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『泳ぐ金魚に夜空の花火 』
ニーナ・サヴィン(ib0168)


「こういうの、好きなのよね♪」
 商店街に華やかな声が響く。場所は福引会場。 
「姉さんの奇麗な髪のような色が出たら特等だよ?」
「あら、ありがと。ふぅん、これを回せばいいのね」
 係員のおだてをさらりと流したニーナ・サヴィン(ib0168) は、八角の回胴についたハンドルを回してみる。
――カコン、コロッ。
「おおっ! 大当たりィ〜」
「え、そうなの?」
 カランカランと派手に鉄鐘を鳴らして喧伝する係員。取り巻く野次馬達もわあっと盛り上がる。出てきたのは見事、金色の玉だった。
「はい。これが特等『泪川花火大会屋形船川下りご招待券』だよ」
 招待券を押し付けられ戸惑うニーナに、さらに盛り上がる野次馬。
「まあ、こういうこともあるわよね」
 ウインクするニーナ。ポニーテールにまとめた金髪が大きく波打つ。
 賑わいの中で、実に絵になる女性だった。

 場所は変わって、ミラーシ座控え室。
「いろんな人の支援で衣装が増えましたが、着る機会がないですね」
 ミラーシ座長のクジュト・ラブア(iz0230)が行李を開いて衣装の整理をしていた。
「あ」
 動かしていた手がある衣装に触れて、止まる。
 その時だった。
「はぁい 、クゥ。川下りが当たったんだけど一緒に行かない?」
 クジュトが顔を上げると楽屋入り口に背を預け、ぴらっと招待券二枚を指先で挟んでウインクするニーナの姿があった。
「当たったんですか? さすがニーナというか……。ぜひ、行きましょう」
「待って」
 正座して浴衣を持っていたクジュトに、ふふんと胸を反らして言うニーナ。
「お礼の言葉は?」
 もちろん姿勢はそのままよ、と悪戯笑顔。
「ありがとうございます。ぜひ、エスコートさせてください」
「……そのままって言ったのに」
 立ち上がってニーナの手を取り甲に口づけするクジュトに不満を漏らしつつ、ま、いっかとか。


――かろん、ころん。
 祭屋台の並ぶ通りに軽やかに響く履物の音。鬼灯の屋台の呼び込みの声や人々のざわめきに負けないくらい生き生きした足取り。
「見て、クゥ。赤い鬼灯と緑の鬼灯があるのね。……わ。風鈴もたくさん。天儀のお祭もいいわね〜」
 ポニーテールの金髪が右を向いたり左を向いたりしている。
「……どうしたの、クゥ。私ばかり見ちゃって」
「いや……」
 慌てて視線をそらすクジュト。
 見惚れていた理由は、ニーナの浴衣姿だった。
「白地の浴衣に真っ赤な金魚。袖にも裾にもたくさんで、右向き左向くニーナに合わせてひらひら泳ぐ♪」
「あら……。紺地の浴衣に蛍の光。たくさんいるけど止まってばかり。クゥが大人しいからつまらなさそう♪」
 照れ隠しに即興で歌ったクジュトに、それならとばかりに即興の歌で返すニーナ。
「いや、楽しんでますよ。ただ、ニーナが眩しかっただけ」
「ありがと。そういえば、その浴衣は楽屋で持ってた浴衣ね?」
 ニーナ、くるっと回って背中越しに後のクジュトを見て聞く。金魚柄だけでなく、金髪も泳ぐようにひらめく。その奥から顎を引いた橙の瞳が問い掛ける。うなじが白い。
「ええ。着てほしそうにしてましたから。……ニーナのその浴衣は?」
 ふふ、と改めてクジュトに全身を見せるように回るニーナ。
「買ったばかりよ。福引券をもらって、それで今日の川下りの招待券が当たったの」
「その浴衣もニーナに着てもらいたくて、お礼に特等を当ててくれたのかもしれませんね。……とても似合ってます」
「うまいこと言うわね。それよりクゥ、天儀の祭は慣れてるの? いろいろ屋台があって楽しそうよ?」
 ニーナはそう言ってクジュトの腕に自分の腕を絡めた。
「ニーナが一番魅力的だったから、つい後回しにしてまして……。ああ、あそこには風車の屋台。あっちはお面かな。へええっ、金魚を掬ってますね」
 もともと天儀文化に被れているクジュトはここで本格的に周りに目を奪われ始めたのだが……。
「あれっ。ニーナ?」
 先ほどまで自分の腕にぴとっとくっついていたニーナがいなくなっていた。
 きょろ、と見回すが恋人の姿はいない。
 だがまあ、と足早に屋台通りを進む。一本道で目的地は先だ。進んでいれば出会えるはず。
 が、屋台通りを越えても金魚柄浴衣のニーナは見当たらなかった。
「ニーナっ!」
 クジュト、さすがに焦燥の色を浮かべて屋台通りを後戻りする。
(まさか、暴漢に金魚掬いのようにあっさりお姫様抱っこされてお持ち帰りされるなどは……)
 川下りを楽しみにしていたので、いくら気紛れとはいえ自ら姿を消すはずはないと判断。唇を噛みつつ、美人なのでまさか……という焦燥に駆られる。人波を掻き分けながら走るので裾が緩んで乱れる。
「ニーナ」
 クジュト、袖も合わせも乱し走る。


 と、その足が止まった。
「なんだか人が多く集まってるね」
「すごい猿とお姉ちゃんがいるみたいだぞ」
「きゃ〜。猿が可愛いし、あのお姉さん奇麗〜」
 ひときわ多い人だかりの外縁からそんな声。
「猿?」
 きききと止まるクジュト。耳を澄ませばふんふん♪というハミングと大地を蹴るリズミカルな音が響いている。
「あっ!」
 背伸びして覗いたクジュトが見たのは、孫の手を指揮棒代わりに持って踊るニーナと、その足元でとんぼ返りする猿だった。
「ニ……」
 声を掛けようとして、止めた。
「ふんふん、らん♪ ほら、挨拶は?」
「キ!」
 ニーナのくるっとまわした孫の手に合わせて前転する猿。よくできました、とお礼にリンゴ飴を手渡すニーナ。猿は受け取りきゃっきゃと喜ぶ。が、食べない。どうやら背後のリンゴ飴屋台の客引き猿回しの猿だ。商品に手を出さないことは教育され、そのかわりリンゴ飴をもらってとにかく喜びはしゃいで商品価値を高めていた。
「ご褒美のお礼は?」
「キ!」
 猿はニーナの差し出した手を取り、その甲に口付けした。わあっ、と拍手する観客。にこ、と微笑してクジュトを見るニーナ。気付いているらしい。
 その後。
「ああ、楽しかった。……クゥがいつ一緒に踊ってくれるか待ってたのよ?」
「私があの狭い場所でとんぼ返りはできないでしょう」
「ま、いいわ。はいこれ、リンゴ飴屋台の親父さんにギャラとして二つもらっちゃった」
 ニーナ、すっかり仲良しになった猿と分かれて歩き出すと、リンゴ飴を一つクジュトに渡した。屋台はあれから大繁盛したようだ。
 すでに空には夜の帳が下りようとしている。


「ニーナ、気をつけて」
「よっ、と」
 ぐらり。
 屋形船に先に乗ってニーナに手を差し伸べたクジュトだったが、ニーナは元気良く飛び乗ってきた。
「ちょ……。危ないなぁ、もう」
「しっかり抱きとめてくれないと知らないわよ。……へええっ。なんだか地下室みたい〜」
 クジュトに抱きついて乗ったかと思うと、そのまま座敷の中にするり。何もかもが面白い。
「クゥ、早く早く」
 手招きして、反対側の障子戸を開ける。夜の水面が間近に迫り、川のにおいと涼しい風が部屋に舞い込んできた。
「おいでやす」
 ぎし、と川辺を離れたと思うと、仲居が料理を運んできた。刺身に酢の物など清涼感溢れる料理が膳に並ぶ。
「それじゃ、出会って一年に乾杯♪」
「もうそんなになりますか……乾杯」
 天儀酒で杯を合わせる。早速、料理をつまみ始める。
「そういえば最初の出会いも座敷だったかしら。天儀の文化もいいものね〜」
 足を崩し状態を捻るようにして座るニーナ。金魚柄の合わせから覗く二つの足が白い。視線に困るクジュト。
――どぉん……。
 ここで、花火が上がった。まだ遠い。
「見てクゥ」
 姿勢を改めて窓に寄り、恋人と肩を並べて覗くニーナ。
「ええ。奇麗ですね……」
「本当……。一瞬だけど」
――どぉん。
 だんだん近くなる音。
「ニーナ?」
「何、クゥ?」
 呼ばれて向くと、恋人の改まった顔があった。愛しさに瞳が煙っている。
「もちろんニーナも奇麗ですよ。……花火は一瞬で、手の届かない場所にありますが」
「あら、花火に見られるわよ?」
 すぱん、と一瞬閉じられる障子戸。近くに蛙がいたか、ぽちゃんと飛び込む音がした。
 からり、とまた障子戸が開く。
――どぉん、ぱらぱら……。
「すごい。どんどん近くなる」
「そうですね。本当に奇麗なものですね」
 ちょっと乱れた、恋人側の前髪を整えて花火を見上げていたニーナ。が、ん?と眉をひそめて横を見る。すると、手を伸ばし恋人の耳にある灯火の耳飾りを避けつつ、反対の手ですぱん、と障子戸を閉めた。
 からり、とまた開く障子戸。
「その耳飾り、似合ってるわよ」
「ありがとう、ニーナ」
 ふふん、と勝ち誇ったようなニーナに、頬を染めているクジュト。乱れたニーナ側の前髪を整えている。ちなみに、耳飾りは以前、ニーナから贈られたものだ。
――どどぉん!
「ニーナ、金魚掬いの金魚のように人波を掻き分けるのはいいですが……」
「ここなら金魚鉢の中よ?」
 またもぴしゃんと締められる障子戸。
 今度は、長い。
――どーーーん!
 花火の明かりに、恋人同士キスをする影絵が障子に浮かんだ。
 からり。
「帰りは、一緒にリンゴ飴ね」
「ええ」
 見そびれた花火を惜しむように、それでいて幸せで満足そうに見上げる二人。次の花火がひゅるる、と上がっていた。

 後の話になるが、手を取り合って帰途に就く二人がいたそうだ。
 終わった祭の引く人波を泳ぐように。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0168/ニーナ・サヴィン/女/19/吟遊詩人
iz0230/クジュト・ラブア/男/24/吟遊詩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ニーナ・サヴィン 様

 いつもお世話様になっております。
 猫のような魅力に溢れるニーナさん、夏祭りの楽しそうな雰囲気をありがとうございました。お返しに、こちらからは川下りの微妙にラブな描写を。金魚柄の浴衣、素敵でしたよ。ニーナさんの行動力を被せて描写してみました。ご堪能いただければ幸いです。

 この度はありがとうございました。また一緒に冒険しましょうね♪
常夏のドリームノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年08月16日

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