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『<あたしの居る場所> 』
白神・空3708)&エルファリア(NPCS002)



 これほどハッキリした感覚を持ってして尚、夢であるという現実。
 夢が現実なのか現実が夢なのか、もう、あたし自身分からない、ただ、分かるのは今あたしがここにいるということだけだ …… ――

 ―― ……聖都エルザード:城内
 さわりとエルザード城々主が娘エルファリアの頬を風が撫でる。
「……お客様、のようですね」
 風が何を運んできたのかは分からない。しかしエルファリアは優しげな瞳を細めて、こつりと踵を返した。

「―― ……ん、ぅ……」
 ひんやりとした感触に白神空は双眸をゆっくりと持ち上げた。
 視界に入ったのは石造りの壁。年季が入っているのかところどころ苔むしている。しかし、じめじめとした湿っぽい感じではなく閑寂とした空気に包まれていた。
「あれ、おかしいな……」
 長く美しい銀髪をくしゃりと掻き揚げながら空は上体を起こした。
 確か自分はセフィロトの塔を攻略中だったはずだ。白昼夢、にしてはやけに感覚がハッキリとしている。
 何度なく瞬きを繰り返し、首を傾げる。
 そして、ちらと視界に入ったのは、美しく形の良いすらりと延びた白い足。
 ―― ……ん?
 白い足。すらりと延びた、生足。生……
「ちょ!」
 慌てて自分を省みれば、生まれたままの姿でその場に座していた。心許ないはずだ。
 叫び声をあげ身を縮めるほどの羞恥はないとしても、わざわざ裸で生活するような習慣もない。
 どうしたものかと、唸った空の耳に
 ―― ……コツ……っ……
 石床をヒールが弾く音がした。その後に軍靴のような重い足音がいくつか続く。
「ごきげんよう……」
 棚引く美しい金糸。真っ白な肌に整って美しい目鼻。敵意を全く感じさせないその穏やかな表情。
 それをじっと見守り、次の行動を起こせず止まってしまっていた空の前に、音もなく小鳥の羽根がやんわりと舞い降りるように、彼女は優雅に膝を折ると、腕に掛けていた幅の広い布を広げて空の肩へと羽織らせた。
 そして、静かに布を空の前で合わせて口元を緩める。丁寧な織りがなされた布からは、優しい香りが昇り混乱気味の心を穏やかにしてくれた。
「王女」
 側に控えていた騎士、彼女の護衛だろう一人が、すっと片方の膝を折り恭しく彼女に荷を手渡した。王女と呼ばれた女性は「ありがとうございます」と丁寧に礼を告げることを忘れずそれを受け取ると、そのまま空の前へと差し出した。
「これをどうぞ」
 え? という動揺は隠せない、しかし、彼女も引く気はないようだ。空が受け取った物は幾重に重ねられた布などだ……広げてみれば衣類一式。
 まあ、これでは何かと困るよね。と心の中で苦笑した空は短く礼を告げると、それらに袖を通した。


「ん、ぴったり」
 これまで身に着けていたものとはかなり違うが、それはあつらえたように空にぴったりだ。
 満足げに頷いた空に、対峙していた女性は口元をそっと指先で隠し、目元に優しげな笑みを浮かべる。癒される。この一言に尽きる雰囲気だ。
「私の名は、エルファリア、この城の城主を父に持つ娘です。そして、この世界は…… ――」
 静かにそして淡々と説明を加えてくれる。空はその話に耳を傾けつつエルファリアを凝視。
 ―― ……美人だなぁ……とはいえ、手を出せる雰囲気じゃないし……はぁ……。
 清浄ってこういうのはこういう人の為に存在する言葉なのだろうか、などと思案が巡り心内だけで嘆息、したつもりが漏れ出ていたらしい。
「大丈夫ですか? お加減でも」
 そう不安げに顔を覗き込まれて「ああ、いや。なんでも」と照れ隠しのように逡巡し、ふと、巨大な扉に目が留まった。ぐっと頭を引いてやっと全体が見える。

「これ」
 巨大であり、それ故に重厚。扉には繊細な彫りが施され一種の芸術品のような趣もあった。
 見上げている空の隣りに並んだエルファリアは静かに
「この扉は異世界からの来訪者を迎え入れるものです」
「……え、じゃあ、あたしも……?」
 空の譫言のような台詞に王女は「おそらく」と頷いた。
「あたし、死んだ、とか?」
 この世界と、その一時前まで自分が居た場所はあまりにも違う。何かしらの事故でもあって突然……そう思い至った空にエルファリアは不安げな表情をした後、ゆっくりと首を振った。
「貴女にとって、この世界は夢のようなものだと思います」
「夢?」
「はい、夢……貴女はこれから、瞬く間かもしれない、気が遠くなるほどかもしれない……制約のない時をこの世界で過ごすのです」
 とつとつと告げるエルファリアの言葉に、空はふーんっと相づちを打ったあと気落ちするかと思いきや、紅を引いたように色付いて形の良い唇の端を引き上げ、にこりと表情を一転させた。
「夢なら楽しまなくちゃね」
 両の足を下ろしたこの世界。そして、対峙している王女。そのどちらからも敵意や憎悪、悪意の類は感じない。世界の全てがそうであると判断するには軽率だが、悪くはない。
 気分の高揚してきた空の姿に、エルファリアは胸に片手を添え笑みを深めて、無駄のない所作でゆるりと膝を折り礼をする。
「ようこそ、聖都エルザードへ」
 それは新たな世界の幕開けであった…… ――


【あたしの居る場所:終】





■□ライターより□■

 はじめまして。汐井サラサです。
 この度はご指名ありがとうございました。
 早々にテンション高めというのも駄目かな思いまして、戸惑いあり、けれど柔軟で順応性抜群そうな空さんを描かせていただいたつもりです。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2012年05月07日

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