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『禁忌と果実は甘く 』
夜神・潤7038)&(登場しない)

 聖学園内だと、情報規制が敷かれていて、海棠兄弟の事は何1つ調べられない。
 星野のばらの死んだ4年前の学園新聞はもちろんの事、4年前の雑誌のバックナンバーは根こそぎ抜かれ、バレエ誌も最近の分でも何故か抜かれてしまっているものさえ存在すると言う徹底ぶりだった。

「……親戚だからか」

 夜神潤は「やっぱり」とは思いつつも、少し溜息をついて学園内の図書館から出た。
 2人は確か理事長の甥に当たる。
 おまけにのばらが自殺騒ぎを起こしたのだから、それに対するトラウマは相当根深い。それ故に情報規制を敷く以外手段はないのだろう。
 潤は学園の外に出ると、携帯をかけた。
 いつかに情報提供してもらった記者にだ。

「もしもし、先日はありがとうございました。今、よろしければお茶にしませんか? ……はい。はい。ありがとうございます。それでは、そこで待っています」

 携帯を切ると、そのままジャケットのポケットに突っ込む。
 そのまま、足早に目的地へと歩いて行った。

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 プティフールでコーヒーを頼んでいたら、記者がやってきた。

「こんにちは、夜神さん」
「今回は急な呼び出しでしたのに、来て下さってありがとうございます」
「いえ。この辺りに用がありましたから」

 潤が黙って椅子を引くと、記者は頭を下げながらそこに座る。
 通りかかったウェイトレスにコーヒーを追加で頼むと、すぐに本題へと移った。

「それで、今回お聞きしたい事は?」
「はい。……以前伺った海棠君の話を聞きたいんですが」
「はあ……どちらの、ですか?」
「できれば、織也君の方を」
「ああ。分かりました」

 記者は頷くと、テーブルにノートパソコンを置いて、何やらフォルダーを漁り始めた。
 やがて、記事を出してくる。

「最近でしたら、日本の大会で優勝していますね」
「そうですか……」
「ただ、彼も謎が多いんですよね……」
「何でしょう?」
「はい。本来だったら、彼程の技術があったら、海外の大会でも通用するはずなんです。それこそ海外のバレエ学校に入学する事も」
「ん……?」

 潤は眉を動かす。
 そう言えば、前に秋也に成り代わる形で舞踏会に参加していたり、夜中にのばらと踊っていたりした。
 彼はのばらのために日本を離れる気はないんだろうか?

「……そう言えば、織也君は聖学園に在籍していたはずですけど、転校したと聞きましたが、この辺りの詳しい事はやはり分からないままなんでしょうか?」
「ああ、彼の転校ですか……。やっぱり難しいですね。聖学園の生徒達も4年前の1件については黙秘を続けていますから。強いて言うなら……」
「言うなら?」
「……どうも、織也君は、理事長を怒らせて学園を追い出されたと言う話が出ています」
「……?」

 潤は意外な言葉に、眉だけでなく、首までも動かした。
 理事長の行動は読めない。
 のばらを学園の外に出さないように結界を張ったかと思えば、甥や生徒達のために4年前の事件を全て隠蔽したり。
 なのに本来は守る対象のはずの甥を学園から追放していると言うのは、あまりに矛盾していないか……?

「すみません、あなたの意見でいいんですが」
「はい?」
「うちの理事長が怒った理由について、何か想像はできますか?」
「そうですねえ……」

 ウェイトレスがようやく持ってきたコーヒーで、記者は自分の手を温めると、うんうん唸りながら言葉を探る。

「……正直、織也君は残念な子だと思いますよ」
「? 残念と言うのは?」
「ええ……彼は秋也君と双子で生まれなければ、1人として生まれていれば、今の評価よりもずっといいものだったと思うんですよ。
 バレエ界の人々は皆、秋也君の舞台を観ていますからね。どうしても、織也君の舞台を観ながら、「もし秋也君がバレエを続けていたら」と思ってしまうんですよ。……彼には大変申し訳ないんですが」
「…………」
「それに、2人は星野さんの事について揉めていたらしいですからね」
「えっ、そうなんですか?」

 それは初めて聞いた。
 そう言えばのばらも、「秋也は好き」と言っていたような気がする。織也については徹底して口にするのすら拒んでいたが。

「……でも、それらと理事長の怒りと、どう関係が?」
「織也君は星野さんと何かあったんじゃないでしょうか? それが原因で、星野さんが死んだとか……。もっとも、本当の所は分かりませんが」
「…………」

 人間関係で、揉めたから?
 でも本当にそれだけで、理事長は学園から追放するだろうか?
 ……ん? そこで1つ潤は気が付いた。
 もし殺しただけなら、のばらは織也の事を許す気はないのに、「彼しかいない」とか言い出すんだろうか?

「…………あ」

 潤はようやく気が付いた。
 理事長が織也を追放した理由と、学園内にずっと結界を張ってのばらを外に出さないようにしていた理由を。

「ありがとうございます。会計、持ちます」
「あの、本当に前にも増して大した話はしていないんですが、本当によろしいんですか?」
「いえ充分です。助かりました」

 潤はそのまま領収書を取ると、急いで会計を済ませに行った。
 前後に何があったのかは分からないが、のばらを死なせたのは、恐らく織也だ。でもそれだけなら人間関係のこじれで理事長は介入しないだろう。
 その後が問題だ。

「……まさか、死んだ人間を生き返らせようとか、しているんじゃあ……」

 死んだ人間を生き返らせるのには、リスクが高過ぎる。
 それこそたった1人の人間でも、1000人以上の人間の魂が必要だ。恐らくまだのばら自身には自覚はないのだろうが、もし人の魂の味を知ってしまったらどうなる?

「……魂狩りが起こってしまう」

 禁術に手を出して追放された。
 でも何らかの手段で、禁術を行使してしまった。
 織也に今すぐ辞めさせないと、大変な事になる――。
 潤は足早に学園へと戻って行った。
 どうすれば織也を探し出すかは、考えないといけないが――。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年02月24日

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