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『学びの庭に訪れて 』
最上 憐 (gb0002)

●序
 カンパネラ学園――傭兵達の学び舎。エミタ適合者には歳若い者が多く、就学期間中の少年少女も少なからずいる。彼らの学ぶ権利を尊重し補足教育の一環として設立したのがカンパネラ学園である。
 いまや宇宙要塞の名でもあるカンパネラ、校舎を宇宙要塞としたカンパネラは地上に分校を残している。学業優先の者、いまだ前線に出るには至らぬ者――理由は多々あれ、皆等しく学ぶ者達であった。

 これは分校――グリーンランドのカンパネラ学園でのごく平凡な一日の話。

●聴講の日
 講義棟の廊下を赤いリボンが揺れてゆく。
 あどけない小柄な身体、色白の肌に銀の髪、大きなリボンを付けた愛らしい姿。
 午前の学園内を移動している最上 憐(gb0002)もまた、エミタをその身に宿した能力者だ。

「あ、師匠♪」
 聞き覚えのある声に、赤いリボンの動きが止まった。
 廊下の向こうから駆けて来た高城 ソニア(gz0347)を見つけた。ぱたぱた走って来るソニアの足元が何とも危なっかしい――あ、こけた。
「‥‥ん。ソニア。大丈夫?」
「あ‥‥はい、慣れてます」
 転び慣れているらしく、周囲も慣れたもので落ち着いたものだ。憐の手を取って起き上がったソニアは、ぺたんと座り込んだまま憐に問うた。
「この時間に師匠がいらっしゃるなんて‥‥依頼帰りですか?」
 一般校の学食とは異なり、傭兵を抱えるカンパネラの学食はほぼ年中無休で開いている。憐と言えば学食、午前中から彼女の姿を見かけてソニアは依頼帰りかと思ったのだが。
「‥‥ん。依頼が。無いので。遊びに‥‥ではなく。授業を受けに来たよ」
「師匠が‥‥授業、ですか?」
 ソニアはきょとんとした。
 自分よりもずっと経験豊富で、言葉の端々に大人びた一面も持つあどけないなりの少女――ソニアが憐を師匠と呼ぶのは酔狂や冗談などの渾名ではない。傭兵として必要な知識を教えて貰った憐に対するソニアなりの敬意だ。
 その師匠が学びに来たという。確かに見た目は初等部の生徒っぽいけれど。
「‥‥ん。へん?」
 いいえとソニアは首を振った。能力者でなければ未だ就学中のはずなのだから。
 しかしながら、憐が講義を受けている図というのがソニアにはどうにも想像し難いものがあるのも事実で。
(そう言えば私、師匠の事あまり知らないのかもしれません‥‥)
「あの‥‥私もご一緒していいですか?」
 目の前の先輩傭兵を見上げ、ソニアは首を傾げて尋ねた。それは純粋な好奇心。どこか大人びた少女の日常を垣間見たい欲求。
 こくりと憐は頷いた。
「‥‥ん。じゃあ。その前に。食堂で。カレー飲んで行こう」

 講義前に軽く一杯。仲良く二人が向かった講義は、宇宙物理学の初歩を扱った講座だ。
「うぅ‥‥私は苦手なんですが、師匠は得意なんですか?」
 理数系全般、殊にSFの要素を含むジャンル全般に苦手意識があるソニアは渋い顔をして憐を見た。平気な顔をして憐は言う。
「‥‥ん。依頼で覚えたのは。何となくわかる」
 経験に勝る知識なし、という訳だ。
 隅の方に席を取った二人は大人しく聴講を始めた。ちんぷんかんぷんの17歳を他所に、経験を理解に絡められる10歳は小さく頷きながら聞いている。
(さすが師匠です‥‥)
 歳の差など関係なくソニアは尊敬の視線を向けて憐を見遣った――おや、プリントに食べ物の落書きが。
「‥‥ん。あと10分だね」
 講義終了時間ではない。購買のカレーパンが売り出される時間まで、あと10分。
 小柄な体格を生かし憐は行動を開始した。頭のリボンを取って机の上に置くと、そっと講義室を抜けて行った。
(確かに分かり難いですね‥‥)
 ソニアは思った。残された机上のリボンは大人用の椅子に座った幼い少女が頭を覗かせているように見えなくもない。否、教卓からならそのように見えるだろう。
 だけど――
(もし当てられたらどうしましょう‥‥)
 憐の代わりに答えられるか、それが難問だった。

●腹八分目
 幸い指名はされず、無事に講義を遣り過ごして教室を出たソニアの前に待っているカレーパンの山。
「‥‥ん。今日も。大漁大漁」
 山盛カレーパンの向こうから声がするのはいつもの事だ。今日もカレーパンを残らず確保してきた憐は慣れた足取りで学食へ向かった。空いているテーブルを的確に見つけて、そこへカレーパンを広げる。前菜の始まりだ。
「今日も全勝でしたか?」
「‥‥ん。もちろん」
 事も無げに返して、憐は次々と袋を破ってはカレーパンを胃へと収めてゆく。
 その健啖振りを眺めていたソニアは、師匠はやっぱり不思議な人だと思った。この小さな身体の何処にこれだけのカレーパンを収められるのだろう、ましてこれは前菜な訳で、このあとメインが待っている訳で。
「‥‥ん。ソニア。どうしたの?」
「いえ、師匠のお腹が一向に膨れていないなと‥‥」
 愛らしい服装の何処も窮屈そうにならないのを不思議そうに眺めている。
 気を悪くした風もなく、憐は黙々とカレーパンを平らげていった。もう残りは僅かになっている。
「‥‥ん。昼食は。私の。傭兵としての。力を。全力で。見せる時」
 だから次は、というかそろそろ頃合だ。
 厨房から憐専用の寸胴鍋でカレーが出来上がったのアナウンスが出て、丁度前菜を食べ終わった憐は軽い足取りで受け取りに行った。
 出来たて熱々のカレーは具がごろごろ入っている。
「‥‥ん。そのまま。飲んでも。良いのだけれど」
 寸胴鍋を持ち上げて一気飲みも不可能でないと暗に示しつつ、憐はスープ皿によそってソニアに差し出した。
「‥‥ん。お裾分け」
 自分の分は両手で抱えやすい丼鉢に入れて、いただきますと手を合わせる。まるでラーメンスープであるかのように、一気にカレーを飲み干した。
 大きめジャガイモに苦戦しているソニアを他所に、よそっては飲みよそっては飲みを繰り返している。憐の丼にはライスも入っているはずだが、ジャガイモもものともしない位だから重湯並の感覚なのだろう。
「‥‥ん。食べておかないと。午後からが大変だよ?」
 喉に具がつかえて涙目になっているソニアに不慣れなら潰してもいいよとアドバイスして、また一杯。あっという間に寸胴鍋は空っぽになった。
「‥‥ん。少し。食べたりないけれど。授業の前は腹八分目」
 すっかり空になった寸胴鍋を厨房の返却口に返して、憐はソニアを連れて次の講義を受けに向かった。

●買い食いはお約束
 ところで、傭兵は性別はもとより年齢も国籍も様々だ。日本のように教育制度が確立された国もあれば、幼少期に充分な教育を受けられる環境にない国も存在する。昨今はバグア来襲により落ち着いて就学できない環境にある層も少なからず存在する。能力者となった者達も就学困難は例外ではなかったから、年齢に関わらず様々な年齢帯の傭兵達がカンパネラ学園へ聴講に訪れていた。

 そんな事情から、7歳差の憐とソニアが机を並べていても不審に思う者はいない。午後の講義は歴史――日本の歴史だ。
「‥‥ん。ソニア。コレは。何て読むの?」
 モニターに映し出された人名は暗号みたいだ。こそりと読みを耳打ちした本の虫は、江戸時代の料理本を出版した人だと補足した。
「‥‥ん。学園の。図書館にも。あるかな?」
「きっとあると思いますよ。あとで探しに行ってみましょうか」
 そんな事を耳打ちしつつ、江戸時代の風俗を学ぶ二人。
 意外とグルメが多かった江戸時代に思いを馳せて、家庭科実習室で当時の食を再現――できれば良かったのだが、最後の講義は化学実験室だ。
「‥‥じ、実験も料理みたいなものですよね」
 そう言う割に腰が引けている、ソニアが左右の手に持っている薬剤は――憐は片方を取り上げて言った。
「‥‥ん。コレと。ソレは。混ぜると。爆発するよ」
「ば、くはつ!?」
「‥‥ん。コレが。違うね。だから。爆発」
 不穏な声に学生達が振り返る。皆が持っている薬剤は憐が持っているのと違う薬剤だ。憐は凹むソニアをぽふぽふ。
「‥‥ん。爆発。しなかった。おっけーおっけー」

 うっかりによる化学実験室爆破は阻止されての放課後、憐は両腕一杯に食べ物を抱えて中庭を歩いていた。
「‥‥ん。放課後。オヤツ。買い食いの時間だね」
 菓子屋は勿論、ファーストフードのテイクアウトに肉屋のコロッケまである。大きな紙袋から取り出した肉まんを頬張って、憐は横を歩くソニアを見た。
「‥‥師匠?」
「‥‥学園生活。割と。楽しいね」
 首を傾げたソニアに憐は微笑して言った。
 食事の合間の腹ごなし――今の戦いが終わったら学園に通うのも良いかもしれない。そう思った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gb0002 / 最上 憐 / 女 / 10 / 学食も学園も好きな傭兵少女】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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周利でございます。この度はご申請ありがとうございました。
ソニアご指名にも感謝を‥‥常より大変お世話になっておりまして、ありがとうございます!

さて‥‥学園での1日をお送りさせていただきました。
聴講、だけど食事シーンは外せない! 何故か憐さん専用寸胴鍋があったりするのはご愛嬌、なのです。
放課後、肉屋でコロッケ買い食いするのはお約束ですよね♪
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年07月06日

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