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『【 〜蛍〜 永遠の喪章 】 』
東城 夜刀彦ja6047




 かすかにお囃子の音が聞こえる。
 川面へと滑り出した屋形船の上からでは、陸の音はわずかに遠い。
 陸から離れ、ゆるりと進む細長い船。軋む櫂のと船の音。伸びた葦がさわさわと風に揺れている。
 祭りの熱気からも遠ざかり、涼しさと少しばかりの静寂が風とともに二人を包んだ。
「……なんで毎回迷子なんだろ……」
 船の上、東城 夜刀彦(ja6047)はしょんぼりと陸を見つめている。落ち着いた紺地の浴衣はしっかりと男物だが、端正な美貌といい華奢な体つきといい、初見では女性に見間違えられことも多い少年だ。
「ふっ。揃って迷子アビリティ特化型だからな」
 その横、キリッとした顔で言いきったのは、かつての傭兵仲間であるアレクシア・フランツィスカ(ja7716)。
 絶世と呼べそうな美貌に魅力的な体つきと、異性が放っておかないだろう条件を揃えながも現在ぼっち。ちなみに二人きりで屋形船に乗っているが、夜刀彦は同性枠(断定)である。
 二人が祭り会場から離れ、屋形船に乗っているのには理由があった。
 仲間達と一緒にドヤッと地方の祭りに出かけてきたのはいいものの、自前の超特化アビリティ『迷☆子』により見事仲間達からはぐれてしまったのだ。
 こうなるともう祭りどころではない。
 二人でさして広くもない会場内を探しまくったが、目立つはずの仲間達を見つけること叶わず。いっそ見つけてもらったほうが早いということで、一目で分かる屋形船に乗り込むことになったのである。
 ちなみに二人の年齢、合算して三十三である。
「人混みがすごくて奥まで見えないね……皆、見つけれるかな」
 夜刀彦はひたすら岸辺を見つめている。自分からも見つけるのだ、という気持ちなのだろう。感知能力ドコ行った。
「見つけてもらうほうが早いと思うがな。まぁ、端から端を見ていけば、デカイ連中の頭ぐらいは見つけられるだろう」
 さっき陸で見つけられなかった人誰ですか。
 二人は揃って同じ格好で船の縁に両手をついて並んでいる。窓から外をのぞく猫のような格好。そして二人同時に岸を見ようと伸び上がる。  
「お客さん! 片方にばかり寄ると危ないですよ!」
 怒られた!
 わたわたと反対側へ向かって膝で歩く夜刀彦。君、そういえば水上歩行できんかったかね?
「あれだな。しばらくしたら放送されるんだぞ、きっと。迷子のお呼び出しを〜とか言って」
「……ぅゎ。想像したくない……」
 きっとこうだ。
 迷子の・お呼び出しを・申し上げます・久遠ヶ原学園からお越しの……
「……いや、むしろ私達が放送を頼んだ方が早いか」
 アレクシア、たいへん真面目な顔で真剣に検討中。夜刀彦はヒヤヒヤだ。
「あとで絶対『おまえらが迷子だろうが』って怒られるから、やめない? それ」
「なにを言う。大事なことだぞ」
「何がだよ……」
「この場合、お前は『ちゃん』付けされるのか『くん』付けされるのか」
「何がだよ!?」
 想定外の話題キタ!
 放送時、迷子ちゃんの名前に付けるアレである。
「普通に『ちゃん(女の子呼び)』だと思うのだが、どうだ?」
「普通に『くん(男の子呼び)』だよね!? どうだ、じゃない! なにその真剣な顔!?」
 アレクシア、渾身のキリリ顔。
 顔を赤くして抗議している夜刀彦には悪いが、ごめん、たぶん『ちゃん』だと思う。
「いいじゃないか。どうせおまえ、性別:ヤトなんだから」
「よくないよ!?」
「分かってる。性別:ハムだよな」
「せめて人間にして……!」

 彼の性別はヤトに決まったようだ。


●〜蛍〜永遠の喪章


 会話が一区切りつくと辺りは一瞬で静かになる。
 陸地と違い、人のいない川辺。川幅はそう広くないが、その中程ともなれば陸の音は遠い。
 どこか一枚薄布を隔てたような世界に、ふと夜刀彦は顔を上げた。
 小さな光が目の横を通って行ったのだ。
(……蛍)
 気づけば伸びた葦の中、進む船の周囲に蛍が舞っている。
 そういえば、蛍祭りだった。迷子になったショックで忘れていたが、そもそもは蛍を見に祭りに出かけたのだ。

 ──蛍を。

「蛍か……不思議な生き物だな。初めて見た時は、これがフェアリーソウルとかいうやつかと思った」
 アレクシアもちらほらと周囲を舞う蛍に目を細める。
 幻想的な光景だった。
 無機質な光とは異なる仄かな点滅。まるで脈動するかのような光は、小さくともそこに命があるのだということを教えてくれる。
(……あの日も、蛍が舞っていた)
 夜刀彦は淡く目を細める。
 伸ばしても届かなかった手。喪われた命。至らなさが招いた最悪の結果。後悔と慟哭は今も薄れず、一人きりになった時に、ふとそれは襲ってくる。
 ──全てを壊してしまいたいほどの憎悪をもって。
(……分かってる)
 それが『逃げ』に近い思考なのだということは。そして憎しみに目を曇らせることをあの人は決して望まないだろうということも。
 わずかな時間、ほんの少しだけの会話。触れあえた部分などあまりにも小さくて、その人を知るには至らなすぎたけれど。
 それでもその目で見た苦悩、願い、思い、託された言葉。その姿勢。
 忘れない。
 例え他の誰にどのように語られようとも、成した行動の非道さに隠れ語られることの少ない──その鮮やかな後ろ姿を覚えている限り。
 見えづらく、解りづらくもあったけれど、確かにあった優しさを。
 人であるが故に持っていただろう弱さと強さを。
 悲しい思いと願いを。
 ふと気づけば膝の上に一匹の蛍。
 小さな光を点滅させるそれを触れることなくただ眺める。
 明滅する光。魂の鼓動にも似た。
(……その魂の在りし地に安寧を)
 微笑むことは出来るようになっても、今もまだ泣くことの出来ない自分だから。
 千の言葉を尽くすより、祈りを。
 ──今も胸の奥に在りし永遠の唯一人に。
 蛍が舞う。
 光が軌跡を描く。
 風に揺れる葦から飛び立つ無数の光。光。光。
 闇夜の灯火にも似た輝き。
「……綺麗なものだな」
 どこか遠い声でアレクシアが呟く。
 夜刀彦は頷いた。
 膝の上の蛍がそっと虚空へと飛び立っていく。
 見送る視線が、ふと岸辺で手を振る一団を見つけた。
「あ! あんな所に……!」
 アレクシアが俄然顔を輝かせて手を振り返す。
 それに笑って夜刀彦も岸へと大きく手を振った。
 大丈夫、だなんて思わない。けれど独りではないから歩いていける。心に無理を強いるのではなく、ただ自らの傷も知覚したままで。
 岸辺に寄る船の動きに合わせて大きくなる祭りの音。名前を呼ぶ声。交わされる笑顔。
 愛おしい『日常』という名の幸せ。




 ──泣ける日は、まだ来ない。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6047/東城 夜刀彦/男/15/鬼道忍軍】
【ja7716/アレクシア・フランツィスカ/女/18/アストラルヴァンガード】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お心を綴らせていただき、ありがとうございました。
その行く道にいつも光がありますように……

常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月13日

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