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『晴れたる朝に。〜ささやかな門出 』
七市 一信(gb5015)

 窓の外、晴れ晴れと澄み渡る空を、見上げた。雲一つない空は、見上げただけでも気持ち良い。
 その空の下で、七市 一信(gb5015)はしみじみと今日という日を迎えられた幸福を噛み締めていた。
 今日の一信の装いは、いつものパンダの着ぐるみではなくて、白と黒のきりりとしたタキシード。髪もきっちりと整えられて、胸のポケットからちらりと見えるハンカチーフが爽やかだ。
 こんな改まった装いをすれば、否が応にも気持ちが引き締まろうというもの。ましてこんな特別な日ならば尚更かもしれないと、窓の外から控え室の中へと視線を戻し、一信は胸のうちで呟いた。
 今日はとても、とても特別な日。最愛の人と生涯を共にする誓いを立てる、特別な始まりの日。
 もちろん改めて誓いなんて立てなくても、一信が彼女と生涯を共にしようと心に決めていることは変わらない。けれどもやっぱり、結婚式というのは誰にとっても特別なものだから。
 やっとこの日を迎えられたことを、その幸せを、噛み締める。噛み締め、けれどもふいと、ほんの僅か浮かび上がってきた不安に、眼差しを揺らす。

(レンさん‥‥喜んでくれるだろうか‥‥?)

 k(ga9027)と名乗る彼女、一信はレンと呼ぶ最愛の人の顔を、思い浮かべた。常からあまり――否、殆ど感情を表に出さないというか、何事につけてつまらなさそうな顔をしていて、折に触れて冷たい言葉を紡ぐ彼女だけれども。
 戦争中ということも憚って、あまり大きな式をすることは出来なかったから余計に、不安は募る。彼女は喜んでくれるだろうか。例えば後から振り返って、良い式だったと思ってくれるだろうか。
 ――そう、思い。
 パチン、とそんな自分の弱気を叱るように、両手で頬を叩いた。

「‥‥いや、そう考えるならその分、幸せにすればいんだあ」

 そう、自分自身に叱咤する。
 この結婚式は一先ずの終着点かもしれないけれども、始まりであって終わりじゃない。一信とレンの道はこれからも続いていくのだから、これからもっともっと、レンが一信と一緒になって良かったと思えるくらいに、彼女を幸せにすれば良い。
 ただ――それだけの事、なのだから。

「しゃっきりしてこう、俺!」

 よし、と己に気合をこめて、一信はサイドテーブルにおいておいた手袋を取った。実際に式ではめることはないけれども、タキシードの時には白手袋を手に持つのが正装だ。
 もうそろそろ、式が始まる。一信とレンの、新たな始まりの瞬間が。





 結婚式を挙げるのは、小さな小さな教会だ。小さな、小さな――もしかしたら、人々から忘れ去られてしまっているのではないかと思えるほど小さな、清楚な教会。
 周りは緑に囲まれていて、住宅街の中にあっても人々のざわめきが届くことは、殆どない。それがどこか、いつでも揺らがぬ印象を持つ彼女に良く似ていると、思う。
 木々のざわめきを聞きながら、すぅ、と扉の前で深呼吸をした。中でもう、レンは待っているはずだ。
 吸って、吐いて。また吸って。
 その扉を、ぎぃ、と大きく押し開き――息を、呑む。
 小さな教会の中、ささやかな祭壇の前にある車椅子の上に座っているのは、見間違いようもなく一信の愛しい人だ。いつもと変わらぬ、けれどもいつもよりも遥かに綺麗な、かの人。
 ステンドグラスからの光を受けて、きらきらと輝くのはドレスのあちこちに縫い止められた輝石の数々。ウェディングドレスに合うよう結い上げられた髪を飾る、ふわりと清楚なマリアヴェールにも、輝くビーズが幾つも縫い付けられていて。
 その、美しいドレスを纏った美しい人は、ヴェールの下からちらりと一信を見上げ、不機嫌そうに呟いた。

「――何を、阿呆の、ように、突っ立って、るんですか」
「‥‥いや、その、なんてか。‥‥やっぱり似合ってた。綺麗だべ、レンさん」

 花嫁を放り出したまま、ぼんやりと見惚れていたことに気が付いて、一信は頭をかきながらもそう、素直な気持ちを言葉に紡ぐ。ドレスは勿論の事ながら、ドレスを纏ったレンは本当に、例えようもなく綺麗だと思ったから。
 そうですか、とレンがつまらなさそうに呟く。けれども、彼女のその辛辣な言葉は、彼女なりの一信への愛情表現なのだと知っている――でなければ今日まで一緒に歩んでは来れなかっただろうし、今もこうしてウェディングドレスを纏い、一信を待ってくれてはいなかったはずだ。
 愛されているのだと、思う。そんな彼女を幸せにしたいと、改めて強く願う。
 だからこほんと咳払いして、ゆっくりとレンの元へ歩み寄る一信を、じっとレンが見つめている。そうして一信が近づいてきたタイミングで、すっとブーケを持っていない方の手を差し伸べた。
 その、ほっそりとした白いレースの手袋に覆われた手を、取る。ぎゅっと握ると、眼差しが僅かに揺れて、手元に残ったブーケに落ちた。
 一番最初、一信がレンを好きになった理由は単純に、笑顔というものを見たことのなかった彼女が、きっと笑顔を浮かべたならもっと、もっと可愛かろうと思ったからだ。もちろん今でも、眩暈がするほどに可愛くて、そんなレンに一信は心底惚れ抜いているのだけれども。
 我ながら実に、単純な理由。それでも本当にそう思っているし、彼女を幸せにしたい、笑顔にしたいと願う気持ちはあの頃と変わらないどころか、ますます強くなる一方で。
 2人、手を取り合って祭壇へと向き直る。そこで待っていた神父が、一信とレンをじっと見て、もう始めて良いのかと眼差しで問うた。
 頷くと、微笑んで2人、繋いだ手の上に手を置く。

「――キリストに対する畏れをもって、互いに仕え合いなさい。妻たちよ、主に仕えるように、自分の夫に仕えなさい‥‥夫たちよ、キリストが教会を愛し、教会のためにご自分をお与えになったように、妻を愛しなさい‥‥」

 そうして厳かに、神父の唱える聖句によって、式は始まった。確かめるように神の前に新たな夫婦となる2人を見ながら、神父はあくまで穏やかな表情で聖書の言葉を諳んじる。
 一信、と神父が名を呼んだ。

「あなたはこの姉妹と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています。あなたはその健やかな時も、病む時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」

 もちろんその言葉に、一信はきっぱりと即答する。わざわざ神の前で誓うまでもなく、どんな時だって一信はレンを愛しているし、何かあればこの身に代えても守り抜くのだから。
 よろしい、というように神父が微笑み、頷いた。それからレンの方へと向き直る。

「あなたはこの兄弟と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています。あなたはその健やかな時も、病む時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」

 そうして。レンもまた、その言葉にそう答えた。誓いますと、頷いた。
 その言葉を、一信はしみじみと噛み締める。厳粛な式の最中だというのに、もしかしたら顔が緩みきってしまっていやしないかとこっそり心配になるほど、その言葉に心が浮き立った。
 絶対にこの人を幸せにすると、強く誓う。その気持ちの昂ぶりでつい力が入ってしまったのだろう、手を握っていたレンが小声で「痛い、です」と文句を言った。
 ごめんと、小さく謝って優しく手を握り直した。そんな2人の手を、神父が両手で包み込む。

「それでは、誓いの接吻を」
「は、はい」

 促され、ついに来た、と一信は緊張でどきどきしながら、レンへと向き直った。彼女の車椅子の前に回り、腰を折る。
 そぅっとマリアヴェールの裾を上げると、その下に隠されていたレンの顔が露になった。ドレスに映えるよう美しく化粧した、飛び切り綺麗なレンがいつもの表情で一信を見て、ふいと眼差しを伏せる。
 そのまま瞳を閉じた彼女の、ほんの少し緊張しているのか僅かに動いた指を握り、小さな唇に口付けた。そうしてそっと唇を離し、吐息のかかる距離で囁きかける。

「まだこれからも苦労かけるかもだけど‥‥よろしくね。愛してる」
「結構、です」
「またまた、レンさんは厳しいなぁ」

 一信は苦笑とも、照れ笑いとも付かない笑みを浮かべて、肩を揺らした。相変わらず、結婚式という晴れの舞台にあっても辛口な彼女が、愛おしかった。
 これからまだ戦争は続くけれども、例え何があったとしても、自分は絶対に彼女の傍に居るだろう。彼女の傍らで、彼女を幸せにするべく戦うだろう。
 だから、願わくば。彼女にとっての今日という日が、特別な、幸いな一日でありますように。これから始まる新たな日々が、彼女にとって幸いな日々でありますように――彼女を、この上なく幸せに出来ますように。
 何しろ一信は、彼女が自分を選んでくれて、自分の傍らに居てくれるだけで、この上なく幸せなのだから。
 そう――6月の晴れ渡る空の下、小さな教会の中で一信は、強く強く願ったのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /   職業   】
 ga9027  /   k   / 女  / 17  / スナイパー
 gb5015  / 七市 一信 / 男  / 26  / ハイドラグーン


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きまして、本当にありがとうございました。
本部でご一緒させて頂いたことはなかったかと思いますが、ノベルでご縁を頂けましたことに感謝いたします。

息子さんとお相手様の晴れの日の物語、如何でしたでしょうか。
ご期待に沿える内容であったか、とっても心配なのですが‥‥ちなみにご発注を頂いて、3度ほどびっくりしたのは全力で秘密です(←
えぇと、本当に好き勝手に、自由気ままに書かせて頂いてしまいましたので、少しでもイメージと違ったりする所がございましたら、ずずいとリテイクボタンをぽちりでお願いいたします(土下座

新たにご夫婦となられたお2人のイメージ通りの、幸せな日々の始まりを告げるノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年07月13日

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