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『真夏の大嵐〜海水浴場を取り戻せ! 』
弓亜 石榴(ga0468)

●帰省時の遭遇
 夏、真っ盛りの蝉時雨。
 猛暑日続きの日本で、用もないのに積極的に外出しようという猛者はそう居ないだろう。インドア派なら尚更、高城 ソニア(gz0347)も、そんな引き籠もりの一人だ。
 彼女は今、日本――久々に実家へ帰省していた。
「何年振りかしら‥‥」
 能力者になるまでの15歳と少しまでの期間を、彼女はこの家で過ごしたのだ。
 彼女の家は日本某所にある公団住宅の1階にある。狭い上にクーラーは一家一台、昨今の節電志向もあり真昼の自室はサウナと遜色ない状態だ。
(本当は、今年も学園の図書館でひと夏過ごしたかったのだけど)
 思う所あって、今年は帰省したのだ。何年も盆の墓参りをしないでいて、ご先祖様に失礼だという思いもある。
 ともかく、ソニアは久々に実家の空気を満喫していた――のだが。

「ソニアさん、ソニアさん」
 ソニアを呼ぶ、声がした。
 彼女は一人っ子だ。父は出勤中で母は買い物中、家には誰も居ないはず――だが。
「こんにちは、ソニアさん」
 やっぱり彼女を呼ぶ声がした。そんな時誰が呼んでいるのか、ソニアは大体見当が付いている。
 そーっとスカートの裾を押さえて屈み込み、視線を低くして見渡すと――ほら。小柄な人の形をした生物がうじゃうじゃ。
「「暑いですね、ソニアさん」」
 赤い髪した饅頭頭――不思議の国の饅頭兵士達が、わらわら集まって来ていた。
「み、皆さん! どうしてこんな所まで!」
 じりじりと後ずさりするソニアだが、公団住宅の間取りは狭い。彼女はすぐに壁に追い詰められた。
 ワンピースの裾を懸命に押さえて柱に寄りかかり、必死に饅頭兵士達の視線を阻もうとした――が、突然部屋の壁に大穴開けて外から侵入を果たした饅頭兵士までいる!
「やー、日本の夏は暑いですねー」
「ひぃ!!」
 裾を押さえたまま中腰で固まるソニアに、饅頭兵士達は口々に話しだした。
「ソニアさん、も少しクーラー強めにしていただけませんか?」
「ああ、ソニアさんはそのポーズでスカートの裾をパタパタしてみてください!」
「しゃったーちゃんす?」
「「「しゃったーちゃんす!!」」」
 誰が言ったか、一斉にフラッシュが焚きまくられた!

 閑話休題。
 いつものように号令を掛けられ整列した饅頭兵士達の用件を順序よく並べると以下のようになる。

「不思議の国の海水浴場で、女王様主催の水着コンテストがあるのです!」
「ところが会場の浜辺は大嵐」
「海水浴場に、カミナリ様が居座っているんです!」
「このままでは水着コンテストが開けません」
「女王様の前で一人水着コンテストをしたくなかったら、すみやかにカミナリ様を何とかしてください!」

「‥‥‥‥最後の一言が、とっても危険な気がするのですが」
 ソニアはこほんと咳払いした。
 ドールハウス用のミニチュア食器にお茶を淹れて勧めつつ、饅頭兵士達の話を一通り聞き終えたソニアは少しの間思案した。
 策はないけれど、とりあえず現場に向かわなければ饅頭兵士達が代替と称したぱんちら写真を撮りかねない。
「行ってくれますよね、ソニアさん?」
「‥‥行くだけは」
 何も思いついてはいなかったけれど、ソニアは出かける準備を始めた。海へ向かうのに水着がなければ始まらないからビーチバッグに水着とレジャーシートと日焼け止めを入れて、押入れの奥から麦藁帽子を探し出す。
「あの、言い忘れてましたが、ここ、古くて建て付けも悪いですから、隙間から蟻が‥‥って、遅かったみたいですね」
「「「アリだー!」」」
 屈んで探し物をしているのに珍しくフラッシュが焚かれないと思ったら、饅頭兵士達はルリアリの集団に襲われて逃げ惑っている。
「ソニアさん、早く早く! わっ、アリしっしっ!!」
「うわーん、カラダを這い回るのはヤメテください〜!!」
「準備できましたか! もう行きますよっ」
 その瞬間、一瞬にして彼らは不思議の国へ転移した。

●落っこちた雷様
 一同は森の中へ出現した。
「海が近い‥‥?」
 蟻を払い除けるのに必死な饅頭兵士達を横目に周囲を観察すれば、森なのに潮の香りを含んでいる。
 ソニアの呟きに、顔に噛み跡が残る饅頭兵士達が応えて言った。
「「この森を抜けた先が海水浴場です」」
「「嵐がすごくて海の家は全部閉まってますから、ここで水着に着替えてってください」」
「‥‥あ、そうですよね。海水浴場、今は嵐なんでしたね‥‥って、それは駄目ですから!」
 さもありなんと頷いてバッグを開いたソニアだが、意味ありげな視線に気付いて慌ててカメラ小僧共を追い払う。
 わーわー散った饅頭兵士達は、樹の枝に掛けられたレジャーシート越しに訴えた。

「「生着替えは高いんですよー」」
「「せめてシルエットだけでもー」」
「「「撮らせてくださ‥‥おぉぉ♪」」」

 着替えを終えてレジャーシートを片付けているソニアの姿は、カンパネラ学園で水泳の授業に用いられる水着にパーカーを羽織った、ごくシンプルなものだ。饅頭兵士達が一斉にフラッシュを焚き始めたもので、戸惑い気味にソニアは言った。
「学園指定の水着ですよ? そんなに珍しいものでは‥‥」
 高城 ソニア18歳。スク水需要という言葉を知らない、古風な――ある意味健全な思考をしていた。

 ともあれ一同が海へ向かったところ、饅頭兵士達の情報通り、海は大時化、サーファーも諦める大波高波が立っている。
「避難した方がいいんじゃ‥‥」
「そんな事したら、そのままお城へ連行して一人水着コンテストしていただきますよ!」
 ソニアの尤もな言葉を脅迫で一蹴する饅頭兵士。
 仕方なく原因だという雷様を探し始める。見つけるのは結構簡単な事で、嵐が一番酷い場所で背を向けて体育座りしている緑色の頭がいた。
「雷様ですか?」
「‥‥‥‥」
 ソニアの問いかけに応えたのかどうか。小さく痩せ細った身体は力というものが感じられない。大事そうにウクレレを抱え込み、大変な悩み事でもあるようだ。
 うじうじしている。ソニアは雷様の両肩をがっしと掴むと、その耳元に大声で要求した。
「お話しがしたいのでっ 一旦嵐を沈めてください!」

 暫し後、凪いだ浜辺で雷様とソニア達は向かい合って立っていた。
 小さな雷様だ。痩せ細っている上に身長も小柄なソニアより少し高い程度で、脅威も威厳も感じさせない。
「雷様はどうして嵐を起こしたのですか?」
「ぼくは、空へ帰りたいだけだよ」
 腕の中にあるウクレレを抱き締めて、雷様は浜辺で嵐を起こすまでの出来事を話しはじめた。
 ある日、雷様は大切なウクレレを地上に落としてしまった。ウクレレを探す為に地上へ降りて何とか探し出したのだけれど、時間を掛け過ぎた雷様は痩せ細り、空へと戻れる状態ではなくなっていたそうな。
「赤と黒が待っているんだ。でもぼく一人では戻れなくて」
 救援の合図代わりに嵐を起こしていたらしい。何とも迷惑な話だが、涙ながらに語る雷様を見ていると責める気もなくなってくる。何とか空へ還してあげたいものだ。ソニアは同胞を呼ぶ以外の方法はあるのか尋ねた。
「力を取り戻せれば‥‥だけどここには何もない」
「力?」
「地上にいる間に痩せてしまって、力が出なくなってしまったんだ」
 そういう事なら、とソニアは雷様に耳打ちした後、大きく息を吸い込んで叫んだ。

「皆さん‥‥整列!!」
 訳もわからず条件反射で、饅頭兵士達は一列にびしっと並んだ。さすが、お城の兵隊達だ。こうした時の一糸乱れぬ様は非常に美しい。
 ソニアは、ぴっと雷様を指差した。
「目標、雷様の口! 全軍、突撃――!!!」

 饅頭兵士は人々の腹を満たす存在だという――愛と勇気を友とし、己の身を犠牲にして。
 わーわーと勇ましい雄叫びを上げながら、饅頭兵士達は臆する事無く雷様の腹へ収まって行った。一人、また一人、饅頭兵士の突入が増えるにつれ、雷様はむくむくと大きくなってゆく。
「ありがとう、みんな、ありがとう‥‥」
 兵士達の大半を腹に収めた雷様は、最早見上げんばかりの大きな姿になっていた。見上げた空は青く、水平線には入道雲が湧き上がって、夏の海らしい景色になっていた。
「みんなのおかげで、ぼくは帰れるよ。本当に、ありがとう」
 饅頭兵士達を一匹残らず平らげた雷様は、入道雲に乗って天へと昇って行った――

●再か‥‥い!?
 一人実家へ戻って来たソニアは、壁の穴を見つめながら黙祷していた。
「皆さんの雄姿は決して忘れません‥‥」
 勇敢なる戦士、饅頭兵士ズ。あなたがたは立派でした――敬礼したその時、窓の外が暗くなり夕立が降り始めた。
 嗚呼、涙雨かしら。いいえ、雷様が帰還を知らせてくれているのかもしれないわ。
 しんみり窓の外を眺めている――と。

「「ソニアさん、ソニアさん!!」」
「「ただいまですよ、ソニアさん!!」」

「饅頭兵士さん達!」
 もう二度と会えないかと思っていた彼らの帰還に、ソニアは嬉し涙を流した。
 尤も――その後、不思議の国に出回った自分のスク水ブロマイドを見て卒倒する羽目になるのだが。


 教訓:萌えは色々、需要も色々。スク水は一部の人間に根強い人気を持つ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ga0468 / 弓亜 石榴 / 女 / 15 / 饅頭兵士ズ 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもご指名ありがとうございます。周利でございます。今回はこんな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?
 雷様と言えばやはりあの古典コントの方々を連想してしまい‥‥人助けでございます。
 ぱんちらはありませんでしたが、スク水姿は撮られてしまったみたいですよ? 大変です、ソニア的に。
 今回も楽しく書かせていただきました。ご申請ありがとうございましたv
常夏のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年08月14日

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