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『潮風に吹かれて〜サプライズフラワー 』
青木 凛子ja5657


 夏休み。
 懸賞で引き当てた、リゾートホテルペア宿泊券で訪れた海の街。
 晴れ渡った空の色を映す海に、目を細める。
 潮風が鼻腔をくすぐり、胸をざわめかせる。
 慣れない土地で、すべてが自由だった。
 さぁ、胸に秘めた悪戯は、果たして成功するだろうか。



「日頃の行いがいいとラッキーも降ってくるのな!」
 夜来野 遥久が運転するオープンカー、その後部座席でドカリと両腕を広げ脚を組み、カラカラと笑うのは月居 愁也。今回の、宿泊券を引き当てた当人だ。
 遥久とは幼なじみで親友という間柄から、無遠慮――もとい、全幅の信頼を寄せてドライバーを任せている。
「アー、昼間からコレ、気分イイわ」
 リュカ・アンティゼリはそんな愁也の隣、煙草とビール片手に上機嫌。
 友人の愁也に誘われての参加。
 引き当てたのは『ペア宿泊券』のハズだが……細かいことは、気にしない。
 胸元を大きく開けたシャツをはためかせ、今を存分に楽しむ。
 波がきらめく海岸線。これだけで充分に楽しいが、その先にはリゾートホテルにビーチにと、お楽しみが満載なのだ。
 アレやりたいコレやりたい、と愁也が発言し、リュカがふざけた返答をする。
「……おい、あまりうるさいとここで降ろすぞ」
 自由極まりない後ろの友人二人へ、遥久が声をワントーン下げて視線を流す。
 愁也は両手を挙げ、リュカは動じず一笑した。
「まったく、何処へ行っても悪ガキは変わらないわね」
 遥久の隣、助手席のシートに身を沈める青木 凛子は、風に流れるミルクティー色の柔らかな髪を抑えながら呆れ顔、そして遥久と視線を交わして肩をすくめた。
 ――出発前。
『愁ちゃん、助手席はあたし死ぬわ……ッ』
 遥久が開ける助手席の扉を前に、窒息寸前だった凛子だったが、それもオープンカーの開放感に慣れると、開き直りへと転じていた。

(あぁ……運転する横顔が格好良すぎて辛い)

 直視するのも憚られたのはドライブスタート30分まで。
 海が近付くにつれ、潮の香りに皆の心が緩み始め、凛子も幸運を素直に受け入れることができるようになっていた。
 親しい親しい友人たちとのリゾート旅行。楽しまない手はない。
 京都を舞台に戦い抜いた大規模作戦――そこで絆を強め、今、ここに居る。
 悪童たちの意外な一面を見ることもできた。
 愁也を通して、遥久と交流を始めたのもその頃だ。不思議な縁は、ずっと続いている。
 凛子にとって春先の出来事は、これからの生き方をも変えてゆくほどの影響を与えていた。
 安穏としてばかりはいられない。
 ――けれど、今の時間だけは許したい。 
「ほんと、気分いいね!」
 乙女の表情で遥久を見つめる凛子、その姿を後部座席から見守る愁也が、意味を悟られない発言でリュカと目くばせをした。
 ラッキーは、まだまだこれから。



 夏の日差しにそびえたつ、スマートなリゾートホテルが眩しい。
 学園に入ってから、こんな機会はまったくなかった。
「ラッキー凄い…… 反動が怖い」
 愁也の口から、思わず感嘆の声が上がる。


「えーと、ペア宿泊券だから部屋は一室だけなんだよな。これは凛子さんが使って? 他は遥久が予約抑えてくれてんだよな」
「ああ、俺たちは三人一室だ」
「…………」
 さらりとした返答に、愁也が絶句した。
「ひとつはエキストラベッドだが、このホテルの規模なら不自由はあるまい?」
「はるひさぁあああ……」
「えー。なんか男子部屋楽しそう……」
「ン、俺が添い寝に行こうか、女王様?」
「うふふ。リュカ、縛り上げられる趣味はあって?」
「ごエンリョするわ」
 ホテルのフロントでの掛け合いもそこそこに、ビーチ集合の約束を交わして互いの部屋のキーを受け取る。
 渋々といった風で凛子がエレベーターに乗り込み、愁也、リュカも続く。
 遥久だけが、更にフロントで何がしか話し込んでいるが、部屋の交渉か何かだろうか。

「まぁ、こういう結果ですよね!!」
 じゃんけんの末、見事エキストラベッド当選した愁也が絶望するも、
「遥久が凛子の部屋に泊まりに行けば問題ねェだろ」
「問題だらけです、リュカ殿」
 ニヤリと笑うリュカに、遥久が手厳しく切り返す。
 賑々しく、ホテルのプライベートビーチへと向かう三人。
「凛子さんの水着って、遥久が選んだんだっけ」
「……ああ」
 6月に開催されたウェディング企画では、遥久プロデュースの衣装で凛子と二人、優勝を果たしている。
「…………」
 リュカは何事か言いかけ、珍しく飲み込む。
「ごめんなさい、待たせちゃった!?」
 そこへ、凛子が急ぎ足で合流した。
 品のあるデザインは、流石の遥久コーディネート。
 上に軽く一枚羽織り、サングラスを合わせている。
「お、凛子さん来たー! 待った待った。既に日焼けの色男が三人できあがってるよー」
「愁ちゃんたら!」
 凛子は笑い、そして遥久の前に立つ。
「選んでくれてありがとう。似合ってると良いのだけれど……」
「よく、似合ってます」
 穏やかな表情で、遥久は頷く。
「……サーフボード借りて来るわ」
 タイミングを見計らい、リュカが遥久の肩を叩く。
「ナンパしまくって来るんじゃないわよ」
 彼であれば、一時間と経たずに自作ハーレムしかねない。
 凛子が釘をさす横で、愁也もリュカの背を追った。
「あっ、俺も行く! シュノーケリングしたい!!」
「ちょっと、あんた達!?」
 あからさまにあからさまな気の遣われように、凛子が動揺を浮かべた。
「ばんごはんまでにはかえりまーす♪」
「拾い食いするんじゃないわよー って、そうじゃなぁああい!」



(死ぬ、ってレベルじゃないわ!)
 顔が赤いのは日差しのせいにしておくとして。
 プライベートビーチ、水着姿、遥久と二人きり。
 どうしよう、と凛子がチラリと遥久を見上げると、彼もまた困った笑顔を浮かべている。
「少し、歩きましょうか」
「そっ、そうね! 潮風も気持ちいいし」
 せっかくの水着を濡らすのももったいないし!
 凛子の動転した発言が、二人の間の空気を和らげた。
 しばらくは、見ていて飽きない友人たちを見守ろうか。
 意見の一致を見て、二人はゆっくりと砂浜に足跡をつけ始めた。

「あー、目立つわねぇ、あの二人」
 他の男の視線には慣れたものだが、相手が遥久となると話は別だ。
 緊張を逸らすように、凛子は海辺へ視線を投げる。その先では、愁也とリュカが波に乗る姿があった。
 騒動を起こすんじゃないかと心配をしていたのは本音であったが、愁也に引っ張られる形でリュカも素直に海を満喫しているようで、凛子はそっと安心していた。
「愁也は、運動神経だけは見事ですからね」
 褒めているのか貶しているのかの評価に、そうね、と凛子も同意する。
「遥久ちゃんも、泳ぎたかったでしょう?」
「もちろん、あとで泳ぐでしょう?」
「……っ、そうね」
 付き合ってくれるのだろう、暗に秘めた言葉に、凛子は間をおいて応える。
 ――番犬任せたゼ
 リュカに、肩を叩かれた際に耳打ちされた言葉。
 その意味くらい、遥久も解っている。
 リュカが凛子を大切にしていることも解っている。
 そして、今日がどんな日か――。
 何も気づかない凛子は、純粋に今日という日を楽しんでいて。
 見守る遥久の胸がチリリと熱いのは、おそらく夏の日差しのせい。



 夜景の美しい特等席でのディナータイム。
 『せっかくなんだから!』と、料金上乗せで頼んだ甲斐があった。
 ビーチでの疲れも落ちるような、煌びやかな地上の光が宝石のようで目を楽しませる。
 男性陣の食事マナーは流石の一言である。
「そうしていると、愁ちゃんも紳士に見えるから不思議だわ」
「普段どんな風に見てるの、凛子さん!?」
「日頃の行ないってヤツだなァ」
「一番説得力がないわ、リュカ」
 学園入学以前からの顔見知りであるリュカへは、凛子も男前だろうが容赦なくて厳しい。
 けれど、その口調にはきちんと親愛が込められている。
 わかっているから、リュカも意図して悪ふざけが出来るのだ。

 一流の料理を堪能した後に、サプライズは訪れた。

「おめでとう、幸せな一年を過ごせますように!」
「……えっ!?」
 愁也が指を鳴らすと、特製のバースデーケーキが運ばれてくる。
 ――今日は、充分にサプライズ続きだったけれど!

「女王様が世界で一番幸せになるように」
 リュカが願いを込めて、凛子の頬にキス。
「……で、本当の歳いくつだっけな?」
 凛子の鉄拳が、鋭くリュカの胸を突いた。
 ※美しい顔は、狙わない。

「誕生日おめでとうございます。幸福を貴女に」
 遥久からは、赤いバラとカサブランカのミニブーケ。――到着時、ホテル側へ依頼していたものだ。
 背後からカードキーを紛れこませようとする愁也の動きを鋭く察知、鉄拳制裁を見舞いながら凛子へ手渡す。

「……っ、…………嬉しくて死んじゃいそう」
 後ろで、それぞれに鉄拳を喰らって死にそうな男性二人が転がる中、凛子は花の香りに顔をうずめる。
「ありがとう、皆、大好きよ」
「うん、俺も凛子さん大好き」
「俺もスキスキ」
 立ち直った二人が、そうして遥久に言葉を促す。
「…………」
 が、ひと睨みされて、あえなく撤退。
 その様子に、凛子は目に涙を浮かべて笑った。
 本当に、どこまでも、どこに居ても、どこへ行っても、変わらない愛しい友人たちだ。
 改めて、祝福の乾杯を。
 ノンアルコールカクテルを手にする凛子だが、『酔う』とはこんな感覚なのだろうか、とこっそり思った。
 ふわふわと幸せで、優しい気持ちに包まれた。



 ビーチから花火大会を満喫できると聞いて、祝福の余韻を抱きながら四人は外へ出た。
 夜風が火照った肌に心地よい。
 雑踏の中、確かに聞こえる波の音。
 互いが離れないように気を配りながら、見物に適した位置を探す。
 あっちがいい、いや向こうが穴場だ、そういいながらも逆方向へ進む。
 子供の頃に戻ったような高揚感を、だれもが抱いていた。

 ―――ドォン…… …………
「あっ、始まった!」
 そうこうしているうちに、夜空に花が開き始める。
「へェ。綺麗なモンだな」
 リュカが口笛を吹いた。
 大輪の花火が次々と打ち上げられ、音と光と彩りとで楽しませる。
 腹の奥にズシンと来るような轟きが悪くない。
「……幸せ」
 愁也、リュカと手を繋ぎながら凛子が夜空を見上げる。
 京都での大規模戦闘も乗り越え、こんな花火を見られることに自然と感動して、ちょっと涙ぐんでしまう。
 アウルに目覚めた、それだけでも凛子の日常は目まぐるしく反転した。
 そして学園で出会った友人たち。
 賑やかな学生生活の中、京都での一件は、それすらも揺るがす大きな出来事だったのだ。
 生きてる。生きてる。
 繋いだ手から伝わる体温が、確かなそれを伝えてくる。
 どこまでも、どこに居ても、どこへ行っても、変わらない存在。感情。友愛。
 幸せと、感謝と、祈りが、形となって夜空に咲く。

 酒足りねェ、とリュカがボヤいたのは、定位置を見つけて程なくしてだ。
「そこらに、出店なかったっけ?」
「アー…… だっけ?」
「……俺も行くわ。この人混みで乱闘勘弁」
「頼んだわ、愁ちゃん。まったく、リュカったら!」
 リュカ自身にその気はなくても、その風貌から絡まれる危険性は否めない、絡まれたが最後、捻り潰すまで行きかねないのも否めない。
 ひとりでウロウロさせるよりは、と動いた愁也を凛子も止めなかった。
 が。
 二人の手を離し、ハタと気づく。
(またこのパターンかぁ〜〜〜!)
「お手をどうぞ」
 今度は流石に、遥久も愁也とリュカの意図を察している。
 苦笑いをしながら、紳士的に凛子へ手を差し伸べた。



 人込みを避けながら歩き進む遥久を、繋いだ手を頼りに凛子が追う。
「何処まで行くの?」
「浜辺の端の方であれば、出店もなく人の流れも穏やかです。花火だけを楽しむなら、そちらが」
「もう、最初から言ってくれればよかったのに」
 四人で場所探しにウロウロしていたのはなんだったのだろう? ――あれも、楽しかったけれど。
「リュカ殿が、アルコールを切らすと困ると思いまして」
「納得したわ」
 そして、見事なこの結果である。是非もない。
 沖合の小島で打ち上げられている花火は、ビーチからであれば何処であっても等しく観れる。
 雑踏から抜け、二人は星空を背景に開く花火に言葉なく魅入った。
「…………」
 凛子が、何かを言いかけ、止める。
 はぐれる心配がなくなっても、繋がれた手はそのままで。そのままに。
(今日は―― いいのよね)
 凛子の胸の音をかき消すように、派手に花火が咲き誇った。


 我らが女神に、どうか幸あれ。
 最後の花火に、遥久が言葉を乗せる。 


 ハッピーバースデー、凛子!




【潮風に吹かれて〜サプライズフラワー 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 23歳 / 阿修羅】
【ja6460 / リュカ・アンティゼリ / 男 / 21歳 / 阿修羅】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27歳 / アストラルヴァンガード】
【ja5657 / 青木 凛子 / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
4名様の、ひと夏のサプライズリゾートをお届けいたします。
それぞれが抱く、淡い、強い、想いを、表現できていれば幸いです。
みなさまが、幸せな夏を過ごされますように。
常夏のドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月03日

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