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『WhiteFairy【Utopia】 』
フェイト・グラスベル(gb5417)


 ぬくぬくと炬燵に包まれて眠る恋人に、フェイト・グラスベルは頬を緩めた。
 準備しておいた重箱や、雑煮の鍋を炬燵の天板に並べていく。視界の端の寝顔はとても愛しくて、その頬に思わず唇を寄せたくなるが少しだけ我慢。
 小皿やお椀なども並べ終えると、フェイトは恋人の肩を軽く揺すった。
「ほらほら、寝てないで起きてくださいな!」
 その声に、セシル シルメリアはとろとろと瞼を開けていく。少しばかりぼんやりとしながら、じっとフェイトの顔を見つめてくる。
「明けましておめでとーなのです、今年もよろしくなのですよ♪」
 小さく首を傾げて笑むフェイト。さらりと髪が流れ、セシルの頬をくすぐる。
「……んぅ……くすぐったい……」
 しかしセシルはその髪を払いのけようとはしなかった。心地よいのだろうか。もぞもぞと手を動かしているところを見ると、フェイトを抱き締めたいと思っているのかもしれない。
 フェイトがそう予想していると、思った通り――。
「あけおめーです、ことよろーですー」
 セシルの腕が、フェイトを強く抱き寄せた。
 恋人の腕の中にすっぽり入ってしまうフェイト。その感触をもふもふと堪能してくるセシル。フェイトはちょっとだけ身体をくねらせ、耳元で囁いてみる。
「……あん、駄目なのですよ。起きてくださいな、起きてくださいなっ」
 囁きながら、鼻先に軽く唇を寄せる。
 セシルは腕を緩めてフェイトを解放すると、少し名残惜しそうに上体を起こした。もそりと腕を伸ばし、毛布を肩から被る。これで炬燵から出ている部分の防寒もばっちり、完璧な装備をしてみせた。
 そして、天板の上に並べられたあれこれを眺め始めるセシル。
「お正月といえばお節にお雑煮なのです! あ、日本的な流れって、大丈夫ですかねー?」
 フェイトはそう言って、かくりと首傾げた。セシルはお節やお雑煮、そしてフェイトの顔を順に見てにこりと笑った。
「お雑煮お節、全然おっけーですー♪ 既に日本文化を吸収済みなのです」
 これは黒豆、これはたつくり、これは栗きんとんでこちらは紅白なます――セシルは次々に指さし、名前を言っていく。その様子にフェイトはホッとしながら炬燵に潜り込んだ。
「よかった、じゃあ食べるのですよ♪」
 そしてにこり笑い、フェイトはお雑煮をお椀によそった。

 お節もお雑煮も美味しくて、お腹も心もほっこりと満たされた。
 テレビは年始恒例とも言える番組ばかりだが、ぼんやりと見ているには最適だ。
 セシルが天板に頬をくっつけ、テレビを見つつまどろんでいる。フェイトはその袖をくいくいと袖を引っ張った。
「ねーねー初詣行きましょうよー」
「……初詣?」
「ほらー、晴れ着も用意したんですよっ」
「晴れ着……」
「テレビ見ながら炬燵でのんびりもいいですけどー、やっぱりお出かけもしたいじゃないですか!」
 両腕に抱えた晴れ着をひらひら見せながら、フェイトはくいくいと袖を引っ張り続ける。
 恋人は少し何かを考え込んでいた。微かに頬が緩んだりするのは、もしかしたらフェイトの晴れ着姿を想像しているのかもしれない。
 しかしすぐに表情を変え、がばりと顔を上げた。
「だが断る!」
 突然のことにフェイトは驚き、目を丸くして固まってしまう。
「この寒空、今日は布団でくるまれたこの理想郷を堪能すると決めたのです♪ ですから、フェイトも一緒に」
 力説するセシル、炬燵を理想郷とするその説にフェイトは反論できない。
 そして――。
 ぐいっ、ずるずるずるー!
 フェイトの腕を引っ掴んで、炬燵の中に引きずり込んでしまった。
「理想郷へご案内ですー」
「……って、ちょ、何引っ張りこもうと……っ!」
 ハッと我に返り、フェイトは炬燵から逃れようとする。両腕をばたばたと動かしつつ、しかしそこにあまり力を入れない。拒絶するつもりはこれっぽっちもないのだ。
 結局のところ、恋人からされることは基本的に何でも受け入れる。全力で甘えてしまう。
 そしてあっという間にセシルの膝の上に乗せられ、後ろからがっつりと腰を抱かれて身動きが採れなくなってしまった。
「……で、結局引っ張り込まれたとか」
 遠い目で呟くフェイト。ふぅ、と身を委ねる。
「いらっしゃいませー、ですー」
 セシルはにっこりと笑って囁いた。
「もー、分かりましたよ、今日はのんびりしましょか。……そうと決めたからには、イチャイチャするのです!」
 フェイトはこくりと頷き、くるりと身体を反転させた。密着する胸と胸、今にも触れ合いそうな互いの鼻。
「寒くないです……?」
 向かい合うことで炬燵布団から出てしまったフェイトの背を、セシルは丁寧に両手で撫でていく。
 その手に背を押しつけるように身体をくねらせ、フェイトは笑った。
「……全然。だって、セシリーが暖かいから……大丈夫なのですよ♪」
 鼻先を擦り合わせ、吐息を絡める。
「こうすればもっと暖かいのですー」
 セシルはフェイトを抱いたまま、ころりと寝転がる。
 そのまま右に、左に。ころんころんとフェイトを上に乗せ、セシルは狭い炬燵のなかを転がってみる。時折、炬燵の脚に身体をぶつけたり飛び出したりしながらも、そのたびにふたりで笑い「痛いですねー」と互いの身体をさすり合った。
 そのうちに転がることをやめ、もう一度炬燵に潜り込む。それまで上に乗っていたはずのフェイトはいつしかセシルの横に。そして炬燵布団を肩までかぶって、もう一度抱き締め合った。
 テレビから楽しげな笑い声が聞こえてきたので、二人とも首だけ動かして少しそれを見つつも、布団の中の身体はぴったりと密着していた。
 もぞもぞと、セシルの腰骨あたりを撫でるのはフェイトの小さな手。その動きに合わせるように、セシルはフェイトの髪にうなじから両指を絡めていく。
 手の平で後頭部を微かに撫でながら、絡めた指はそのままフェイトの耳に触れ、その形のいい輪郭を丁寧になぞり始める。
「……ん……」
 フェイトは、微かに吐息を漏らした。ふたりともテレビに集中できない。音声は雑音となり、そのうちに聞こえなくなるくらいふたりの世界に没頭していく。
 こつん、と額を軽く当てる。そのままふたりとも瞼を閉じ、指先で互いの存在を確認し始める。
 セシルの指は耳の輪郭から顎のラインを確かめて、そのまま首筋、頸動脈の上を滑り、服の上から恋人の鎖骨に触れていく。
 フェイトはそのたびに吐息を漏らし、身体をひくつかせる。触れられたところが熱い。感覚が鋭敏になっていく。鎖骨に触れている指が再び首筋をなぞって上に。そして唇を撫でていく。と、フェイトはその手をしっかりと握った。
「……フェイト?」
 瞼を開けるセシル。フェイトも瞼を開け、見つめ返す。
 そしてセシルの指を、唇で包んだ。かり、と甘噛み。セシルがとろけそうな顔をする。
 フェイトはにっこりと笑って唇を離すと、セシルから離れて上体を起こした。
「どうしたのですー?」
 セシルも身を起こす。
「暑くなったので」
 そう言って、フェイトは羽織っていたカーディガンを脱いだ。
「これで少し涼しくなったのです。セシリーも脱ぎましょ?」
 にこりと笑み、セシルのそれを脱がしながら、「これ以上は寒いかな」と呟く。
 そしてじっとフェイトを見つめた。
「……キス、してくださいな。キス♪」
 いつもの調子でおねだり。全身が、頬が、熱い。
 セシルが両手でそっと頬を挟む。そして、くい、とフェイトの顔を上向かせ、半ば覆い被さるようにして唇を重ね合わせた。
 そのまま――フェイトの背を、床につける。勢いがあったものの、痛くないように腕を咄嗟に回して護ってくれた。
 唇は離れない。どちらからともなく、軽く下唇を甘噛みし合い、舌先を這わせていく。
 唇と全身で互いの存在を感じ、キスだけで身体の芯まで溶けてしまいそうになる。
 セシルの手は徐々に下に降りていき、肩や二の腕を撫でつけてくる。柔らかな感触を求めるかのように、さらに身体の上を這う。
 重ね合った唇から、熱い吐息。フェイトは恋人の手と同じように手を動かし、あちこちを撫でる。柔らかくて、ホッとする。服ごしでも相手の全てがわかる気がして、もっと感触を知りたくなってしまう。そうしている間にも互いの指先が服の隙間から滑り込み、そっと素肌に触れればそこから「愛してる」と聞こえてくる気がする。
「……しあわせ」
 一瞬だけ唇を離し、どちらからともなく言う。おもむろにまた重ね――唇の柔らかさ、甘さを必死に貪る。
 そして――とろけるような熱さに、そして理想郷へと身を委ねていった。

 どこかから電子音が聞こえる。
 これは何だっただろう――そう、ファンヒーターが三時間を告げる音楽。
 テレビの音も聞こえる。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。確かひたすら互いに触れ合っていたことは覚えている。キスも沢山して、とろけて――。
 隣には、セシルの気配。でもまだフェイトの瞼は開かない。ふいにセシルの腕枕が消えた。炬燵から出てファンヒーターの「三時間延長」ボタンを押しに行ったようだ。
 そしてようやく、フェイトも薄目を開ける。
 のそのそと起き上がり、ぼんやりと宙を見つめた。先ほどの甘い余韻に浸りながら、夢見心地のままだ。
 どこか遠い場所から恋人の声が聞こえる。――実際はすぐ近くにいるけれども。
「確か日本のお正月って、お年玉があるんですよね? お年玉、欲しいのですー」
「ふぁ……? お年玉、ですか? ……いいですよ、大好きなセシリーのお願いですもの」
 フェイトは未だぼーっとしたまま、恋人のおねだりに頷く。
 ――そして、おもむろに覚醒した。
 小さなフェイトは、覚醒によって外見も身長も成長する。あっというまにセシルよりも「大人」になってしまった。
「……お年玉くれるんじゃないんですか?」
 首を傾げるセシル。そこに顔を近づけ――今度はフェイトがセシルを雪崩れ込むように押し倒した。
「……お年玉なのです」
 まだどこか寝ぼけたまま、覆い被さってセシルの唇を奪う。
 セシルは一瞬驚いたものの、すぐに両腕を恋人の背にまわして受け入れる。
「違うお年玉が……よかったです?」
「……これがいいのですー」
 囁くフェイトに、セシルは笑みを返す。
 フェイトがリモコンに手を伸ばし、テレビを消した。しん、と静まりかえった部屋に、ファンヒーターの音と互いの少し荒い呼吸音だけが響く。
 セシルの腰を抱いている手に力を込めるフェイト。それに応じるように上半身を少し浮かせて押しつけ、足を絡ませてくるセシル。
「今度は……眠らないのです」
 セシルが言うと、フェイトは嬉しくて頬をすり寄せた。
 眠らない、眠らずにこのままずっとすりすりして、ほわほわして、甘えて、甘えて――ずっと甘えて。
 ――どうして自分のほうがセシルより大きいのだろう。
 ふとそんなことを思うけれど、まあいいかとそのまま恋人の柔らかい感触に甘えていく。
 そう、フェイトはまだ寝ぼけたままなのだ。寝ぼけたまま覚醒したため、覚醒したという自覚もあまりない。
 それに気づいたのか、セシルはフェイトをぎゅっと抱き締める。
 ここにも理想郷があった――そんな、笑みを浮かべて。

 初夢に乗せるのは、新たな希望と、仄かな感情と。
 今年はどんな夢を見るのだろう。
 けれど、ふたりの夢は暖かくて優しくて、甘い甘い理想郷。
 眠ることなく、この理想郷で夢を見続ける。朝が来ても、ずっと――。



   了



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb5417 / フェイト・グラスベル / 女性 / 10歳 / ハイドラグーン】
【gb4275 / セシル シルメリア / 女性 / 17歳 / サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■フェイト・グラスベル様
お世話になっております、佐伯ますみです。
「WF!迎春ドリームノベル」、お届けいたします。
甘々……ということで、色々と「寸止め」しております。多分、これなら蔵倫様も通してくれるはずと信じながら書いておりました……!
気がついたら最初からいちゃつくお二人を書いていました。寝ても覚めてもいちゃついています。
もし何かありましたら、遠慮なくリテイクかけて下さると幸いです。
またお二人をこうして書く機会をいただけて、感無量です。ありがとうございました。
今回も、フェイト様のノベルはフェイト様視点となっております。セシル様のノベルと比べてみてくださいね。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました。少しでもお気に召すものとなっていましたなら幸いです。
まだまだ寒さ厳しい日々が続くと思いますので、お体くれぐれもご自愛くださいね。
2012年 2月某日 佐伯ますみ
WF!迎春ドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年02月16日

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