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『どうせモテないし花火しようぜ 』
若杉 英斗ja4230

●何はともあれモテない

 非モテの夏。緊張の夏。

 夏の何が怖い? 真っ白な肌を晒す事か。外出したくなる事か。
 ――否。何よりも。何よりも。ひと夏のアバンチュールである。

「どうせモテないし花火大会行きたくない」
「けど花火やりたい……」

 嘆く男が4人。さて……どうしたものか。

「……そうか、自分たちで花火大会やればいいんだ」

 そんなわけで、非モテだらけの小規模花火大会はっじまっるよー。


●花火のやうに散るらむ

 海岸線から海を眺める4人の男がいる。
 誰が呼んだか『非モテ系ディバインナイト友の会』。
 ドM疑惑の絶えないラグナ・グラウシードを筆頭に、自他ともに認めるドS系ぼっち男子の星杜 焔、まじめ担当かと思いきや最近シリアスを見失いかけている若杉英斗。
 ぱっと見は別に問題などなさそうなのに、何故かモテない壁系男子の集まりである。
 何故モテないのか、その理由はわからない。ただ、とにかくモテないのである。

 ――勿論、彼らを良く知る者に言わせれば『残念ながら当然』だと言う話だけれど。
 
 本州側の湾岸で大きな花火大会があるらしい、と聞いたのは1週間前のこと。
 対岸で次々に打ち上げられる花火を、リア充に邪魔されず……もとい喧騒に揉まれず楽しむ為にはどうしたらいいか。
 考えていたら、海を越えた離島の海岸が穴場だという情報が入り。
 気心の知れた仲間に声をかけて、今日の集まりが企画されたという訳だ。

 対岸のこちら側にも自分達を含め何組かのグループが陣取っている。
 しかし人数で言えば、花火大会本体とは比べものにならない程小規模。屋台もない、見える花火も遥か遠目。
 だが、気分だけならここでも十分楽しめる。
 そしてなにより――

「目障りなリア充がいないというのは、こんなに晴れ晴れしい事なのだな」
 ラグナが呟く。
 周囲に見えるのは微笑ましい家族連れと、自分達のような男だけ・女だけの友達集団ばかり。
 常に心のどこかにある、惨めさ、虚しさ……そういったものから一時的にでも解き放たれて、感無量といったところか。
 缶ビール片手に花火を眺め、感動にむせび泣いている。

「打ち上げ花火はだいぶ堪能したし、そろそろこっちの花火も開けようか?」
 と、ビニール袋を探りはじめるのは桐江 零。そもそもこの場所で花火を見ようと言い出した張本人である。
「ですね〜。最初どれいきます……? 手持ちかなぁ〜」
 焔が持ち込んだ手持ち花火を広げ、品定めを始める。
「消去法で行きましょうか。線香花火は最後として、まずは打ち上げとか火力が強そうなのから行きましょうか」
 英斗はそう言い、ディスカウントストアで買ってきた花火セットを開封する。
 いわゆるロケット花火のようなものから、据え置きタイプの連続打ち上げ花火、噴水風のものまで。
 派手に楽しめそうなものから順番に、用意して火をつけていく。

「発射準備よーし、てぇぇー!」

 号令と同時に次々と打ち上げられるロケット花火。
 童心に返った男達は、目を輝かせてその一部始終を見守っていた。

 対岸の花火はメインの大玉を消化したのか、落ち着いた小規模のものがぽつぽつ上がる程度になっていた。
 時間的にも、恐らくそろそろフィナーレだ。一段大きい玉が上がったら、こちらも派手な花火を上げることにしよう。


●超人的花火の楽しみ方

「あ、そういえばラグナさんが好きそうな花火を買ってきたんですよ。最近はこんなものもあるんですね」
 英斗がいそいそと取り出したのは、パラシュート花火だ。
 ロケット花火+落下傘の構造で、打ち上げたあとに帰ってくるという、子供が喜ぶ花火のひとつである。
「こ……これは……!」
 パッケージに衝撃を受けるラグナ。何故なら、落下傘には可愛いウサギのぬいぐるみがついているのだ!
 可愛い。だが、それはつまりウサギたんを打ち上げるという事……!
「駄目だ……私にはそんな酷いこと、出来ない……!」
 生来の真面目さが、こんなところで発揮されている。だからモテねーんだよとか言うたらアカン。
「ラグナさんやらないなら俺がもらおうかな〜」
 わなわな震えるラグナの手から、ひょい、と掴み上げ。焔は全く躊躇することなく、ウサギたんの乗るロケットに火をつけた。
「お〜きれいに飛んだ……」
「う、ウサギたーん!!」
 ぬいぐるみを追いかけて、海岸を駆けてゆく非モテ騎士ラグナ(20)。

「それじゃ俺はこっちでもやろうかな? 懐かしいなぁ、これ」
「桐江さんはネズミ花火ですか。これもなかなか楽しいですよね」
「若杉君は子供の頃、これがどっちに飛ぶか予想しながら鬼ごっこしたりしなかった?」
「はあ……」
「俺ぼっちだったからよく1人で遊んでたんだよねぇ。まあ、跳ねて足に当たる事も多かったけど徐々に慣れたっていうか」
 追いかけるの楽しかったなぁ、などと遠い目をして呟く桐江に、英斗は真顔のままツッコミを返す。
「……桐江さんって、意外とアグレッシブなぼっち属性ですよね」
 行動力あるのに友達少ないって、何かいたたまれない感じがします。
「懐古はさておき、今だったら完全に動きが読めたりするかなぁ? とは思うね」
「ああ、そうですね。今ならいけるかもしれません」
 学園に入学してから、動体視力も身体能力も向上しているはず。ならば今なら……?
「試してみようか!」
「よし、じゃあ点火します! 負けませんよ!」
 こちらはこちらで、大人げなくはしゃぎ始める。
 ――いやはや、実に平常運転である。

「わーい、俺の動体視力ハンパない!」
 縦横無尽に砂浜を飛び回るネズミ花火を追いかけて、英斗が笑顔で駆けていた。
「こいつ……できる……! あ、いてっ」
 言いだしっぺの桐江は勿論ノリノリで鬼ごっこ中。
「なんか楽しそうだね〜」
「あ、星杜くんも混ざるー? ……って、もうネズミ花火なくなっちゃったな」
「なんか……桐江さんも若杉さんも意外とはしゃいでるな〜」
 確かに、意外といえば意外かもしれない。特に桐江は。
 普段プライベートでは、大はしゃぎするより、静かに世を呪っ――ゴホン、悲観しているイメージが強いゆえ。
 新しい一面を垣間見たようで、なんだか新鮮かもしれない。


●肉を焼きつつ餅も焼く

 焔が持参したバーベキューセットを広げ、簡易バーベキューが始まる。
「やっぱ肉だよねぇ」
「焼そばも用意するよー」

 肉が焼けるまでの間、暇を持て余したラグナは一人、10連発打ち上げ花火に興じ。
「ははは、打ち上がれリア充!」
 英斗は淡々と噴水花火を並べて着火する簡単なお仕事に勤しんでいる。
「あ、これ黄色でススキっぽいな。こっちは緑だから……雑草?」
「若杉くんのセンスって独特だよね……」
「えっ、おかしいですか?」
「いや褒めてるよ」

 吹き上がる火花に照らされながら、焔の調理も着々と進行し。
 やがて花火パーティは、肉を囲みつつの理想嫁談義へ発展していった。

「器量よし気立てよし、厳しすぎず甘すぎず時には厳しく飴と鞭の使い分け(略)だな、あと出来ればその……胸が大きいと……」
「可愛くて俺の事好きって言ってくれて一緒にロマンチックなデートしてくれればそれで」
「一緒に散弾銃で無双してくれる子がいいな〜あと一緒に罠設置したりとか……夢が広がるね……」
「美脚でプライド高そうなお姉様……」

 怖いほど平常運転である。

「そういえば、むこうの花火も終わったのかな〜」
 ふと、思い出して対岸を見つめれば。
「そのようだな……」
「なんか、一気に静かになりましたね」
 気づけば周囲の見物客も消え、海岸に残るのは4人だけになっていて。

 やがて誰からともなく、しんみりと語り始める。
「……あの花火の下で、どれだけのカップルがいちゃいちゃしていたんだろう。うらやましいなぁ」
「ひと夏のあばんちゅーるかぁ」
「あはは。なんていうか、花火終了後のことなんて考えたくもないねー」
「き、桐江殿! それ以上は言うな、言わないでくれ……!!」
 じゃないとラグナのピュアハートがブレイクしてしまう。ガラスハートなんだよ非モテ騎士は。
「いや私は分かっているんだ、恨むべき相手は桐江殿ではない、リア充だッ!」
 血の涙(比喩)を流しつつ猛然と己の内に燻る嫉妬心について語り始めるラグナ。
 普段3人はラグナほど積極的に嫉妬の炎を燃やしているわけではないけれど、彼の語る悲哀には、やはり感じ入るものがあるようで。
「わかりますよ、その気持ち!」
「おお若杉殿、わかってくれるか!」
「俺のぼっちスキルを甘く見ないでね?」
「桐江さん実は俺とおなじくらいスキル高いよね〜……」
「……うん、地元では色々あったからね……ぶっちゃけ大学デビューだしね……」
 滲む、隠しきれない悲哀の色。涙目でもう一度4人は乾杯する。負のオーラを払拭し、仕切り直す算段で。

「非モテに、乾杯!」

 そういうことしてるからモテないんだよ、とか言うたらアカン。


●妄想力検定

 パーティの〆に、と取り出したるは線香花火。
 ――仄かに色づく赤い炎の球を眺めながら、男たちは妄想の世界へ意識を飛ばしていた。

(そういや、いつからだろうな。心の底から純粋に花火大会を楽しめなくなったのって……)

 英斗は、ふと考える。
 子供の頃――少なくとも小学生くらいまでは、手放しで祭りを楽しんでいたはずだ。
 それが中学生くらいから、花火大会や夏祭りといった行事は、女の子と一緒に行かなければいけないものという意識に切り替わっていった。
 リア充・非リアなどという世間的な分類にとらわれ、周囲の目を気にする自分の心が弱いのだろうか?
 いや――確かに、自分自身にも弱さが無いわけではない。
 けれど、それで人間の貴賎を決めるかのような、社会の風潮にもいささか問題がある気がする。

 ……などと、責任転嫁してみたものの。

 正直、リア充が羨ましいというのは本当だ。全く嫉妬しないといえば、嘘になる。
 この気持ちを正直に開放し、ラグナさんのように暴れられれば少しは気分が晴れるのだろうか。
 けれど、そんな柄にもないこと出来ないし……かといってサラリと恋人を作れる能力があれば、そもそもこんなに悩んでいない訳で。
 ああ、悩ましい。悩ましい……。

 懊悩と戦う英斗。あまりの葛藤に手先が震え、大きな玉になりかけていた線香花火も、ふるい落とされ力を失った。
 命の灯火が、消えていく。
「ああ、やっちゃった……」
 ぽとりと落ち消えゆく花火に、思わず自分を重ねて涙がこぼれそうになる。
 しかし。
(……いや、だめだ! 俺は『キラキラ☆非モテ道』を登り切るんだ!)
 ぐっとこらえ、気を持ち直す。己を奮い立たせる。自分はそう、やればできる子なのだ! と。

 非モテは気から(?)と誰かが言っていた。ならば落ち込んでいる場合ではないだろう。
(たとえどんなネタ……ちがった困難が待ち構えていようとも! 絶対に諦めたりしない……!)
 なぜなら、俺たちの挑戦は始まったばかりだから――。
(若杉先生の今後にご期待ください)

 ていうかキラキラ☆非モテ道って何やねん。


●とはいえ

 古来より言われているだろう。諸行無常、盛者必衰。
 全てのものは移ろいゆき、一時として同じ状態に留まることはない。

 それならば。
 きっといつか、彼らが非モテでなくなるときだって来るのだろう。
 今はまだ気づいていないだけ。
 近い将来、彼らの傍には、きっと存在している。かけがえのない、大切なひとが。

 ぶっちゃけ世の中、リア充・非リアの区別は別として、モテる方が少数派。
 それに彼らのリアルはある意味充実している。
 真の非リアは非リア友達さえいないってことを、ぼっち界の偉い人が言っていた。

 多分、おそらく、きっと。
 もうすぐ彼らも気づくのだ。

 大切なものは、思っているよりもずっと傍にあるということに――。
常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年08月15日

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