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『水無月の華 〜ラグナ・グラウシード〜 』
ラグナ・グラウシード(ib8459)

シトシトと落ちる雨。
鬱陶しいばかりのこの季節、けれどそれ以上に心を覆うのは晴れやかな気持ち。

――6月に結婚した花嫁は幸せになれる。

女性なら誰もが憧れる夢のシチュエーション。
叶わないとしても、叶ったとしても、憧れるくらいなら良いですよね……?

貴女と、君と……
――水無月の華の祝福を……。

 * * *

 ライスシャワーを浴びて階段を下りてくる新郎新婦。祝福の声を聞きながら嬉しそうに頬を寄せ合う2人の姿を、遠くから眺めていたラグナ・グラウシード(ib8459)は「くそっ……」と声を零して視線を逸らした。
 教会の鐘が鳴った時に嫌な予感はしたんだ。
 だから足早に通り過ぎようと思っていたのに、タイミング的にピッタリだった。
 届く「おめでとう」の声が、嫌な程に耳に響く。それに栓をするよう足を速めると、ラグナは早々にその場を立ち去った。
 ジルベリアのとある街。そこで依頼を終えた彼は、神楽の都へ戻る前に観光を、そう思っていた。
 久しぶりに大きな街だったんだ。
 依頼自体も非戦闘で、気持ちも懐も和やかな気分でいっぱいだったんだ。
 なのに……
「なんだって、そこ等じゅうでイチャイチャイチャイチャ」
 神楽の都では雨の季節が直前に迫る中、ジルベリアはウェディングベルの鳴る季節になったようだ。
 歩く一歩先では永遠の愛を誓い合う儀式が行われ、祝いの言葉が響き合う。
 人生の最高潮とでも言うのだろうか。嬉しそうに顔を見合わせて、笑顔で祝福を受ける2人のなんと幸せそうなことか。
 ラグナ自身、知らない訳ではなかった。
 この季節がこうした華やかな色に染まることは寧ろ良く知っている。とは言え、まさかここまでアチコチで行われているとは、予想外だった。
「まったく。だからこの季節は、嫌いだ」
 思わず零した声に目が落ちる。
 こうした声を零す事自体が惨めなのだが、まあその辺は彼も承知している筈だ。
 それでも零さずにいられないのは、これまで恋人と呼べる相手が居なかったからだろうか。
 正直、幸せそうな新郎新婦を見ていると、自分が哀れに思えてならない。
「6月の花嫁、か……」
 いつの間にやら街の高台まで来ていた。
 ここは街中に比べたら比較的静かだ。ちょっと背景に厳かな雰囲気の教会があるが、今の所は静まっているし、今日は稼働していないのかもしれない。
 ラグナは安堵の息を零すと、高台から望める街に目を向けて柵に寄り掛かった。
「私だって憧れていない訳ではないんだ。寧ろ、そうしたものが……」
 ジンクスにあやかるつもりはない。
 つもりはないが、6月に結婚した夫婦は幸せになれると言うその言葉には興味があるし、出来る事ならそういった物を実演したいと思っている。
 だが――
「相手がな……」
 重く圧し掛かる空気。
 空は晴れているのに、なんでこんなに心は重いのか。
 ラグナは深々と息を吐くと、柵に向かって項垂れた。
(私の、一体何が悪いのだろう……)
 人一倍結婚に憧れるのに、出会いも無ければ可能性も皆無。何が如何してこうなったのか自分でも不思議だ。
「……くそっ」
 本日何度目の悪態だろう。
 零す度に心の傷が増えている気がするが、もうその辺はどうでもいい。それくらい、気分がやさぐれている。
 ぼんやりと眺める空に、徐々に雲が増えている。さっきまではあんなに天気が良かったのに。
「ひと雨くるか?」
 そう呟いた時、頬に雫が落ちた。
 まるで自分の心のようにポツリ、ポツリと降り注ぐ雨。けっして大きくはない、静かに降り注ぐそれにラグナは目を細める。
「別に、私が悪い訳ではないんだ」
 ぼんやり零す声。
 ここに彼の知り合いがいたら、きっと何かしらのツッコミが入ったに違いない。
 だが幸いな事に、彼の知り合いはここにはいない。つまり、彼の思考は止まる事なく動き続けるわけで……
「そうだ……そうだな、私が悪いんじゃない!」
 いきなり叫んで握り締めた手。
 若干力の入り具合がオカシイが、彼なりに恋人が出来ない理由を見つけたのだろう。
 目を輝かせて前方を見詰める姿は、少しだけ勇ましい。
 だが次の言葉で、その勇ましさは幻へと消えた。
「私に釣り合うような女性がなかなかいないだけなんだ! そうだ、そうに違いない!」
 ……うん。こういった結論に至る辺りが、駄目な気がしないでもない。
 とは言え、彼は本気だ。
 神妙に頷いて「そうだ、そうだ」と納得を繰り返している。
 そもそも、こうやって嘆いている彼の理想とは如何いうものなのか。
「それは勿論。胸が大きくて、美しくて、愛らしく、そして気立てが良く、可愛くて、そんでもって自分を気遣ってくれて、賢くて……」
 ええ、だいたいの理由はわかりました。
 理想を高く持つが故に、理想の相手に出会えない。そんな所なのでしょう。
 そうは言っても、どこまでが本気なのかどうか。
「はあ……理想の女性、その辺に落ちてないだろうか」
 まあ、無理でしょう。
 そうツッコんだ所で、彼の背後で音がした。
 扉が開くような、そんな音。
 ここでラグナの脳裏に嫌な考えが浮かんでくる。
 確かここは街を一望できる高台。
 その中央には厳かな雰囲気の教会があって、街は今結婚式一色。
 つまりこれだけ立地条件の良い場所にある教会が、稼働していないはずがない。
「しまったっ!」
 慌てて振り返るが遅かった。
 開かれた扉から出て来た複数の人。彼等の手には、ライスシャワーとフラワーシャワー用の籠が握られている。
 しかも出て来た人たちが嬉しそうに言葉を交わしている姿は、間違いない。
 そう、これはアレだ、アレ。
 ラグナが現状一番関わりたくないアレ。
「ここも安息の地ではなかったかッ」
 急いで離脱しなければ。
 そう思ったが、足が動かない。
 一刻も早く脱げ出したい状況なのに、何故だか足が動かないのだ。
「まさか、結婚式の呪いか!?」
 プルプルと震え出す体。金縛りの類かとも思ったが、動かないのは脚だけで、腕は十分動く。
 いったい何が。
 そう思って視線を落としたラグナは、彼のズボンを握り締める幼い子供に気付いた。
 いや、ズボンを握り締めるなんて可愛いものじゃない。
 脚にしがみつく様にくっついて離れない子供は、いつの間に引っ付いたのか。
 綺麗なドレスを着ている様子から、結婚式の参列者の誰かが連れてきた子供だろう。
 腕に下げた籠にはライスシャワー用の花も入っているのだから間違いない。
「あー……お嬢さん、離して貰えないか?」
 流石のラグナも、子供を振り払う事は出来ないらしく、動かそうとしていた足を止めると、小さく身を屈めて顔を覗き込んだ。
 だが女の子の顔を覗き込んだ瞬間、ラグナの思考は一瞬停止した。
 金髪のちょっとウェーブ掛かった髪に、くりっと大きな緑の瞳。整った顔が綺麗な女の子に、不謹慎にも息を呑む。
(これは……大きくなったら美人になりそうな……)
 そう、この子は大きくなったらさぞ綺麗になるだろう。そんな雰囲気の女の子だった。とは言え、子供に手を出したら駄目だぞ。
(……そうだな。相手は子供。大きくなるまで待たなければ……)
 いや、そういう意味ではなく……。
 神妙に頷くラグナの真剣さに、ちょっと引きそうだが、まあ、その辺は個人の自由だし、大丈夫と信じよう。
 そもそも、真剣過ぎる姿が悲しい。
「えっと、お嬢さんの名前はなんだ? 良ければお母さんの所まで連れて行ってあげるぞ」
 ここに1人で居るということは親が探しているかもしれない。
 問いかけに、少女は教会の人混みを指差した。
「……やっぱりか」
 自分で散々避けた幸せの輪の中に、この子の親はいる。
 本当ならあの人混みは避けたいところだが、ここは致し方ない。将来の幸せのため、自分のため、そして未来のお義母さんのため。
 傷心のラグナ、一肌脱ぎますっ!
「よし、お母さんの所に連れて行ってあげよう」
 そう言って彼女を抱き上げようとした時、ラグナは凄まじい勢いでその場に突っ伏した。
 いや、その光景は見事なんてものではない。
 顔面から地面に突っ込んだ姿は、滅多に見られない程に豪快で、雨に濡れてる筈の土から土埃が上がる程だった。
「ッ、ぐ……な、何が……」
 突然すぎて状況判断が追いつかない。
 背中にズキズキと走る痛みの他、なんだか重しが乗っかってるみたいに重いのはわかる。
「おい、おまえ!」
 頭の上……いや、これは背中の上からだ。そこから聞こえた甲高い声に、ラグナの視線だけが向かう。
「こいつにさわるんじゃねえ!」
 勇ましく指を突き付ける、タキシード姿の男の子。年の頃は目の前の女の子くらいだろうか。
 彼もあの幸せの輪の一員か。手に握った小さなブーケが可愛らしい。
 だが、やってることは拙いだろ!
「いや、私は別に……ちょっと、お義母さんの所へ……」
「うるさい! ちかんれんちゅうはみんなそういってこいつにちかづくんだ!」
「……ち、痴漢…連中……」
 まったくの下心が無かった訳ではないからか、今の言葉が胸に突き刺さる。
「まったく、おまえもおまえだぞ。こんなやつになんでちかづくんだ!」
 シュタッと地面に降り立った男の子は、少女の手を掴んで歩き出す。
 向かうのはライシャワーとフラワーシャワーに彩られた教会の中央。その姿はなんだか妙に眩しい。
 ラグナは半泣き状態でその姿を見送り、グッと目元を拭った。
「なぜ、こんなことに……」
 そう零して、起き上がる。
 降り続く雨が妙に冷たくて、ラグナは肩を落として歩き出した。
「……私だって、誰かに愛されたい……」
 思わず零した本音。
 徐々に遠ざかる幸せの声を耳に、ラグナは独り寂しく街へ向かう。
 その背が妙に寂しくて、悲哀な雰囲気を醸し出していたのは、言うまでもないだろう。

―――END...




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib8459 /ラグナ・グラウシード / 男 / 19歳 / 騎士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『水無月・祝福のドリームノベル』のご発注、有難うございました。
完成されたプレイングにわたわたしてしまいましたが、こんな感じに仕上がりました。
最後、ラグナPCが可哀想な感じになってますが大丈夫でしょうか?(汗)
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年07月06日

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