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『一枚の貝殻 』
黒・冥月2778)&草間・武彦(NPCA001)







「…あ…」冥月がふと思い出したかの様に影を操る。
「…随分古い巾着だな…」歩み寄ってきた武彦が、冥月が影から取り出した巾着を見つめて呟いた。
「…ちょっと思い出したんだ」
 冥月が手を広げ、巾着の中から軽快な音を立てて綺麗な貝殻やガラス玉などが姿を現した。冥月が少しばかり苦笑を浮かべる。
「ガラクタ…?」
「…あぁ。あの頃の私もそう思ってた。何故こんな何の役にも立たない物を私に渡すのかと不思議に思ったものだ」そう言いながら、冥月が一枚の貝殻を摘んだ。
「もらった物なのか…」
「あぁ。あの子はこれだったか。海で訓練した時に弟子達が休憩時間に拾ってきてくれたんだ」冥月の顔が温かく微笑む。「興味無かったから捨てようと思ったんだが、あの子達の顔を見てると出来なかった。自分でも何故捨てないのかすら悩んだが、今ならくれた意味も捨てられなかった理由も分かる」
「そうか…」武彦が静かに微笑む。「それだけ、お前が変わったって事だろうな」
「まぁ、昔の無愛想で殺ししか能のなかった私が、面倒見が良かった訳でもないのになぜ慕われていたのかは今でもよく分からないんだが…」そう言って冥月は再び巾着の中に大事そうに“ガラクタ”をしまい込み、影にそれを飲み込ませた。
「随分優しい顔だ」
「え…っ?」冥月が思わず武彦へと振り向く。「ちか…―」
「お前のそういう顔、なかなか見る機会はないからな」
「なっ…バカ…!」顔を紅潮させながら冥月が顔を逸らす。自分でも驚くぐらいに心臓が高鳴っている。冥月はギュっと自分の胸の前で手を握り締めた。「…からかうな」
「からかってる訳じゃないんだがな…」武彦が頬をポリポリと掻きながら呟く。
「…武彦は、可笑しいと思うか?」冥月が高鳴る心臓の鼓動を隠す様に、平静を装いながら声をかけた。
「可笑しい? 何がだ?」
「…私が、そう笑う事が…だ」冥月が振り向こうともせずに自らの腕を掴む。「私は、笑うという事が苦手だ…」
「…フ」
「なっ…! 笑ったな!?」冥月が勢い良く振り返る。「きゃ…!」
「あのなぁ…」振り上げた冥月の腕を掴みながら武彦がため息交じりに呟く。
 勢いよく振り返った冥月の身体が武彦の身体にぶつかり、冥月が武彦の顔を見上げる。紅潮して興奮した冥月の目は熱を帯びて潤んでいる。
「…あ…」冥月がハッと目を開き、武彦の手を払って弱弱しく武彦の胸をぶつ。「バカ…」
「…あー…、その。可笑しくなんかないんじゃないか?」
「え…?」
「お前の過去に、どれだけの事があったのかを全て知っている訳じゃないんだがな。俺はあの娘に対してのお前の表情も、さっきの笑顔も。そういう一面、見た事なんてなかったからな…」
「ホントか…? 本当に可笑しくはないか!?」冥月が武彦の胸元を掴んで顔を近付けて尋ねる。
「おま、近いって!」
「良いから答えろ!」
「あぁ、可笑しくなんかない」武彦の言葉に、詰め寄っていた冥月が我に返り、素早く武彦から離れた。「やれやれ…、随分慌しいな」
「…すまない、取り乱した」
「…あ〜…、その何だ…。今のお前でいてくれて良かったよ、俺は」
「…ッ!?」
「さっきも言ったが、俺はお前の過去を知らない。でも、今こうして隣りにいる事に、過去なんて関係ないんじゃないか」
「…フ…フフフ」
「…?」
「―お前はいつも、そうやって私の心を揺さぶるんだ…」
「何か言ったか?」
「…なぁ、武彦」
「何だ?」
「お前は、私の過去を知ってどうして恐れない?」冥月の拳に、武彦に悟られぬ様に力が入る。
「どうしたってんだ、急に…―」
「―急なものか!」冥月が押さえつけていた感情を爆発させる。「私は…、私はお前のその言葉が温かくて嫌いだ…!」
「嫌い…?」
「そうだ! 誓った筈だった私の想いをどんどん溶かしていく…!」冥月の頬を一筋の涙が伝う。「その度に、私の心は恐怖する! 繰り返してしまうんじゃないかと…!」
「…冥月」武彦が静かに歩み寄る。
「お前は…――」
「――嫌われても結構だ」武彦が冥月を抱き寄せる。
「…お前はやっぱり卑怯だ…」力なく武彦の胸の中で冥月が呟く。「…離せ―」
「―離さない」
「なっ…、フザけるな…っ」
「フザけちゃいない。確かに激しい戦いの後で、少しばかりおかしなテンションだからかもしれないがな…」
 武彦の胸の中に顔を埋めながら、冥月が動かなくなる。
「…武彦…?」
「…俺がお前の傍からいなくなる事はない。お前がそれを望む時が来なければ、な」
「……」
「だから、俺の傍にいろ」
「…バカ、ムードが足りないよ…」クスっと冥月が武彦の胸の中で笑う。
「…だな。俺もそう思う」
 武彦がそう呟くと同時に、壁際で眠っていた少女が少し身体を動かすと同時に武彦と冥月が急いで離れる。
「…アイツがこんな姿を見たら、武彦に襲い掛かりかねないな」
「そりゃ笑えないな…」
 二人の間に妙な沈黙が流れる。冥月が少女を見つめるが、やはりまだ目を醒ましていない様だ。
「お前がIO2を辞めた“ある事件”って何だ。今回の事に関係あるならきちんと話せ」
「なっ…、あの戦闘の最中に聞いてたのか…?」武彦が呆れた様にそう告げる。
「聞き逃すとでも思ったのか? 私の過去ばかり探って、そんな卑怯な真似はさせないぞ」
「…数年前、俺がIO2を辞めた事件だ…」突然武彦の表情が少し曇る。「“虚無の境界”とは関係のない事件だったが、な」
「…何かあったんだな…」
「あぁ。ある人を、この手で撃って死なせた」
 予想外だった。冥月の心の中で、静かに自分に対して怒りが芽生える。無粋な事を聞いてしまった、と表情が少し歪む。
「す、すまない…。聞くべきでは―」
「―そんな事言うな」冥月の言葉を遮って武彦が小さく笑う。「遅かれ早かれ、お前には話そうと思っていた事だ」
「だが、お前のタイミングで話そうとしていた事なんだろう? だったら、私はお前がお前の意志で話してくれるまで待つ」
「それで良いのか?」
「…押し付けるだけの嫌な女になりたくないからな…」
「…バカだな、お前…」
「なっ―」
「―でも、ありがとうな」
「…っ、そんなお礼を言われる程の事は言ってない」
「さて、一度戻るか」
「あぁ…」



 冥月が壁際に眠る少女に、再び影から取り出した巾着を握らせて静かに微笑んで、頭を撫でた。
「昔話は後でゆっくりしよう…。それにしても、聞くべき話が増えてしまったな」




 ―「ありがとう。私がそんな事の意味を知る前から、お前は私に大切な想いをプレゼントしてくれていたんだな」






                                            FIN



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

メインの流れと絡んでるので、120%のイチャつきまでは
いけませんでしたが、書かせて頂きました…!

天然タラシの武彦さんです←

一応文字数の都合から、今回は書けませんでしたが、
ちょっとした障りで出させて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白神 怜司 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年07月30日

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