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『夏祭りの夜。〜水風船 』
ミリアム・ビアスja7593

 夕暮れ時、茜色の中へと続く道の先を見つめてみれば、ぽつり、灯る明かりが一つ、二つ。耳を澄ませば、賑やかな祭囃子が聞こえてくる。
 ゆるりと辺りを見回してみれば、祭へと歩く人々の足取りもどこかうきうきと楽しそうで、ミリアム・ビアス(ja7593)は知らず軽やかな足取りになった。周りを行く浴衣姿の人々は、見ているだけでも楽しいし、これから探偵倶楽部の皆でお祭りだという気持ちをいやがおうにも盛り上げてくれる。
 だからミリアムはのんびりと、神社までの道を歩く。遠くに見える朱塗りの鳥居が、今日のお祭の待ち合わせ場所。
 楽しげにそぞろ歩く人々の波に乗って、おっとり辿りついたその場所には、まだ誰も来ては居なかった。1番乗り、とちょっと子供に返った様な気持ちで、呟く。
 ほんの少し待っていたら、真田菜摘(ja0431)がそわそわとやってきた。彼女らしい可愛い浴衣に、ほっこりしながらひらり、手を振る。

「真田さん。ここ、ここ」
「ミリアム先輩」

 菜摘はぱたぱたと駆け寄ってくると、ぺこりと勢い良く頭を下げた。それに「こんばんわ」と笑顔を返して、ちらりと時間を確認する。
 まだ待ち合わせには早い、と思っていたら、次は久遠 栄(ja2400)が下駄を鳴らしながらやってきた。あ、と菜摘が声を上げる。

「うわあ、浴衣なんですね」
「ああ、せっかくだからな。――真田とあむぴだけか?」
「うん。久遠くんが3番乗りだね」

 栄にそう答えると、彼はちょっと複雑な表情になった。せっかく早めに来たのに、とため息を吐いたのに、何となく苦笑する。
 そうして、菜摘とぽつぽつ話をして待っていたら、あ、と今度は栄が声を上げた。それにつられて視線を上げると、遠くから九神こより(ja0478)がちょうどやって来る所で。
 ついさっき、自分がミリアムにやられたように、ちょっと真面目な表情を作った栄が腕を組む。

「九神、4番乗り」
「なんだ、もうみんな来てたのか。絶対1番だと思ったのになー」
「大丈夫ですよ、こより。木南さんがまだですから」

 栄の言葉にむぅ、と唇を尖らせて小さな扇子をぱたぱた動かすこよりに、菜摘が笑ってそう言った。そうするとこよりの拗ねたそぶりも長くは続かず、すぐに楽しそうな笑顔に戻って、ぐるりと仲間達を見回す。
 そうしてミリアムを見て、けれどもこよりはむ? とまた首をかしげた。うん? と一緒に首をかしげると、こよりはきゅっと眉を寄せる。

「あむぴは浴衣じゃないのか?」
「あぁ、うん。どっちにしようか迷ったんだけどね」

 そうして出てきた言葉に、そこか、とミリアムは肩を竦めた。そうして改めて、他の3人の姿を見比べる。
 こよりは白地に淡く色づいたあやめの咲いた浴衣を、きゅっと鮮やかな青の半幅帯で可愛らしく、花びら文庫に締めている。栄は生成りの麻地に縦縞が入っただけの、シンプルで大人びた浴衣。菜摘自身は紺地を花火が彩る可愛らしい浴衣を、黄色い金魚帯で柔らかく飾っていて。
 けれどもミリアムは、オフショルダーのカットソーに七分丈のジーンズ、足元は皮のサンダルという、至ってシンプルなもの。別に浴衣もなくはなかったけれど、着慣れていないから動き難いし、みんなの浴衣を見る方が楽しいし。
 けれどもどうやらこよりにとっては、ミリアムだけ浴衣じゃない、というのがひどく残念なことだったらしい。実に複雑な表情で、むむむ、と唸るこよりに、つい苦笑するミリアムだ。
 最後の1人であるところの木南平弥(ja2513)が「すまん!」と小走りに駆けてきたのは、そんな時だった。

「俺が最後なん? 待たせたかなぁ」
「ああ、なんぺーが最後だな。時間には遅れてないけど」

 栄がそう、笑うと腰に巻いた、紺色の帯に下げたオレンジの巾着袋が揺れる。そのオレンジと、紺の帯に施された黄色い、可愛らしい毛むくじゃらの動物達が踊る刺繍を見て平弥が、おぉ、と相好を崩した。

「その帯、おもろいなぁ。菜摘の浴衣もよう似合うとるで」
「あ、ありがとうございます……ッ!」
「ナンペー、私にはないのか?」
「いやいや、こよりももちろん、似合うとるって。その萌黄色のかんざしもえぇなぁ」

 順繰りに浴衣を褒める平弥に、ひょいと腰に手を当てたこよりが拗ねたように言うと、平弥は慌てた様子で両手を振りながらそう褒める。そうして次にミリアムを見て、先ほどのこよりと同じく、ん? と不思議そうな表情になった。
 けれども次の瞬間には、ほっとした様子で笑顔になる。

「なんや、ミリアムも私服なんか」
「うん。迷ったんだけどね」

 そう言った平弥自身も、青い半袖のパーカーにカーキのカーゴパンツという、ミリアムと同じくラフな格好。どうやらそれにほっとして、仲間意識も感じたらしい。
 くすりと笑って頷いたミリアムの向こうで、栄がまるで引率の先生のような口調で、言った。

「ここで溜まってても邪魔になるだけだし、そろそろ行こうか?」
「うん、そうだな。色々、出店も出てるみたいだしな」
「ふふ、こよりは何を食べますか?」
「たこ焼き屋はどこらへんかなぁ」
「私はあれ、水風船が欲しいな。出てくる人が持ってるから、どこかにはあるよね」

 その言葉に促され、ぞろぞろと連れ立って、神社の大きな朱塗りの鳥居を並んでくぐる。どうやらもう少し時間が経てば、神社の裏山から花火も打ち上げられるらしい。
 それにつけても、みんなの浴衣姿は目の保養だな、などと考えて、ミリアムはまた笑顔になった。





 一歩、神社の境内へと続く石畳の参道に踏み込むと、そこはすっかり祭の装いだった。普段の静まり返った、せいぜい近所の人々が朝の散歩に来たり、お昼にのんびり寛ぎに来る場所と、同じだとはとても思えないほど。
 参道だけじゃなくて、神社の敷地という敷地すべて、とにかく店が立てられる所には店がある。そうして生まれた幾つもの小道に、まさにひしめき合うように祭客が溢れていて。

「ふわぁ……ものすごい人だな」
「本当ですね……こより、大丈夫ですか?」
「うん。なっつんも平気か?」

 しっかりと手を繋ぎ合い、寄り添い合ってそう喋りながら歩くこよりと菜摘を、見失わないように歩くミリアムもまた、栄や平弥と固まって、はぐれない様にするのに必死だ。それでも、揃って屋台を楽しむ程度にはちゃんと、余裕はある。
 きょろきょろと辺りを見回せば、焼きとうもろこしに回転焼き、ベビーカステラに冷やしあめ。カラアゲの屋台がぱちぱちと美味しそうな音と匂いで道行く客を誘い、くじ引きの屋台からは賑やかな客引きの声が響いてくる。
 ぁ、とその中の1つの屋台に目を留めて、先頭を行くこよりが楽しそうな声を上げた。

「なっつん、なんだあれ! 苺綿飴だって!」
「苺……ですか?」
「ああ。食べたくないか?」

 私は食べたいな、と言いながら早くもこよりは菜摘を引っ張り、綿飴屋さんの傍までいって、ジーッとピンク色の綿が次々と生み出され、器用に割り箸でくるくる巻かれていく様子を見つめている。これは本当に、買うまではてこでも動かなさそうだ。
 その光景をほのぼのと眺めていたら、栄がやれやれと笑って、親父に「苺を2つ」と注文した。今日の彼は探偵倶楽部のお財布係――なのだが、この調子ではあまり、中身の管理は出来なさそう。

「良いのか、栄?」

 それを聞いたこよりが、ぱっと顔を輝かせて振り返り、頷く栄を見て「やった!」と手放しの歓声を上げた。そうして今度こそ、わくわくとした眼で自分の分の苺綿飴が出来るのを待っていた彼女が、そうだ、と振り返る。

「せっかくだから栄も食べたらどうだ? あむぴも、ナンペーも」
「そうだね。私はどれにしようかな」
「なんや、色んな味があるねんなぁ。苺の他は、ブルーハワイ、レモン、メロン、オレンジ……」
「せっかくだから全員、違う味でも良いかもな」

 お品書きを覗き込みながら、読み上げる平弥の隣からミリアムもひょいと覗き込み、うーん、と考えた。思いの外バリエーション豊富な味は、どれを選んでも美味しそうで迷ってしまう。
 結局、菜摘が苺を取りやめてメロンを、栄がオレンジを注文した。それから、ミリアムはブルーハワイ、平弥はレモンをそれぞれ受け取って、お互いの綿飴を一口ずつ分け合いながら、わいわいとまた歩き出す。
 次には同じ並びに合ったたこ焼き屋で、ぱっと目を輝かせた平弥がまっしぐらに走っていった。数分後、幸せそうにたこ焼きとかつお節の盛り上がったトレイを持って帰って来て、「やっぱたこ焼きはえぇなぁ〜」と目を細めてはふはふ頬張っている。
 これまた全員ではふはふと、爪楊枝で盛り上がったたこ焼きをつついて、一緒に頬張った。そうしたらなんだか、ソースの味が強調された屋台の安っぽいたこ焼きも、そんじょそこらのお店にも負けない味わいに感じるのだから、不思議だ。
 その次は射的の屋台で誰が一番大物を取れるか競争した。その次はお面の屋台だ。呆れるほどに様々なお面がずらりと並び、ぽっかりと空いた眼差しが、なんだかこちらを見ているようにすら感じられる。
 中でもミリアムが惹かれたのは、ヒーローもののお面だった。早速いそいそと購入して、頭の後ろに装備すると、なんだかそれだけで強くなった気がするのは、子供っぽいだろうか?
 そんな風に賑やかに歩き回るうち、気付けば夕暮時もとっくに通り過ぎ、すっかり夜の帳が下りていた。けれども屋台の明かりと、あちらこちらに点けられた街灯の明かりのおかげで、ちっともそんな事は感じない。
 さて次はどこに行くのかと、先頭を行く女の子2人の背中を見ながら歩いていたら、こよりが不意に立ち止まり、ひょいと首をかしげた。

「……あれ、ナンペーは?」
「あれ? さっきまで居たと思ったんだけど、なんぺーくん、どこ行ったんだろうね」

 はぐれないよう一緒に固まって行動していたはずなのに、といぶかしむこよりの言葉に、ミリアムも念願の水風船をばいんばいんと叩きながら辺りを見回して、こくりと首を一緒にかしげる。
 この人混みだから、はぐれてしまったのだろうか。それにしては何か違和感を感じると、思いながら見回したら栄もそう思ったようで、幾度も辺りを見回す目が合った。
 久遠くん、と声をかける。

「いつからなんぺーくんが居ないか、気付いてた?」
「いや……というかあむぴ、いくら水風船だからって人の顔の傍で叩くなよ。危ないだろ」
「え? うふふ、つい」

 ミリアムの言葉に首を振って、それからちょっと顔を顰めて注意されたのに、そう笑ったら嘆息された。けれどもこういうものを手にすると、やっぱりぎりぎりを攻めたくなると言うか、そんな気持ちになるではないか。
 だから容赦なく、ばいんばいんと軽やかに叩きながら2人できょろきょろ、平弥の姿を探していたら、ふと目の端に影が走ったような気がした。ん? と確かめようとした瞬間、ぽん、と肩を叩かれて。
 振り返ったミリアムは、そこにあったものを見て、盛大に悲鳴を上げた。

「きゃぁぁぁぁッ!?」
「うわ……ッ!!」

 その拍子につい、水風船を叩く力が篭り過ぎて、手の中の水風船が弾けたのを感じる。飛び散った水で上半身がびしょ濡れになって、栄もまた大声を上げた。
 その騒ぎに、振り返ったこよりと菜摘の、驚き眼と目が合った。

「久遠、先輩……?」
「どうしたんだ、栄、びしょぬれじゃないか!」
「突然、水風船が耳元で割れて……」
「ごめんね、久遠くん……びっくりしちゃって、つい力が……」

 当然上がる疑問の声に、説明する上半身びしょぬれの栄に、割れた水風船の名残を指にぷらぷらさせたまた謝るミリアムである。何しろとっさのことだったので、ちっとも加減が出来なかったのだ。
 それにしてもあれは――そろりと、自分を驚かせたソレを確かめようと視線を横にスライドさせる。ほんの少し離れた場所に居るのは、おどろおどろしい表情の鬼面を着けた人物。
 青い半袖のパーカーに、カーキのカーゴパンツを穿いたその人は、ミリアムや他の3人の視線を受けておず、と鬼面を頭の上に引きずり上げた。

「ご、ごめんやで、ミリアム。そないに驚くと思わへんかってん……」
「ナンペー!!」
「なんぺーくん!?」
「木南さんだったんですか……」
「何をやってるんだ、なんぺー……」

 そうして現れた顔に、残る全員の非難のこもった声が上がって、しゅん、と平弥は肩を落とした。その様子を見れば、彼が心から反省していることは良く解る。
 のだ、けれども。

「じゃあナンペー、あむぴを驚かせた罰だな。あそこの屋台で焼きそばを買って、具を当ててみようか」
「えぇッ!? うぅ、しゃーないな……」
「私はその間に、カキ氷を食べてるからな。頑張れよ――栄はそのままで大丈夫かな」
「夏だからな。すぐに乾くだろう」
「あの、久遠先輩、これ良かったら……」

 こよりがビシッ、と扇子で近くにあった焼きそば屋の屋台を指すと、平弥はちょっと顔を引きつらせた後、がっくり肩を落として屋台へと向かっていった。そんな平弥を見送って、びしょぬれの栄に声をかけてさっさと近くのカキ氷屋に向かうこよりを見ながら、菜摘がそっとハンカチを差し出していた。
 それを、塗らしたのは自分だという罪悪感もあって見守っていたら、バニラアイス添えブルーハワイ氷を買ったこよりが戻ってくる。そうしてミリアムに「あーん」とさじにすくったカキ氷を差し出した。

「ほら、あむぴ。驚いただろう……あーん」
「ありがとう、こよちゃん。あーん」
「うわ、なんかごっつ羨まし……ッ!?」
「自業自得だ。――もう大丈夫だ、ありがとう、真田」

 遠慮なく口をあけ、カキ氷を頂いたら、ほかほかの焼きそばとにらめっこしていた平弥が悲鳴を上げる。それに、くいっと頭につけた白兎のお面の位置を直しながら、栄が大きなため息を吐いた。
 濡れたハンカチを仕舞った菜摘が、美味しいですかこより? と笑顔を向けた。そんな菜摘にもあーんとカキ氷を食べさせる、こよりに向かってまた、あーん、とかき氷をねだる。
 同じブルーハワイでも、綿飴とカキ氷ではやっぱり、違う。それを幸せな気持ちで味わいながら歩くミリアムの眼差しの先に、金魚すくいの文字が見えた。





 底の浅い水槽には、数え切れないほどの金魚が泳いでいた。それは良い。金魚すくいなのだから、当然だ。
 だが問題は、そこに泳いでいる金魚、そのもので。

「え、金魚すくいが出来ない!?」
「こんなんじゃ、ちょっと、お客さんにすくってもらう訳にゃいかんからな」

 金魚すくいを所望したこよりに、首を振った屋台の親父はそう言って、心底困った風情で首を振る。こんなんじゃ、という言葉につられてミリアムはもう一度、底の浅い水槽を見下ろした。
 数え切れないほどの、様々な大きさの金魚。ただし、その色はすべてがことごとく、青い。
 少なくとも、これが元々青い金魚ではなかったことは、屋台の親父の様子を見れば明らかだった。それに、青い金魚なんてそうそうお目にかかる事はないわけで。
 親父さんによれば、もちろん仕入れた時には普通の、赤い金魚だったらしい。けれどもここで店を広げて、しばらくしてちょっと目を離したら、その間に一匹残らず真っ青に変わってしまっていたのだという。
 となれば――

「事件だな」

 ぐっ、と拳を握ったこよりに、そうね、と頷いた。何しろ探偵倶楽部としては、こんな不思議な事件、ミステリーに遭遇して、そうですかと黙って通り過ぎる訳には行かない。
 なぁ? と仲間達を振り返ったこよりに、だから力強く頷き返した。それに、よし、と満足そうに笑ったこよりに目を細め、改めて底の浅い水槽を泳ぐ、青い金魚へと向き直る。
 とはいえ、ただ普通に泳いでいただけのどこにでも居る赤い金魚が、目を離した隙に真っ青に変わっていた、というのはちょっと、どんな事態だったのかにわかに想像は出来なかった。

「他に何か、変わった事はなかったか?」
「誰か、不審者が近付いたとか……」
「何かが落ちた音がしたとか」
「金魚の数が変わってるとか」

 だから口々に、思いつくままに金魚すくい屋の親父に質問する。そうして何か、手がかりを掴もうとして、とくに思いつかないと首を振る親父にちょっと落胆して――あれ? とこよりが声を上げた。

「なっつんは?」
「あれ?」

 先ほどもこんな事があったようなと、辺りを見回してみたけれども、菜摘の姿はどこにも見当たらなかった。けれどもさっきと違うことには、確かについさっきまでこよりの傍で優しく微笑んでいたのを、ミリアムも確かに見ていたのだ。
 一体、どこに行ってしまったのだろう? 栄も平弥も、菜摘がいつの間に姿を消したのかは解らないようで、困った表情を浮かべている。
 とまれ謎解きは後回しだと、手分けして辺りを探す事にした。

「なっつーん!」
「真田、どこだ?」
「真田さーん!」
「菜摘ー!?」

 口々に菜摘を呼びながら、うろうろと辺りを探し回っていたら、すぐに菜摘がちょっと照れたような笑顔で「すみません」と小走りにやってきた。心なしか、少し息が乱れている。
 菜摘は浴衣の左の襟をちょっと押さえながら、からからと下駄を鳴らして走ってくると、ぺこんと大きく頭を下げた。

「ちょっと、何かが居たような気がして見に行ってたんです。ごめんなさい」
「なんだ、そうだったのか。声をかけてくれたら良いのに」
「で、捕まえられたのか、真田?」

 こよりがちょっと拗ねた口調で言ったのに、ごめんなさいこより、とやっぱり笑顔で菜摘が言う。そうして栄の、冗談なのか真剣なのかよく解らない言葉に破顔して、いいえ、と首を振った。
 とまれ、無事に探偵倶楽部のメンバーが揃ったからには、改めて推理開始である。今度こそ菜摘も一緒に、うーん、と青い金魚の前で腕組みをして考え始めた。
 最初に推理を口にしたのは、ミリアムだった。

「もしかして、カキ氷のシロップが混ざったんじゃない?」
「俺もそう考えてた。ちょうど、九神がブルーハワイを食べてるところだしな。すくってみたら案外、普通の金魚かも」

 それにうんうんと頷いて、栄からも同意の声が上がったのにほっとする。やっぱり、金魚そのものの色がいきなり変わるというのは、ちょっと考えにくい。となれば考え付くのは当然、ただそう見えているだけではないか? というもので。
 両方から、のみならず全員の視線を手元に受けて、こよりが「落としてないぞ」と首を振る。確かめる為、ポイではなく親父さんの網を借りて金魚をすくってみたら、金魚は青いままだった。
 実際に真っ青な魚体を見ると、謎は深まるばかりだ。うーん? と真剣に考えていた菜摘が、思いつかなかったようで小さく息を吐いて肩を落とした。それからひょい、とこよりを振り返る。

「こよりは何か、解りましたか?」
「うん? そうだな。私の扇子から逃げ出したに違いないな」

 笑いながらそう言って、ぱらりと扇子を広げたこよりに、こよちゃんてば、と苦笑した。小さな扇子の中で、青文魚は悠々と気持ち良さそうに泳いだままだ。
 さて、こうなると頼りはまだ何も推理を披露していない、平弥だけである。仲間達の視線を受けて、けれども平弥はしばらくの間、うーん、と考え込んだままだった。
 だがやがて、ぽつり、と「エサ、とかかなぁ?」と呟く。

「金魚にやったエサが、何か変わったヤツやったとか。おっちゃん、エサ変えてへん?」
「エサは金魚問屋から仕入れたいつものだがなぁ……」

 しゃかしゃかとエサのケースを振りながら、やっぱり困り顔の金魚屋の親父に、そっか、とがっくり肩を落とす平弥である。こうなるともはや、なぜ金魚が青くなってしまったのかは、お手上げだった。
 ぬぅ、と唸る探偵倶楽部たちに、仕方ないから店仕舞いするよ、と親父が肩を竦める。が、その時栄が、あっと大きな声を上げた。

「金魚が……!」
「え?」

 先ほどまで青かった金魚が、不思議なことに、再び赤く色づいている。まるで魔法でも使ったとしか思えないような、それは見事な光景だった。
 仲間達もそれを目の当たりにして、大きく息を呑んだ。そうしてなんで? と再び首をひねったけれども、やっぱり謎は解らない。
 その時、ドーン、と大きな音が裏山から聞こえてきた。

 ドー……ンッ!
 ドドー……ンッ!

 つられて裏山のほうを見上げると、真っ暗な夜空にぱっと華やかな花火が広がる。幾つも、幾つも。夜の空気を震わせて、大きな花が夜空に咲く。
 誰からともなく、互いに顔を見合わせた。金魚が青くなったのも、再び赤く変わったのも、不思議なミステリーだけれども謎は謎のままで良い気も、する。
 よし、と笑顔でこよりが言った。眼差しの先には、先ほど栄が射的で取ったクマのぬいぐるみ。

「じゃあ改めて、金魚すくい対決だな。今度は栄に負けないぞ」
「わ、私も負けませんよ。こより、頑張りましょう」
「一緒に頑張ったら勝負にならへんのちゃうん? でも、俺も頑張るでー!」
「じゃあ、皆で協力して久遠くんを打ち負かそうか」
「おい!?」

 あっという間に形勢不利になって、栄が焦った顔になる。それにくすくすと笑い声を上げて、こよりが金魚すくい屋の親父に改めて、5人ね、と告げた。
 うぐぐ、と苦虫を噛み潰した顔で、ポイを握った栄が真剣に、どの金魚をすくうか睨めっこし始める。その横で残る4人は、わいわいとどの金魚が良いだろうとか、協力すればたくさんすくえるんじゃないかとか、賑やかに相談し始めた。
 夏祭りの夜はまだ続く。花火もどうやら、まだまだ賑やかに夜空を彩るようだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名   / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja0431  /   真田菜摘   / 女  / 16  /  ルインズブレイド
 ja0478  /   九神こより  / 女  / 15  / インフィルトレイター
 ja2400  /   久遠 栄   / 男  / 19  / インフィルトレイター
 ja2513  /   木南平弥   / 男  / 14  /    阿修羅
 ja7593  / ミリアム・ビアス / 女  / 20  /  ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
こうしてご縁を頂きました事に、まずは心からの感謝を。

探偵倶楽部の皆様での、賑やかな夏祭りの夜のひと時の物語、如何でしたでしょうか。
皆様よりもお姉さんで、そうしてちょっぴりどじっこさんなお嬢様はどんな方なのだろう、と思いながら書かせて頂きました。
どこか飄々とした感じにもなってしまいましたが――楽しんでおられる様子が、僅かなりともお嬢様に伝われば幸いです。
精一杯努めさせて頂きましたが、ほんの少しでもイメージと違う所がございましたら、いつでもどこでもお気軽にリテイクをお願いします……ええ、ホントに躊躇いなく……(土下座←

お嬢様のイメージ通りの、楽しい夏のひと時のノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
常夏のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月22日

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