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『秘密会議 』
工藤・勇太1122)&海棠秋也(NPC5243)

 既に夜も更けていた。
 今晩は月もない夜で、カーテンを薄く開けて見上げる空は、頼りない星だけが瞬いて見えた。

「寝間着、これでよかったか?」
「うん、ありがとう」

 風呂を借りた工藤勇太は、海棠秋也に案内され、客室のベッドに座っていた。
 寝間着で借りたルームウェアに着替えさせてもらった勇太は窓を見る。海棠も普段の制服姿から、ラフなシャツとスウェット姿になっている。

「もう自警団も帰ったかな?」
「流石にもうこんな夜更けだったら帰ってると思うけど」
「そっか。大変だね」
「本当に」

 そう言いながら、勇太は尚も窓を気にした。

「どうかしたか?」
「うん……そう言えばさ、海棠君の会った怪盗、あの人は痺れ薬撒かれてたみたいだったのに、大丈夫だったの?」
「多少吸っていたけど、多分もう大丈夫」
「そっか……でも自警団も随分強硬手段に出たんだね。あの副会長さん、随分怪盗に対して怒っていたけど……そう言えば」
「何?」

 勇太は思い出してポンと手を打った。

「怪盗って結局何か盗んだの?」
「俺は何を盗んだのかまでは知らないけど……怪盗は「1つに逃げられた」って言ってた」
「やっぱりそうだったんだ……あのさ、ダンスフロア」
「ダンスフロアがどうかしたのか?」
「うん……あそこから、声が2つ聴こえたんだよ」
「……2つ?」

 海棠が眉を潜めると、勇太は大きく頷いた。

「うん。……あくまでこれは、俺の推測だけどさ」
「うん」
「もしかして、怪盗も副会長も気付かなかっただけで、あの場に思念、2つあったんじゃないかな?」
「……でも俺は気付かなかったんだけど」
「あれ? ……でも、確かに声が2つ聴こえたんだよ。1つの声は、『憎い』『憎い』って、あからさまな恨んでいる声。もう1つは『取らないで』『取らないで』って声だった」
「…………」

 海棠は人差し指を唇に押し付けながら、考え始めた。
 あれ、俺変な事言ったかな……? 勇太は少しだけどぎまぎしたが、やがて海棠は口を開いた。

「前に叔母上が言っていたけど」
「うん」
「この学園にある秘宝は、7つの感情なんだって」
「7つの感情……それって前にも言っていたよね?」

 7つの感情と言われても、ぴんと来ずに勇太が首を傾げると、海棠はこくりと頷く。

「聖書だったら大罪とも言われるけど、どれも人間を人間たらしめる感情だから、それを全部捨てたら人間じゃなくなるから必要なものなんだと。
傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲……学園だと、若いから抑えられない感情がぶつかり合うせいで、魔力が蓄積されて秘宝になったと言っていた」
「あれ……じゃあ、君の弟が秘宝を欲しがっているのは……」
「多分、今ののばらは、幽霊として存在しているだけで、人としてのものがないんだと思う。身体も、魂も、何もかも足りないから。だから秘宝を欲しがっているんだと思う」
「……どうやったら、彼を止められるかな。……一応訊くけど、怪盗ロットバルトは、君の弟でいいんだよね」
「ああ……正直……」

 そこで、海棠は言葉を濁した。前に比べれば大分しゃべるようにはなったが、話したくない事や言葉が詰まった時、黙る時間が長いのは変わってはいない。
 勇太はじっと海棠を見ると、ようやく海棠は口を開いた。

「……弟は、織也は。俺の事嫌いだから」
「……えっ?」

 勇太は返って来た言葉の意外さに、思わず戸惑うしかできなかった。
 どうしてのばらさんを生き返らせたいのと、海棠君嫌うのが結び付くの。それが分からず目を白黒とさせていると、海棠はゆっくりと続ける。

「のばらをどうして生き返らせたいのか、俺も正直分からない。弟がのばらを好きだったなんて、考えもしなかったから」
「…………」

 兄弟の溝は深い。
 同じ時間を過ごしたはずの兄弟なのに分からないって事は、よっぽどの事だと思うけれど。

「……どれか、1つ優先させるものを決めよう」
「優先?」
「うん」

 勇太は頭をどうにか働かせようと、こめかみの辺りをくるくると引っ掻いた。

「守宮さんを助ける、のばらさんを解放する、弟さんと和解する。全部繋がっているものだけれど、全部同時進行だったら多分全部がこけると思うから。だから、1つ優先させるものを決めれば、どうにかなると思うんだ」
「……俺は」

 海棠は少し俯くと、意を決したように言葉を返した。

「……俺達の問題に、周りを巻き込み過ぎたから。弟と話をしたい」
「うん、分かった。じゃあ頑張ろう。あっ、そうだ。もう眠いかな?」
「いや?」
「うん。……あのさ、もう自警団帰ってるなら、1度ダンスフロアに行ってもいい?」
「? どうするんだ?」
「うん。もう1つの思念、どうなったんだろうって確認したいんだけど」
「ああ……構わない」
「そっか。じゃあ捕まって」
「こう……か?」

 勇太が立ち上がると、海棠も立ち上がって肩を掴む。

「うん。じゃあちょっと跳ぶから」

 2人は、そのまま無人のはずのダンスフロアへと跳んだ。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年04月09日

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