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『口がないのは 』
夜神・潤7038)&(登場しない)

 夜神潤は備え付けのポットでコーヒーを淹れつつ、考え事をしていた。
 最近はずっと学業に専念していたが、本来がアイドルとしてテレビや舞台で活躍している。もっとも、聖学園の生徒は学園の性質上芸能界には結構疎いので、あまりアイドル扱いされたりはしないが、そっちの方が楽なので別に構わないと思っている。
「ジゼル」の上演禁止か……。
 あの少女は自分の事をウィリーと称していたが、あの格好は「ジゼル」のウィリーと関係があるのだろうか。
「ジゼル」の登場人物であるウィリーは、バレエの上では真っ白な衣装、バラの髪飾り、そして腰に羽をあしらった衣装で表現する。前に会った明らかに人間ではない少女も、その格好でたむろしていた。
 と、控え室のドアが叩かれたので、潤は短く「どうぞ」と言うと、「失礼します」と言う声と共にドアが開かれた。

「こんにちはー、夜神さん」
「久しぶりです。この間の舞台以来でしたか?」
「そうですね。あの舞台本当によかったですよ」
「ありがとうございます」

 潤が呼んだのは、以前舞台に出演した時に自分にインタビューに来た記者だった。舞台雑誌を中心に取材している記者であり、ミュージカルから歌舞伎、オペラからバレエまでと、舞台と呼ばれるものに対してはかなり造詣が深い人物である。
 挨拶を済ませると、潤は「ところで」と本題を切り出した。

「聖学園の事はご存知ですか?」
「はい、知ってますよ。夜神さんも確かそこに在学していますよね」
「ええ。そこでちょっと変な話を耳にしたので、それが何でだろうと思いまして」
「はあ……どれの事でしょうか?」
「? どれの事?」

 何で複数あるような言い方をするのか。いや、そもそも理事長が魔女とか、ウィリーがいるとか言えば確かに変な学園ではあるが。
 潤は少しだけ考えつつ、訊きたかった事を選ぶ。

「……とりあえず、聖学園では「ジゼル」が上演禁止のはずなんですが。確かにあれは技術的には難しい演目ではありますが、それが何故上演禁止なのかの背景までは知りませんので、何でだろうと思います」
「ああ……あれですか。あれは残念でしたね」

 記者は少しだけ目尻を下げる。
 残念……?

「まあ聖学園の方も取材は全て拒否していますし、関係者の方への個人取材も全て却下していたはずですけれど。これは状況証拠だけの話になりますがいいですか?」
「状況証拠だけの話ですか……憶測とかが入っていないのなら」
「ありがとうございます」

 記者はそう言いながら手持ちのノートパソコンを開くと、カタカタ動かして何かのファイルを開き、それをモニターに映して潤に見せた。
 潤がそのモニターを眺めると、昔の新聞記事をスキャンしたものがそこには映っていた。日付は4年前のものになる。

『最高の踊り手死去』

 そう小さい見出しと共に、小さい記事が書かれていた。

『星野のばらさん(13)が6月20日に死去した事が発表された。詳しい死因は非公開との事――(中略)――星野さんは国際バレエコンクールに出場、最年少で優勝し――』

 星野のばら……。それが彼女の名前か。
 しかし、年齢制限があるから、バレエの国際コンクールもジュニア部門でなければ参加できないが、まだジュニア部門優勝なのにもう新聞記事か……。

「でもこれのどこで情報規制が?」
「ええ、彼女の死因は情報規制のせいで伏せられています。ただ病院などで張っていた記者達の話によると、あれから1年程、聖学園の生徒達の受診が増えたとは聞きました」
「受診……? それは4年前に学園で事故でもあったんですか?」

 思い返してみても、もしそんな大規模な事故があったのなら、今でも痕跡が残っていてもおかしくはないが、学園内を散策していてもそんなものはない。

「いえ、怪我はしていません。受診が増えたのは心療内科です」
「心療内科……?」
「学園内で何かあったらしいのですが、やはりそこは伏せられています。それが原因なのかは分かりませんが、これ以降「ジゼル」は上演禁止になっていますね。「ジゼル」は星野さんの当たり役だったんですよ。人とウィリーのギャップが技術、表現、演技。どれをとっても素晴らしいと」
「生徒達のトラウマを刺激すると?」
「ええ。学園からは公式な発表はありませんがね。あと2つだけその後起こりましたが」

 そう言うと、記者はパソコンをマウスで操って、別の記事を取り出して見せた。

祝・国際バレエコンクール出場』

 これは時折学園で配られているのを見た事がある。学園新聞だ。
 確かに聖祭の部活展示の中で、バックナンバーの1分は公開されたりするが、この記事は読んだ事がないな。
 日付は4年前の春。
 のばらの亡くなった年のものだ。

「ん……?」

 目を、疑った。

『中等部1年バレエ科:海棠秋也さん(13)、星野のばらさん(13)、おめでとうございます』

「海棠君は将来有望とされたバレエダンサーでしたが、あの時からバレエを辞めてピアノに転向しています。そのせいでバレエ科からも音楽科からも風当たりが強かったと、風の噂で聞いています」
「なるほど……」

 以前話したやけに頑なな彼は、どうもこの頃の事が背景にあるらしい。

「後、彼には兄弟がいたのですが、彼はその後聖学園から転校していますね。彼は今は別の学校でバレエを続けているはずですが」
「えっ、兄弟……? それは初めて聞きましたが」
「はい。これだけ色んな状況証拠があれば、何かあったんだろうとは想像できますが、どれも取材許可は下りていません。当時の生徒達も口を閉ざして語ってはいませんので」
「…………」

 あの夜のばらと踊っていたのは、その海棠の兄弟だったんだろうか。
 潤は最後に1つだけ質問をした。

「その海棠君の兄弟の名前は?」
「ええ。海棠織也君ですよ」

 そう言ってパソコンの画像ファイルを取り出してくれた。
 モニターに映ったのは、秋也とそっくりな青年だった。バレエコンクールに参加しての写真らしく、バレエ衣装を着ていた。秋也は全くの無表情で無愛想な顔だったのに対し、彼はよく笑っている。

「双子なんですがね。彼自身も才能溢れる青年ですが、見た人達はどうしても秋也君の演技を忘れられないんですよ。2人が兄弟じゃなければ、同年齢じゃなければと、つくづく悔やまれます」
「…………」

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 潤は記者にお礼を言うと、そのまま1人でコーヒーを淹れ直し、それを飲んだ。
 相当情報規制がかけられていたか……。でも学園内の事は学園内でしか分からないし、海棠兄弟の事は外で情報を集めないと難しいな。
 それにしても。

「一体どうしてここまでややこしい事になったんだ……?」

 あの理事長の秘密主義につくづく嫌気が差すと潤は思うが、調べてしまったのもまた自分だ。
 潤は眉を潜めたまま、コーヒーにまた口を付けた。
 酷く苦い味がした。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年02月13日

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