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『水無月の華 〜真亡・雫〜 』
真亡・雫(ia0432)

シトシトと落ちる雨。
鬱陶しいばかりのこの季節、けれどそれ以上に心を覆うのは晴れやかな気持ち。

――6月に結婚した花嫁は幸せになれる。

女性なら誰もが憧れる夢のシチュエーション。
叶わないとしても、叶ったとしても、憧れるくらいなら良いですよね……?

貴女と、君と……
――水無月の華の祝福を……。

 * * *

 風吹く午後。
 結わいた金色の髪を風に靡かせ、目の前の人は穏やかな表情で紡ぐ言葉に、耳を傾けている。
「突然、すみません……」
 そう言って頭を下げた真亡・雫(ia0432)に、彼が呼び出した女性――猫宮 京香(ib0927)が優しく微笑む。
 やはり、彼女の笑顔は綺麗だ。
 温かな光が射す、とでも言うのだろうか。
 彼女が微笑むたびに、心の中に立ち込める暗雲が退くような、そんな現象が起こる。
 これをどう云った言葉で現すか、そしてどういったものなのか、そんなことは心得ている。だからこそ、こうして彼女をここに呼んだのだ。
 雫は掻き立てられる胸の内を晒すように告げる。
「僕……貴女のことが忘れられません」
 月日が重なる度に大きくなる想い。
 本当なら告げない方が良かったのかもしれない。けれど告げずにはいられなかった。
 それほどまでに、胸の中で育った想いは大きい。
「お付き合いして……頂けませんか? 京香さん」
 頬が熱く感じるが、それよりも気になるのは彼女の言葉だ。
 こちらを見詰める柔らかな茶の瞳。それが優しく微笑んでくる。

――これは……如何いう意味、だろう?

 心臓が早鐘を打って息が詰まりそうだ。
 彼女が息を吸う度に動く唇に、どうにももどかしく、通常の倍以上の時間を感じる。
「京香、さん?」
 思わず問いかけた。
 男なら、ここでじっと答えを待つべきだったのかもしれない。けれど、待つには期待と不安が大き過ぎた。
「私みたいな年上の女性で良ければ、よろこんで〜」
 ふわりと浮かんだ太陽のような笑顔。
 これに安堵の息が漏れ、彼女と同じ笑顔になる。
 優しく、包み込むような笑顔の彼女。そんな笑顔に笑顔を重ね、自らの手に触れた京香の手を、そっと握り締めた。

 * * *

 握り締めた、想像以上に柔らかで暖かな手。少し汗ばんでいるのは自分が緊張している所為だろうか。
 もし、嫌な思いをされていたら。
 そう思って京香をチラリとみる。
 しかし彼女はそんなことなど気にした風もなく、嬉しそうに手を引いて率先して歩いていた。
 雫と京香。2人が歩くのは神楽の都の中。
 せっかく両想いになって、言葉を交わし、想いを交わし。それでお別れなのか?
 そんなのは嫌だ。
 もっと、もっと一緒にいたい。
 そんな想いが雫を、そして京香を動かしていた。
「京香さんは、甘いモノとか食べますか?」
「食べますよ〜……あ。雫くん、あのお店のお団子、美味しいんですよ〜」
 可愛らしく微笑んで答えてくれる彼女が愛おしい。
 振り返る仕草も、小さく肩を竦めて笑う仕草も、どの言葉も行動も、全てが愛おしく見えるのは欲目ゆえだろうか。
 そんな事を思って、握る彼女の手を見た、その時だ。
「京香さん、足元気を付け――あぶないっ!」
 弾む足取りの彼女の足が揺らいだ。
 咄嗟に腕を伸ばして引き寄せる。
 大事な花が壊れてしまわないように、抱きしめて腕の中に納め、なんとか、転ばさずに済んだ。
「お店は逃げませんから」
 そう零して、安堵の息を吐く。
「そう、ですね〜」
 ありがとう。
 そう言葉が返ってきて、そっと彼女を離した。
 鼻をくすぐる甘い香りが胸を急き立てる。もっと彼女を抱きしめたい。もっと彼女と共に居たい。
 そう、囁きかけるから、今は出来るだけ早く解放した。
 些細なことで、彼女を傷付けたくないから……。
「危ないですから、京香さんはここに居て下さい。僕がお団子買ってきます」
「あ、はい……」
 素直な返事に笑顔を零して、店へと急ぐ。
 放っておいたら何処かに行ってしまうかもしれない。そんな気持ちがあったのかもしれない。
 彼女の好むお団子を聞き忘れたことを後悔しながら、雫は2本のお団子を買った。
 そうして急いで京香の元に戻る。
「京香さん、お待たせしまし……ん?」
 一点を見詰めて立ち竦む京香。
 彼女の視線を辿る先にあるのは、神楽の都には珍しい洋装の建物だ。
 白くて大きな建物は、商品が見えるように硝子張りになっており、京香はその中の商品の1つに魅入っている様だった。
「ジルベリアの婚礼衣装、でしょうか?」
 洋館の中に置かれた白いドレス。
 見たところ、ウェディングドレス、とか言う物だろうか。
「行ってみても良いですか〜?」
 レースを施した見事なまでに白い衣装。
 神楽の都では和装が主だが、ジルベリアではこうした衣装を纏って婚礼をあげると聞いたことがある。
 物珍しいのは勿論だが、彼女が興味を示しているのなら行かない術はない。
「勿論です、行きましょう」
 そう言って笑った雫に、京香は微笑んで店に向かった。
 店はジルベリア出身の店主が切り盛りする衣装屋で、今の時期は婚礼の儀式が多く行われる事から、店頭にあるような衣装を多く扱っているのだと言う。
「確か、この時期に結婚したご夫婦は〜、永遠に幸せになれる……そう、いう言い伝えがあるのですよね〜」
 ふんわり笑った京香に店員が「そうだ」と頷く。
 永遠の幸せ。
 女性ならば誰もが憧れる言葉だろう。
 もしかしたら、京香も――
「この衣装。京香さんなら似合うでしょうね……」
 目に留まった白の線が細いドレス。
 それに思わず零した感想に、京香が振り返る。
「きっと綺麗だと思いますよ」
 顔を赤らめて、それでも視線を出来るだけ向けて囁く。
 本当にそう思うから。彼女なら、このドレスを着た姿がよく似合うと思うから。
 それに、彼女が着ている姿を見てみたい。そう、想いもする。
 けれど、彼女はそんな想いを知ってか知らずか、こう返す。
「そうですか〜?」
「あ、いや、僕が見たいとかそういうわけでは……いえ、そういう訳、ですが……その……」
 着て、くれませんか?
 ダメで元々。
 上目遣いに口籠りながら問うと、京香の口から小さな笑いが堕ちた。
「んふふ、雫くんがそういうなら着てみましょうか〜」
 ぱあっと心の中が明るくなる。
 勢いで拳を握りそうになるが、ここは我慢だ。
 そこまでガッつくのは良くない。
 そう心の中で色々と葛藤していたのだが、不意に現実へ引き戻す声が聞こえた。
「あ、どうせなら雫くんも着ましょう〜」
 無邪気な笑顔で問いかける彼女に、雫は「うっ」と固まった。
「きっと似合いますよ〜♪」
「いえ、僕は……」
「すみません〜。試着をしたいのですけど〜、2着お借りできますか〜?」
 ウキウキと、聞こえないふりで店員さんに墓仕掛ける京香。
 そんな彼女を見ながら、今言われた言葉を思い出す。
――どうせなら雫くんも着ましょう〜。
 どういうことだ?
 困惑していると、京香が戻ってきた。
 その手には2着のウェディングドレスが……。
「はい、雫くんのドレスですよ〜♪」
「あ、はい……って、何故、僕も?!」
 反射的に受け取った雫に、彼女はニッコリ笑って顔を覗き込んだ。
 そして唇に息が届きそうなほど顔を近付けると、囁く。
「ご褒美、あげますから〜」
 ね?
 そう笑って、頭を撫でる。
 小さく傾げた首に、縋る様な瞳。これに雫の心が決まった。
「京香さんが望むのなら……着ても良いです。そのかわり……御褒美、きちんともらいますよ」
 耳まで赤く染めて囁く。
 彼女の言うご褒美が何なのかはわからない。それでも期待せずにはいられなかった。
「はい〜、期待して下さい〜」
 恥ずかしさを隠すような満面の笑顔。
 これに雫の顔に笑顔が乗る。そうして2人は衣装の試着室へ姿を消した。

――そして、数分後。

「よくお似合いですよ」
 ニコニコと店員が褒める声に、京香は目の前の鏡を見た。
 色々な角度から眺めて、如何なのかと確認する。そうして出た結論は、
「綺麗ですね〜」
 マーメイドドレス、という形らしく、腰から膝のあたりまで、体の線を強調するように作られたドレスは、裾に大きな広がりを見せて華やかさを演出している。
 白一色だと言うのに、レースや細かな刺繍のおかげで、けっして地味ではない。それどころか、多くの光を集める姿がとても綺麗で、思わず見惚れるほど。
「……京香、さん?」
 更衣室を出た雫は、鏡を前に立つ京香に気付いた。
 神々しいばかりの白に包まれた姿。
 その姿に思わず息を呑む。
「雫くん?」
「すごく、綺麗です……想像以上だ!」
 似合うとは思っていた。だが、想像以上の出来に、どう賛辞を捧げて良いかわからない。
 ただどうしても伝えたいのは「綺麗」と言う言葉。
 だから、それだけは明確に口にした。
「ありがとう〜」
 ふんわり微笑んだ彼女に、賛辞の言葉が届いたのだと安堵する。
 そうした所で、自分に注がれる自然に気付いた。
「雫くんも、綺麗ですよ〜♪」
 ふふ。
 頬を緩めて笑う。
 その姿に、雫の顔が一気に赤くなった。
「か、からかわないでください! 京香さんの方が、何倍も、何十倍も綺麗です!」
 そうだった。
 自分もプリンセスドレスとか言う服を着ていたのだった。
 京香の着ているドレスと違い、雫が着ているのは体の線を出すと言うよりも、可愛らしさを強調する作りのドレスだ。
 腰のあたりから足元に掛けてふんわりレースが広がっており、優しい印象の、かわいいお姫様を演出する衣装でもある。
「お2人ともとてもお似合いですよ」
 店員さんの褒める声に、京香は笑顔に。
 そして雫は顔を赤らめながら俯いた。
 その姿に京香が近付いて来る。
「雫くん」
「な、なんですか?」
 ゆっくりと絡められた腕に、雫の目が見開かれる。
「また、着ましょうね〜」
 そう言って笑った京香に、雫は頬を赤らめ「次はあれなら」とタキシードを示して、少しだけ笑った。

 * * *

 楽しい時間と言うのは、あっと言う間に過ぎるものだ。
 京香は闇に沈む神楽の都を見て、隣に立つ雫の手に自らの指を絡めた。
「もう、1日も終わりですね〜」
 午後の初めに告白されてそれを受け、陽が落ちるまで、2人で楽しい時間を過ごした。
 長くはないけれど、とても楽しい時間。
 その時間を噛み締めるように息を吐くと、細い指に自分の指を絡み返す。
「京香さん、あの……」
「雫くん、私のお部屋に来ませんか〜?」
「え……」
 思ってもない誘いに、雫が一瞬硬直したように固まる。
 勿論、その動きは絡めた指からも伝わる。
 緊張して、少しだけ汗ばんだ掌。
 小さく震えた指先が、雫の心情を鮮明に伝える。
「雫くんは〜、私のお願いを聞いてくれましたよね〜?」
――お願い。
 これで思い当たるのは、ウェディングドレスを着た時のことだ。
 確かに彼女の願いを聞いてドレスを試着した。しかしそれは、彼女の言う「ご褒美」が気になったからだ。
「雫くんはこれからも〜、私のお願いを聞いてくれますか〜?」
 じっと、炎のように揺れる紅い瞳を見詰めながら、彼の言葉を待つ。
 その表情は思った以上に真剣だった。
 だから雫も言葉を選んで、そして慎重に返す。
「勿論です。京香さんになら……好きなようになさってくださって、良いです」
 言葉が終わると同時に、蕩けるような微笑が目の前に広がった。そして腕に柔らかで暖かな感触が抱きついてくる。
「んふふ、それじゃあしっかりご褒美をあげますね〜♪」
 まるで猫のように縋りつき、喉を鳴らす彼女。
 見上げてくる瞳に目を奪われていると、掠めるようなキスが落ちた。
 この先は私の部屋で……。
 そう囁いた京香に、雫は最大限に頬を染め、頷いた。

―――END...




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ia0432 / 真亡・雫 / 男 / 16歳 / 志士 】

【 ib0927 / 猫宮 京香 / 女 / 25歳 / 弓術師 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『水無月・祝福のドリームノベル』のご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むと少し違った部分が垣間見れます。
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
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舵天照 -DTS-
2012年07月20日

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