▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『炎のゲーム 』
赤羽根・灯5251)&エヴァ・ペルマネント(NPCA017)
 ある高校のテニスコートでは夏の全国大会の予選が行われていた。その最終試合。
 コートには2人の女性の影。
 1人は長い黒髪が美しく、会場となっているこの学校のユニフォームを着ている。名を赤羽根灯という。ネットを挟んで反対側には金色のポニーテールが揺れる小柄の女性。名をエヴァ・ペルマネント。
「「よろしくお願いします」」
 2人は頭を下げる。
「1セットマッチ。赤羽根灯・トゥ・サービス・プレイ」
 審判の声がコートに響き、試合は幕を開けた。
「今まで戦ってきた人とは雰囲気が違う。強いのかもしれない」
 そんな予感に灯は心躍る。
 興奮にざわめく精神を集中させ、球を空へと放った。その球は力強く相手コートに飛んでいく。
 灯のサーブを返せるのは部内でもレギュラーぐらいである。
「さあ、どうくる?」
 しかし、そうわくわくしながら、ラケットを構えた時、球は灯の目の前にあった。
「えっ!?」
 慌てて球を打ち返すが、勢いの死んでしまった球はネットに当たり相手のコートには届かない。
「0−15」
 無言のコートに審判の声が響く。相手を侮っていたわけでも、ラケットを構えたのが遅かったわけではない。ではなぜ?混乱する頭を振り、
「もう一度」
 そう、もう一度サーブを打ってみよう。今度は先ほどのミスをしないように、もっと早く。
「0−30」
 結果は同じだった。サーブにミスはない。しかし、こちらが動くより先に球が帰ってきてしまうのだ。
「勝てないかもしれない」
 愕然とした。
 自分の運動神経を過信していたわけではないが、この相手、強い。
 たったの2球でそう思わせるこのエヴァという対戦相手、どれだけ強いというのか。
「でも」
 そう、ここで灯が勝たなければ、灯の学校はここで敗退になってしまう。
「負けられない」
 灯は精神を統一し、気合を入れなおすため、髪をくくった。
「いきます!」
 全身全霊でサーブを打ち、全力で球に食らいつく。
「ゲーム・ウォン・バイ・赤羽根灯。ゲームカウント1-0。エンド・チェンジ」
 長い長いラリーの末、灯は1ゲーム目をものにすることができた。
 コートをチェンジするためにすれ違う。
「いい準備運動になったわ。楽しくなりそうね」
 すれ違い様、そういって微笑むエヴァ。彼女に疲労はあまり見えない。その表情からもまだ余裕がありそうだと灯は感じた。それに引き換え、自分はもう息が上がりそうになっている。
「そうですね」
 上がる息を抑えながらそれだけ返して、灯も少し笑いかけた。
 そうだ、まだ試合は始まったばかり。1ゲーム取れるんだもの。勝てる見込みはある。
 両手で頬をパンパンとたたき、再度気合を入れなおす。
 長時間の試合になると体力が持たないだろう。それなら短時間で…
「決める!こい!!」
 エヴァのサーブが来る。
 このスピードなら打ち返せる。しかし、相手の球がすさまじく重い。それを打ち返すたび、体力がごりっと持っていかれるのだ。
 何とか返しても、灯の打ちにくいところに打ちにくい球を打ってくる。
「これでどう?」
「まだよ」
 サーブから返ってき球を球速を上乗せして相手の反対側に打ち込む。しかし、まるで予想していたかのように打ち返すエヴァ。
「ゲーム・ウォン・バイ・エヴァ・ペルマネント。ゲームカウント1-1」
 そしてもう少しのところでゲームをとられてしまう。


 炎天下のコートで球が打ち返される音と審判の声だけが続く。
 すばやい球を乱れ打って相手を翻弄する。灯がまるで牛若丸なら、エヴァは様々な球種を使いこなす。さながら弁慶のようだった。物語では牛若丸は弁慶に勝利するが…
「ゲーム・ウォン・バイ・エヴァ・ペルマネント。ゲームカウント5-1」
 最初に1ゲームとったきり灯はゲームを落とし続けた。ポイント自体はとるのだが決定打がなく、ゲームを奪われるばかり。このゲームを落としたら負けてしまう。灯は焦っていた。
「……」
 肩で息をするだけで、もう言葉も出ない。体力は限界で、肺が痛いくらいだった。
 サーブ権は灯。
 陽炎なのか、疲労からなのか、ゆらゆらとゆれるコートに力を振り絞って球を打ち込むが、当たり前のように返ってくる速く重いボール。
 なんとか打ち返すが、足がもつれて倒れてしまう。
「ボール、追わなきゃ」
「0-40」
 そう思ったときには審判の声が響いていた。
 残り1球。
「マッチポイント」
 朦朧とする頭で、バウンドさせた球を手に取り、審判の声と共に空へと投げた。


「ゲームセット。ウォン・バイ・ エヴァ・ペルマネント」
 よろよろとネットに近づき、エヴァと握手を交わし、その後、審判と握手を交わして、ベンチに戻る。
「負けた……」
 同じ部活の子達がいろいろ言っているのが遠くで聞こえたが、涙があふれてきてそんなもの耳に入らなかった。自分の非力さ、練習不足、いろんなものが悔やまれたが、そんなことよりなにより、純粋に悔しかった。
 泣き続ける灯が顔を上げるとちょうど目の前を帰り支度をすませたエヴァが通った。
その時、確かに目が合った。そして彼女の口が動いたのがわかった。
「これが朱雀の巫女」
声は小さかったが確かにそう聞こえた。
立ち上がり、エヴァに声をかけようとした時、エヴァはもうそこにいなかった。
「何?どうして私が朱雀の巫女だって知ってるの?それに今の言葉……エヴァ君は何者なの?」
灯の心に謎だけが残った。


-To Be Continued?-
PCシチュエーションノベル(シングル) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年08月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.