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『■美しき華と蝶 』
レイシア・ティラミス(ib0127)&フィリー・N・ヴァラハ(ib0445)

●某月某日

 今日は雲ひとつ無い快晴。抜けるような青い空の元、プロレス団体【DTS】と書かれている銀色のライトバンに、
 2人の女性……レイシア・ティラミス(ib0127)とフィリー・N・ヴァラハ(ib0445)は乗り込んだ。
「レイ、おっはよ〜。今日も試合頑張ろう〜」
「勿論よ。コンビ交代の手筈や、連携について考えましょ」
 2人は早速、今日の予定表を広げ始めると、会場の入場や花道などを確認する。
 全体的に『興行』としての意味合いが強い試合展開を求められているのだとしても、彼女たちのプロレスへ向ける熱意は強い。
 そしてDTSは、そんな胸に情熱を秘めるレスラーにとって働きやすい環境――競技性のある試合展開・華のある技を持つ選手を多く抱える団体だ。
 そういった理由もあって、DTSはスポーツ関連メディアに取り上げられることも多く、今日も多くの報道陣がやってくるだろう。
 今日は2人の大事な試合があるというのもあり、気合も十分。

 そんな時だった。
 突如、運転手が悲鳴をあげて急ブレーキを踏む。
「うわっと……何? どしたの〜?」
 前のめりになりつつも、シートベルトを締めていたお陰で転がることはなかったフィリーは、
 当然ながらやや不満そうな顔で、青くなっている運転手へ尋ねた。
「ディ……『ディアボロ』が……!!」
 いかつい顔をしているくせに、ゲートから現れたばかりのディアボロ達を見て、声を震わせている。
 フィリーとレイシアは表情を引き締め、フロントガラスの向こうを見つめる。
「こんな時に、おいでなすったってわけね……!」
 なんて運が悪いのかしら、とレイシアは言うのだが……それは、自分たちにあてた言葉ではない。
 その意味を理解しているフィリーも、全くだよねと指を鳴らし、レイシアと顔を見合わせる。

『よりによって撃退士の前に現れちゃったなんて、ね?』

 そうして同じ事を考えていたのだと悟ると微笑み、
 2人は示し合わせることもなくほぼ同時にシートベルトを外し、車から飛び出すように降りた。

 眼窩の奥に、鈍く淡い光を灯した白骨の化物……スケルトン。それが数匹、ふらふらと道路を歩いている。
 運良く、ここは人通りも少ないところ。
 見回したところで通行人はおろか、自分たち以外の車は1台も見当たらない。
「被害も皆無? ますますもって好運?」
「ええ、かなりツイてるわ! ただ、観客がいないっていうのが、本当に残念だけど――」
 レイシアは大剣の切っ先を物言わぬ敵へ向け、声高らかに言い放つ。
「レイシア・ティラミスは仮の姿……ルインズブレイド、フローベル・アミット! ディアボロ達、大人しく倒されなさい!」
「同じくディバインナイト。撃退士フィオーラ=ジークリンデ・ノイモント・ヴァラハ! 楽しませて頂戴ねッ〜」
 2人は拳を握り、互いの手の甲を軽く合わせると、敵を見据えて構えた。
「連携も練習できそうだし、ちょうどいいわ。遠慮せずに壊すわよ!」
「おっけ〜! ……じゃあさ、これはどうかな?」
 地を蹴立てたフィリーは、一番近い位置にいるスケルトンへと駆けていく。
 ギギギ、という音でも出しそうなほど重く緩慢な動作で、フィリーに向けて手にしている錆びた剣を振るう。
「そんな遅いの、フィリーさんには当たらないよ〜っ!」
 華麗な動作で横へ避けると、すらりとした脚線美を惜しげもなく魅せつけるように――ハイキックを見舞う。
「まだまだっ!」
 自身も空中へ飛び上がると、浮いた骨っぽい身体を片手で攫み、地面へと力強く叩きつける。
 叩きつけられた瞬間、青緑色の光纏が荒れ狂うように吹き、スケルトンの全身を包む。
 膝から下が衝撃で折れたようだが、あれを食らっても尚カタカタと動いていて、節くれた指でフィリーを掴もうとしてきた。
「およ。結構頑丈みたいだね〜。いいねいいね、技のかけ甲斐があるっ!」
「じゃあ、これはどう!?」
 嬉しそうに骨を引っ張り上げたフィリー。同意するレイシアも満更ではなさそうだ。
 しなやかな筋肉のついている、女性らしい細い腕で強烈なエルボーを食らわせ、首を軸にしてぐるんと回って倒れる骸骨。
 その指で押しても折れそうな鎖骨へ剣先を容赦無く突き入れる。

 脛骨はぽきりと折れ、ころころと転がる頭蓋。駆け寄ったレイシアはそれを気合と共に大剣を振り下ろして両断する。
 サッカーボールキックでも良かったが、どこかに飛んで行かれては探さなくてはいけなかったので確実にとどめを刺した。
 
「フィリー! 次はツープラトンでキメてみるわよ!」
「おっけ〜!!」
 フィリーが近づいてきた一匹に向かって走ると、正面から相手の胴に組み付きつつも大開脚し、
 骨が剥き出しの首(まぁ骨しかないのだが)を挟み込む。
 豊満な胸も向こう側が見通せる細い体に押し付けられて、頭蓋は太腿に埋まる状態……相手が人間であれば、さぞ羨ましいと思ったであろう。
 しかし、ただの骨であるので、あまり羨ましくは見えない……というか、なんだか勿体ない。
 フィリーは自身の胴を振り子のようにぐるりと一回転させる。
「レイ!」
 その体勢から上半身を起こしつつ遠心力と身体のばねを使い、一気にレイシアのほうへと骨の身体を投げた。
「せいやあっ!」
 レイシアはそのスケルトンへ、すれ違いざま膝を当て、なおかつ身をひねると、華奢な背中へ延髄蹴りも見舞う。
 彼女の攻撃の度、光纏が吹きすさび、光の帯を作る。
 軽そうに見えるレイシアの打撃は実は重く、打たれた衝撃にディアボロの肋骨は砕け、背骨が『く』の字に曲がりながら崩れ落ちる白骨。
 まだ動こうともがく白骨の頭を、高く上げた位置からの踵で容赦なく割った。
「さぁ、次に3カウントを聞きたいのは誰!?」
 手のひらを上にして『来い』と挑発したレイシアだが、時計を見やって残念そうな顔をする。
「ああ、もう……時間が押してきたみたい。そろそろ、終わりにするわよっ!」
 残念そうに呟いたレイシアは剣を握り、眼前に迫ったスケルトンの武器――赤銅色に錆びついた剣を顔の前で受け止めた。
「せぇえいっ!」
 光を纏い輝きながら、レイシアの剣は骨の細い腕ごと相手の剣を両断し、袈裟に振り下ろす。
 身体がスカスカのせいで切りごたえというものはさほど感じることは出来なかったが、
 斜めに美しく入った剣筋を見るのには丁度よかった。
「フィリー!」 
「うん、そろそろフィニッシュといくよ〜!」
 腕をぐるぐると回した後で光纏をたなびかせながら、フィリーは今しがた切り払われ、起き上がろうとする白骨へ走る。
 彼女の後を追うように疾る、長く続いている青緑色の光纏は、まるで青龍の姿を思わせた。
「『ファオスト・ノルトリヒト』!! 有るべき場所に還れ!」
 スケルトンの身体へと打撃を数発浴びせかけ、最後の一撃は思い切り叩き上げる!
 空中に跳ね上げられたスケルトンを、同じく跳躍したレイシアが掴んだ。
 迫りくる死の予感を嗅ぎ取ったか、カタカタと顎を鳴らすスケルトンに黙りなさいと一喝して――
「悪しき心と存在よ……、砕け散りなさいっ! アイアン……クローッ!!」
 光纏を散らし、技の名を叫びながら指に力を入れてスケルトンの頭部を砕く
 砕ける瞬間、光纏がひと際大きく噴出し、風にたなびく様はまるでオーロラのようだった。

 着地し、ぱらぱらと降る骨を嫌そうに身体から払いのけ、レイシアとフィリーはハイタッチを交わす。
 
「片付いたわね」
「結構楽しかった〜」
 さらさらと風化していく骨をつま先で蹴って、周囲の様子を伺う。
 見通しの良い場所なだけに、周りに敵の姿や気配がないというのも容易に判明した。

「もう大丈夫だね〜……じゃ、あたし達も出発しようか。
お客さんも集まってるだろうし、遅刻はできないよ〜?」
 あったりまえじゃない、と元気よく言ったレイシアは、フィリーに『今日の試合も期待してるわよ』と笑いかける。
「まだ今日の試合運びも話し合ってないし、スケルトンは準備運動程度にしかならなかったし。はぁ、時間が足りないわ」
 実はしっかり者で真面目なレイシア。頭の中で素早くタイムスケジュールを計算し、
 いろいろ妥協せざるを得ないことが多く出てしまったので軽く頭を振って――どう組み立てなおすかを思案したようだった。

「大丈夫だよっ。撃退もタッグも、フィリーさんに――お任せだよ!」
 ぱっちん、とウィンクをしたフィリーに、朗らかな笑みを見せたレイシアは肩を並べて車へと向かっていった。


-END-

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登場人物一覧

【ib0127 / レイシア・ティラミス / 女性 / 外見年齢23歳 / 騎士】
【ib0445 / フィリー・N・ヴァラハ / 女性 / 外見年齢24歳 / 騎士】

■ライターより

今回はご発注ありがとうございました!
DのキャラでEの世界観というご用命でしたが、娘さんや戦い方など
何か「あら?」というところなどございましたら、ご遠慮なくお申し付けくださいませ。
少しでも娘さんたち本来のイメージに近ければいいなと思います……! ドキドキ。
可愛いかっこいい娘さんたちを預からせて頂きまして、ありがとうございましたっ!!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
藤城とーま クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年06月21日

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