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『壷よ、願い叶えたまえ‥‥??? 』
ジェラルディン(mr0785)

●序
 小さな城の寝室で、少女は眠っていた。
 心地良いベッドにふかふかの枕、掛け布は重くもなく軽過ぎず、暑さにうなされる事も寒さに震える事もなく、穏やかに安らかに、おとなしく眠っていた。

 ――そう、少女を呼ぶ声に気付くまでは。

 呼ばれたような気がした。
 アティーヤ(mr0829)は、ひとつ伸びをして起き上がると窓の外から空を見上げた。何だか良い事がありそうな気がする。
 手早く身支度を整えて鏡の前でチェックして。アティーヤは住処にしている城を出た――外の世界へ。

●壷
 無数の並行世界が交わる場所に建つ、知を識る者達の学び舎、ユグドラシル学園。
 様々な世界が交わるこの地には、様々な種族が行き交っている。そして――数多くの不思議も交錯しているのだ。

 知の集まる場所、ユグドラシル学園。ある賢者の研究室へ、ジェラルディン(mr0785)は預けていたアイテムの鑑定結果を聞きに訪れていた。
「ええと、危ないモノではなさそうなのですか‥‥」
「残念だったかな?」
 彼女の安堵と落胆の入り混じった口振りに、賢者は苦笑した。失礼だったかと慌てて首を振るジェラルディンに預かり物を返す。
 それはジェラルディンが冒険で手に入れた壷だった。『願いをかなえてくれる壷』という胡散臭い謂れが付いていたもので、鑑定に持ち込んでいたのだ。
 ジェラルディンの反応を面白がるように、賢者は壷を示して微笑った。
「危険はない。だけど、ちょっと面白い代物だよ」
「面白い?」
 首を傾げたジェラルディンに賢者は言ったものだ。
「願いを叶えてくれるかどうかは判らないけど、寮に戻ったら召喚してごらん」

(そう言われましたが‥‥)
 壷を抱えて寮の自室へ戻ったジェラルディンは、床の上に壷を置くと、その前にぺたりと座り込んで眺めていた。
 危険はないとの事だが、召喚可能な代物らしい。
 召喚と言えば御伽噺のランプの精が有名だが、あのサイズで出て来るなら大変だ。一体室内で喚び出しても平気なものだろうか。
 壷を凝視したまま暫くあれこれ悩んだ末に、お願いしてみる事にした。
「壷よ壷、今が無理ならいつかで構いませんけど‥‥私の願いを叶えてくれませんか‥‥?」
 いつか結婚してウェディングドレスが着てみたい――心に願いを念じながら壷に掌を宛がった。召喚の方法なんて判らなかったから、御伽噺のランプの精を真似て、壷を軽く擦ってみたところ――

●願
 目の前に、同じ年頃の少女がいた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 壷から現れた少女は瞳をぱちくりして部屋に居た少女を見た。
(綺麗な子‥‥)
 金の髪に緑の瞳、ちょぴり尖った耳。妖精族の女の子だ。華奢な体躯が頼りなげで、それでいて何処か凛としたたたずまいをして見えるのは、彼女の内面が見目よりずっとしっかりしていて確固とした信念を持っているからに違いない。
「キミがあたしを呼んだの?」
 先に声を掛けたのはアティーヤだった。朗らかな声が発した言葉はジェラルディンの知る言語だ。
「あ、の‥‥」
 未だ驚きを隠せないまま、ジェラルディンは召喚された(?)少女を見つめた。
 小麦色の肌に黒の髪、金の瞳の少女の声は明朗で親しみに満ちている。年は然程変わらないだろう――壷の中から出て来たという点を除けば、学園内にいても不思議はない快活な少女だ。
「あたしはアティーヤ。ジンニャー、精霊だよ」
「精霊? やっぱりランプの精の‥‥」
「その例えだと、さしずめあたしは壷の精ね」
 アティーヤは朗らかな笑い声を立てた。気を悪くした風はない。
 案外自分達と同じような生物なのかもしれない――壷から出て来たけれど。
 警戒も訝しさもあっさり消えて、おずおずと片手をアティーヤに差し出すジェラルディンに、意味を悟ったアティーヤは笑顔で応じたものだった。

 ――暫し後。
「ふ〜ん。あたしの壷を冒険で‥‥」
 ジェラルディンの部屋へ運ばれるまでの経緯を聞き終えたアティーヤは、小首を傾げて言った。壷の中、小さな城の寝室で眠っている間に、そんな事になっていたとは。
「‥‥で、叶えてあげたいのは山々なんだけどね?」
 本当にランプの精のような事はできる種族らしい。だけど自分はまだ若くてそれだけの力がないのだとアティーヤは言う。
「ところで、キミの願い事って何なの? あたしにも出来る事かもしれないし教えてよ」
「えぇと‥‥」
 ジェラルディンは小声で「いつか結婚してウェディングドレスが着てみたい」と告白した。少女の夢見がちな願い事を、アティーヤは真剣に耳を傾けている。
「そっかぁ‥‥生憎と赤い糸を手繰り寄せられるだけの力はないなあ」
「‥‥う」
 しょんぼり肩を落としたジェラルディンを下から覗き込み、「だけどね」とアティーヤはにっこり笑って手を取った。
「結婚相手は見つけられないけど、ウェディングドレスなら着せてあげられるよ!」
「!?」
 アティーヤの言葉の意味を理解するより早く、ジェラルディンは壷の中へ引っ張り込まれていた――!!

●友
 一瞬の暗転の後、辺りは美しい庭園になっていた。
「ここは‥‥?」
「あたしの壷の中。どう、いい場所でしょ?」
 妖精界の貴族の娘であるジェラルディンには、この場所が如何に趣味良く心地良く設えられた場所なのかが容易く見て取れた。
 到着したのは城の中庭にあたる場所らしい。生垣を作る薔薇、噴水の向こうには建物が見えている。蔦が這う壁は風情があって、小規模ながら趣味の良い城だ。
 ジンニャーは住処にしている壷の中を好きなように設える事ができるのだと言う。つまりこれはアティーヤの趣味だという事だ。
「あたしね、人型種用の衣装をコレクションしているの。ウェディングドレスもあるわよ」
 握ったままの手を引いて、アティーヤはジェラルディンを引き寄せ真顔で続けた。
「あたしのお嫁さん用に用意してるの。あたしと結婚すればドレス着られるわよ?」
「え‥‥それは、無理!?」
 じたじた慌てるジェラルディンを離して、アティーヤは冗談よと笑い声を立てると再び手を取って言った。
「行こ、モデルになってくれる子、ずっと待ってたんだ♪」

 二人は庭を抜け城へと入った。
 魔法で好みに誂えている城の内部は、当然ながら誰もいない。兵もメイドもいなかったが内部は小ざっぱりとしていて、厳めしさがないぶん気兼ねなく歩けるような場所だった。
 初めての場所、だけど友人の家に招かれたような気安さを胸に、ジェラルディンは石造りの廊下を渡った。窓から見える庭の緑、吹き抜ける風が心地良い。
 ほどなく二人は衣裳部屋に到着した。勿論此処にもメイドは居やしないから、二人だけの空間だ。
「さ、て。どれが似合うかな、あたしのお嫁さん」
「違いますから‥‥!」
 きゃっきゃふざけながらアティーヤはクロゼットからドレスを次々引っ張り出して、ジェラルディンの胸元に当ててみた。
「わぁ‥‥」
 夢見ていたウェディングドレスだけに、ジェラルディンの目が輝いている。殊に気に入った様子の一枚から試着を始める事にした。

 まずはウェディングドレスの王道、プリンセスライン。続いて華奢なジェラルディンの繊細さが際立つミニタイプ。
 金の髪を結い上げ小さなティアラを載せたジェラルディンを見ている内にアティーヤも興が乗ってきたようで、一着を手に取るとごそごそ着替え始める。
「どぅお?」
 小麦色の肌にエキゾチックなデザインのドレス、異国の花嫁衣裳だろうか。覗くウェストラインが何とも色っぽい。
「とっても良く似合ってます!」
 今度はジェラルディンがアティーヤを着せ替える番だ。髪を弄り衣装を替えて、二人はいつまでも着せ合いっこを楽しんだのだった。

 後日――
 何故かユグドラシル学園にアティーヤが居た。地上から僅かに浮いて、ジェラルディンの周りをふよふよ浮遊しつつ何やら勧めているようだが――
「ジェラルディン! 音律学の新入生、まだフリーだって!」
 本当に、ジェラルディンと男の子との仲を取り持とうとしていた。
 浮遊しようと恋バナしようと、学園内では日常茶飯事だから皆気にせず通り過ぎてゆくが、娶わせられそうなジェラルディンだけはそうもいかない。
「そんな、急に言われても‥‥」
「じゃあ、こないだの気操学の彼は?」
「あの肉ダルm‥‥じゃない、筋肉質の人? それもちょっと‥‥」
 足早に逃げようとしてもアティーヤは逃がさない。ふよふよ近付き腕を絡めて、アティーヤは楽しげに言った。
「ふふ。素敵なお婿さん、見つけてあげるからね♪」

 かくしてディナ・シーの娘とジンニャーの娘は出逢い――風変わりな友達同士となったのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 mr0785 / ジェラルディン / 女 / 17 / ウェディングドレスに憧れる女の子 】
【 mr0829 / アティーヤ / 女 / 内緒♪ / 壷の精? 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めましてになりましょうか。周利でございます。
 この度は可愛らしいお二人のお話、お預けくださいましてありがとうございました。人物設定とバストアップから受けた印象で喋らせてみましたが‥‥イメージにズレはございませんでしょうか?
 ジェラルディンさんは、貴族と言っても何処か庶民的な普通の女の子。少し気弱な感じの大人しいお嬢さんというイメージで描かせていただきました。
 お互い素敵なお友達ができた‥‥というお話、優しい気持ちに包まれながら描かせていただきました。お気に召しましたら幸いに存じますv
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2012年07月23日

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