『昔むかしのお話 』

夜神・潤（7038）＆茜三波（NPC5231）

「彼女を副生徒会長に任命します」

　自分が何故選ばれたのかは、分からなかった。
　正直、彼は怖い人だと思っていたけれど、なんて事はない。ただ彼はあまりにも真面目なだけで、生徒に示しをつけるために誰に対しても厳しく接しているだけ。
　だから、私はそんな彼の事が――。

／＊／

　夜神潤がカフェで新聞を読んでいる。
　学園内だと情報規制が敷かれている可能性があるために、カフェで何の細工もされていない新聞を読む必要があったのだ。その日の朝の新聞に、気になる記事が載っていた。

『○月○日
　本日２１時３２分、怪盗ロットバルトを名乗る男の手により、イースターエッグが盗難にあった』

　これはどういう事なんだろう。
　潤はコーヒーを飲みながら、何度も記事を読み返して考える。
　てっきり怪盗ロットバルトは、怪盗オディールみたいに学園内限定で盗みを繰り返し、学園内にあるものを使ってのばらを生き返らせる術を探しているのかと思っていたが、どうも違うらしい。
　いや……。
　コーヒーを飲み終えながら、潤は尚も考える。
　確か今まで盗まれたものは、全て怪盗オディールの手に行ったはずだから、ロットバルトが行おうとしている死者蘇生の術に、数が足りなくなったから、数合わせのために盗みを行っているのか？
　本来なら、誰かに対して贈ったものが、もっとも力が強くなる。今まで学園内で盗まれたものも、学園の卒業生が残していったものだから、本来なら力が強い部類だ。でも怪盗オディールが盗って行ってしまった……。
　それに、理事長の言っていた「秘宝は１つでも奪われたら、彼女は正気を失うから」の意味も気になった。
　彼女は今はウィリーのような状態で、学園内にただ「いる」だけで「生きて」はいない。その彼女に秘宝を与えるとどうなるのかが、まだ分からなかった。

「少なくとも……」

　潤はカップをテーブルに置き、項目を目で追った。

『なお、この警備に当たった警備員３名は、強盗との乱闘中に倒れ、病院に搬送。内２人は怪我もなく、翌日すぐ警備に復帰したが、１人は未だ意識不明。警備に当たっていたＡさん（仮名）は外傷はなく、精密検査でも異常が見受けられなかったため原因不明と病院側が発表している。』

　怪盗ロットバルトは、のばら以外が傷つく事を全くいとわないと言う事だけはよく分かった。
　次学園内で予告が入りそうなものも、もう少し調べた方がいいか。
　潤は領収書を持つと、新聞を片付けてレジまで向かっていった。

／＊／

　生徒会室に向かうと、紅茶の匂いがした。

「失礼します」
「どうぞ」

　高い声は、茜三波だろうか。
　潤はそのままドアを開けると、ポットを持った三波が立っていた。

「あら、先輩……？」
「こんにちは」
「はい……えっと、どうかなさいましたか？」

　大学部の潤が生徒会室に現れた事に狼狽したのか、ポットを持ってうろうろした後、ひとまずポットを置いてソーサーを２客持ってきた。

「すみません、今お茶請けありませんけど」
「いや、そこまで気を使わなくてもいい」
「すみません……」

　三波は「よろしければどうぞ」と、生徒会用に使うらしい机に紅茶を並べて席を引いた。

「いきなり悪かった。……生徒会長は？」
「ああ……会長は今出かけています。……怪盗がまた出るとか言っていました」
「そうか……最近は騒がしいな。街でも怪盗の噂を聞いた」
「本当にそうですね。うちは特に目新しいものなんてないと思うんですけど……」

　潤は三波に出されたお茶をすすりつつ、三波を観察した。
　のばらの存在を知らない者にしてみれば、今の学園内で起こっている事は不可解以外の何物でもないし、彼女は学園を管理する側だから、余計今の状況が不条理に見えるんだろうと、当たり前な事を思った。

「最近は変わりはないか？」
「どうでしょうね……そろそろ聖祭の演目申請が上がって来ていますから、忙しいんですけどね。場所の分配もありますし、時間調整もしないと、学科ごとに揉めますから」
「大変だな……」
「はい……ですから」

　そう区切ると、三波は視線をカップに落とす。

「……早くいなくなってくれればいいんですけどね、怪盗も」
「…………」

　潤はいつか感じた、思念の余波の影響を三波が受けているように見えた。
　でもあれから時間は経っているはずなのに……いや違うか。
　まだ盗まれていない思念も、生徒会で真っ先に予告状を読む立場にいる彼女はそれに立ち会って影響を受けていてもおかしくない。

「そう言えば、会長は今どこまで出かけているんだ？」
「フェンシング場ですよ。会長、フェンシング部の部長ですので」
「……茜さんは応援に行ったりするのか？」
「そうですね……会長が出る時には時々」

　決まりだ。
　彼女は、次の秘宝の影響を受けている。

「そうか。ありがとう。紅茶、ご馳走様」
「いえ……」
「あまり仕事で根詰めないように」
「ありがとうございます」

　そう言って、潤は生徒会室を後にした。

／＊／

　フェンシング部は、確か体育館の地下だったか。
　ダンスフロアの隣だったな。そこに怪盗が現れる。問題は、その間どうやってのばらに接触して、怪盗の盗んだ思念をのばらに当てられないようにするかだ。
　潤はそう考えながら、足早に塔を降りて行った。

＜了＞

PCシチュエーションノベル（シングル）

石田空

東京怪談

2012年03月26日