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『■Happy New Year to HIME-T 』
藤堂 媛(gc7261)

●Are You Happy?
 いつだって、どこでだって。今日の陽が落ちれば、明日がやってきて陽が昇り、新しい一日が始まる。
 それはここ、『ラスト・ホープ』でも変わらない事実。
 洋上を移動する人工島もごく小さな一日一日を積み重ね、無事にまた何度目かの新しい年を迎えていた。

「晴れて、良かったねぇ……」
 長い袖を押さえながら額に手をかざし、まぶしげに黒い瞳を細めた藤堂 媛が天を仰いだ。
「ねぇ、アオちゃ……アオちゃーん? どしたんー?
 同意を求めるように友人の名を呼んだ媛は、どこか晴天とは逆なオーラを漂わせている日下アオカの表情を窺うように小首を傾げた。
「なっ、なんでもありませんわっ」
 気遣う視線を振りほどくように、頭の両側で束ねた髪をアオカは勢いよく左右に揺らす。
「そう? それやったら、良いんやけど……」
 それでも傾け気味な頭はそのままで、じーっと媛はアオカを見つめた。
 背の高さは、自分より少し低め。
 銀糸のようなさらさらの綺麗な髪と、それを結ぶ赤いリボン。
 なにやら、ちょっと訴えるような青い瞳。
 寒いせいか少し赤くなった頬は、時々ぷぃと膨れてみたりする。
 そんな仕草を見ていると、何故か自然と媛の表情までほぐれてきて。
 ……むに。
 前触れもなく、鋭い視線を返すアオカに片方の頬をひっぱられた。
「なんですの?」
「うにゅ?」
「じーっと、アオを見たりして」
「ううん。にゃんでもにゃいんひゃよー」
 頬をひっぱられたまま怒りもせず、ふにゃりと媛はアオカに笑う。
 この少し歳の離れた妹のような少女が、媛にとっては『ラスト・ホープ』での一番最初の友達だ。
「折角やから振袖着てきたけど……アオちゃん、よう似合うとるねぇ」
「こっ、この程度、アオなら着こなせて当然ですの」
 頭を撫でようとするも、胸を張ったアオカは先に立ってすたすたと歩き始め、伸ばした媛の手はあえなく宙に取り残される。
「うん、可愛いなぁ」
 手を引っ込めた媛は置いていかれないように彼女の後を追いかけ、追いつくと媛は何度も首を縦に振った。
 見たままを素直に褒めても何故かアオカは怒ったりするが、それはそれでまた可愛くて。
「アオちゃんと一緒に初詣に行けて、うち嬉しいー」
「念のために言っておきますけど。藤堂さんが迷子になっても、アオは探しませんわよ」
「ええよ。頑張って、ついていくけん」
 にこにこと嬉しそうに隣に並んだ媛をアオカはちらと確認してから、再び視線を戻す。
 そうして二人は、初詣の賑わいへと繰り出した。

   ○

「ねぇー、もしかして一人で初詣?」
「せっかくだから、俺らと一緒に……」
「すいません。うち、友達と一緒やから〜」
「あ、うん……そうみたい、だね。じゃ」
 不意に視線を泳がせた二人連れの男はススーッと距離を取り、へらりと笑って媛はそれを見送った。
「なんか、今日は声かけて来る男の人多いけど何でやろー。初詣やからかな」
「知りませんわっ」
 不思議そうに訊ねれば、ぷぃっとアオカはソッポを向き。そこからいくらかも歩かないうちに、また別の男が近付いてきた。
「君さ、神社どこか知ってる? 実はこの辺、あんまり詳しくない……けど、いいや」
 不慣れなのか何やら道を聞いてきたようだが、媛が答える前に離れていく。
「あれ……道、大丈夫かなー?」
「藤堂さん、気付いてないんですのっ?」
「……え?」
 何やら不機嫌そうなアオカに、きょとんと聞き返す媛。すると、目に見えてアオカの表情に暗雲が垂れ込めた。
「あれはナンパですの。まったく、信じられませんわ……!」
「違うって。ウチとかナンパされる訳ないやんか〜」
 へらりと笑ってアオカの勘違いを否定してみるが、ますます青い瞳は険悪な色を帯びる。
 誰かが声をかけてくるたびに、アオカの機嫌はどんどんと悪くなっていった。
「……アオちゃん、どしたん?」
 少し心配になってきて、そっと聞いてみる。
『いつも真面目で、一生懸命で、しっかり者の頑張り屋さんのアオちゃん』には、つい媛も頼ってしまうところがある。
 だからこそ、(ひとりで頑張り過ぎていないかな〜)とか気になったり何だったり。
「さっき声をかけてきた男性、視線は明らかに藤堂さんの方を見てましたの!」
「……相手を見て話すのは大事、やからね〜」
 こくこくと媛は何度も頷き、アオカの意見に同意する。
 ……って、あれ?
「しかも、アオと目があうと逸らすなんて……、あんなの願い下げですわ!」
 ……あれれ?
「いきましょ、藤堂さん!」
「アオちゃん、もしかして……」
 ふと足を止めた媛を、アオカは怪訝な顔をして振り返った。
「なんですの?」
「お腹、空いてる……?」
「……は?」
 予想外の返答だったのか。今度はアオカの方が、目をぱちくりさせる。
「お参りしたら、帰りは屋台みながら帰ろか?」
「どこをどこからどうしたら、そんな話になりますの!?」
「ふふふ〜、遠慮せんでかまんのよー。お正月やし、ここはお姉さんが奢ってあげるけん!」
 どーんと媛が胸を張れば、今度は呆気に取られた顔をして。
「……ぷっ」
 小さく吹き出すと、口元を押さえながらアオカはくっくと笑い始めた。
「なんか、おかしいこと言うたかな〜?」
「ええ、おかしいですわ。藤堂さんがアオに奢るなんて、早いですわよ」
 何が可笑しいのか媛には解らなかったが、ひとしきり笑ったアオカは腕組みをし、数センチ下から彼女を見上げる。
「でもせっかくのお正月ですし、今日のところは特別に奢られてあげてもいいですけど」
「うん。奢らせてな〜」
 ようやく緩んだ空気が嬉しくなって、ほにゃりと媛も笑顔で答える。
「そやけど、よかった」
「何がですの?」
「やっと今日、アオちゃんが笑ってくれたやろ。どうしたんかな〜って。もしかして、部長さんやから部のことで悩んでるかもしれへんし、そしたら初詣で神さまにお願いせんとって、思ってたからー」
 するとアオカは前触れもなく手を伸ばし、両脇から「ほっぺむにゅー!」と媛の頬をひっぱった。
「あ、アオひゃん……?」
「アオのことを心配する前に、藤堂さんは藤堂さんのことを心配した方がいいと思いますわ」
「うん、うちも今年は頑張るけんー」
「勿論ですわ。部の一員である以上、藤堂さんにも頑張ってもらわないと」
 相変わらずどこかつんけんとしたアオカだが、その言葉だけでも媛は嬉しかった。
 ――いつも一生懸命で頑張っている彼女に、少し頼られたような気がして。
 ぽむ。と、頭を撫でる。
「なっ、なんですのっ!?」
「アオちゃん、可愛い〜」
「改めて言うまでもなく、当然でしょう」
 何を今更といった感じだが、手を振り払うこともせずにアオカは大人しく撫でられていた。
「そういえば……似合ってますわよ」
「え?」
「その、振袖」
 褒めた言葉に、ぽそと付け足したアオカは媛の振袖を見やる。
 淡い黄色の地は紅白の梅や牡丹といった初春らしい花で彩られ、白い帯に桐の花の意匠があしらわれていた。お正月だからと、華やかさで選んだのもあるが。
「アオちゃんとの初詣、楽しみやったしねぇ。張り切ってきたんよー」
 嬉しそうに長い袖を振る媛は急に前で両手を合わせ、ぺこりと丁寧にお辞儀をした。
「アオちゃん、今年もよろしくね〜」
「それはコッチの台詞ですの。宜しくお願いしますわ」
 どこまでもアオカの言葉は上から目線だが、当の媛は気にする風もなく。
 にこにこと満面の笑顔で、大切な友達と並んで参道を歩き出す。
「お参りしたら、おみくじも引きたいなぁ〜」
「仕方ないですわ。アオも付き合いますの」
「うん。一緒に引こなー」
 なんだか、これまでよりもアオカとの距離が少し近く……仲良くなれたような、胸の奥がほっこりとするような不思議な暖かさを覚えながら。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【gc7261/藤堂 媛/女性/外見年齢20歳/サイエンティスト】
【gc7294/日下アオカ/女性/外見年齢16歳/ハーモナー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしました。「WF!迎春ドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 初めまして。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 いただいたプレイングを読んだ瞬間、ぱっと思いついたのが何故か「あがりめ〜、さがりめ〜」をアオカさんにしている媛さんだった――というのは、ここだけのナイショです。「ぐるっと回って……なんだっけ?」とボケて、怒られるというオチで……没となりましたが。
 天然っぽいほんわりさんという感じで書かせていただきましたが、イメージにあっていれば幸いです。もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
 またお届けが遅くなり、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
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2012年02月08日

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