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『夏祭りの夜。〜青文魚 』
九神こよりja0478

 夕暮時、茜色の中へと続く道の先を見つめてみれば、ぽつり、ともる灯りが一つ、二つ。耳を澄ませば、賑やかな祭囃子が聞こえてくる。
 ゆるりと辺りを見回してみれば、祭へと歩く人々の足取りもどこかうきうきと楽しそうで、九神こより(ja0478)は知らず嬉しくなり、浴衣の袖をふぅわり揺らした。いつもと違って歩きにくい下駄の足元も、これからお祭だという気持ちが知らず盛り上がって来るようで、くすぐったくて楽しい。
 だからこよりは楽しげに、からからと下駄を鳴らしながら、神社までの道を歩く。遠くに見える朱塗りの鳥居が、今日のお祭の待ち合わせ場所。
 楽しげにそぞろ歩く人々の波に乗って、のんびりと歩きながら辿りついたその場所には、すでに探偵倶楽部の仲間達がちらほら、顔を見せていて。こよりに気付いた久遠 栄(ja2400)が、あ、と声を上げた。

「九神、4番乗り」
「なんだ、もうみんな来てたのか。絶対1番だと思ったのになー」
「大丈夫ですよ、こより。木南さんがまだですから」

 栄の言葉にむぅ、と唇を尖らせ、青文魚の描かれた扇子をぱたぱた動かすこよりに、真田菜摘(ja0431)がそう言って笑う。実際、見回してみると確かに木南平弥(ja2513)の姿が見えない――のだが、それとこれとはちょっと、違うわけで。
 と言って、こよりも本気で1番になりたかったわけでもなく、すぐに楽しそうな笑顔に戻ると、ぐるりと仲間達を見回した。そうしてミリアム・ビアス(ja7593)の姿を見て、む? と首をかしげる。
 仲間達は、殆どが浴衣姿だ。こより自身は白地に淡く色づいたあやめの咲いた浴衣を、きゅっと鮮やかな青の半幅帯で可愛らしく、花びら文庫に締めている。栄は生成りの麻地に縦縞が入っただけの、シンプルで大人びた浴衣。菜摘は紺地を花火が彩る可愛らしい浴衣を、黄色い金魚帯で柔らかく飾っていて――けれどもミリアムだけは、そうじゃなくて。

「あむぴは浴衣じゃないのか?」
「あぁ、うん。どっちにしようか迷ったんだけどね」

 ひょいと肩を竦めるミリアムの姿は、オフショルダーのカットソーに七分丈のジーンズ、足元は皮のサンダルという、至ってシンプルなもの。それはそれで、すらりとしたミリアムにはよく似合うのだが、なんだか、せっかくの夏祭りにはもったいない気もする。
 むむむ、と複雑な気持ちで考え込んでいたら、最後の1人であるところの平弥が「すまん!」と小走りに駆けて来た。

「俺が最後なん? 待たせたかなぁ」
「ああ、なんぺーが最後だな。時間には遅れてないけど」

 栄がそう、笑うと腰に巻いた、紺色の帯に下げたオレンジの巾着袋が揺れる。そのオレンジと、紺の帯に施された黄色い、可愛らしい毛むくじゃらの動物達が踊る刺繍を見て平弥が、おぉ、と相好を崩した。

「その帯、おもろいなぁ。菜摘の浴衣もよう似合うとるで」
「あ、ありがとうございます……ッ!」
「ナンペー、私にはないのか?」
「いやいや、こよりももちろん、似合うとるって。その萌黄色のかんざしもえぇなぁ」

 ひょい、と冗談で拗ねて見せたら、慌てた平弥が両手を振りながらそう褒めたので、こよりは満足して頷いた。今日の彼女はちょっと大人っぽく、後ろ髪だけをアップにしてうなじを出した、浴衣スタイルなのだ。
 そうして順繰りに視線を巡らせた、平弥もまたミリアムのところまでやって来ると、ん? と不思議そうな表情になる。けれども次の瞬間には、ほっとした様子で「なんや、ミリアムも私服なんか」と笑顔になった。
 何しろ平弥自身もまた、青い半袖のパーカーにカーキのカーゴパンツという、ミリアムと同じくラフな格好。それにほっとしたようなのだが、こよりとしてはやっぱり、せっかくのお祭なのになぁ、と思ってしまう。
 くすりと笑って頷いたミリアムが、迷ったんだけどね、とまた同じ台詞を繰り返すのをじっと見ていたら、栄がまるで引率の先生のような口調で、言った。

「ここで溜まってても邪魔になるだけだし、そろそろ行こうか?」
「うん、そうだな。色々、出店も出てるみたいだしな」
「ふふ、こよりは何を食べますか?」
「たこ焼き屋はどこらへんかなぁ」
「私はあれ、水風船が欲しいな。出てくる人が持ってるから、どこかにはあるよね」

 その言葉に促され、ぞろぞろと連れ立って、神社の大きな朱塗りの鳥居を並んでくぐる。どうやらもう少し時間が経てば、神社の裏山から花火も打ち上げられるらしい。
 それもすごく楽しみだったし、何より探偵倶楽部のみんなとこうして揃ってお祭にやって来れるのが嬉しいと、こよりはまた嬉しくなって、小さな扇子をひらひら動かした。





 一歩、神社の境内へと続く石畳の参道に踏み込むと、そこはすっかり祭の装いだった。普段の静まり返った、せいぜい近所の人々が朝の散歩に来たり、お昼にのんびり寛ぎに来る場所と、同じだとはとても思えないほど。
 参道だけじゃなくて、神社の敷地という敷地すべて、とにかく店が立てられる所には店がある。そうして生まれた幾つもの小道に、まさにひしめき合うように祭客が溢れていて。

「ふわぁ……ものすごい人だな」
「本当ですね……こより、大丈夫ですか?」
「うん。なっつんも平気か?」

 思わずしみじみと呟いたら、はぐれないようしっかりと手を繋いでいた菜摘がこくこく頷いた。それでも、揃って屋台を楽しむ程度にはちゃんと、余裕はある。
 きょろきょろと辺りを見回せば、焼きとうもろこしに回転焼き、ベビーカステラに冷やしあめ。カラアゲの屋台がぱちぱちと美味しそうな音と匂いで道行く客を誘い、くじ引きの屋台からは賑やかな客引きの声が響いてくる。
 ぁ、とその中の1つの屋台に目を留めて、こよりは楽しそうな声を上げた。

「なっつん、なんだあれ! 苺綿飴だって!」
「苺……ですか?」
「ああ。食べたくないか? 私は食べたいな」

 何の変哲もない真っ白な綿飴なら何度も見たことがあるけれど、苺味の綿飴はちょっと、売っているのは珍しい。ふわふわピンクの綿飴を見ているだけで、なんだか楽しくなってくる。
 綿飴屋さんの傍までいって、ジーッとピンク色の綿が次々と生み出され、器用に割り箸でくるくる巻かれていく様子を見ていたら、栄がやれやれと笑って親父に「苺を2つ」と注文した。今日の彼は探偵倶楽部のお財布係――なのだが、この調子ではあまり、中身の管理は出来なさそう。

「やった! せっかくだから栄も食べたらどうだ? あむぴも、ナンペーも」
「そうだね。私はどれにしようかな」
「なんや、色んな味があるねんなぁ。苺の他は、ブルーハワイ、レモン、メロン、オレンジ……」
「せっかくだから全員、違う味でも良いかもな」

 嬉しくなって万歳しながら仲間達にも奨めると、お品書きを覗き込んだ面々がそれぞれにそう言った。この屋台はなかなか、バリエーションが豊富らしい。
 うーんと考えて、菜摘が苺を取りやめてメロンを、栄がオレンジを注文した。それから、ミリアムはブルーハワイ、平弥はレモンをそれぞれ受け取って、お互いの綿飴を一口ずつ分け合いながら、わいわいとまた歩き出す。
 次には同じ並びに合ったたこ焼き屋で、ぱっと目を輝かせた平弥がまっしぐらに走っていった。数分後、幸せそうにたこ焼きとかつお節の盛り上がったトレイを持って帰って来て、「やっぱたこ焼きはえぇなぁ〜」と目を細めてはふはふ頬張っている。
 これまた全員ではふはふと、爪楊枝で盛り上がったたこ焼きをつついて、一緒に頬張った。そうしたらなんだか、ソースの味が強調された屋台の安っぽいたこ焼きも、そんじょそこらのお店にも負けない味わいに感じるのだから、不思議だ。
 そんな風に賑やかに歩き回り、射的の屋台で誰が一番大物を取れるか競争したり、お面の屋台でそれぞれ好みのお面を買ったりして、気付けば夕暮時もとっくに通り過ぎ、すっかり夜の帳が下りていた。けれども屋台の明かりと、あちらこちらに点けられた街灯の明かりのおかげで、ちっともそんな事は感じない。
 さて次はどこに行こうかと、考えながらふと見回すと、いつの間にか人数が減っていたことに気がついて、こよりはひょいと首をかしげた。

「……あれ、ナンペーは?」
「あれ? さっきまで居たと思ったんだけど、なんぺーくん、どこ行ったんだろうね」

 はぐれないよう一緒に固まって行動していたはずなのに、といぶかしむこよりの言葉に、ミリアムも念願の水風船をばいんばいんと叩きながら辺りを見回して、こくりと首を一緒にかしげる。
 この人混みだから、はぐれてしまったのだろうか。それにしては何か違和感を感じると、思いながら見回した先にカキ氷の屋台を見つけた。どうやらおまけでアイスもつけてくれるらしい。
 こより? と菜摘の呼ぶ声に、笑みを含んだ視線を返して、こよりはカキ氷屋へと向かう。まずはかき氷を買って、それでも戻ってこなければ探しに行こう。そう、考えていたこよりの背後で、次の瞬間、「きゃぁぁぁぁッ!?」「うわ……ッ!!」という悲鳴が、上がった。
 ぎょっと菜摘と顔を見合わせ、同時に振り返った2人の目の前に、居たのは。

「久遠、先輩……?」
「どうしたんだ、栄、びしょぬれじゃないか!」
「突然、水風船が耳元で割れて……」
「ごめんね、久遠くん……びっくりしちゃって、つい力が……」

 口々に説明する上半身びしょぬれの栄と、割れた水風船の名残をぷらぷら指に下げているミリアムを見れば、まさしくその通りのことが起こったのだろう、とは予想が出来た。出来た、のだがじゃあ、ミリアムは一体何にそんなに驚いたというのか。
 眼差しの先を追いかけていけば、ほんの少し離れた場所に居るのは、おどろおどろしい表情の鬼面を着けた人物。青い半袖のパーカーに、カーキのカーゴパンツを穿いたその人は、4人の視線を受けておず、と鬼面を頭の上に引きずり上げた。

「ご、ごめんやで、ミリアム。そないに驚くと思わへんかってん……」
「ナンペー!!」
「なんぺーくん!?」
「木南さんだったんですか……」
「何をやってるんだ、なんぺー……」

 そうして現れた顔に、残る全員の非難のこもった声が上がって、しゅん、と平弥は肩を落とした。その様子を見れば、彼が心から反省していることは良く解る。
 のだ、けれども。

「じゃあナンペー、あむぴを驚かせた罰だな。あそこの屋台で焼きそばを買って、具を当ててみようか」
「えぇッ!? うぅ、しゃーないな……」
「私はその間に、カキ氷を食べてるからな。頑張れよ――栄はそのままで大丈夫かな」
「夏だからな。すぐに乾くだろう」
「あの、久遠先輩、これ良かったら……」

 ビシッ、と扇子で近くにあった焼きそば屋の屋台を指すと、平弥はちょっと顔を引きつらせた後、がっくり肩を落として屋台へと向かっていった。お祭屋台の焼きそばは、大体総じて具がないか、入っていたとしても細切れ状態でなかなか、判別するのは難しい。
 そんな平弥を見送った後、びしょぬれの栄に声をかけ、そっとハンカチを差し出す菜摘を見ながらこよりは目的どおり、カキ氷屋でバニラアイス添えブルーハワイを買った。屋台の例に漏れず、乗せられたバニラアイスはほんのちょっぴりだったけれども、乗るだけ十分に豪華だ。
 しゃく、とひとさじすくって口に運び、いっぱいに広がる冷たい甘さを噛み締めた。それからしゃくりともうひとさじすくって、今度はミリアムへと差し出す。

「ほら、あむぴ。驚いただろう……あーん」
「ありがとう、こよちゃん。あーん」
「うわ、なんかごっつ羨まし……ッ!?」
「自業自得だ。――もう大丈夫だ、ありがとう、真田」

 ほかほかの焼きそばとにらめっこしながら、その光景を目の当たりにして叫んだ平弥に、くいっと頭につけた白兎のお面の位置を直しながら、栄が大きなため息を吐いた。そうして菜摘に礼を言い、浴衣の襟元を少しいじる。
 濡れたハンカチを仕舞った菜摘が、美味しいですかこより? と笑顔を向けた。そんな菜摘にもあーんとカキ氷を食べさせてあげて、またのんびりと歩き出した行く手に、金魚すくいの文字が見える。
 今度はあれで勝負しようか。そう思い、こよりは迷わずそちらへと足を向けたのだった。





 底の浅い水槽には、数え切れないほどの金魚が泳いでいた。それは良い。金魚すくいなのだから、当然だ。
 だが問題は、そこに泳いでいる金魚、そのもので。

「え、金魚すくいが出来ない!?」
「こんなんじゃ、ちょっと、お客さんにすくってもらう訳にゃいかんからな」

 金魚すくいを所望したこよりに、首を振った屋台の親父はそう言って、心底困った風情で首を振る。こんなんじゃ、という言葉につられてこよりはもう一度、底の浅い水槽を見下ろした。
 数え切れないほどの、様々な大きさの金魚。ただし、その色はすべてがことごとく、青い。
 少なくとも、これが元々青い金魚ではなかったことは、屋台の親父の様子を見れば明らかだった。それに、こよりの扇子に描かれている青文魚のような青い金魚は居なくはないけれども、そうそうお目にかかる事はないわけで。
 親父さんによれば、もちろん仕入れた時には普通の、赤い金魚だったらしい。けれどもここで店を広げて、しばらくしてちょっと目を離したら、その間に一匹残らず真っ青に変わってしまっていたのだという。
 となれば――

「事件だな」

 ぐっ、と拳を握るこよりである。何しろ彼女達は探偵倶楽部。こんな不思議な事件、ミステリーに遭遇して、そうですかと黙って通り過ぎる訳には行かない。
 なぁ? と仲間達を振り返れば、それぞれに大きな頷きが返った。よし、と満足そうに笑ってこよりは、改めて底の浅い水槽を泳ぐ、青い金魚へと向き直る。
 とはいえ、ただ普通に泳いでいただけのどこにでも居る赤い金魚が、目を離した隙に真っ青に変わっていた、というのはちょっと、どんな事態だったのかにわかに想像は出来なかった。

「他に何か、変わった事はなかったか?」
「誰か、不審者が近付いたとか……」
「何かが落ちた音がしたとか」
「金魚の数が変わってるとか」

 だから口々に、思いつくままに金魚すくい屋の親父に質問する。そうして何か、手がかりを掴もうとして、とくに思いつかないと首を振る親父にちょっと落胆して――あれ? とこよりは辺りを見回した。

「なっつんは?」
「あれ?」

 先ほどもこんな事があったようなと、辺りを見回してみたけれども、菜摘の姿はどこにも見当たらなかった。けれどもさっきと違うことには、ついさっきはこよりの傍で、優しく微笑んでいたはずなのだ。
 一体、どこに行ってしまったのだろう? ミステリーはわくわくするけれども、居なくなってしまった菜摘の方が気がかりだ。
 ミリアムも栄も、平弥も菜摘がいつの間に姿を消したのかは解らないようだった。一先ず謎解きは後回しだと、手分けして辺りを探す事にする。

「なっつーん!」
「真田、どこだ?」
「真田さーん!」
「菜摘ー!?」

 口々に菜摘を呼びながら、うろうろと辺りを探し回っていたら、すぐに菜摘がちょっと照れたような笑顔で「すみません」と小走りにやってきた。心なしか、少し息が乱れている。
 菜摘は浴衣の左の襟をちょっと押さえながら、からからと下駄を鳴らして走ってくると、ぺこんと大きく頭を下げた。

「ちょっと、何かが居たような気がして見に行ってたんです。ごめんなさい」
「なんだ、そうだったのか。声をかけてくれたら良いのに」
「で、捕まえられたのか、真田?」

 こよりがちょっと拗ねた口調でそう言うと、ごめんなさいこより、とやっぱり笑顔で菜摘が言う。そうして栄の、冗談なのか真剣なのかよく解らない言葉に破顔して、いいえ、と首を振った。
 とまれ、無事に探偵倶楽部のメンバーが揃ったからには、改めて推理開始である。今度こそ菜摘も一緒に、うーん、と青い金魚の前で腕組みをして考え始めた。
 最初に推理を口にしたのは、ミリアムだった。

「もしかして、カキ氷のシロップが混ざったんじゃない?」
「俺もそう考えてた。ちょうど、九神がブルーハワイを食べてるところだしな。すくってみたら案外、普通の金魚かも」

 それにうんうんと頷いて、同意の声を上げたのは栄だ。両方から、のみならず全員の視線を手元に受けて、こよりは思わず「落としてないぞ」とぷるぷる首を振った。
 確かめる為、ポイではなく親父さんの網を借りて金魚をすくってみたら、金魚は青いままだった。うーん? と実際に真っ青な魚体を見ると、謎は深まるばかりだ。
 真剣に考えていた菜摘が、思いつかなかったようで小さく息を吐いて肩を落とした。それからひょい、とこよりを振り返る。

「こよりは何か、解りましたか?」
「うん? そうだな。私の扇子から逃げ出したに違いないな」

 笑いながらそう言って、ぱらりと扇子を広げて見せると、仲間たちから苦笑が返った。小さな扇子の中で、青文魚は悠々と気持ち良さそうに泳いだままだ。
 さて、こうなると頼りはまだ何も推理を披露していない、平弥だけである。仲間達の視線を受けて、けれども平弥はしばらくの間、うーん、と考え込んだままだった。
 だがやがて、ぽつり、と「エサ、とかかなぁ?」と呟く。

「金魚にやったエサが、何か変わったヤツやったとか。おっちゃん、エサ変えてへん?」
「エサは金魚問屋から仕入れたいつものだがなぁ……」

 しゃかしゃかとエサのケースを振りながら、やっぱり困り顔の金魚屋の親父に、そっか、とがっくり肩を落とす平弥である。こうなるともはや、なぜ金魚が青くなってしまったのかは、お手上げだった。
 ぬぅ、と唸る探偵倶楽部たちに、仕方ないから店仕舞いするよ、と親父が肩を竦める。が、その時栄が、あっと大きな声を上げた。

「金魚が……!」
「え?」

 慌てて底の浅い水槽を見下ろすと、先ほどまで青かった金魚が、再び赤く色づいている。まるで魔法でも使ったとしか思えないような、それは見事な光景だった。
 なんで? と再び首をひねったけれども、やっぱり謎は解らない。だがその時、ドーン、と大きな音が裏山から聞こえてきた。

 ドー……ンッ!
 ドドー……ンッ!

 つられて裏山のほうを見上げると、真っ暗な夜空にぱっと華やかな花火が広がる。幾つも、幾つも。夜の空気を震わせて、大きな花が夜空に咲く。
 誰からともなく、互いに顔を見合わせた。金魚が青くなったのも、再び赤く変わったのも、不思議なミステリーだけれども謎は謎のままで良い気も、する。
 よし、とだから笑顔でこう言った。眼差しの先には、先ほど栄が射的で取ったクマのぬいぐるみ。

「じゃあ改めて、金魚すくい対決だな。今度は栄に負けないぞ」
「わ、私も負けませんよ。こより、頑張りましょう」
「一緒に頑張ったら勝負にならへんのちゃうん? でも、俺も頑張るでー!」
「じゃあ、皆で協力して久遠くんを打ち負かそうか」
「おい!?」

 あっという間に形勢不利になって、栄が焦った顔になる。それにくすくすと笑い声を上げて、こよりは金魚すくい屋の親父に改めて、5人ね、と告げた。
 うぐぐ、と苦虫を噛み潰した顔で、ポイを握った栄が真剣に、どの金魚をすくうか睨めっこし始める。その横で残る4人は、わいわいとどの金魚が良いだろうとか、協力すればたくさんすくえるんじゃないかとか、賑やかに相談し始めた。
 夏祭りの夜はまだ続く。花火もどうやら、まだまだ賑やかに夜空を彩るようだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名   / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja0431  /   真田菜摘   / 女  / 16  /  ルインズブレイド
 ja0478  /   九神こより  / 女  / 15  / インフィルトレイター
 ja2400  /   久遠 栄   / 男  / 19  / インフィルトレイター
 ja2513  /   木南平弥   / 男  / 14  /    阿修羅
 ja7593  / ミリアム・ビアス / 女  / 20  /  ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
こうしてご縁を頂きました事に、まずは心からの感謝を。

探偵倶楽部の皆様での、賑やかな夏祭りの夜のひと時の物語、如何でしたでしょうか。
お嬢様は倶楽部の皆様に愛されておられるのだなぁ、としみじみ思いながら書かせて頂きました。
楽しく賑やかな様子が、僅かなりともお嬢様に伝われば幸いです。
精一杯努めさせて頂きましたが、ほんの少しでもイメージと違う所がございましたら、いつでもどこでもお気軽にリテイクをお願いします……ええ、ホントに躊躇いなく……(土下座←

お嬢様のイメージ通りの、楽しい夏のひと時のノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
常夏のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月22日

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