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『氷の春夏コーデ! 』
アリア・ジェラーティ8537)&デルタ・セレス(3611)&デルタ・ソリュート(3625)&(登場しない)


 ある晴れた日の土曜日、アリア・ジェラーティは東京の街角で悩んでいた。彼女はレンガの建物に背を預け、道行く人をじっと観察している。そのつぶらな瞳は、皆が着ている服を見ていた。
 彼女のお悩みとは「春夏コーデをどうするか?」である。東京は流行の発信地なので、さまざまな着こなしが街中を彩る。一度は心の中で「これ!」と決めても、また別の新しい魅力的なものが横切るので、いつもなかなか決まらない。今のアリアはまさにその状態で、不意に視線を落とし「うーん」と思案に暮れていた。
 その時だ。青い髪の女性が通りがかったかと思うと、アリアの前に持っていた雑誌を落とす。それはコスプレ雑誌だったが、少女は素直に「ファッション誌」と勘違い。落とした本を拾い、小走りで女性を追いかける。
「あの、落としましたよ‥‥」
 すると彼女は「いっけない!」と言い、アリアにお礼を述べる。
「ありがとうございますー。大切な本だったから、本当に助かったわ。あなた、お名前は?」
「アリア‥‥アリア・ジェラーティ」
「そう、アリアちゃんね。私はデルタ・ソリュート」
 セーラー服を着たソリュートは、アリアよりも年上のお姉さん。その事実を知り、アリアはあることを申し出た。
「あの、できれば‥‥私の春夏のコーデを、見繕ってくれませんか?」
 ちっちゃな少女のお願いを、ソリュートは快諾。アリアが「お礼はアイスで」と、いかにも子どもらしい報酬を口にしたあたりも決め手となった。
「お礼だけど‥‥そうね、弟にもお願いできるかしら。ここから少し先にある、彫刻専門店で働いてるの。そこで衣装を合わせてみましょ」
 アリアがひとつ頷くと、ソリュートは弟のいる店まで少女の手を引いて向かう。その刹那、アリアからヒンヤリとした冷気を感じ取ったが、この場は「気のせいかな?」で済ませた。

 デルタ・ソリュートの弟の名は、セレス。デルタ・セレスという。
 彫刻専門店という看板を掲げて店を営むだけあって、入口にも本格的な彫刻が並んでいる。これを見たアリアは、服の素材まで感じ取れるような商品を見て、素直に「すごい」と述べた。
「なんだか生きてるみたい‥‥」
 いいセンスの感想を聞き、姉は思わず微笑む。アリアは鋭い感性の持ち主というより、異能を日常として受け止めることのできる娘なのだろう。さっきの冷気も、もしかしたら‥‥ソリュートは「面白い娘と知り合いになったですぅ」と内心喜んだ。
 アリアは無邪気に彫刻をペタペタとお触りしていると、店内からセレスが出てきた。姉のソリュートとまったく同じ身長だが、4つ年の離れた弟である。
「お客さん、それは商品なので‥‥って、姉さん!」
「こっちは街で出会ったアリアちゃん。実はね、この私が春夏のコーデを頼まれたの〜」
 アリアはペコリと頭を下げ、「よろしくお願いします」と丁寧なご挨拶。ところが、セレスは戸惑いの表情を隠そうともしない。
「あのね、アリアさん。姉さんはファッションに詳しいんじゃなくて、ただ単に趣味でコスプ‥‥」
「じゃあ、中で試してみましょうか〜」
 弟が都合の悪いことを言う前に、ソリュートはアリアの手を引いてさっさとご入店。セレスは嘆息しながら、その後を追う。
 実はこの時、少年は身の危険を案じていた。だから店に入るとすぐに奥へ引っ込み、アリアのためにジュースを用意する。
「アリアさん、どうぞ」
「ありがとう」
 セレスは「どういたしまして」と言いながら、そのままお盆を持って奥に引っ込もうとするも、やはりお約束の展開が待っていた。
「それじゃあ、僕は向こうで‥‥」
「セレスもね、アリアちゃんに協力してあげてよ〜」
「そ、そう? 別に店には全身鏡もあるし、アリアさんが着て決めればいいと思うけど‥‥」
 すっ呆けて逃げようとするも、アリアはじーっとセレスの顔を凝視し続ける。いや、これは熱視線というべきか。セレスが無垢な少女の願いを断ることなんて、できるわけがない。最後には観念し「わ、わかりました‥‥」と姉に屈服した。
「じゃあ、アリアちゃんに衣装を持ってくるね。セレスはメイド服からね〜」
 いきなりのご指定に困惑するセレスだが、物言わぬアリアの視線を感じるたび、ぎこちない笑顔で今の気持ちを誤魔化した。

 黒いメイド服に袖を通したセレスは、お決まりの台詞である「お帰りなさいませ、お嬢様」をアリアに向けて放つ。そんなアリアは、なぜかモコモコの羊さんを模したセクシースーツを着用。少女は自分の姿を鏡で見て、不思議そうな表情をソリュートに向けるが、相手は「サイズ合わせだから」の一言で納得させようとする。アリアはあっさりとそれに納得し、次の衣装にチャレンジ。お気に入りのコーデを見つけるため、精一杯がんばる姿勢を見せた。
「姉さん、あんな新作を作ってたのか‥‥」
 露出度満点の衣装は勘弁とばかりに、セレスは急いで白を基調にしたロリータドレスに着替え、今度はアリアの前でクルッとかわいく一回転。ふわっとスカートがなびくと、それを少女はまじまじと見つめる。
「そういえばアリアちゃんは、アイスを売って歩いてるんでしょ? 袖のないドレスもあるから、そういうのもアリだと思うよ」
 お仕事の最中もかわいく着飾れば、それなりに効果はあると知り、アリアは何度か頷いた。
 そんな彼女は、女性が着る寸法に合わせた男子服を試す。少しだけ後ろ髪を括り、全体的にボーイッシュな雰囲気で固めた。見た目の印象がかなり女の子なので、これだけ着こなしをアレンジしても女の子と思われるはずだと、ソリュートは力説する。いつの間にか、彼女の手にはデジカメが握られていた。もちろん、被写体は2人である。
 アリアはそのうち、自分の姿を鏡で確認するよりも、セレスの方ばかり見るようになった。だんだんとお着替えするペースも遅れ、なぜかセレスが着替えに急がされる展開に。大きな疑問を感じつつも、セレスは少女のために姉のコレクションを着続けた。
 セレスに女性の衣装が似合うことを知っていたソリュートだが、ここに来てアリアもそれを感じ始める。少女は自分の前髪を上に立て、セレスのような癖毛を作ろうと挑むが、これはさすがに失敗。しかしそんなことをするほどまで、少年のことが気になってしょうがなかった。
「あっ、リボンのついたドレス‥‥」
 ここでセレスが腰のあたりに大きなリボンのついた、赤いゴスロリドレスを着て出てくる。短めのスカートの裾にも小さなリボンがあしらってあり、とても可愛い服だ。しかしセレスが着るとよく似合う衣装である。この頃から、あのアリアの熱視線が蘇っていた。
「ここまで自発的に着替えること、めったにないんですけど‥‥ま、アリアさんのためだし、仕方ないか」
「それはね、最近いいなーと思って作ったの。生地も薄手だし、夏も着れると思うよ。これなら動きやすいし‥‥」
 デルタ姉弟がごく普通に雑談していると、不意にアリアが立ち上がって、無言のままセレスに抱きつく。突然の出来事に、冷静なセレスも大いに驚いた。
「うわっ、どうしたの急に!」
 それでもアリアは無言を貫く。どうやら「お気に入りの衣装を見つけた」というサインのようだ。「これでファッションショーも終わりか」と、セレスが微笑んでアリアの頭を撫でようとしたところ、なぜか彼の動きは完全に止まってしまった。
 セレス本人は何が起きたかサッパリだが、隣で見ていたソリュートは、その一部始終を見ていた。少女が抱きついた瞬間から徐々に凍り、最後にはきれいな氷像になってしまったのである。
「アリアちゃん! それって凍結‥‥もしかして、私と同じ能力を持ってるの?!」
 驚くソリュートに対し、アリアは青白く輝く氷の像になったセレスに手を添えながら、コクリと頷く。しかし、セレスはいい笑顔で凍っている。アリアは自分に向けられた表情をじっと見つめるのだった。

 手を繋いだ時に感じた冷気の正体を知ったソリュートはますますアリアを気に入り、素敵なポーズで固まった弟そっちのけで意気投合。ふたりで大いに盛り上がる。
 アリアはコーデを試してはみたいが、今後はセレスを見て決めたいと申し入れ、姉がこれを快諾。本人の了承もなしに、ファッションショーが再開された。氷像に着せるには少し面倒なポーズだったが、その辺は大の仲良しになったふたりが協力し、うまく着せていく。
『ちょっと! 姉さんもアリアさんも、早く戻してー!!』
 物言わぬセレスだが、その魂の叫びは誰にでも感じられるものだ。しかしアリアもソリュートも、同じ言葉を返した。
「ダメ」
 セレスはもはや「姉さんがふたり」としか思えなかった。
 こうして日が暮れるまで、3人のファッションショーは続く。少年がお礼のアイスを美味しく食べれるのは、いったいいつのことだろう。
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市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年05月30日

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