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『■Happy New Year to AOKA-H 』
日下アオカ(gc7294)

●Are You Happy?
 いつだって、どこでだって。今日の陽が落ちれば、明日がやってきて陽が昇り、新しい一日が始まる。
 それはここ、『ラスト・ホープ』でも変わらない事実。
 洋上を移動する人工島もごく小さな一日一日を積み重ね、無事にまた何度目かの新しい年を迎えていた。

「晴れて、良かったねぇ……」
 長い袖を押さえながら額に手をかざし、まぶしげに黒い瞳を細めた藤堂 媛が天を仰いだ。
「ねぇ、アオちゃ……アオちゃーん? どしたんー?
 同意を求めるように友人の名を呼んだ媛は、どこか晴天とは逆なオーラを漂わせている日下アオカの表情を窺うように小首を傾げる。
「なっ、なんでもありませんわっ」
 気遣う視線を振りほどくように、頭の両側で束ねた髪をアオカは勢いよく左右に揺らした。
「そう? それやったら、良いんやけど……」
 それでも傾け気味な頭はそのままで、じーっと媛はアオカを見つめてくる。
 ……むに。
 向けられる視線に、気付けばアオカは媛の片頬をひっぱっていた。
「なんですの?」
「うにゅ?」
「じーっと、アオを見たりして」
「ううん。にゃんでもにゃいんひゃよー」
 頬をひっぱられたまま怒りもせず、ふにゃりと媛はアオカに笑う。
「折角やから振袖着てきたけど……アオちゃん、よう似合うとるねぇ」
 褒められているであろうに、何となく不機嫌な気分になるのは何故だろう。
(着物なら、アオの方が上手く着こなせていますのに)
 媛の振袖は淡い黄色の地は紅白の梅や牡丹といった初春らしい花で彩られ、白い帯に桐の花の意匠があしらわれていた。
 それが優しげな媛の微笑みをまた引き立たせていて、なんだか悔しくなってくる。
「こっ、この程度、アオなら着こなせて当然ですの」
 悔しさを誤魔化すように胸を張ったアオカは、友人の先に立ってすたすたと歩き始めた。
「うん、可愛いなぁ」
 まだ褒めながら残された媛は彼女の後を付いてきて、隣へ並ぶと何度もこくこく頷く。
 ……懲りるということを知らないのか、天然さんだから気付いていないのか。
「アオちゃんと一緒に初詣に行けて、うち嬉しいー」
「念のために言っておきますけど。藤堂さんが迷子になっても、アオは探しませんわよ」
「ええよ。頑張って、ついていくけん」
 アオカが言い含めても、友人はにこにこと嬉しそうで。そんな媛の笑顔を彼女は横目で確かめてから、むすっとしたまま前を見る。
 そうして二人は、初詣の賑わいへと繰り出した。

   ○

「ねぇー、もしかして一人で初詣?」
「せっかくだから、俺らと一緒に……」
「すいません。うち、友達と一緒やから〜」
「あ、うん……そうみたい、だね。じゃ」
 二人連れの男が媛に声をかけながら、アオカと目が合えば何故か途端に視線をそらし、そのまま茶を濁して遠ざかっていく。
「なんか、今日は声かけて来る男の人多いけど何でやろー。初詣やからかな」
「知りませんわっ」
 笑顔で見送った媛が不思議そうに聞いてきたが、そんなことはアオカの知ったことではなかった。
 ……というか。
(どうして藤堂さんには声をかけておいて、アオカとは誰も目も合わせませんの!?)
 全くもって、それが理解できない。
 彼女のお眼鏡にかないそうな相手をそれとなく目で探し、不埒そうな輩は視線で追い払い。いくらかマトモそうな様子なら、どんな言葉をかけてくるのか挑むように窺う。
「君さ、神社どこか知ってる? 実はこの辺、あんまり詳しくない……けど、いいや」
 道を訊ねる『手口』を使う別の男は、またしても媛へ近付き。どうして自分ではないのかと咎めるような鋭い視線に気付くと、尻尾を巻いて逃げていった。
「あれ……道、大丈夫かなー?」
 心配して男を見送る媛の天然っぷりも、何だか癪に思えてくる。
「藤堂さん、気付いてないんですのっ?」
「……え?」
 自然と言葉にトゲが混ざったが、それすら気付かず媛はきょとんとした。
「あれはナンパですの。まったく、信じられませんわ……!」
「違うって。ウチとかナンパされる訳ないやんか〜」
 ヘラヘラと笑って否定する、それがまた何故か腹立たしい。
「……アオちゃん、どしたん?」
 この上なく不機嫌さ全開なアオカの様子をさすがに変だと思ったのか、そっと媛が訊ねた。
「さっき声をかけてきた男性、視線は明らかに藤堂さんの方を見てましたの!」
 ……着物もちゃんと着付けられた筈だし、上手く着こなせている筈なのに!
「相手を見て話すのは大事、やからね〜」
「しかも、アオと目があうと逸らすなんて……、あんなの願い下げですわ!」
 ……アオのほうが、絶対に勝っているというのに!
「いきましょ、藤堂さん!」
 腹立たしい思いを抱え、ずんずんと歩くアオカの背中を媛の声が引き止めた。
「アオちゃん、もしかして……」
 かけられた言葉に振り返れば、何かに気付いたような表情の媛。
 つきんと、突然に原因不明な胸の痛みをアオカは覚える……いや、原因は、きっと――。
「なんですの?」
「お腹、空いてる……?」
「……は?」
 返事は予想だにしなかったもので、毒気を抜かれたようにアオカはきょとんとした。
「お参りしたら、帰りは屋台みながら帰ろか?」
「どこをどこからどうしたら、そんな話になりますの!?」
「ふふふ〜、遠慮せんでかまんのよー。お正月やし、ここはお姉さんが奢ってあげるけん!」
 向けられる笑顔はいつもと変わらず、えへんと得意げに媛が胸を張った。
 ついさっきまでアオカが何を考え、何に憤慨していたかも知らないで。
「……ぷっ」
 思わず、小さく吹き出す。
 気持ちが一度ゆるめば……そして媛の陽だまりのような笑顔を見ていると、さっきまで自分の悩んでいたことが急に馬鹿馬鹿しくて可笑しく思え、すぐに笑いが止まらない。
「なんか、おかしいこと言うたかな〜?」
「ええ、おかしいですわ。藤堂さんがアオに奢るなんて、早いですわよ」
 不思議と肩の力が抜けた気がしたアオカは、腕組みをして媛を見やった。
「でもせっかくのお正月ですし、今日のところは特別に奢られてあげてもいいですけど」
「うん。奢らせてな〜」
 どんな言葉でも、友達はほにゃりとアオカに笑顔を返してくれる。
「そやけど、よかった」
「何がですの?」
 どこかほっとした媛の様子に、アオカが先を促してみた。
「やっと今日、アオちゃんが笑ってくれたやろ。どうしたんかな〜って。もしかして、部長さんやから部のことで悩んでるかもしれへんし、そしたら初詣で神さまにお願いせんとって、思ってたからー」
 ……本当に、この人は。
 何も言わずにアオカは両手を伸ばし、「ほっぺむにゅー!」と両脇から柔らかな頬をひっぱった。
「あ、アオひゃん……?」
「アオのことを心配する前に、藤堂さんは藤堂さんのことを心配した方がいいと思いますわ」
「うん、うちも今年は頑張るけんー」
「勿論ですわ。部の一員である以上、藤堂さんにも頑張ってもらわないと」
 他愛もない話に、気付けば眉間のあたりにあった強張りが取れた気がする。
 そんなに自分は眉根を寄せていたのだろうかと、訝しんでいると。
 ぽむ。と、不意に頭を撫でられた。
「なっ、なんですのっ!?」
「アオちゃん、可愛い〜」
「改めて言うまでもなく、当然でしょう」
 口では突っぱねてはみるものの、その心地よさに大人しく撫でられておく。それから、撫でるために押さえた着物の袖が目に入り。
「そういえば……似合ってますわよ」
「え?」
「その、振袖」
 本当に似合っていると、思った。
「アオちゃんとの初詣、楽しみやったしねぇ。張り切ってきたんよー」
 嬉しそうに長い袖を振る媛は急に前で両手を合わせ、ぺこりと丁寧にお辞儀をした。
「アオちゃん、今年もよろしくね〜」
「それはコッチの台詞ですの。宜しくお願いしますわ」
 内心を気付かれる事はないと思いつつも、いつもの調子を崩さずアオカは答え、満面の笑顔をたたえた友人と並んで参道を歩き出す。
「お参りしたら、おみくじも引きたいなぁ〜」
「仕方ないですわ。アオも付き合いますの」
「うん。一緒に引こなー」
(おみくじの吉凶では負けませんわよ)などと、心の内でアオカは思いつつ。
 ふと顔をあげれば、新年の空は晴れ晴れと澄み渡っていた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【gc7261/藤堂 媛/女性/外見年齢20歳/サイエンティスト】
【gc7294/日下アオカ/女性/外見年齢16歳/ハーモナー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしました。「WF!迎春ドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 アオカとしては、「初めまして」。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 多感なツンっ娘さんを書かせていただいて、楽しかったです。ほのぼのしいお二人に、口調などなど色々はみ出すぎない程度にいぢってしまいました。イメージに合っていれば嬉しいのですが……もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
 またお届けが遅くなり、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
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2012年02月08日

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