『千佳のにゃんにゃん☆夏休み〜コクリと海へ 』

猫宮・千佳（ib0045）

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――ざざん。
　すっかり夏色の太陽の下、さざ波の音と人々のざわめき。
「海にゃっ！」
　抜けるように青い空を背後に、潮風を受けてオレンジ色の猫耳が揺れている。いや、突然うしろに激しくなびき始めた。
　夏でも愛用しているオレンジの猫耳頭巾を着けた猫宮・千佳（ib0045） が、賑わう尖月島の海岸に心躍らせ走り始めたのだ。
「海だね、千佳さんっ」
　短いボブの髪をなびかせコクリ・コクル（iz0150）も走り並ぶ。
「コクリちゃん、今日はいっばい遊ぶにゃよ〜っ」
「もっちろん。合戦でひどい目にあったから、今日はたっぷり楽しもうねっ！」
　二人とも全力疾走。
　そこには、「少女」という魔法のような年代だけに贈られる、無垢な様子、無邪気な雰囲気、そして眩しいばかりの可能性があった。自然に漏れる、にゃふふ、あはは、という笑いはもちろん、どちらからともなく見詰め合ってしまったから。さらに速度を上げて走る。
　白い砂浜に、二人の足跡がずうっと伸びていく――。

●
「それじゃ、早速着替えるにゃよ？」
　更衣室で、千佳がウキウキしながら猫耳頭巾を脱いだ。長い金髪が波打つ。
「あ……」
「ん？　どうしたにゃ、コクリちゃん？」
　にゃ、とコクリを見ると、ポンチョを取ったままで固まっていた。
「その、千佳さんの下ろした髪の毛って久し振りに見たなと思って」
　真っ赤になった様子は、「そんな千佳さんも素敵だよ」と言ってるも同じである。
「一緒にお風呂に入ったりして何度も見てるはずにゃよ。今更恥かしがることないにゃー」
　とかなんとか言いつつ、ちらもじと視線に困っているようなコクリの様子に千佳も照れてしまって。
　だもので、千佳がそのへんにあった何かをコクリについ投げつけてしまう。
「わぷ！　ん、これは何？」
　千佳の投げた小さな布を顔で受けてしまったコクリ。改めて顔からひっぺがしてみると……。
「わっ！　これって、水着？」
　ぽんっ、と赤くなるコクリ。ピンク地に白い水玉柄のツーピースのトップは、えらく布面積が小さかった。
「そうにゃよ？　……それより、背中のボタンを外してほしいにゃ」
　コクリのわたわたを尻目に、千佳ははい、とばかりに薄い胸を反らして上のほうだけ外している背中のボタンを向けた。髪はまとめて右肩から前に垂らしているので左の耳からうなじまでのライン――少女らしい細さで、眩しいくらいに白かった――を惜しげもなくさらしている。
「う、うん」
　次々露になる奇麗な背筋から視線をそらせつつ、それでも気になり見惚れつつボタンを外してやるコクリ。千佳の方は腰を縛るエプロンの結び目を緩めている。やがてすとーんとエプロンドレスが床に落ちた。
「よし、これでいいにゃね」
　そのままくるりと振り向く千佳。ふわりと髪がなびいて位置を変え胸の先を隠す。
「ちょ……。下着姿でこっち向かないで〜っ」
「コクリちゃんなら見られてもいいにゃ〜っ」
　そのままがしー、と抱き付く千佳。ちょうど水着のトップを持っていたコクリは受けとめ内股になりつつ、千佳を抱いた背中で水着の紐を結んでやった。ちょうど水着に千佳の胸が飛び込んだみたいで。
「じゃあ、このまま下もにゃ」
「ええっ！」
　抱きついた妙な姿勢のまま、それでも器用に下も水着に着替えさせるコクリ。両腰紐結びな下着と水着だったので何とか願いを叶えてやった。
「こんなとこも二人っきりで楽しむって感じなのにゃ♪　というわけで、コクリちゃんお着替え手伝ってあげるにゃ〜♪」
「え、ボクも？」
　尻込みして困るコクリ。首をかしげる千佳。
「だって……。合戦の時の痣が残ってるから」
　恥かしそうに言うコクリに、むしろ顔を輝かせる千佳。
「だったら、ふーっ、ふーってしてあげるにゃ。水着もあたしの予備のワンピースがいいにゃよ」
「あ、千佳さん」
　早速、コクリのスカートを下ろす千佳。下着も外してやる。荷物から新たに、ピンク地で白いフリルのついた、やっぱり白水玉柄の可愛らしいワンピース水着を取り出す。
「はい。ここに足を通すにゃ」
　脚を通させて、ずずずーっと目の前で引き上げながら千佳が言う。コクリの背後から見ると、脚の間から覗く千佳の両目は親切心でキラキラ輝いている。やがて股まで引き上げると、きゅっと丁寧に腰を包んでやる。
「上着も脱ぐにゃ。痣はわき腹にゃね。……これでぴっちり、隠してあげるにゃ」
　万歳させて上着を抜いて、コクリの身体を調べる千佳。わき腹をふーふーして水着で包み、さらに薄い胸も収めてやる。
「ほら、これで隠れたにゃ♪」
　ぴちっ、と肩紐をかけてやると、千佳の目の前にはコクリの顔が。
「ありがとうっ、千佳さんっ！」
　今度はコクリの方から千佳に抱きついたようで。

●
　早速、波打ち際の浅瀬に繰り出した二人。
「うにっ。蟹がいるにゃっ！」
　千佳がダンスを踊っているように脚を踏み換え下を気にして、さらにステップを踏むのはちょうど蟹がかさかさと動いていたから。踏まないように、ダンスダンス。水しぶきが跳ねる。
「どれどれ？　ホントだ。……って、ああん。まだいるっ！」
　コクリも寄って来て確認すると、一緒にステップ・ステップ。ついつい両手を上げて、千佳の両手と合わせてみたり。ぐっと指と指の間を合わせて握り締めた手で顔と顔が近くなったが、すぐにざざん、と寄せて来た大きな波にびっくりして一緒に退散退散。
　はふー、と息をついたのもつかの間。すぐに新たな刺激を求める。
「よーし、千佳さん。今度は沖にイルカを探しに行こう！」
「にゅふふ。だったら泳ぎ勝負にゃ！　負けたら罰ゲームにゃー♪」
　遠くの船を指差すコクリに、千佳が拳を上げて応じる。
「罰ゲーム？」
「にゅ。負けたら、勝った方のお願いを一つきくにゃよ？」
「よ〜し。その勝負、受けたっ。負けないからね」
　にゅふ♪と猫笑みする千佳の提案にやる気を見せるコクリ。
　そんなわけで、よーいドン。
　ばしゃばしゃと浅瀬を泳ぐ二人。
　全力の速度で抜いたり抜かれたり。
　しかし、突然千佳が失速した。
「ん？　千佳さん」
　コクリが気付いて止まり、振り向いた。
　すると、千佳は後方で困ったように肩まで水に漬かっていた。上目遣いでコクリを呼んでいる。
「どうしたの？」
「水着の紐が緩んだにゃ。コクリちゃん結び直してにゃ〜っ！」
　ざっぱ〜ん、と跳ね上がるとそのままコクリに抱き付く千佳。コクリが見ると、確かに千佳の水着のボトムは左の紐が解け、右の支えでギリギリ大切なところを隠すのみとなっていた。
「わーっ。しかも右も緩んでるじゃない〜」
「コクリちゃん、わざと緩むように結んだに違いないにゃ。……また緩く結んでもいいにゃよ？」
　千佳のこの一言でコクリはノックアウト。
　何とか結び直して泳ぎ勝負を再開したがもう勝負にならない。
「とほほ……」
　桟橋でにゃふん☆と胸を張る千佳の手前で、ぺたりと座り込んだコクリが恥らうようにうるうるしていた。
　一体、勝利した千佳は負けたコクリに何をお願いしたのだろう？

●
「その……。『今日一日恋人になる』って、どうしたらいいの？」
　見上げて聞くコクリ。千佳は高い太陽を背に、ずいっとコクリの顔にアップで迫った。
「簡単なことにゃ。まずは、恋人のためにボートを漕ぐにゃ」
　ぎし……とコクリがボートを漕いで沖に。
「にゃっ！　コクリちゃん、イルカにゃ。早速捕まって泳ぐにゃ〜」
　どぷ〜んと飛び込みイルカに捕まる千佳。
「ちょっとま……わっ、速〜い！」
　ここのイルカは人が大好き。
　千佳とコクリを乗せると早速泳ぎ始める。その速いこと速いこと。
「すっごーいっ！」
「両側にほかのイルカも集まって来たにゃ！」
　あっという間に群れとなるイルカ。そのままぐいーんと曲がったり。
「あはははっ」
　千佳とコクリは落ちないよう、跨いだまま身体を内側に傾ける。
　そんな楽しい時は一瞬で過ぎるもの。
　やがて日が傾き、空が茜色に染まる。

「ん。千佳さんどうしたの？」
　二人は海の家のテラスで、染まる空と海を眺めながら夕食を食べていた。
　コクリは、キスをおねだりするように小さな顎を差し出す千佳に首を捻った。
「んー、恋人に食べさせて欲しいにゃ☆」
「あはっ。……はい、あ〜ん」
「あ〜ん☆　……次はコクリちゃんにゃね？　あ〜ん」
　ぱくっ、と猫のように可愛らしくコクリの差し出す匙に食いつく千佳。満足したようで、今度は千佳がコクリに匙を差し出す。
「あ〜……ん」
　ぱくっと食べて、見詰めてにゅふふあははと笑い合う。
　テーブルには、一つのリゾットに一つの椰子の実ジュース。
　どれも一つを仲良くはんぶんこ。

　そして空にはキラキラ星たちが。
　もちろん、コテージも一つでお布団も一つ。
　中では、すでに寝息が漏れている。全力で遊んだので夜は早い。
　寝間着姿の二人が、掛け布団をはねのけ仲良く手をつないで寝ていた。
　と、ここで千佳がごろっと転がる。コクリにぎゅっと抱き付く。
「にゃー、コクリちゃん大好きにゃ〜♪」
「ん？」
　千佳の寝言に目覚めるコクリ。
「にゅー、負けたにゃ〜。コクリちゃんの願いは何かにゃ……？」
　さらに寝言を言ってる千佳。
「……一日、恋人になって」
　コクリは千佳の耳元でささやくと、一緒にその夢を見ようとするかのように目を伏せ優しく抱き締めるのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0045／猫宮・千佳／女／１５／魔術師
iz0150／コクリ・コクル／女／１１／志士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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猫宮・千佳　様

　いつもお世話様になっております。
　この暑さの中、あまりにも元気で仲の良い千佳さんとコクリの物語をお届けします。アドリブで水着をお揃いにしつつ、千佳さんの優しさを表現してみました。ラストは、聞こえないけどコクリの願いで。
　願わくば、同じ夢が見れますように。

　この度はありがとうございました♪

常夏のドリームノベル

瀬川潮

舵天照 -DTS-

2012年08月06日