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『最後のかけらはどこにある 』
夜神・潤7038)&聖栞(NPC5232)

 いつものカフェテリアで、夜神潤はコーヒーを飲んでいた。
 耳に入るのは、昼休みらしい聖学園の生徒達の噂話だった。

「ねえ、バレエ科の高等部まずくない?」
「まずいよねえ、いきなり代役立てるなんて……」
「今年初めてなんでしょう? 三大バレエを一挙公演なんて」
「話題性も高かったのに、いきなり先輩、休学だなんて……」
「前から揉めてたから? ほら……」

 そこから先は、ひそひそした小声に替わる。
 ふむ。潤は届けられたサンドイッチを食べながら、先程の話を分析していた。
 確か理事長は何とかするって言っていたはずなのに……彼女が休学か……。でも、星野さんの事は本当にどうなったんだ?

「お待たせ。ちょっと打ち合わせで遅れたんだけど、時間は大丈夫かしら?」

 と、考え事をしている間に、聖栞がやってきた。
 彼女の顔を見た瞬間、さっきまでこちらにまで聞こえる音量で噂話をしていた生徒達は、気まずそうな顔をして、慌ててテーブルに乗っていたものを頬張り始めた。おそらく急いで学園に戻るつもりだろう。
 それを栞はくすくす笑いながら「そこまで慌てなくてもいいのに」と呟いた。彼女はさっきまでの会話の内容を知っているのだろうかと、潤は少しだけ疑問に思った。

「それで、用件はこの前の怪盗騒ぎの話でいいかしら?」

 生徒達がばたばたと会計を済まして立ち去って行くのを後目に、栞は潤の向かいの席に着く。

「はい……あれはまさか、失敗したんですか? 先程高等部の演目で代役を立てる事になるとか言う話が出ていましたが」
「必要ないと思うわ」
「……彼女は、どうなったんですか?」
「今、少しの間だけ封印しているだけなのよ」
「は……?」

 あまりにも物騒な話がぽろりとこぼれたので、耳を疑う。
 封印って……彼女を?

「それは、星野さんも含めてですか?」
「ええ。でも多分上手くいくわ」
「話が見えないんですが……」
「あなたが、織也を説得してくれた。それと同じ事をしている人が他にいるのよ。前は上手くいかなかったみたいだけど、あなたが諭してくれたおかげで、そろそろ話を聞いてくれるんじゃないかしらって思うの」
「……つまり、海棠織也が折れたら、すぐに封印は解除すると?」
「ええ……それに封印している間に、思念にすっかり当てられてしまった星野さんから、思念を抜き出さないといけないから。今彼女の中に溜まってしまっている思念を抜き出している。封印はそのための処置」
「ああ……」
「本当に、人が誰かのために何とかしようとする様はいいものね……身内の言葉って、こういう時全く届かないから」

 そう栞は朗らかに笑う。
 少なくとも、この人は。
 皆を助けるためにこの一連の騒動を仕組んだと言う事でいいんだろうか?
 潤はそう思いながら「理事長は何か注文しますか?」と尋ねる。

「そうねえ……じゃあ、カプチーノを。お代は別で」
「そうですか。すみません、カプチーノを一つ」

 通りすがりの店員にそう告げると、もう一つの本題へと話を移す。

「まあ、織也君達の問題が何とかなりそうなのは理解しましたが……では、副会長のは?」
「あら?」
「……怪盗が去って行った後も、思念が残っていたようですので、怪盗は回収に失敗したのかと思いました」
「ああ……あれねえ」

 栞は溜息を吐く。
 ん、こんな反応初めてだが……潤は訝しげに彼女を見ると、栞は口を開いた。

「これは私も予想外だったの。副会長さんがまさか、思念を2つも持っていたなんて。どちらもとても性質が似たものだったから、怪盗もそれぞれ別の思念の声だと聞き取れなかったみたいなの」
「え……それじゃあ、まだ未回収なものが、一つ……?」

 潤の問いに、栞は頷く。
 潤は思わず頭が痛くなるのを感じた。

「多分次の聖祭で全てに決着がつくとは思うんだけど……こればかりは私もどうなるか分からないわ」
「……でも、一つ質問いいですか?」
「どうぞ」
「副会長は、前は怪盗を捕まえようとしていたので、自分で盗める何かを用意していたとは思えます。
 でも、それは二つだったんですか? その時点では一つだったんですか? 怪盗が回収できていない事に気付かなかったと言うのが引っかかるんですが」
「多分一つだったと思うのよ。彼女が用意したのは。どこかでもう一つが現れたのは恐らく……その最後の一つが他の思念と性質が違うせいよ」
「違う?」
「これはあくまで私の推測だけれど、最後の思念は、形を変えるのだと思うわ。そして元々あった思念の声ととても似通っていた」
「……」

 潤は最後に聞いた声を頭に思い浮かべた。
 あの時『取らないで』ばかりを執拗に言っていた気がする……。
 執着心……嫉妬?

「形を変えるのでしたら、どうやって回収すればいいんでしょう?」
「それこそ、彼女が自分の中の思念を受け入れるしかないでしょうね。人間誰しも持っている感情だから、下手に拒絶したり、ないと誤魔化したりしたせいで、ややこしい事になったんでしょうから」
「……」

 厄介な。
 潤は心底そう思ったが、あまりにも自信なさげな副会長の表情を思い浮かべると、怒る気にもなれなかった。
 ただ、厄介としか言いようがない。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年08月10日

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