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『〜絶望との対峙〜 』
来生・十四郎0883)&来生・億人(5850)&(登場しない)


 今にも鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌な顔で、来生億人(きすぎ・おくと)は朽ち果てる寸前の廃墟のようなアパートの一室から足を踏み出した。
 悪魔にとって、人間の負の感情ほど美味なものはない。
 今回のこれは実験のおまけのようなものだが、思ったよりずっと素晴らしい味になった。
 だが、味わえば味わうほど、もっと上等のものがほしくなる。
(もうちょい熟れるくらいの時間はありそうやなぁ…)
 欲望は尽きなかった。
 そんなことを考えながら外に出て、ふと目を上げると、ずいぶん前に立ち去ったはずの人物がそこに立ちはだかっている。
「何や、そこにおったんか。立ち聞きとは、ええ趣味やなぁ」
 たいして驚きもせず、目の前に膨大な怒りをまとって立つ彼――来生十四郎(きすぎ・としろう)に、億人はあっさりとそう言った。
 十四郎は無言で、底冷えのする青い炎を目の奥にともしたまま、億人をにらみつけた。
 それから痩せている割にはそれなりに筋肉のついている右腕を伸ばし、億人の襟首を中身ごとにぎりつぶす勢いでつかんだまま、錆びついた階段を降り、アパートの敷地から少し離れたところまで力づくで引きずって行った。
 自分の部屋が完全に視界の外に消えたのを見て、十四郎は物でも投げ捨てるかのように無造作に、億人を解放した。
「今の話、本当なのか?」
 押し殺した声で、十四郎は億人に尋ねた。
「どうなんだよ!」
 億人はにこにこと笑いながらそれに答えた。
「ホンマか嘘か、自分の体に聞いたらどないや」
 ダンッ、と激しい音がし、億人は路地のブロック塀にたたきつけられた。
 十四郎はその胸倉をわしづかみにして、億人をにらみ上げる。
 痛みも衝撃も全然なかったかのように笑みを顔に貼りつけたまま、億人は口を開いた。
「今までその『力』に助けられたこと、ぎょうさんあるんちゃうか? 大丈夫や、お前は立派に『人間』から外れとるわ」
 十四郎は何も言わず、ただギリギリと億人を締め上げる。
 反論しないのは、できないのか、それとも認めたくないのか。
 億人の唇が三日月を刻んだ。
 そんなに知りたいというのなら、さらに絶望の贈り物をくれてやる。
「ほな教えたる。お前の素になった兵器な、俺の体の一部を素材に使てんねん。言うてみたら、お前は俺の模造品や」
「何、だと…てめえ…どこまで俺たち一家を利用しやがるつもりだ!」
 十四郎は鬼のような形相で、億人に詰め寄った。
 壁に押し付けられ、尋常ならざるものすごい腕力につぶされそうになりながらも、まだ億人はへらへらと笑っていた。
「利用? 俺はお前の父親に協力したったんや、お前かて俺がおらなんだらこの世におらん。存在するのんが嫌やったら、たった今この場で消滅させたろか?」
 まるで明日の天気でも話すかのように、億人の口調は軽かった。
 億人にとっては、仮に相手が「本物の人間」だったとしても、空気より軽い気持ちで、この世から、ぽんっと消滅させてしまうだろう。
 無論そこに後悔などという面倒な心理は生まれない。
 すぐにそのこと自体をきれいさっぱりと忘れて、億人はきっと今夜の夕飯のことでも考え始めるはずだ。
 ある種の本能的な恐怖を覚えて、十四郎は億人の胸倉から手を離した。
「安心せえ、今のは嘘や」
 あっけらかんと言って、億人は頭の後ろで手を組んだ。
「ここまで育って擬態が成功したんはお前だけや。No.8…アレはお気に入りやったらしいけど、融合に失敗して生まれて2年と持たんかった。お前もよう知っとるよなぁ? いろいろと嗅ぎまわっとったようやし」
 完全に他人事といったような口ぶりで、億人は十四郎に残酷な事実を告げる。
 正直、億人にとっては十四郎の生死はどうでもいいのだ。
 この実験は成功と言えるし、経過も十分見届けた。
 あとはかけらを回収すればいいだけの話だった。
「ま、お前には良かったんちゃうの。俺には傑作でも、父親はお前を出来損ない言うとったし。No.8が生きとったら、お前はとっくに父親に見捨てられとったわ」
『出来損ない』と億人が口にした時、十四郎は大きく瞳を揺らした。
 それを見て、億人がまた笑顔になる。
 兄といい、十四郎といい、悲嘆の底に突き落とされた者の感情は、極上の味がする。
 まあ、十四郎のは、「感情」と呼んでいいかどうか、疑問ではあるが。
 ぎゅっと、相手の発した言葉に全身で耐えるように握っていた右こぶしを思いきり前に突き出し、億人を壁に再度たたきつけると、十四郎はいつもより若干足早にアパートの方に歩いて行った。
 その背中を壁に背を預けたまま、億人は見送る。
 徐々にその顔から笑顔が剥がれ落ちた。
「魂のない人形風情が」
 吐き捨てられた低い声が地を這う。
 しかしすぐにいつもの飄々とした表情に戻ると、たった今思い出したかのようにこうつぶやいた。
「俺も、そろそろ地獄に戻る準備せなアカンな」

〜END〜


 いつもご依頼、誠にありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。
 
 真実の全貌が見えてきましたが、
 ご兄弟がどういう未来を選択するのか、
 また、億人さんにどうあらがっていくのか、
 固唾を飲んで見守っています…。

 それではまた未来のお話を綴る機会がありましたら、
 とても光栄です!
 この度はご依頼、
 本当にありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2012年06月22日

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