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『●春夏秋冬を共に 』
ガルフ・ガルグウォード(ia5417)
 シトシトと雨が降っている。
 雨は嫌いだと人間達は言うが、ガルフ・ガルグウォード(ia5417)の相棒、駿龍であり、淨黒と名を持つ某は決して嫌いではない。
 漆黒の身体に赤の瞳を持つ某は、人間の年齢に換算すれば、壮年である。
 止まねーなぁ……と、黒いシノビ装束の上から、毛布を被り洞窟の入口から空を見上げている様は、いつもよりも幼く見えた。
 それは、ガルフと出会ったあの頃を想起させ、無邪気な主の声を聞きながら過去を思い起こす。
 決して主と認めた訳ではなく、言わばただの『阿呆』であり、隙だらけで頼りない。
 往く先で様々な『うっかり』をガルフは起こす。
 人助けのつもりが、いつの間にか面倒事に巻き込まれるのは常。
 笑わせるのが好きで、おどけてみせては調子に乗り過ぎたり。
 そんな、明るくひょうきんな面しか見せなかったガルフ。
 ただの『阿呆』ではない、と知ったのは太陽が燦々と輝き、そしてその暑さに人々がうんざりしていた頃。

●夏
「ひゃっほー!」
 服を手早く脱ぎ捨て、滝の近くに飛び込んでは、破顔するガルフ。
 水しぶきが飛び散り、太陽の光を浴びて煌いた。
 勿論、某とて暑いと感じている――幾ら涼しい顔をしていても、暑いものは暑い。
 だが何があるか分からぬ、周囲を警戒しつつも静かに着地する。
 そして、ガルフの身体に刻まれた左胸から肩甲骨辺りまでに見える裂傷――勿論、飛び込んだ時に付いたものではない。
 某の視線に気づいたのかガルフは口を開いた。
「ん、これか?仲間を庇った時に、ちょっとな」
 軽やかに口にする様子に、ただの『阿呆』ではない、そう、直感する。
 そこから、かもしれない。
 ガルフの事を面白い出来事を運んでくる、同行者ではなく、興味を持てる相手だと認識したのは。
 何かを言いたくとも、某には人語を話す術がない――だから慰めるかのように、啼こうとして……落ちた。
 ガルフが、滝の下に向かって、落下したのだ。
「(――落ちたか、やれやれ)」
 ふぅ、と一つため息めいた声を漏らし、某はガルフを爪で引っ掛け元の場所へと下ろす。
「悪ぃ悪ぃ。また、助けられたな……淨黒は一番の相棒だ!」
 ブルブルと小型犬の様に身体を震わせ、水をはじいたガルフが満面の笑みを向ける。
「淨黒がピンチの時は、俺が助けるからな!」
 元気なガルフに、その時がない事を祈る、と某は心の中で返す。

●秋
 暑くなったり寒くなったり、その日は枯葉を弄んでは散らしていく木枯らしが吹いていた。
 赤や黄色に色づいた森は、恐らく冬の支度で忙しいのであろう……某の聴覚が騒がしい小動物達の動きを捉える。
 ガルフはガサガサと枯葉を集めると、中に瓦版で包んだ芋を入れ、火打石で火を付けた。
 チリチリと火は枯葉を舐め、灰色の煙が立ち上る。
「まだかな?」
 木の枝で芋を突いているものだから、某は『そんな事をしていると、火傷するぞ』と言いたくなるがそれは杞憂に終わったらしい。
 人間より鋭敏な嗅覚が香ばしく、そして美味しそうな香りを捉えた。
「熱いから気をつけてな?」
 息を吹きかけ冷まし、あつっ、と時折声を上げながら黒くなった瓦版を開き、ガルフは某へと『焼き芋』等と言うものを差し出してくる。
 全く、熱いと言えど人間程、脆弱では――アチチッ。
 爪を伸ばし、そして引っ込める淨黒の姿を見て、ガルフは楽しそうに笑う。
 本当に、ガルフの笑い方は空まで届くような、見ていて好ましい笑い方だ。
 そんな思いも知らず、隣ではふはふ言いながら、ガルフはほっこりと黄色に色づいた焼き芋に喰らい付く。
「美味いか?」
「グルル――」
「そうか、美味いか!良かった!」
 通じた訳ではないのだろう、だが、通じている……奇妙であるが、人間と龍との関係などそんなものなのかもしれない。

●冬
 朱に染まる大地。
 それは死んだ同胞や、人間と言った者の流す生命の証――血である事を某達は認識している。
 斃れたアヤカシは、既に瘴気となり、残された身体の一部からもシュウシュウと瘴気が漏れていた。
 暫し、その瘴気と朱を見つめていたガルフだが、黒衣を翻す。
 そして新たなアヤカシを見つけ、その黒衣は黒い風と成ってアヤカシへと近づく。
 両手に所持した苦無を投げつけ、避けた隙を狙ってもう一つを投擲し、予備の苦無を手にする。
 ガルフの表情を窺い知る事は出来ない、黒い鴉面をガチリと嵌めて全てを寄せ付けないような雰囲気を醸し出しているからだ。
 ガルフを援護するように、某は低空を飛翔すると爪をアヤカシに突き立てる……そこにガルフの苦無が正確無比に貫き、そしてアヤカシは瘴気に還った。
 無言のまま、ガルフは黒衣を翻し、迷うことなく歩を進める。
 それは、何度も何度も、繰り返してきた事なのだろう――当然ながら某もそれに倣い、続く。
「…………」
 そこには、墓石と呼ばれるものがあった。
 膝を軽く折り、指先で刻まれた名前と思われし物をなぞる。
「(今日もこの場所を、守れた……家族の為。俺は力を揮う)」
 深く頭を垂れ、そして暫く眼を閉じたまま、ガルフは動かなかった。

●春
「特別だぞ?」
 ガルフがそう言って、某を連れて来たのは桜が見事に咲き誇る山だった。
「毎年、此処に来て桜を見て行くんだ」
 桜の海、と表現したガルフの横顔は切なげで、何処か優しくもあり、桜を見ているようで見てはいない。
 誰を思っているのか――それは某にはわからない。
 だが、その思いの果てが幸福であるか否かは、否、と某は思う。
 しかしながら、それは某が決める事ではない。
 聞きとれない位、小さな声で呟いたのは――お嬢、という言葉。
 泣きそうに顔を歪め、固く拳を握るガルフだったが、結局ガルフは泣く事は無かった。
 某がいなかったら、泣いていたのかもしれない、泣かなかったのかもしれない。
 それは、某にはわからなかった。

●そして……
「雨、止んだな――そろそろ行くぞ、淨黒」
 ガルフは雨がやむまで洞窟の入り口で立ち続け、毛布の意味も無い程に濡れている。
 それを乗せるのは、某なのだが……今更言っても仕方があるまい。
 のそり、と起きあがり、洞窟の外に出ては翼を広げる。
 ガルフが背に乗って来るのが、感覚で分かった。
「よし、行こう」
 ガルフといると振り回されるし、尻ぬぐいも大変である。
 だが、某はこの不思議な主が嫌いではない。
 そして某は翼を広げる、ガルフの行きたい場所へ向かう為に。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia5417 / ガルフ・ガルグウォード / 男性 / 19 / シノビ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ガルフ・ガルグウォード様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

ラブクラフトを気にいって頂いているようで、ありがとうございます。
以前、切ない感じと御座いましたのでそのような感じが好みかな、と思いつつ。
淨黒様に語って頂くとの事で、彼の視点のみでの展開になっております。
四季の移り変わりと、そして淨黒様の変化などをお楽しみいただければ幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年06月11日

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