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『祝福の鐘 』
ラサ・ジェネシス(gc2273)

その教会はひっそりと人気のない場所に建っていた。
いや、元教会――と言った方が正しいのかもしれない。
今ではこの教会で挙式を行う者などおらず、建物は朽ち果てているのだから。
だけど、そんな教会に1つの噂話があった。

『教会に願いの紙を届ければ、その願いは必ず叶う』

誰が言い始めたのかわからないけれど、人から人へ伝わり、この教会を訪れる者が増えつつあるらしい。
願いが叶うならば、帰り際に祝福するように鐘が鳴り響くのだという。

人気もなく、夜に訪れれば不気味ささえ感じる教会にあなたは何を願いますか?

視点→ラサ・ジェネシス

(まさか、鵺殿からお誘いを受けるとは思わなかったのダ‥‥!)
 朝も早い時間からラサ・ジェネシスはドキドキと胸を高鳴らせながら自分の姿を鏡で再確認していた。
 なぜラサがこんなにも胸を高鳴らせているのか、それは昨日の夕方過ぎに彼女の恋人である鵺からかかってきた電話が原因だった。
(教会に行きましょう、だなんて鵺殿突然すぎて我輩どうにかなってしまいそうなのダ!)
 頬に手を当て、色々な想像(妄想)を膨らませるラサを止める人物は今存在しない。
(もしかして突然結婚!? いやいやまだプロポーズもされてないし‥‥いや、この場合は我輩がプロポーズをするべきなのか?)
(しかしそうなると婚約指輪は我輩の方で用意するべきなのだろうカ‥‥!?)
 ラサの恋人である鵺はオカマという他の男性とは違い変わりすぎている人物であり、普通の恋人同士のように考えて良いものか、とラサは昨夜から頭を悩ませ続けていた。
(まぁ、そう言うつもりじゃないのは分かっているんだケド‥‥)
 鵺から教会の場所を聞いた時、ラサも噂を聞いた事がある教会だった。
(教会に願いの紙を届ければ、その願いは必ず叶う――かァ‥‥)
 ラサ自身も誘おうと悩んでいた所に鵺から誘いがあったものだから、テンションをあげるなという方が無理である。
(ハッ、もうこんな時間ダ‥‥! 愛しのマイダーリン鵺殿を待たせるわけにはいかない!)
 最後に鏡で洋服のチェックをした後、ラサは慌ただしく自宅から出て、鵺との待ち合わせ場所まで向かい始めたのだった。

「あらあら、何か凄く疲れてるみたいだけど大丈夫ぅ?」
 鵺が来る前に辿り着かねば、という執念でラサは先に待ち合わせ場所まで到着した――が、全力で走ったためか、まだ何も始まっていない状況であるにも関わらず、やや燃料切れを起こしかけていた。
「ラサちゃんの事だから、どうせアタシより先に〜とか考えてたんでしょ〜? 女の子は遅れてくるものだから気にしなくてもいいのにぃ」
 いつもなら派手な服装なのだが、今日の鵺は白を基調とした服装だった。
(おぉ、なんかイケメンすぎて眩しい‥‥!)
「ちょっとー? ラサちゃん? どこかにトリップしてない?」
 ぼーっとし始めてしまったラサの前で手を振りながら鵺が苦笑気味に言葉を投げかける。
「それにしても大荷物ねぇ。何を持ってきたの?」
「あ、鵺殿が言っていた教会の話は我輩も聞いていたノデ、掃除でもしようか思って‥‥」
「まぁ、ラサちゃんって良い子だけど‥‥色気がないわねぇ」
「い、イロケ!?」
「まさかデートに掃除道具を持って来られるなんて、予想外すぎてビックリしちゃったわ」
「はっ‥‥」
鵺に言われて、初めてラサは自分がデートに似つかわしくない事をしたのだと悟った。
「でも」
だけど、鵺は優しく微笑みながらラサの頭に手を置く。
「そういう優しくて可愛い所が好きなのよね、アタシ」
(す、す‥‥スキ‥‥)
「ほら、早く行きましょうか。あんまり遅くなると暗くなっちゃって掃除も出来なくなっちゃうわ」
ラサは差し出された手に自分の手を重ね、教会へと向かい始めた。
 
「‥‥あらぁ、予想以上だわね‥‥」
 噂の教会に辿り着いたのは夕方近くになっており、朽ち果てた教会は神秘さどころか不気味ささえ感じる。
「さ、掃除しちゃいましょうか!」
「え? 鵺殿も?」
「当たり前でしょ? 可愛い彼女だけに掃除を任せるほど亭主関白になるつもりはないわよ」
「‥‥‥ウン!」
 鵺も将来の事を考えてくれている事が嬉しくて、ラサは掃除道具を持って教会の中へと入った。
(元々は素敵な教会だし、修理や掃除をすれば人がまた来るかも‥‥そうなれば、またここで結婚式を挙げる人だって出てくるハズ)
 ついでに掃除をしている自分と鵺にハッピーなご利益でもないかなーと不純な心もあったが、そんな不純ささえ持つ事が許されるくらいにラサは掃除や修理を頑張っていた。

「はぁー、随分と綺麗になったんじゃないかしら?」
 掃除を始めてから数時間後、ラサと鵺はくたくたになって教科の床に座り込んでいた。
「そ、そうデスネ。これくらい綺麗にすればきっと喜んでもらえるんじゃないカト‥‥」
「ふふ、それじゃ本来の目的をしちゃいましょうか」
 鵺がラサに紙とペンを渡し「こっち覗いちゃダメよ♪」と悪戯っぽくラサに言葉を投げかけた。
(我輩の願い‥‥)
 ジッと紙を見つめていたが、ラサの『願い』は最初から決まりきっていた。
(一生鵺殿と一緒にいられますように――とこれでヨシ!)
 願いを紙に書き終わり、ラサが鵺の方にちらりと視線を向けると、まだ鵺は何かを書き続けていた。
(何だろう? 随分と時間がかかってるようナ‥‥)
 恋人として鵺が何を書いているのか気になって仕方ないのか、ラサはそわそわとし始める。
(聞いてもいいのカナ? でもあんまり詮索しすぎるのも‥‥あぁ、いったいどうすれば!)
 悶々と悩み続けている「何してるの?」と鵺から言葉を投げかけられた。
「あっ、ぬ、鵺殿‥‥」
「この紙ってどうすればいいのかしら? 教会に置いていくの?」
「あ、紙は自分で持ち帰ってもいいし置いていってもいいと聞いたようナ?」
「ふぅん、それじゃお互いの願いを交換しちゃいましょうか?」
「えっ!」
 突然すぎる鵺の提案にラサは思いっきり声が裏返ってしまう。
(ど、どうしよう‥‥)
 考えを巡らせて悩んでいると「あ、無理にとは言わないからいいのよ」と鵺の残念そうな声が聞こえてくる。
「い、嫌とかじゃないデス! これが我輩の願いデス!」
 バッと紙を鵺に渡し、鵺から彼の願いが書かれた紙を受け取る。
「‥‥え」
 交換しようなんて言うくらいだから、自分の事など書かれていないんだとがっくりと項垂れていたラサだったが、紙を見て目を丸く見開いた。
(ラサちゃんと一緒にいられますように。ラサちゃんと幸せになれますように。家族の事とか全部終わらせてからラサちゃんと結婚できますように)
 小さな紙にびっしりとラサとの将来の事ばかりが書かれていた。
「ぬ、鵺殿ォォォォッ!」
 ぎゅーっと鵺に抱き着き「あらら、大胆ねぇ‥‥」と鵺も照れくさそうに言葉を返してきた。
「はっ、そういえば鵺殿の誕生日が来ていたんだっタ! プレゼントは我輩でどうだろう!」
 大真面目に呟くラサに鵺は大きな声で笑い始めた。
「あははっ、大真面目な顔して何を言うかと思ったら‥‥天然よねぇ」
 ぎゅーっと鵺が強く抱きしめながら、笑いを堪えて呟く。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
 ラサと鵺は手を繋ぎながらすっかり綺麗になった教会を後にした。
 教会から二人の姿が見えなくなった頃、これからの二人を祝福するかのように澄み渡る鐘の音が響いていた。


―― 登場人物 ――

gc2273/ラサ・ジェネシス/16歳/女性/イェーガー

gz0250/鵺/26歳/男性/エキスパート

――――――――――

ラサ・ジェネシス様

こんにちは、いつもご発注いただきありがとうございます!
今回のジューンブライドノベルの方はいかがだったでしょうか?
鬼甘とのご指定でしたが、ご希望に添えている内容になっている事を祈ります‥‥!

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2012/6/25
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2012年06月26日

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