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『巡る螺旋、廻る縁(えにし)。 』
平野 拾(ia3527)&丈 平次郎(ib5866)


 それは少女と男が出会った、とある、旅の日。





 右を向いても、左を向いても、見えるのは鬱蒼と茂る木々の幹の色と、それから下生えや絡むツタの緑ばかりだ。見上げれば差し渡す枝がすっかり視界を覆い隠し、わずかばかりに見える青空だけでは、いったい自分がどこにいるのか、途方に暮れる。
 うぅ〜、と少女、拾(ia3527)は背中に結わえ付けた荷物の、結び目をぎゅっと握って眉を寄せた。
 それは、思い返せば今から3年ほども前になる、拾がまだ開拓者になる前の出来事である。否――正確には、これから開拓者になるべく、神楽の都を目指して旅に出た、その時のことだ。
 何しろ、地図なんてあるはずもない。あったとしても、実際に行ってみれば地図とはすっかり様子が変わっていた、なんて事も、このご時世では珍しくない。
 加えて、彼女はこれまであまり、旅に出たことはなかった。彼女にとって世界とは故郷と、その周辺の村や町と、それから開拓者であった父が土産話に聞かせてくれる、依頼先の事ばかりであって――知識として自分が住んでいるのが天儀であり、その外には儀を異にするジルベリア、泰国があるのだと知っていても、実際にその目で見たことなど、なかったのである。
 だから。神楽の都を目指し、道を確かめて歩き続けていたはずの彼女が、いつしかまったく人気も見えない森の中へと迷い込み。不安に駆られながらも歩き続けた結果、完全に現在の居場所を見失ってしまった所で、何らおかしい事もなくて。
 ガサッ!
 大きく、枝が葉を揺らした。どうやら鳥が飛び立った音らしい。
 それを確かめて拾は、ますます強く結び目を握りしめ、己が来た方向を振り返った。少なくとも街道からは外れていない。外れていない以上、歩き続ければどこかに着くはずだ。
 そう、信じてひたすらに歩き続け、歩き続け、歩き続け。森を出たところで何とか、どこかの町に着いたものの、町の人に尋ねた地名は彼女にはまったく解らないもので。
 ――困って、しまった。

(ほんとにこっちで、良いのでしょうか)

 うろうろ、うろうろ。惑う足取りで町中をあちら、こちらと動き周り、神楽への道行きが間違っていないか確かめようとするけれど、忙しい町の人々はなかなか、拾の言葉に応えてくれない。
 だから、困って、しまった。もう少し待って、人々が落ち着くのを待てば良いのだけれど、自身がどこに居るか判らないという不安が、少女の心をせき立てる。
 そんな――困った表情で、うろうろ、うろうろ、市場を忙しく行き交う人々の間を歩く少女に、おい、と声がかけられた。

「‥‥どうしたのだ。迷ったのか?」
「あ、はい! ぇっと‥‥」

 かけられて、ぱっと顔を明るくして声の方を降り仰ぎ、実は神楽に行きたくて、と話し始めた拾の言葉に、かけた丈 平次郎(ib5866)は面覆いの下でじっと耳を傾ける。傾け、そうか、と小さく頷く。
 そうして少し悩んだ後で、ならば、とほんのわずか、迷いを含んだ声色で、尋ねた。

「――俺は開拓者をしている。依頼を終えて、これから神楽へ帰る所だ。‥‥一緒に来るか?」
「‥‥! ありがとうございます、おねがいしますッ」

 その言葉に、拾は大きく頷いて。ぺこり、勢い良く頭を下げた少女に無愛想に頷いた、平次郎がくるり、背中を向ける。
 それから、こっちだ、と短く言って歩き始めた男の背中を、慌てて、そうして嬉しそうに、拾は追いかけ始めたのだった。





 平次郎が恩人であり、友人でもある夫婦の居るジルベリアを経ってから、そろそろ一年ほどが経った。それはあっと言う間の生活であったようにも思えるし、途方もない時間が過ぎ去ったようにも、思える。
 薦められた通りに天儀へと渡り、開拓者になって。己のような、記憶もなく、大きな醜い傷を持つ、我ながら不審な男でもあっさりとギルドに登録できることに、安堵しながら小さな長屋も借り受け、依頼を受けては報酬をもらう、という開拓者の生活にもようやく慣れた。
 記憶を失ってから得たこの、丈 平次郎という名前もまるで、己の一部のようにすっかり馴染み――けれども勿論、そもそもジルベリアから天儀へと渡ってきた理由を、忘れては居ない。

(確か‥‥このくらいだった‥‥)

 神楽へと向かう、幾つかある街道の途上。平次郎にとってはそろそろ通い慣れた道である、そこを彼と並んで歩く、見知らぬ少女をちらりと見下ろし、平次郎は胸の中で小さく頷いた。
 天儀へと渡れば何か思い出すかもしれないと、言った友の言葉は正しかったのだろう。生活が軌道に乗り、依頼の報酬が手に入る都度、各地を歩き回って失われた記憶を捜し求めるうちに、幾つか思い出したことはあった。
 例えば、今なお痛々しく半身を覆う醜い傷を、どうして負ったのか。その傷を己に負わせたアヤカシが、いったい何だったのか。
 そうして――記憶を失う前の自分には、1人の子供が居たのだ――という、事も。
 顔も名前も思い出せないけれども、確かこの、拾と名乗る少女と同じくらいの背格好であったことは、ぼんやりと覚えている。あの市場で、惑う眼差しで、けれども確かな意志を持って周りの大人たちを見回していた、拾に声をかけてしまったのは、きっと、だからだ。
 記憶の中の、顔も知らぬ我が子を、思い出して。まるで我が子が目の前に現れたような気がして――放っておけず。

(こんな子供だったのだろうか‥‥?)

 じっと、拾を見下ろす。だが、我が子を重ねて想い描いてみようとしても、やはり、どうにも上手く想い描くことができず、面覆いの下で平次郎は小さな小さな嘆息をこぼした。
 そんな同行者に気づいていたものか、拾は一生懸命の伺える様子で、背中に結わえ付けた荷物を時々揺すり上げながら、平次郎の隣をてくてく歩く。歩きながら、時々ちらりと平次郎を見上げ、それからまた前を見る。
 同行者を得た道行きは、先ほどまでの1人旅と違ってなんだか、心強い。それは、神楽までの道を知っている平次郎と一緒だから、という以上にきっと、1人じゃないからだ。
 だからどこか、楽しそうに。けれども芯に、気にかかる光を秘めた眼差しで。
 歩く、少女に平次郎が問いかける。

「――神楽に、何をしに?」
「ひろいは、開拓者になりにいくのです!」
「開拓者に‥‥」
「はい! おとうさんをさがすのです!」

 こくり、大きく頷いて、拾はそれにこう答えた。居なくなった父を捜すために、開拓者になるのだと。
 ――それは、今から5年前のことだ。開拓者をしていた父は、多くの開拓者がそうであるように、依頼を受けては報酬を得て暮らしていた。
 その日も、拾の覚えている限り、何か特別に変わったことがあったわけではなかったと、思う。父はいつもの通り、いつもと変わらぬ調子で、すぐに帰ってくると依頼に向かった。拾は、行ってらっしゃいとそんな父の背中を見送った。
 当たり前に、当たり前に。何一つ、いつもと変わらず父の帰りを待っていた――拾の元に、ついに父は帰ってこなくて。
 代わりにと届けられたのは、父がその日、出かける時に羽織っていった上着だけ。それは破れや、焼け焦げでひどくぼろぼろになっていて、そうして、何者かの血にまみれていた。
 一目見て、尋常でないことが起こったことは、判った。何故それが、帰ってこない父の代わりに届けられたのか――その意味も、理解だけは、出来た。
 けれども。

『みつかってないのなら、おとうさんはいきてます!』

 今よりもなお幼かった拾は、その上着をもって父を死んだとしようとする、ギルドの見解にそう主張した。絶対に父は生きているのだと、死んでなんかいないのだと、まさしく聞き分けのない子供のように繰り返した。
 父と同じ依頼に赴いた開拓者たちは、謎の山火事によって全員、焼死したことが確認されたのだという。ならば当然、同じ場所にいたはずの拾の父が、生き残っているはずもない。
 上着が残されていたのが奇跡だとすら、思えるような惨状にあっては、骸が見つからないのはむしろ、跡形もないほどに焼け尽くされてしまったからかもしれぬと、ギルドは勿論、周りの大人だってそう言ったけれども――そんなはずはないだろうと、拾は思って。今もそう、思っていて。
 だから、おとうさんはしんでません! と何度も何度も繰り返した。血塗れの上着を骸の代わりに営まれた葬儀にも、彼女はとうとう参列しなかった。だってそんなことをしたら、本当に、お父さんが死んだことになってしまう。
 時にはまるで自分自身に言い聞かせるように、ずっと、ずっと、そう主張し続けながら拾はだから、父が帰ってくるのを待っていた。けれどもいつまで経っても音沙汰のない父に、ならば探しに行こうと思い立ち。
 父と同じ開拓者になるために、神楽へと向かう旅の途上で――こうして、平次郎と会ったのだった。

「ひろいは、おとうさんみたいなりっぱな開拓者になるのです! そして、ぜったいおとうさんをみつけるのです!」

 故郷を出る時にも周りの大人にそう告げた、決意を再び、繰り返す。それは強い意志の現れで、そうして実のところ、時々心の奥底からひょいと頭をもたげてくる、不安をまた心の奥底へ押し込めるための呪文でもあった。
 とても、普通ならば生きていないだろうと思えるほどの傷を負い、血を流したのだろうと容易に想像できた、父の上着。すぐに帰ってくると言ったのに、待てど暮らせど噂も聞こえてこない父。
 だから本当の本当は、心の奥底では、恐れている。やっぱり父は周りの大人の言う通り、依頼先で山火事に巻かれて死んでしまったのかもしれない。骸は判別もつかないほど焼けてしまったのかもしれないし、或いはギルドの調査隊が駆けつけるまでに山の獣に食われてしまったのかもしれない。
 そんな不安も、確かに、拾の中にはあって。何度も何度も、おとうさんはしんでません、とくり返したのは――きっと、だからで。
 拾の言葉を聞いて、そうか、と平次郎は頷いた。惑う少女の瞳の中に、燃える芯のような炎が見える気がするのは、そのせいだったのか。

「――俺は、俺の記憶を探している」

 とつりと、拾に向けてそんな言葉を紡いだのは、だからだろうか。それとも、やはり顔の思い出せぬ我が子に、拾が似ているからだろうか。
 どちらとも判別は付かなかった。胸の中で、ジルベリアで出会い、別れた友に問いかけてみたけれども、仏頂面が思い浮かんだだけだ。
 とつり、とつりと、平次郎はだから、目の前に居ない友ではなく、目の前に居る少女に向けて、言葉を紡ぐ。かつて、己が記憶を失ったこと。名前も忘れ、ひどい傷を負って死ぬ寸前だったところを、ジルベリアのとある夫婦に助けられたこと。今の名は、友となったその夫婦の元に居る時に得た仮の名であること。友の薦めで天儀に渡り、開拓者となって、己の記憶を探す旅をしていること。
 そんな平次郎の話はまるで、記憶を失った己の父が、目の前に現れたかのような錯覚を、拾に感じさせた。けれども言葉を交わせば交わすほど、あぁ、このひとはおとうさんじゃないのです、という想いが芽生えてくる。
 似た境遇、似た背格好。言葉を紡ぐ声色や、面覆いの隙間から覗く瞳までも確かに父に似ているのに、強いて言えば纏う雰囲気とでも言えば良いのだろうか、胸の中にこの人が父かと問いかければ、何かが違うと答が返るのだ。

(ざんねんなのです)

 この人が父ならば良かったのにと、思った。探そうとしていた、待ち続けていた父が目の前に現れたのなら、どんなにか嬉しいことだろうと思ったし。
 何より拾自身が、平次郎に対して良い人だと好印象を抱いて、いる。だから父ならば良かったのにと、思った。
 残念だと思いつつ、それでも平次郎に出会えて良かったと、ほっこりしている拾を見下ろし、けれども平次郎はふと疑問を抱く。
 醜い火傷の跡を隠すべく、全身に鎧を纏い、面覆いで顔を隠している平次郎である。故に、火傷の跡でぎょっとされる事はあまりないが、全身を鎧で覆った大男というのは別の意味で、ぎょっとするものだろう。
 けれども拾は、思えば出会った頃からまったく、平次郎の様相に怯えた様子はなかった。それは一体、何故なのだ?
 とつり、面覆いの下からだから、問いかけた。

「――俺が怖くないのか?」
「だいじょうぶです! 道案内してくれる方に悪い人はいませんッ」
(‥‥そういう問題だろうか‥‥)

 その言葉に、満面の笑みと共に返ってきた答はひどく明快で、単純だ。もしかしたら道案内と称して、女衒屋に売り渡そうとする悪人だっているかもしれないのに、そんな簡単に人を信じて良いのだろうか。
 それを、忠告するべきか、否か。開拓者になるのならば、忠告してやるべきかもしれないし、逆に自ら痛い目を見て学んだほうが良いかも知れないし――或いはそもそも、この少女を相手にそんな良からぬ二つ心を抱くような、悪人は居ないのかもしれないし。
 少なくとも目の届く所に彼女が居る間なら、平次郎が注意して見ていれば良いことだと、胸の中で呟いた。思い出せぬ我が子に良く似た拾を、どうせ平次郎は放っておけないのだから。





 ――そんな話を、幾つもした。身の上話から、他愛のない話。旅の途上で出会った団子屋の批評から、子連れの猫の行く末まで。
 どちらかといえば拾が主に話し、平次郎が相槌を打つ、そんな風にして言葉を重ねながら歩くうち、気付けば彼らは神楽の入り口までやってきていた。開拓者ギルドのある場所――そうして、彼らの旅の終着点。
 共に開拓者となるならば、いずれ依頼で見えることもあるだろう。それでもこの時間が終わってしまったことに、ほんの少しだけ寂しさを覚え。
 拾は、そういえば大事なことを言ってなかったと、思い出した。

「あ! へいじろうさん! これから開拓者としてよろしくなのですッ」
「‥‥ああ」

 そうだな、と平次郎は無愛想に頷く。けれどもその瞳の色は優しい事を、拾はちゃんと見て取って、嬉しそうにえへへと笑った。
 これからきっと、神楽でたくさんの出会いをするだろう。開拓者となって、父のように依頼に赴いて、そうして傷つくこともあるのだろう。
 それでもこんな素敵な出会いから始まる、この道行きは間違いなく、素晴らしいものになるに違いないと――少女は想い、そうして男もまたおぼろげに感じていたのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /  職業 】
 ia3527  /   拾   / 女  / 17  /  志士
 ib5866  / 丈 平次郎 / 男  / 48  / サムライ


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
また、福岡どさではこちらこそ、大変お世話になりました(深々と土下座

お嬢様と息子さんの出会いの日の物語、如何でしたでしょうか。
本当に、どこも遠慮することなく、本気で好きなように書いてしまいましたが‥‥えぇ、あの、リテイクはいつでもオープンな気持ちで全力で受け付けてまs(ry
殊にお嬢様は、随分と久しぶりにお預かりさせて頂きますので、イメージが違っていないかが心配です;

お嬢様と息子さんのイメージ通りの、悲しい過去の上に積み上げられた、新たな始まりのノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年06月08日

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