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『- V.S. カ°ワ°ウ°ラ°お°嫁°入りセ°ンタァ〜 - 』
藤田・あやこ7061)&碧摩・蓮(NPCA009)

 抜けるような空が続く東京。
 何となく結婚意欲が湧く、清々しい好天である。
 そしてほんとに清々しいくらい客がいなかった。
 港区のカフェ、かもめ水産。
 名前を裏切って漁業組合などではなく、瀟洒なカフェである。
 ここではエルフの女店主が女性客のなやみをまったりと会話しながら優雅な時間を過ごす場所。
 なのだが……。
 店主の藤田あやこは、美しい顔の眉間に皺を刻み、重い溜息を吐き出した。
「最近暇ね……」
 今までも客の波はあったし、入りがゼロの日だってあった。
 だが、1週間まるまる誰も来ないというのは異様だ。
 どこか人目を惹き付ける新しいお店が出来たのだろうか。
 あやこは頭を振って考えを否定する。
「最近の新店オープンの話は聞いたことがないわ」
 今日の予約もないし、かといって誰も来る気配がない。
 店の前の通りにまったくと人の気配がないのだ。
「久しぶりに遊びにいこうかしら」
 そう思い立ったら行動は早い。
 早々に表の看板をcloseにし、友人の店へバイトをしたいと連絡を入れる。
「ほんと?!あやこが来てくれるなら助かるわ〜!今からこれる?すぐ来て!はやく!!」
 その友人の様子に、あやこは訝しげに思った。
 これほど頼ってくれるのは嬉しいことだが、と何か妙な勘ぐりが巡る。
 ちょうど忙しい頃なのだろう。そう思うことにして友人の店へ足を向けた。
 だが、あやこはまだ知らなかった。
 友人の店が危機的状況にあることを。
 あやこは陰謀渦巻く商店街へと、灯火に誘われる蝶のように吸い込まれていった。


「カ°ワ°ウ°ラ°お°嫁°入りセ°ンタァ〜…」
 友人の店・蝶屋に入ったまさにその時、空から鼻濁音全開の透き通る女声が響き渡った。
 妙な催眠効果抜群で、クラクラとつい婚活気分が湧きそうになる。
「あやこ〜〜。もう商売あがったりよ〜……」
 蝶屋の女店主があやこに泣きついてきた。泣きぼくろが印象的な淑女である。
「なんなの、あれ?」
 ふわふわする気持ちを抑えつつ、友人に聞いた。
 うっかり気を許すと、婚活したい衝動にかられてしまいそうだ。
「ななめ向かいにカワウラお嫁センターってあったでしょ〜?」
 なんでも1週間ほど前、そこに凄腕のマネージャーとやらが来たそうだ。
 サクラにビラや呼び込み、巧みな話術と何でもあり。
 わりと確かな噂によると、ここら一帯の占い屋や英会話教室の先生、宗教なども全て婚活&カワウラお嫁センターへの誘導線だという。
 店内、近辺には未婚の人には「結婚させ屋」が。既婚者には「別れさせ屋」が待機しており、すべてカワウラお嫁入りセンターの手のひらで転がされる、というとんでもないステルスマーケティングだった。
 元々インテリアの店だったが、大きな敷地を活かして店の中に結婚相談・斡旋所や花嫁家具、花嫁衣装、果ては挙式まで出来る最強の婚活テーマパークと化している。
「『1日婚活体験、スピード結婚、ロシアンルーレット結婚に結婚相乗りバスの旅。性別性格、年齢種族に縛られない最高の結婚が貴方を待ってる』……思い切ったキャッチコピーね」
 蝶屋店主に渡されたチラシを見て、呆れたように呟いた。
 彼女に聞いた話だと、あやこの店の常連も最近はここいらで結婚&転居を繰り返しているのを見かけるという。
「許せないわ、ここは私が一肌脱ぐしかないようね」
 腕をまくりあやこは気合いを入れる。
 大切な常連客にコロコロと再婚&転居を繰り返されては商売あがったりだ。
 あやこの目に火が灯った。


 やり口は汚いにしても、相手は心と財布を捉えるのが上手いことに代わりはない。
 下手な手をうっても返り討ちにされるのが目に見えている。
 だが、あやこには勝算があった。
 幸いここ蝶屋は、文字通り乙女心を擽るかわゆい柄のカーテンや絨毯で満ち溢れる。
 客は入ったが最後、つい小物を持ってレジに向かうほどだ。クオリティには自信をもてる。他人の店だが。
「ようはウチの店に入れちゃえばいいのね!さっすがあやこ!」
「目には目を、という昔のコトワザがあってね」
 不思議そうに見る蝶屋店主に、あやこは片目をつぶって悪戯っぽく答えた。
「ステマにはステマよ」


 昼下がりの商店街。
 方やあやこの自家用飛行機。方やお嫁入りセンターのロゴ入り飛行船。
 空中から2種類の、甘い悪魔の囁きがコダマしていた。
「カ°〜テ°ンカ°〜ペット°の店°チ°ョウ°ヤ」
 旋毛に抜ける様な甘い声であやこが青空から囁く。
 すると路上を歩いていた人々が、ふらふら〜っと蝶屋に足を向ける。
 負けじとお嫁入りセンターも叫ぶ。
「カ°ワ°ウ°ラ°お°嫁°入りセ°ンタァ〜…」
 蝶屋へ向かっていた人達が何かに誘われるようにお嫁入りセンターへと向かっていく。
「癒°し°の°カ°〜ペット°は°ぁ°〜」
「二°人°〜の°新°婚°生°活°が°ぁ°〜」
 甘言の猛爆に曝される両店。
 気付けば両店の客も店員も、男女が手を繋いで甘いムードが漂っていた。


 皮肉にもこの二つの店舗は一日で、商店街で過去最高の売り上げをたたき出したという。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
浅色ミドリ クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年01月17日

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