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『真夏の人魚 』
鈴代 征治ja1305

「暑い…」
 じりじりさす太陽に俺は空を仰いで汗をぬぐった。こんな日は水にでも入ってひんやりしたい。とはいえ…
「まだそんなに泳げないしなぁ。あっ!」
 今日は海で練習ってことにしたら、海に一緒に行けるんじゃないだろうか。そんなことを思いつくと、携帯を取り出し、恋人であるアリスに連絡を取った。
「あっ、アリス。海に行きませんか?」

 1時間後、俺はアリスと海岸に立っていた。
 アリスは、水色のタンクトップビキニに白いパーカーといういでたちだ。白いアリスの肌と、アップにピンで上げられた髪というかうなじが実に色っぽい。他の男たちにナンパされないように気をつけないと思いながら辺りを見回すが、場所がよかったのか、人はまばらでとりあえずナンパされる危険は少なそうだ。
「やっぱりアリスはもっとおしゃれをするべきですよ。その水着もよく似合ってます」
「そ、そうでしょうか?」
「照れるとこがまた可愛いですね」
そういう表情にもまた恋をする。そんな表情を誰にも見せたくて、
「はい、これ。日焼け対策にどうぞ」
そう嘘をついて(いや、買った時は本当にそのつもりだったんだけれど)麦藁帽子をかぶせる。
「あっ、ありがとうございます」
そういって笑うアリスにこっちが照れてしまって俺はそっぽを向いてパラソルを開いた。
「さて、早く立てて準備体操しよう。早く入らないと足の裏がやけどしちゃうよ」
 パラソルの下に荷物を置いて、念入りに準備体操をする。いくら泳ぎが苦手といえ、(アリスが助けてくれるだろうけど)溺れたらかっこ悪い。日焼け止めクリームを塗って準備は万端。
「入らないのですか?」
 しかし、俺は、波打ち際で尻込みしていた。冷たいのはいいんだけど、プールと違って何もしなくても海の水はこっちにやってくる。それが正直少し怖い。後ろでアリスはきょとんとしている。
「今入ります」
 そう言って一歩一歩波の中に足を入れていく。膝下位まで入ったところでため息をつくと、後ろから背中にパシャッと水がかかった。驚いて、振り返るとくすくす笑うアリスがそこにはいた。
「やりましたね」
 そう言った刹那、海水をすくいアリスにかける。
「冷たいですわ。それっ」
 生ぬるい水がお互いの胸に、腕に、足にかかる。アリスが笑っている。それがうれしくて俺も笑顔になった。水が怖いのなんて忘れていた。

 浮き輪につかまってのんびりとしていると、アリスの姿が見えない。さっき少し泳いでくると言ったきりだ。浮き輪につかまったまま辺りを見回す。姿は見えない。
「アリス?」
 そう呟いた時、すぐ近く、本当にキスでもできそうなほど近くの海中からアリスが顔を出した。
「うわっ」
 びっくりして俺はつい浮き輪を離してしまった。視界が水の中に沈む。溺れると思った瞬間、水の中で目にしたのは美しい、人魚。
「大丈夫ですの?」
 視界が明るくなると俺は海の中でアリスに抱きかかえられていた。心配そうなアリスの表情と顔に当たる胸の感触に俺はあたふたとしてしまった。
「そ、そんなに暴れられたら、また溺れますわよ」
 驚きながらもそう言って浮き輪を俺の手につかませてくれたアリスに恥ずかしそうにお礼を言う。水の中にいたのは多分一瞬のことだったけど、まさか本当に溺れるなんて。
「さっき、溺れた時一瞬だったけど人魚を見たよ。すごく綺麗な人魚だったんですよ」
「まあ、それは素敵ですわね。わたくしも見たかったですわ」
「まあ、俺は今も見れてるから良いんですけどね」
頭の上にハテナが浮かんでいるアリス。そんなところも可愛い。
「その人魚は、水色の水着で、黒い髪で、白い肌で…」
そう話していくとアリスの顔が赤くなっていくのが分かった。
「そ、それって、もしかしてわたくしのことでしょうか?」
「うん」
笑顔で頷けば耳まで真っ赤になって俯くアリス。ちょっとやりすぎちゃったかな?
「そ、そろそろお昼にしませんか?」
「そ、そうですわね」
なんともいえない空気のまま俺達はパラソルに戻った。

「美味しい!!」
 数分後、パラソルの下で俺達は笑顔だった。アリスが作ってきてくれた手作り弁当のおかげだ。
「そうでしょうか?お口に合えばよかったですわ」
 アリスが家庭的で料理が上手だってことは、お菓子部の活動の中でも知っていたけれど、やっぱり美味しいものは美味しいし、それがアリスの手作りでアリスと一緒に食べているんだ。尚更美味しいに決まっている。
「アリスは美味しいですか?」
「えっ、ええ」
「じゃあ俺達相性がいいんですね」
「どういうことでしょうか?」
「一緒にご飯を食べても美味しいって思える相手とそう思えない相手がいるよね」
「そうなのですか?」
「いるんだよ。そういうのは相性が良いか、どうかで決まるんだって。だから僕達は、きっと相性が良いんだね」
「それは良いことなんでしょうか?」
「もちろん。アリスと入ると何もかもが楽しいし、ご飯も美味しいし、いいこと尽くめですよ」
「それは、良かったですわ」
「アリスはそういうのうれしくないですか?」
「いいことがたくさんあるのはうれしいことだと思いますわ」
「じゃあこれからももっといっぱいそういうこと感じていこう?」
「はい」
俺達はそう微笑みあった。
「午後はどうしましょうか?」
「あの、これはどう使うのでしょう?」
アリスがそういって持ったのは、大きなビーチボール。
「じゃあ午後はそれで遊びましょうか」

 暑い砂浜の上でビーチボールが俺達の間を行き来する。
 俺は足腰そこそこ丈夫だからそんなに砂に足をとられたりしないんだけど、アリスは初めてのせいか、足をとられて転んだりしている。
「難しいんですのね」
「砂が意地悪をしますからね。大丈夫ですか?」
「あっ、はい。でも砂が……」
 そういって立ち上がるアリスのパーカーや水着、体には砂がたくさんついていた。
「でも、これがビーチボールの醍醐味ですよ」
「そうなのですか?」
「そうですよ」
「変わった醍醐味なのですね」
「変わった……そういう考え方もできますね。でも楽しくないですか?」
「はい。こういうのも楽しいですわね」
「良かったです」
 そういってまた俺達は笑いあった。今日はすごくお互いに笑っている気がする。アリスは特にいつも笑うことが少ないから、こういうのは純粋にうれしい。この時間がいつまでも続けば良いのに。

 夕方、服に着替えて帰り支度を整えた俺達は、二人で水平線に沈んでいく夕日を見ていた。
「綺麗ですわね。いつも学校で見ているのとは違うもののようですわ」
「そうですね」
そう言いながら、隣にいるアリスの手をぎゅっと握った。
「きゃっ!?」
びっくりした表情で俺の方を見るアリスに緯線を合わせて、
「手握られるの苦手なの知ってますけど、今だけいいですよね?」
アリスは困ったような表情をしたけれど、
「少しなら」
と言ってくれた。
 そういうやさしいところも好きだなぁと思いながら、指を絡めていく。
 不安とくすぐったさをない交ぜにした表情をしながら俺の方を見るアリスを安心させたくて微笑んで俺は言った。
「これ以上は何もしませんよ。それにほら、見て下さい、夕日が……」
 その言葉にアリスが水平線の方に視線を向ける。
 夕日がゆっくり海に飲み込まれて行く。俺達の頭上には星が出始めて、海は青からオレンジのグラデーションに染まっていた。その光景はとても幻想的だった。
 アリスの方をそっと見る。その横顔からは不安は見えなかった。多分景色に集中したせいなんだろうけれど、なんとなくアリスを安心させたのが、俺じゃなくて、景色だってことに嫉妬してしまって、我ながら本当にスキなんだなぁとしみじみ思ってしまった。
 いつか、俺が触れてもアリスが不安がらないようになりたい。そう空にいくつか出ている星と沈んでいく太陽に強く願った。
「では、帰りましょうか」
 完全に太陽が沈んで、水平線が暗くなった頃、アリスがそういった。
「そうですね。今日は楽しかった。また来たいね」
「はい。是非」
 そうして俺達は、もう一度くることを誓い合った。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1305/鈴代 征治/男性/17/ルインズブレイド】
【jz0058/アリス シキ/女性/15/バハムートテイマー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鈴代 征治様>
はじめまして。今回執筆させていただきました、川知真です。
今回はご発注いただきありがとうございました。
今回鈴代様も、シキ様も結構好き勝手に描かせていただきましたが、お気に召すものになれば嬉しいです。

今回はご発注本当にありがとうございました。
常夏のドリームノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月13日

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