと、幸せが一気に胸に押し寄せて、一瞬、息の仕方を忘れる。
 渡された指輪の意味が解らないセシルではない。これでセシルさんは兎々さんのものだからね? 囁かれた言葉の意味を重ね合わせれば、おのずと答えは見えてくる。
 ぎゅっと、瞳を閉じてその幸せを噛み締めた。大きく息を吸って、吐いて。そっと、開いた瞳の向こうにいる兎々の微笑みに、それが彼女の勘違いでも何でもない事を、知る。
 ねぇ、と。だからほんの少しはにかみながら、微笑み左手をさしだした。

「折角だから、はめてくれる‥‥?」

 そう言った、セシルの頬は赤くなっていたかも知れない。さすがにちょっと恥ずかしい気もして、言った直後に「なーんてね」と冗談で誤魔化してしまおうかと、さしだした手を引っ込めかけて。
 けれども兎々はそれより先に、セシルの手を握り締めた。そうしてまるでお姫様にかしずく従者のように、エスコートする王子様のように、恭しくセシルの指に婚約指輪をそっと、はめる。
 指に感じる、兎々の指の熱さと、ひやりとしたリングの感触。それがセシルに、これは紛れもなく現実なのだと実感させて、今度こそ幸せのあまり眩暈がした。
 そっと、彼に近付く。近付き、吐息がかかりそうなほど顔を近付けて、小さく囁く。

「‥‥兎々さん‥‥大好きよ‥‥」
「うん‥‥」

 頷く兎々の吐息を、感じた。次の瞬間、どちらからともなく唇と唇が触れ合い、それはやがて深い口付けへと変わっていく。
 柔らかく抱きあっていた腕は、次第に、溺れた人のようにしがみつく様なそれへと変化して。窓の外、降りしきる雪の音なき音を聞きながら、プラネタリウムに生み出された満天の星に見下ろされ、より深く、深く触れ合わずにはいられない。
 兎々の心臓の音が、ひどく大きく聞こえた。セシルの心臓の音も、彼に聞こえているだろうか。だとしたらなんだか恥ずかしいと、痺れた思考の片隅でそう思う。
 ――どれほどの間、そうして触れ合い、抱き合っていたのだろう。幸せに満たされて、1つ布団の中、兎々の腕に抱かれて彼のぬくもりを感じながら、セシルは天井の星空を見上げた。
 幸せな――幸せな、夜。幸せな、始まりの夜。

「‥‥ねぇ、こうして一緒に眠れる‥‥こんな日が来るなんて、ね‥‥」
「‥‥‥」

 セシルの歌うような呟きに、兎々が返した言葉は良く聞き取れなかった。けれどもきっと、彼も自分と々気持ちだろうと思う。
 今日という、幸せな夜のことをセシルは決して、忘れることはないだろう。ずっと――幾ら時が経ったとしても、この幸せな気持ちと共に、鮮やかに蘇ってくるに違いない。

(‥‥大好きよ‥‥‥)

 呟いたと、思った言葉は声にならなかったけど。幸せな気持ちのままで、セシルはとろりと瞼を閉じる。
 幸せな、幸せな、聖なる夜――どうかいつまでも、唯いつまでも、こうして彼の傍らにあり続ける事が出来ますように――





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /   PC名    / 性別 / 年齢 /   職業   】
 gc6964  / セシル・ディル /  女  /  22  / キャバルリー
 ga7859  /   兎々    /  男  /  21  / ビーストマン

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
お届けが遅れてしまい、本当に申し訳ございません;

ささやかなクリスマスパーティーの、おそらくは最高に幸せなひとときのノベル、如何でしたでしょうか。
不器用ながらも一生懸命、あれこれと考えてパタパタしておられるお嬢様をイメージしながら書かせて頂きました。
ぇー‥‥と、すみません、実は書かせて頂いている蓮華がちょっと、けっこう、その、うん、ラスト辺り、とっても恥ずかしかったです‥‥(ぁー

お嬢様のイメージ通りの、お二人の未来が始まる幸せなノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
WF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年01月13日

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