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『潮風に吹かれて〜サプライズフラワー 』
リュカ・アンティゼリja6460


 夏休み。
 懸賞で引き当てた、リゾートホテルペア宿泊券で訪れた海の街。
 晴れ渡った空の色を映す海に、目を細める。
 潮風が鼻腔をくすぐり、胸をざわめかせる。
 慣れない土地で、すべてが自由だった。
 さぁ、胸に秘めた悪戯は、果たして成功するだろうか。



「日頃の行いがいいとラッキーも降ってくるのな!」
 夜来野 遥久が運転するオープンカー、その後部座席でドカリと両腕を広げ脚を組み、カラカラと笑うのは月居 愁也。今回の、宿泊券を引き当てた当人だ。
 遥久とは幼なじみで親友という間柄から、無遠慮――もとい、全幅の信頼を寄せてドライバーを任せている。
「アー、昼間からコレ、気分イイわ」
 リュカ・アンティゼリはそんな愁也の隣、煙草とビール片手に上機嫌。
 友人の愁也に誘われての参加。
 引き当てたのは『ペア宿泊券』のハズだが……細かいことは、気にしない。
 胸元を大きく開けたシャツをはためかせ、今を存分に楽しむ。
 波がきらめく海岸線。これだけで充分に楽しいが、その先にはリゾートホテルにビーチにと、お楽しみが満載なのだ。
 アレやりたいコレやりたい、と愁也が発言し、リュカがふざけた返答をする。
「……おい、あまりうるさいとここで降ろすぞ」
 自由極まりない後ろの友人二人へ、遥久が声をワントーン下げて視線を流す。
 愁也は両手を挙げ、リュカは動じず一笑した。
「まったく、何処へ行っても悪ガキは変わらないわね」
 遥久の隣、助手席のシートに身を沈める青木 凛子は、風に流れるミルクティー色の柔らかな髪を抑えながら呆れ顔、そして遥久と視線を交わして肩をすくめた。
 ――出発前。
『愁ちゃん、助手席はあたし死ぬわ……ッ』
 遥久が開ける助手席の扉を前に、窒息寸前だった凛子だったが、それもオープンカーの開放感に慣れると、開き直りへと転じていた。

(あぁ……運転する横顔が格好良すぎて辛い)

 直視するのも憚られたのはドライブスタート30分まで。
 海が近付くにつれ、潮の香りに皆の心が緩み始め、凛子も幸運を素直に受け入れることができるようになっていた。
 親しい親しい友人たちとのリゾート旅行。楽しまない手はない。
 京都を舞台に戦い抜いた大規模作戦――そこで絆を強め、今、ここに居る。
 悪童たちの意外な一面を見ることもできた。
 愁也を通して、遥久と交流を始めたのもその頃だ。不思議な縁は、ずっと続いている。
 凛子にとって春先の出来事は、これからの生き方をも変えてゆくほどの影響を与えていた。
 安穏としてばかりはいられない。
 ――けれど、今の時間だけは許したい。 
「ほんと、気分いいね!」
 乙女の表情で遥久を見つめる凛子、その姿を後部座席から見守る愁也が、意味を悟られない発言でリュカと目くばせをした。
 ラッキーは、まだまだこれから。



 夏の日差しにそびえたつ、スマートなリゾートホテルが眩しい。
 学園に入ってから、こんな機会はまったくなかった。
「ラッキー凄い…… 反動が怖い」
 愁也の口から、思わず感嘆の声が上がる。


「えーと、ペア宿泊券だから部屋は一室だけなんだよな。これは凛子さんが使って? 他は遥久が予約抑えてくれてんだよな」
「ああ、俺たちは三人一室だ」
「…………」
 さらりとした返答に、愁也が絶句した。
「ひとつはエキストラベッドだが、このホテルの規模なら不自由はあるまい?」
「はるひさぁあああ……」
「えー。なんか男子部屋楽しそう……」
「ン、俺が添い寝に行こうか、女王様?」
「うふふ。リュカ、縛り上げられる趣味はあって?」
「ごエンリョするわ」
 ホテルのフロントでの掛け合いもそこそこに、ビーチ集合の約束を交わして互いの部屋のキーを受け取る。
 渋々といった風で凛子がエレベーターに乗り込み、愁也、リュカも続く。
 遥久だけが、更にフロントで何がしか話し込んでいるが、部屋の交渉か何かだろうか。

「まぁ、こういう結果ですよね!!」
 じゃんけんの末、見事エキストラベッド当選した愁也が絶望するも、
「遥久が凛子の部屋に泊まりに行けば問題ねェだろ」
「問題だらけです、リュカ殿」
 ニヤリと笑うリュカに、遥久が手厳しく切り返す。
 賑々しく、ホテルのプライベートビーチへと向かう三人。
「凛子さんの水着って、遥久が選んだんだっけ」
「……ああ」
 6月に開催されたウェディング企画では、遥久プロデュースの衣装で凛子と二人、優勝を果たしている。
「…………」
 リュカは何事か言いかけ、珍しく飲み込む。
「ごめんなさい、待たせちゃった!?」
 そこへ、凛子が急ぎ足で合流した。
 品のあるデザインは、流石の遥久コーディネート。
 上に軽く一枚羽織り、サングラスを合わせている。
「お、凛子さん来たー! 待った待った。既に日焼けの色男が三人できあがってるよー」
「愁ちゃんたら!」
 凛子は笑い、そして遥久の前に立つ。
「選んでくれてありがとう。似合ってると良いのだけれど……」
「よく、似合ってます」
 穏やかな表情で、遥久は頷く。
「……サーフボード借りて来るわ」
 タイミングを見計らい、リュカが遥久の肩を叩く。
「ナンパしまくって来るんじゃないわよ」
 彼であれば、一時間と経たずに自作ハーレムしかねない。
 凛子が釘をさす横で、愁也もリュカの背を追った。
「あっ、俺も行く! シュノーケリングしたい!!」
「ちょっと、あんた達!?」
 あからさまにあからさまな気の遣われように、凛子が動揺を浮かべた。
「ばんごはんまでにはかえりまーす♪」
「拾い食いするんじゃないわよー って、そうじゃなぁああい!」



 熱砂の上を歩きながら、愁也とリュカは悪だくみ成功の笑みを浮かべる。
『番犬任せたゼ』
 リュカの言葉は、正しく遥久へ届いたであろう。
 凛子が遥久に抱く、形にはできない感情を、愁也もリュカも知っている。
 大事な存在の凛子を、遥久になら預けられるという信頼も、寄せている。
 リュカは、常時であれば『凛子に対するナンパに触ったら殺す』と睨みを利かせるところだが、そこを敢えて託したのだ。
 今日は、そうする日だと決めている。

「サーフボードって色々種類があるんだな……」
「ア? もしかして初心者か。手取り足取り腰取り教えてやろうか」
 レンタル所で目移りしている愁也へ、リュカがニヤニヤ笑いながら仕掛ける。
「言っておくが、学習能力は高い方だぜ、ただし運動方面に限る」

 程なくして宣言通り、あっという間に上達した愁也を前にリュカは舌打ちをした。

 波に乗っていると、砂浜の様子が良く見える。
 遥久と凛子の姿は、遠目であってもすぐにわかった。
「楽しんでるかな、お二人さん」
 サーフボードに上伸を預け、海水に浸りながら愁也が言った。
「なに言ってンだ、ここまでお膳立てして失敗したらやってらンねェ」
「だな」
 複雑な感情を押し殺すようなリュカを、宥めるように愁也は頷く。
 二人は今夜の『計画』を軽く復習して、再び海を楽しんだ。
 遊ぶ時は遊ぶ! いろんな意味で!!

「リュカ、シュノーケリングはどうやるの?」
「……本当に初心者か」



 夜景の美しい特等席でのディナータイム。
 『せっかくなんだから!』と、料金上乗せで頼んだ甲斐があった。
 ビーチでの疲れも落ちるような、煌びやかな地上の光が宝石のようで目を楽しませる。
 男性陣の食事マナーは流石の一言である。
「そうしていると、愁ちゃんも紳士に見えるから不思議だわ」
「普段どんな風に見てるの、凛子さん!?」
「日頃の行ないってヤツだなァ」
「一番説得力がないわ、リュカ」
 学園入学以前からの顔見知りであるリュカへは、凛子も男前だろうが容赦なくて厳しい。
 けれど、その口調にはきちんと親愛が込められている。
 わかっているから、リュカも意図して悪ふざけが出来るのだ。

 一流の料理を堪能した後に、サプライズは訪れた。

「おめでとう、幸せな一年を過ごせますように!」
「……えっ!?」
 愁也が指を鳴らすと、特製のバースデーケーキが運ばれてくる。
 ――今日は、充分にサプライズ続きだったけれど!

「女王様が世界で一番幸せになるように」
 リュカが願いを込めて、凛子の頬にキス。
「……で、本当の歳いくつだっけな?」
 凛子の鉄拳が、鋭くリュカの胸を突いた。
 ※美しい顔は、狙わない。

「誕生日おめでとうございます。幸福を貴女に」
 遥久からは、赤いバラとカサブランカのミニブーケ。――到着時、ホテル側へ依頼していたものだ。
 背後からカードキーを紛れこませようとする愁也の動きを鋭く察知、鉄拳制裁を見舞いながら凛子へ手渡す。

「……っ、…………嬉しくて死んじゃいそう」
 後ろで、それぞれに鉄拳を喰らって死にそうな男性二人が転がる中、凛子は花の香りに顔をうずめる。
「ありがとう、皆、大好きよ」
「うん、俺も凛子さん大好き」
「俺もスキスキ」
 立ち直った二人が、そうして遥久に言葉を促す。
「…………」
 が、ひと睨みされて、あえなく撤退。
 その様子に、凛子は目に涙を浮かべて笑った。
 本当に、どこまでも、どこに居ても、どこへ行っても、変わらない愛しい友人たちだ。
 改めて、祝福の乾杯を。
 ノンアルコールカクテルを手にする凛子だが、『酔う』とはこんな感覚なのだろうか、とこっそり思った。
 ふわふわと幸せで、優しい気持ちに包まれた。



 ビーチから花火大会を満喫できると聞いて、祝福の余韻を抱きながら四人は外へ出た。
 夜風が火照った肌に心地よい。
 雑踏の中、確かに聞こえる波の音。
 互いが離れないように気を配りながら、見物に適した位置を探す。
 あっちがいい、いや向こうが穴場だ、そういいながらも逆方向へ進む。
 子供の頃に戻ったような高揚感を、だれもが抱いていた。

 ―――ドォン…… …………
「あっ、始まった!」
 そうこうしているうちに、夜空に花が開き始める。
「へェ。綺麗なモンだな」
 リュカが口笛を吹いた。
 大輪の花火が次々と打ち上げられ、音と光と彩りとで楽しませる。
 腹の奥にズシンと来るような轟きが悪くない。
「……幸せ」
 愁也、リュカと手を繋ぎながら凛子が夜空を見上げる。
 京都での大規模戦闘も乗り越え、こんな花火を見られることに自然と感動して、ちょっと涙ぐんでしまう。
 アウルに目覚めた、それだけでも凛子の日常は目まぐるしく反転した。
 そして学園で出会った友人たち。
 賑やかな学生生活の中、京都での一件は、それすらも揺るがす大きな出来事だったのだ。
 生きてる。生きてる。
 繋いだ手から伝わる体温が、確かなそれを伝えてくる。
 どこまでも、どこに居ても、どこへ行っても、変わらない存在。感情。友愛。
 幸せと、感謝と、祈りが、形となって夜空に咲く。

 酒足りねェ、とリュカがボヤいたのは、定位置を見つけて程なくしてだ。
「そこらに、出店なかったっけ?」
「アー…… だっけ?」
「……俺も行くわ。この人混みで乱闘勘弁」
「頼んだわ、愁ちゃん。まったく、リュカったら!」
 リュカ自身にその気はなくても、その風貌から絡まれる危険性は否めない、絡まれたが最後、捻り潰すまで行きかねないのも否めない。
 ひとりでウロウロさせるよりは、と動いた愁也を凛子も止めなかった。
 が。
 二人の手を離し、ハタと気づく。
(またこのパターンかぁ〜〜〜!)
「お手をどうぞ」
 今度は流石に、遥久も愁也とリュカの意図を察している。
 苦笑いをしながら、紳士的に凛子へ手を差し伸べた。



「夏だもん、こういうのもいいだろ」
 ホテルの部屋へ戻った愁也は、バルコニーから花火を楽しむ。
 アリガトサン。
 愁也から缶ビールを受け取り、リュカもフェンスに肩肘をつき、喧騒を眺める。
「あのへんにいるかな?」
「むこうじゃねェか? 凛子は酒を飲まないし、メシのあとだから出店は要らねェだろ。だったら、中央から離れた方が花火は良く見える」
「あー」
 確かに遥久なら、そこまで気を回しそうだ。

 二人でやいのやいの言いながら、酒盛りは続く。
 遥久と凛子の話題から逸れ、そして再び戻る。
「――今夜、遥久が帰ってくるかどうか賭けるか」
「それじゃあ賭け、成立しないだろ」
「だナ」
 紫煙を燻らし、リュカが笑う。
 もう、多くを語る必要はないだろう。作戦は、きっと成功した。
 悪餓鬼二人は、缶ビールで祝杯を。
 その先で、派手に花火が咲き誇った。


 我らが女神に、どうか幸あれ。
 ハッピーバースデー、凛子!




【潮風に吹かれて〜サプライズフラワー 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 23歳 / 阿修羅】
【ja6460 / リュカ・アンティゼリ / 男 / 21歳 / 阿修羅】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27歳 / アストラルヴァンガード】
【ja5657 / 青木 凛子 / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
4名様の、ひと夏のサプライズリゾートをお届けいたします。
それぞれが抱く、淡い、強い、想いを、表現できていれば幸いです。
みなさまが、幸せな夏を過ごされますように。
常夏のドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月03日

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