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『本当に強いのは 』
皇・茉夕良4788)&海棠秋也(NPC5243)

 既に空の色は黄味がかってきている。夕方なのだから仕方がないとは言えども。
 皇茉夕良はぼんやりと体育館の階段の窓から空を見上げながら、そう思う。

「確か、ここで練習しているって聞いたけど……」

 そう独り言を言いながら体育館のダンスフロアに降りた時、音楽もなく、ただ大きな足音だけがリズムを刻んでいるのが耳に入った。
 音を立てないよう、そっと戸を開く。
 タンッと言うよりも、ダンッッと言う大きな音と共に、高く跳んだ。その跳躍は、優雅と言うよりも激しく、美しいと言うよりも雄々しいものだった。

「海賊……」

 その雄々しい踊りは、まさしく海賊のものだった。
 激しい踊りは、とてもじゃないが4年ものブランクを感じさせなかった。全く彼の事を知らなければ、彼が4年間バレエから離れていた事さえ気付かないだろう。いや実際の所、海棠秋也はずっと練習だけはしていたのだろう。これだけ激しい踊りだ。身体を常に温め、柔軟を施さなければ、筋肉離れだけでは済まないだろう。
 最後にダンッと大きく床を叩いて、踊りは終了した。
 茉夕良は自然と手を叩いていた。

「あ……皇」
「こんにちは。戻ってからいかがですか?」
「……こっちの方が、水に合っている」
「そうですか」

 あれだけ激しく踊ったせいか、秋也は少しだけ息が切れていた。そのまま床に置いてあるペットボトルとタオルを取って、身体を拭き、水を飲むのを茉夕良は見ていた。

「織也さんはその後どうですか?」
「やっぱりこっちに戻る気はないらしい」
「そうですか。またお話したいとだけお伝え下さい」
「多分織也も言えば喜ぶと思う」
「そうだと嬉しいんですけど」

 双子の溝はまだ深いらしいが、少なくとも連絡のやり取りができる位には関係が回復したらしい。
 茉夕良は自分が大した事してはいないとは思うけど、少しずつでいいから2人が話し合えたらいいなと、少しだけ思った。

「それで、何の用?」
「あっ、そうだ。秋也さんに訊きたい事があるんです」
「何?」
「えっと……楠木えりかさんってご存じですか?」
「…………。ああ」

 今の間は何だったんだろう。
 茉夕良は少し秋也を見やると、秋也は一言だけボソリと答えた。

「叔母上の友達らしい。よく理事長館で会う」
「そうだったんですか……私が伺う時は会った事ありませんでしたが」
「あいつ、急に来たり来なくなったりするから」
「……もしかして、親しいんですか?」

 てっきり秋也の性格上、会っても無視しているのかと思っていたが、普通に「あいつ」呼ばわりしているとしたら、仲がいいのだろうか?
 秋也はいつもの抑揚のない調子で返した。

「さあ」
「……どう言う子なんですか? その子は」
「皇に似ている。性格は似てないけど、性質が」
「……私にですか?」

 意外な返答に茉夕良は思わず首を傾げるが、秋也はペットボトルの水に口をつけつつ、頷くのだ。
 性格ではなく、性質……。

「よく知らない事に首を突っ込んで、知らないなりに解決しようとしている所は、よく似ていると思う」
「そうなんですか……」

 茉夕良自身に、そんな自覚はない。
 そもそも秋也に出会ったのも、出会った織也と秋也を間違えたのが原因だったし、これまでの不可思議な出来事も、成り行きで混ざっただけな気がするのだ。
 ……ん?
 そこで茉夕良は1つ思い出した。

「あのう……、そう言えば自警団が怪盗を捕まえようとした時、秋也さんはオディールを助けていませんでしたっけ? あれは、知り合いだったんですか?」
「…………。成り行き?」
「成り行きって……」
「叔母上が桜華をどうにかしたいから時間稼ぎして欲しいって言っていたから、とりあえずロットバルトのふりをすれば、時間は稼げると思った。自警団も何も盗んでいないものまでは捕まえないだろうし。オディールに会ったのは、たまたま」
「…………」

 これは嘘だ。
 しかも、明らかにオディールを庇っている。
 秋也は普段から無口で、必要最低限の事しか言わないはずの彼が、ここまで事情を説明しようとするのは、半分は本当の事だろうけれど、残り半分の嘘を誤魔化すために過ぎない。

「ありがとうございます。あっ、あと1つだけ質問よろしいですか?」
「何?」
「もしかして……守宮先輩と一緒に、もしくは別で楠木さんにバレエを教えた事ってありますか?」
「……時々、理事長館で練習していて、あんまり下手だから、口出した事はある」
「そうですか。ありがとうございます。あっ、「海賊」、もし舞台で踊る場合は、必ず見に行きますね」
「……ありがとう」

 それだけを伝えて、茉夕良はダンスフロアを後にした。

/*/

 少なくとも。
 秋也さんが楠木さんと知り合いなのは、多分本当。
 本人は自覚ないみたいだけれど、そこそこ仲がいいんだと思う。だから彼女の事を庇って嘘までついたんでしょうね。

「会った事ないけど、どう言う子なのかしら……」

 少なくとも。
 本当に普通の子で、それ故に妬まれず、敵を作らない。
 でも怪盗になってまで、悲しいって思うものと向き合っている子。それこそ、いつかの副会長に嫉妬の目で見られて襲われても、助けようとする。
 これは、確定……かしら?
 一目だけちらりと見た彼女は、一体どう言う子なんだろうと、ほんの少しだけ興味が沸いた。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年03月01日

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