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『強制お見合い大作戦 〜家族と家庭とお見合いと〜 』
桔梗(ia0439)

●運命の出逢い?
 開拓者と呼ばれる人々がいる。
 志体や仙人骨、ジン、テュールなどと地域によって呼称は異なるが、先天的に高い身体能力や精霊との交信能力などの特性を持っている人間が、特定のギルドに所属して得る立場である。
 開拓者達を統括し、請け負う仕事の管理などを行う機関を開拓者ギルドといい、中でも開拓者が居住を義務付けられている神楽に存在するギルドは特に大きい。
 ギルドでは、開拓者達に仕事を斡旋する。仕事には請ける側も募る側、両方が必要だ。請ける開拓者のみならず、ギルドには依頼を持ち込む一般人も多く訪れ、一日中大賑わいであった。
 そう、それはもう種々様々な用事を持ち込む人で賑わって――中にはちょっぴり困った訪問客もいたりする訳なのだが。

 今日も今日とて、ギルドの受付に居座っている常連客がいた。
 昼夜を問わず門戸が開かれているギルドだが、その女性はここ最近ずっと見かける気がする。殊に昼間は確実にいた。
 開拓者であれば求人掲示を確認に連日訪れるというのも珍しくないし、心配性な依頼人が進捗を確認にというのも多少はある。だけどその人は依頼人ではなかったし、まして開拓者でもない。時折いる、押しかけ見習い職員の類でもなさそうだ。
 では何用で開拓者ギルドを訪れているのか。桔梗(ia0439)は元・押しかけ見習いの梨佳(iz0052)に、こそりと問いかけた。
「梨佳、あれ、誰?」
「お見合いおばさんですよ‥‥目を合わせちゃダメです、捕まったら大変な事になるですよ」
 あわわと恐ろしげに耳打ちする梨佳の話によると、連日ギルドを訪れては手当たり次第に見合い話を押し付けようとする、ちょっと傍迷惑な人だそうで。今のところ直接被害を被っているのは職員だけなので出禁にはなっていないのだが、なかなかしつこくて未婚職員達は皆して敬遠しているのだとか。
 何でもこの女性、六月の『じゅーんぶらいど』が大量発生する時期に一組の成婚も仲人できなかったらしく、水無月が過ぎた後も引き続き縁結びに勤しんでいるのだそうな。
 だけど本来、恋愛や結婚は当人同士の気持ち次第だ。見合いは切っ掛けにはなるだろうけれども、そもそも互いに意思がなければ縁は繋がらない。
「哲慈さんのお世話なら喜ぶ人もいるですが‥‥」
 相変わらず身形を気にしない男やもめに目を向けて、梨佳は困った風に首を傾げた。どう上手くいなしたものやら、おばさんは哲慈に付き纏いはしなかった。どうやら彼の再婚は当分期待できそうにないらしい。
「そう言えば。聡志さんと桂夏さんは?」
「聡志さんは夜勤、桂夏さんは応接室に籠もったまんまです」
 話によると、お見合いおばさんとの遭遇を避けた未婚職員達の夜勤希望が続出しているらしい。夜勤を好まない桂夏は個別受付に使う応接室で働いているとかで、梨佳に依頼人の案内や飲食物の運搬を任せて徹底的におばさんを避けているのだとか。
「テキレイキの人は大変ですねー」
「そ、だな」
 一見して当年十六には見えない見習い職員と、あどけなさの残る少年は困惑気味の笑みを交わした。

 この手のお節介、世間には結構あるものだ。本人が良かれと思ってやっていても相手は大層迷惑に感じるもの――お見合い然り、信仰・信念の押し付け然り、とかく喜ばれないものである。
 実際、お見合いおばさんの縁結び成功率は限りなくゼロに近かった。対象者は二十代の未婚男女職員、彼ら彼女らに有難い年長者の訓示と共に誰彼構わず相手を押し付けようとするのだから敬遠されて当然というものか。
 それでもギルド側がおばさんを放置していたのは、今のところ直接被害を被っているのがギルド職員に限られていたからだ。客に手を出して苦情が出たなら厳重注意もできるが、職員が相手ならば愛想笑いで耐えるしかない。
 桔梗に袖を引っ張られた梨佳は彼が示す方向を見た。
「‥‥梨佳、あれ」
「わぁ、お気のどくさまです〜」
 なむなむと合掌する梨佳の先には、不幸にも昼勤にならざるを得なかった男性職員がおばさんに捕まっていた。
「まあまあ貴方、お久し振りねえ。元気にしてた? 彼女はできた? あらまあまだなの!?」
 年齢、出身、家族構成等々、本当に釣書でも作成するのか、おばさんは矢継ぎ早に質問攻めにしている。猛暑で誰もがダレる中、気合が入りまくっているのは大変結構だが、時と場所、相手を選べと誰もが思っていた。まして捕獲されている男性職員は言わずもがなで。
 蒸し暑さと鬱陶しさに、男性職員は遂にキレた。
「どうせ僕には彼女なんていませんよ! 当てだってないですよ!! もうどーでもいいです、次ギルドにやって来た女の人とお付き合いしますよっ!!!」
 泣き声混じりの悲鳴がギルド内に木霊した、その時。

「お疲れ様で‥‥す???」
「言ったわね? 来たわよね!? 成立ねおめでとう♪」

 次ギルドにやって来た女の人、偶々ギルドの敷居を跨いでしまった深山 千草(ia0889)が犠牲になってしまった!
「‥‥はい?」
「あなたお独りよね、恋人は? よかったわ今ちょうど良い人がいてね‥‥」
 いきなりおばさんに腕を掴まれ矢継ぎ早に質問攻めにされ。目を白黒させている千草に経緯を飲み込めるはずもない。犠牲者に黙祷するギルドの面々と、説明したり千草を気遣うだけの余裕がないヤケっぱちの男性職員と――それから。
 どさくさに紛れて、おばさんに既婚者でない事だけ確認された千草は何ら説明されないまま、あれよあれよという間に拉致されてしまった!

「わわっ、千草さんが!」
「大変。追いかけなくちゃ」
 すぐに後を追う桔梗、付いて行くか迷った梨佳の逡巡は一瞬で解決した。
「おう、行って来い!」
「はいです! 桔梗さん待ってくださーい!」
 にやにや成り行きを見守っていた哲慈に、やたら威勢よく背を叩かれて梨佳は慌ててギルドを飛び出した。

●家族と家庭とお見合いと
 世話好きおばさんと被害者の若人達は、料亭が建ち並ぶ通りへ向かって歩いていた。
「こちらは深山 千草さん、開拓者でクラスは志士‥‥と、それは貴方の方が詳しいわね」
 ギルド職員相手に開拓者を紹介するおばさんは酷くご機嫌だ。千草にも職員の紹介を済ませた辺りで到着したのは甘味屋の前。袖で口元を隠してうふふ笑いしたおばさんは二人を店の中へと押し込んだ。
「若い人は若い人同士の方が良いでしょう。さあさ、二人共頑張ってね」
 何を頑張るのか解らないが、おばさんは千草達を残して去ってしまった。
 途方に暮れた二人は互いに顔を見合わせて苦笑した。
「あの、一体何だったのでしょうか」
「すみません‥‥妙な事に巻き込んでしまいまして‥‥ああ、折角ですから冷たいものでも如何ですか。お詫びに御馳走します」
 ギルドに戻る前にカキ氷でも食べて行こうと言って、職員は奥の卓へ千草を誘った。

 一方、尾行している桔梗達――
「あや、おばさんだけ出て来たですよ? 千草さん達どうしちゃったでしょ」
 おろおろする梨佳に大丈夫と言って、桔梗は甘味屋の店先へ行くと、饅頭を二個買い求めた。ちらと中を覗き込み、梨佳の許へ戻る。饅頭を分けた桔梗は、二人が奥の喫茶卓で差し向かいに座って話をしていると言った。
「何話してるか、わからなかった、けど」
 ちょっと覗いただけなので詳しい事は判らない。だけどそんなに気まずい雰囲気ではなかったように思う。
 何処の絵草紙で見たのやら、饅頭咥えて張り込みを気取る梨佳は置いといて、桔梗は饅頭片手に身を乗り出した。暖簾の下を覗き込めれば、遠目にでも様子が見えるかもしれないような気がしたのだが――いきなり声を掛けられた。
「お姉さんの幸せを思うなら、我慢しなくちゃあね」
 お見合いおばさんが二人の前に立っていた。仲良く饅頭を齧っていた二人は、どうやら千草を心配して追いかけて来た弟妹だと思われたらしく、心配ないからと窘められてしまった。
(俺、何を我慢するのだろう‥‥)
 真面目におばさんの言葉を反芻する桔梗を他所に、梨佳は普通におばさんに馴染んでいる。
「そう、ギルドで見習いをしているの。偉いわねー」
「頑張っているのです!」
 えっへん。と胸を逸らす梨佳だが、肝心の千草の妹疑惑は有耶無耶なままである。おばさんは勝手に納得して「お兄ちゃんは?」桔梗に問うた。
「‥‥えと。俺は‥‥」
 梨佳の兄ではない、と言おうとして考え込んだ。
 自分は千草と家族のようなものだと思う。千草をはじめ木蓮屋敷の皆は桔梗にとって家族だけれど、血は繋がっていないし他人と言えば他人なのかもしれなくて。
(‥‥俺、やっぱり厄介掛けてるのかな‥‥)
 自己評価の低さゆえに引け目に転換してしまって、桔梗は黙り込んだ。
 その間も、おばさんは延々話し続けている。
「あら、お兄ちゃんもうそんな年齢なの? じゃあそろそろお嫁さんを探しても早過ぎないわよね。まあお兄ちゃんも志体持ちで開拓者なの? なら安心ね、きっといい縁が見つかるわ」
「あのー」
「お嬢ちゃんは何年かしてからね? その頃には正規の職員さんかしら、縁結びはおばさんに任せてちょうだい。きっとお姉さんみたいに‥‥ああ、ギルドの皆さんにも報告しておかなくてはね」
 兄妹ではないのだと訂正しようとした梨佳を訳知り顔で制し、満足そうに甘味屋を見遣ったおばさんはそそくさとギルドへ向かって去って行った。

 残された兄妹――もとい桔梗と梨佳は顔を見合わせて途方に暮れた。
「お見合いおばさん、行っちゃったですよ‥‥」
 暫くして、仕事明けの哲慈と桂夏、夜勤前の聡志がやって来て、男性職員を回収して行った。
 甘味屋から出て来た千草は桔梗を見つけて近付くと、彼が不安を帯びた心配気な様子なのに気付いて黒の髪に触れた。一瞬びくりとした桔梗に微笑んで、千種はふふりと笑いを漏らした。
「一緒にカキ氷を食べただけですもの‥‥ね?」

 その後暫く、お見合いおばさんは成果を華々しく吹聴して回ったが、詳細を当人達が語る事はなかったらしい。
 まあそっとしておくのが良いだろうというのがギルド関係者筋の見解である――


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ia0439 / 桔梗 / 男 / 16 / 家族を案じる男の子 】
【 ia0889 / 深山 千草 / 女 / 26 / ひょんな事からカキ氷を奢られたお姉さん 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。こちらこそ、いつも梨佳と仲良くしていただきありがとうございますv
 お見合いおばさん、ある意味強敵ですよね;
 拉致られた千草さんを追って‥‥のはずが、デートの尾行ならぬ尾行デートに。
 饅頭と牛乳は張り込みのお供、かどうかは存じませんが、梨佳は楽しんだようです。桔梗さん背後様にもお楽しみいただけましたら幸いです♪
 甘味屋での真相は、千草さんパートで! ご申請ありがとうございましたv
常夏のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年08月10日

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