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『猿猪の仲 』
猪 雷梅(ib5411)

●荒れる女
 時は水無月、夏近し頃。
 天儀は神楽の都――とある酒場で管を巻く女がいた。

「じゅーんぶらいど!? んなモン知るかよ!」
 随分と威勢の良い娘の名は猪 雷梅(ib5411)、獣人である。
 よもや猪の獣人だからという事はないだろうが、彼女は大層男勝りだった。
 かっぱかっぱと豪快に杯を空けて、次々と強い酒を注文し――要するにヤケ酒を煽っていた。
 だがしかし決して独り身の管巻きなどではない。男勝りの雷梅にも恋人がいるのだ。
「こらお前!! 俺の男ならもっと私に甘えろこらー!!」
 大声上げて赤い花のダイリン(ib5471)に絡んでいる。それは女が男にというよりは、まるで男がつれない女に絡んでいるかのよう。
 ダイリンは慣れた様子で絡み酒を受け流していた。時々ツマミの給仕などしてやったりして、実に甲斐甲斐しい。
 尤も、雷梅の見目は露出度大の衣装にメリハリの利いた姉御肌の美女、対するダイリンは筋肉質の男前ときたものだから、会話が聞こえていなければ酔っ払った美女と介抱する恋人の仲睦まじい姿に見えなくもない。

 ――どうしてこんな事になったのやら。

●男と女は擦れ違い
 水無月にまつわるジンクスがある。
 ジューンブライドの伝承――水無月に祝言を挙げた花嫁は、幸せな結婚生活を送る事ができるという。
 天儀に泰にジルベリア、何処から発生したジンクスかは不明だが、まことしやかに囁かれた末に、今ではどこの儀でもこの時期は祝言が増える。開拓者達が天儀での活動拠点とする神楽の都でも、どことなく浮き足立った恋人達の姿や新郎新婦と二次会で盛り上がる友人一堂などが多数見受けられる時期なのであった。

(ダイリンは俺の男、なんだよな‥‥?)
 不安に駆られて共に呑む男を見る。尤も生来の姐御肌な性格が災いして、ダイリンを見つめる視線は傍目には物騒な目付きで睨み付けているようにしか見えないのだが――
 雷梅は損な性分であった。
 荒くれ共に拾われた捨て子は粗野で乱暴者の中で育った。女らしさや淑やかさといったものとは程遠い環境に置かれた少女は、少年同等の扱いを受けて育てられる。やがて恩人となる人の許で居候となるのだが、その頃には既に身に付いた男勝りな性格は変えられようもなくなっていた。
 だが、雷梅とて女である。恋しい男を得た一人の女なのである。
「ダイリン、お前もっと呑めよ」
 好いた男に酌をする女というものをやってみたくて銚子を摘んだが、酔いが回った身体では上手く酌ができない。銚子を掴んでいるのがやっとで、お猪口に注ぐなどもってのほか。無理して注そうとすれば、ただただイライラするばかりだ。
「呑めよダイリン、俺の酒が呑めないってのかよ!」
 終いには銚子ごとダイリンの口元に持って行って大声を上げた。その声に涙を滲ませて。
 雷梅はただ自分の男に尽くす普通の女のような事をしたかっただけなのだ。それなのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
 そして彼は――ダイリンは、いつだって余裕の様子で雷梅をいなしてしまうのだ。
「おいおい、弁償は勘弁だぜ?」
 勢い余って雷梅がひっくり返して転がってった銚子を、ダイリンはひょいと摘み上げた。零れた酒をさっさと手拭でふき取り、空になった銚子は卓の足元に置いておく。一連の行動には大人の余裕があって、雷梅は尚更恨めしくなってダイリンを見据えた。
「あぁ? どうした? 呑み足りんか? 追加の銚子を頼んでやろうか」
 荒れる雷梅の扱いには慣れたものなのか、然程も苦に思わない様子で彼女の管巻きに付き合っている。追加の銚子を注文し、お猪口代わりに雷梅が使っている湯呑みへ注いでやった。大人しく呑んでいる彼女の横で焼き鳥の串を外して取り皿に半分ずつ分ける。
「ほれ、つまみ」
 黙々と口に放り込む雷梅の隣でダイリンも焼き鳥を頬張った。

 傍目には雷梅のオカン役に見えるかもしれない。しかしダイリンは今の関係を愉しんでいる。
 雷梅は可愛い女だ。乱暴で不器用で、気性のさっぱりした女だ。
 しかし事が恋愛になると途端に子供っぽくなる。年頃の娘に憧れるのか、やたら乙女趣味に走ったり、甘えて来たりする。
(カワイイよな)
 拗ねた様子で湯呑みの酒を煽っている雷梅へ目を向け、内心微笑する。放っておけない、とにかく可愛い女だと思う。
「‥‥あぁ? 俺に焼き鳥食べさせて欲しいのか?」
 まだ串に刺さったままの焼き鳥を摘み上げた雷梅が言うが、そんなもん食べさせて貰ったら串を喉に刺しかねない。
 さり気なく雷梅から焼き鳥を取り上げて、串を抜き小皿に移すと箸で一個摘んで食べさせてやった。
「‥‥む。んぐ‥‥」
 大人しく食べさせられる雷梅。
 立場が逆と言えば逆なのだが、ダイリンは甘えさせこそすれ自分から甘えるような男ではなかった。不幸にも二人の嗜好は擦れ違っているのである――が、雷梅は気付く由もない。
 何だか釈然としないまま焼き鳥を頬張っていた雷梅は、何気なく店内を見渡した。

(‥‥あ)

 店の隅、座敷席を注視したまま固まっている。
「どうした? そろそろ潰れたかぁ?」
 急に静かになった雷梅を顔を覗き込んだダイリンは、彼女にまだ意識があるのを確認し視線の先を追って――何となく次の展開が見えた気がした。
 というのも、そこでは恋人同士とおびしき若い男女が、片隅の座敷席なのを良い事に人目も憚らずにいちゃついていたからだ。
 酔った様子の青年を娘が膝枕して介抱している。二人共恥ずかしがるどころか完全に二人きりの世界を構築していて、周囲はご馳走様といった感じで生温かく放置している。
「‥‥ダイリン」
 肝の据わった声がした。振り向くまでもなく雷梅の声だ。ついでに次の言葉も当ててみせようか。
「膝枕されろ」
「あぁはいはい、帰ってからな」
 何せ彼らが呑んでいる場所はテーブル席で、膝枕するには無理がある。尤もダイリンは、そもそも座敷の青年のような甘え方をしてやる気はなかったが。
 しかし雷梅は頑なだった。完全に目が据わっている。
「膝枕してやる。乗れ」
 椅子を引き、無理矢理ダイリンの頭を抱え込む雷梅。
 いやそれは無理だろう。椅子ごと床に転げ落ちるのは真っ平御免だと抵抗すれば、雷梅はムキになって膝へ押し付けようとした。
「お前は俺の男だろう!!」
 心の底から、愛しさと苛つきを声に出して叫ぶ――と、その途端ダイリンの抵抗がふと消えた。
 面食らったのは雷梅の方だ。折角拘束していた彼の頭を、思わず手放してしまった。
「そうだな、俺はお前の男だな」
 雷梅の眼前には、開放されて起き上がり苦笑しているダイリンの顔があった。
「そして‥‥」
 涙目で凝視する雷梅の目元をそっと拭ってやると、ダイリンはそっと雷梅を両の腕に抱きとめた。

「お前は俺の女だ」

●男の溜息
 結局、雷梅はダイリンの抱擁で満足してしまったらしい。
 腕の中で爆睡し始めた酔い潰れの娘を背負い、勘定を済ませたダイリンは店を出た。
(‥‥ったく、さっきの俺の台詞、お前聞いたのかよ‥‥)

『お前は俺の女だ』

 ダイリンなりの最大の譲歩であったというのに。
 嘆息しながら夜道を帰る。背に愛しい女の温もりを感じながら。
(‥‥ま、帰ったら耳掻きのひとつくらいはされてやるか)
 それも膝枕には違いなかろう。雷梅が納得するかどうかは別にして――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib5411 / 猪 雷梅 / 女 / 25 / 実は乙女なヨッパライ 】
【 ib5471 / 赤い花のダイリン / 男 / 25 / 雷梅の恋人にしてオカン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。この度はご指名ありがとうございました。
 相方様とご使用になられましたグループタグが素敵でしたので、そのままタイトルの一部に使用させていただきました。猿猪の仲‥‥決して悪くはないはず。寧ろベストカップル。
 絡む雷梅さん、受け流すダイリンさん。楽しく描かせていただきました。
 ところで雷梅さんは彼の告白を聞けたのでしょうか‥‥ね? 聞けていると良いですね。
 雷梅さんの望む乙女チックな甘々シチュエーションになる日はまだまだ遠そうですが‥‥いつまでもお幸せにv
Dream Wedding・祝福のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年07月23日

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