▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『謎掛けるモノ――6月の教会を取り戻せ! 』
弓亜 石榴(ga0468)

●危機、ふたたび
 しとしとじめじめ、梅雨明けもまだ先な6月のある日のこと。
 傭兵達の学業施設・カンパネラ学園の図書館には、今日も今日とて傭兵未満の学生能力者・高城ソニア(gz0347)が引き籠もっていた。
「雨の日は、美味しい紅茶を淹れて、ゆったり読書に限りますね‥‥」
 そんな事を独りごちながら、文学棚の全集に手を伸ばす――と、その時。
「「ソニアさん、ソニアさん」」
 何だか呼ばれたような気がした。何だか以前にもあったような気がする。
(まさかと思いますが‥‥)
 嫌な予感に苛まれて、ソニアはそっと制服のスカートを押さえ込むと、その場にしゃがみ込んだ。そのままの姿勢で首を巡らせ辺りを注意深く観察すると――いた。
「ソニアさん、こんにちは」
 足元でわらわらしていた饅頭頭の兵隊達の中の誰かが挨拶の言葉を口にした途端、饅頭達は一斉に敬礼した――嗚呼、やっぱり。

 人通りの少ない文学棚の片隅に小さな饅頭兵士達を押し込んで、ソニアは膝を抱えて彼らに向かい合った。
「「お久し振りですね、ソニアさん」」
「「お元気でしたか、ソニアさん」」
「おかげさまで。皆さんもお元気でしたか?」
 口々に再会を喜ぶ饅頭兵士達は何処か愛嬌があって可愛らしい。ソニアはにこにこ反応しながらも、しつこいくらいスカートを押さえ込んでいる。鉄壁の構えだ――というのも、兵士の中にはカメラ小僧もいるからで。
「ソニアさーん、そんなに不自然にスカートを押さえては、風情がないですよ!」
「そーですそーです。ぱんちらちゃんすが台無しです!」
「‥‥それが困るんですってば!!」
 頑なにスカートを押さえ込むソニア。ただでさえ覗かれやすい身長差なのに、饅頭兵士達ときたら各々デジカメ持参で事あるごとに恥ずかしい写真のシャッターチャンスを狙っているのだ。そんなのを許したら二度と表を出歩けなくなってしまう。
 ともあれ彼らが来たという事は、不思議の国に何らかの問題が発生したという事だろう。
「皆さん、整列! 端から順番に一言ずつ発言を許可します!」
 さすがお城の兵隊達。びしっと綺麗に整列すると、順序良く事の次第を説明し始めた。以下、要約。

「最近、不思議の国の教会に怪物が居座っているのです!」
「すごく怪物なのです!」
「怪物が謎掛けを挑んで来て、答えられないと追い返してしまうのです!」
「誰も謎を解いた人がいないのです‥‥」
「あの怪物をとっちめて、教会を取り戻してください!」

 ギリシャ神話のスフィンクスのような状態で教会に居座っているらしい。その結果、誰も教会に入れずに挙式が滞ってしまい困っているのだとか。
 武力には自信がないけれど謎掛けならば何とかなるかもしれない。一縷の希望を持ってソニアはどんな謎なのかと尋ねた。
「『それは丸く時を刻むが、それを見られたとき、時を刻むことを止めてしまう。それは何だ?』です!」
 難問だった。咄嗟に思いつかないくらいに難しい問題だ。
 正答を得られれば、怪物は神話のスフィンクスよろしく倒せるかもしれない。でも誤答であれば、良くて追放最悪補食だ。
「わかりますか? ソニアさん?」
「う〜 難しいですね‥‥時を刻む‥‥時計関係かしら? 丸く刻む‥‥饅頭兵士さん達の頭も丸いですね‥‥」
 ぶつぶつ答えを繰っていると、饅頭兵士達は彼らだけで集まって会議中。
「あの怪物は、何故教会でカップルを追い払っているのでしょう?」
「「うーん」」
「そうだ! あの何とも言い難い容貌だけに『悲狸亜獣』という種族なのかもしれません!」
「そうだそうだ!!」
 だったら、と兵士達の意見が一致した。

「「「答えが解らなければ、ソニアさんにウェディングドレスを着せて、ぱんちら写真撮って、悲狸亜獣を説得すればいい!!」」」

 ――今何か余計な行動がひとつ入っていませんでしたか?
 というのはともかく、ソニアは戦慄した。
「嫌ですよ! 結婚したい相手がいない内にウェディングドレスを着たりなんてしたら、お嫁にいけなくなっちゃいます!」
「「だから悲狸亜獣のお嫁さんに」」
「お断りしますー!!」

 かくして、己の貞操を守る為、ソニアは難問に挑む事になってしまったのだ。

●正答は如何に
 さて、不思議の国へ渡った彼らは森の小さな教会へ向かった。饅頭兵士達は何故か、赤や青や黄色の衣装に着替えている。
「ソニアさんもウェディングドレス着ましょうよ」
「遠慮しておきます」
 丁重にお断りしたものの、作戦に失敗すれば着せられてしまう訳で。用意して来たアイテム類が入ったバッグを抱え、ソニアは謎の正答と事前準備が効果を発揮している事を願った。
 木々の向こうに教会の屋根が見える。入口を塞ぐように大きなケモノが鎮座していた。
「‥‥あれですね。皆さん、私が答えを言ったらよろしくお願いします」
「「了解です! ご健闘をー!!」」
 白いドレスをポンポン代わりに、饅頭兵士達はソニアを送り出した。

 カンパネラ学園の制服を着た少女が、しずしずと歩みを進めてゆく。
 ケモノは近付く少女を認めて瞼を開けた。すらりとした脚が美しい、内気で大人しやかな少女だ。一人きり、挙式のカップルではなさそうだが――
「こんにちは」
 ソニアが言った。人語を解するのかしらと一瞬思ったが、謎掛けするくらいだから挨拶だってわかるだろう。
『‥‥‥‥』
 ケモノは黙っている。だけど挨拶の言葉は理解しているようで、居ずまいを正したケモノはソニアに向き直った。ぶわりと動いた風が獣臭い。
 生臭い息をまともに被った格好になったソニアだが勇気を振り絞った。大丈夫、森には饅頭兵士達と加勢が待機している――はず。
「あの、お願いがあって来ました」
『‥‥‥‥』
「教会から‥‥ここから立ち退いて――」

『それは丸く時を刻むが、それを見られたとき、時を刻むことを止めてしまう。それは何だ?』

 ――来た。ソニアは獣臭もお構いなしで思いっきり息を吸い込むと、抱えていたバッグの中身をぶちまけて叫んだ。
「猫の瞳!!」

 葉付きの枝を細かく切ったのを投げつけられて、ケモノは咄嗟に前脚で防御した。同時に饅頭兵士達が待機している方角から小さな軍勢が突進して来た!
 茶トラにキジトラ、黒に白――色かたち様々な猫達が饅頭兵士を背に乗せて、大群で押し寄せて来る。ソニアが投げたのはマタタビだったのだ。
「丸から楕円へ、糸のように細くもなる――光に反応して大きさを変える猫の瞳が答えです!」
 びしぃっと指さしてソニアは宣言した。

「「ソニアさーん! 助けてくださーい!!」」
 マタタビに我を忘れた猫達にしがみ付くのが精一杯の饅頭兵士達は、猫達に翻弄されっ放しだ。ソニアが誰にも聞こえないくらいの小声で「‥‥多分」と付け加えたのなんて聞こえてやしなかった。
 正答はケモノしか知らない。そのケモノは体毛にマタタビを潜り込ませて、猫達に追われて森の奥へと消えてしまったから正否の判定もできない。ついでに饅頭兵士達も猫に乗っかったまま行ってしまった――けれど。
「まあ、いいですよ‥‥ね?」
 教会に居座るケモノを追い払うというミッションはクリアした訳で――とりあえずは一件落着?

●一難去って‥‥
 それにしても。
「饅頭兵士さん達と逢うと、何故かお饅頭が食べたくなるんですよね‥‥お茶を淹れ直しましょう」
 学園に戻って来たソニアは購買で小粒の蒸饅頭を買って、ほうじ茶を淹れ直した。図書館で借りてきた本を傍らに、再び彼女の日常に戻った――はずだったのだが。

「「ソニアさん、ソニアさん!」」
「「ひどいじゃないですか、ソニアさん!!」」
 蒸饅頭達が一斉に喋り出した。むくむくと手足が生えて衛兵服を着た――饅頭兵士だ!

「大変だったんですからね!」
「ケモノは追い払えましたが、私達も迷子になってしまったんですよ!」
「猫達は酔っ払って頼りにならないし!」
「先に帰っちゃうなんて、酷いじゃないですか!」
「「「この埋め合わせは‥‥‥‥!!」」」

「ちょっと待って、それはダメー!!」

 フラッシュの光の中で何が起こったか、それはソニアと饅頭兵士達だけの秘密――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ga0468 / 弓亜 石榴 / 女 / 15 / 饅頭兵士ズ 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
周利でございます。この度はご申請ありがとうございました。
いつもソニアと懇意にしていただきましてありがとうございます。
饅頭兵士さん達との掛けあい、楽しく書かせていただきました。

『時を丸く刻み、見られると刻む事を止めてしまうもの』
難問でした。天秤の片側にソニアの貞操を賭けて挑む、非常に難問なお題でした。
周利なりの答えを提示してみましたが、実際のところ正答は何だったのでしょう‥‥ね?
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年07月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.