▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夏祭りの夜。〜鬼の面 』
木南平弥ja2513

 夕暮時、茜色の中へと続く道の先を見つめてみれば、ぽつり、ともる灯りが一つ、二つ。耳を澄ませば、賑やかな祭囃子が聞こえてくる。
 ゆるりと辺りを見回してみれば、祭へと歩く人々の足取りもどこかうきうきと楽しそうで、木南平弥(ja2513)は嬉しそうに目を細め、パーカーのポケットに両手を突っ込んだ。周りに溢れる浴衣姿は、これから祭だという気持ちが盛り上がって来るようで、くすぐったくて楽しい。
 だから平弥は楽しげに、神社までの道を歩く。遠くに見える朱塗りの鳥居が、今日のお祭の待ち合わせ場所。
 楽しげにそぞろ歩く人々の波に乗って、のんびりと歩きながら辿りついたその場所には、すでに探偵倶楽部の仲間達が顔を見せていて。だが、自分が最後かも、と気付いて慌てて平弥は走り出した。

「すまん! 俺が最後なん? 待たせたかなぁ」
「ああ、なんぺーが最後だな。時間には遅れてないけど」

 駆けつけざまにそう謝ると、久遠 栄(ja2400)が笑ってそう言った。その拍子に、彼の腰に巻いた紺色の帯に下がったオレンジの巾着袋が、ゆらりと揺れる。
 おぉ、と思わず相好を崩した。良く見れば紺の帯にも、黄色い糸で可愛らしい毛むくじゃらの動物達が、踊るように刺繍されている。

「その帯、おもろいなぁ。菜摘の浴衣もよう似合うとるで」
「あ、ありがとうございます……ッ!」
「ナンペー、私にはないのか?」
「いやいや、こよりももちろん、似合うとるって。その萌黄色のかんざしもえぇなぁ」

 ひょいと隣にに視線を移して、同じく浴衣姿の真田菜摘(ja0431)を褒めたら、さらにその隣に居た九神こより(ja0478)が、冗談めいた口調で拗ねたようにそう言った。慌てて両手を振りながらそう褒めると、よし、とすぐに笑顔に戻ったけれど。
 実際、今日の彼女はちょっと大人っぽく、後ろ髪だけをアップにしてうなじを出した、浴衣スタイルでよく似合っている。そう思いながら順繰りに視線を巡らせた、平弥はミリアム・ビアス(ja7593)を見て、ん? とちょっとだけ首をかしげた。
 仲間達は、殆どが浴衣姿だ。こより自身は白地に淡く色づいたあやめの咲いた浴衣を、きゅっと鮮やかな青の半幅帯で可愛らしく、花びら文庫に締めている。栄は生成りの麻地に縦縞が入っただけの、シンプルで大人びた浴衣。菜摘は紺地を花火が彩る可愛らしい浴衣を、黄色い金魚帯で柔らかく飾っていて――けれどもミリアムだけは、そうじゃなくて。

「なんや、ミリアムも私服なんか」
「うん。迷ったんだけどね」

 くすりと笑ったミリアムの姿は、オフショルダーのカットソーに七分丈のジーンズ、足元は皮のサンダルという、至ってシンプルなもの。それはそれで、すらりとしたミリアムにはよく似合うし。
 何より平弥自身もまた、青い半袖のパーカーにカーキのカーゴパンツという、ミリアムと同じくラフな格好。来る道すがら、全員が浴衣だったらどうしようとちょっと心配していたので、それにほっと息を吐く。
 栄がまるで、引率の先生のような口調で、言った。

「ここで溜まってても邪魔になるだけだし、そろそろ行こうか?」
「うん、そうだな。色々、出店も出てるみたいだしな」
「ふふ、こよりは何を食べますか?」
「たこ焼き屋はどこらへんかなぁ」
「私はあれ、水風船が欲しいな。出てくる人が持ってるから、どこかにはあるよね」

 その言葉に促され、ぞろぞろと連れ立って、神社の大きな朱塗りの鳥居を並んでくぐる。どうやらもう少し時間が経てば、神社の裏山から花火も打ち上げられるらしい。
 どんな花火が上がるんかなぁ、と知らず、今は真っ暗な山の方へと視線を向けた。きっと、仲間たちと一緒に見上げる花火は格別に綺麗なことだろう。





 一歩、神社の境内へと続く石畳の参道に踏み込むと、そこはすっかり祭の装いだった。普段の静まり返った、せいぜい近所の人々が朝の散歩に来たり、お昼にのんびり寛ぎに来る場所と、同じだとはとても思えないほど。
 参道だけじゃなくて、神社の敷地という敷地すべて、とにかく店が立てられる所には店がある。そうして生まれた幾つもの小道に、まさにひしめき合うように祭客が溢れていて。

「ふわぁ……ものすごい人だな」
「本当ですね……こより、大丈夫ですか?」
「うん。なっつんも平気か?」

 しっかりと手を繋ぎ合い、寄り添い合ってそう喋りながら歩くこよりと菜摘を、見失わないように歩く平弥もまた、ミリアムや栄と固まって、はぐれない様にするのに必死だ。それでも、揃って屋台を楽しむ程度にはちゃんと、余裕はある。
 きょろきょろと辺りを見回せば、焼きとうもろこしに回転焼き、ベビーカステラに冷やしあめ。カラアゲの屋台がぱちぱちと美味しそうな音と匂いで道行く客を誘い、くじ引きの屋台からは賑やかな客引きの声が響いてくる。
 ぁ、とその中の1つの屋台に目を留めて、先頭を行くこよりが楽しそうな声を上げた。

「なっつん、なんだあれ! 苺綿飴だって!」
「苺……ですか?」
「ああ。食べたくないか?」

 私は食べたいな、と言いながら早くもこよりは菜摘を引っ張り、綿飴屋さんの傍までいって、ジーッとピンク色の綿が次々と生み出され、器用に割り箸でくるくる巻かれていく様子を見つめている。これは本当に、買うまではてこでも動かなさそうだ。
 仲良ぇなぁ、と知らず、頬が緩んだ。自分よりも年上の2人だけれども、何となく、見ていると可愛らしいというか、ほのぼのするというか。
 栄がそんな2人にやれやれと笑って、親父に「苺を2つ」と注文した。今日の彼は探偵倶楽部のお財布係――なのだが、この調子ではあまり、中身の管理は出来なさそう。

「良いのか、栄?」

 それを聞いたこよりが、ぱっと顔を輝かせて振り返り、頷く栄を見て「やった!」と手放しの歓声を上げた。そうして今度こそ、わくわくとした眼で自分の分の苺綿飴が出来るのを待っていた彼女が、そうだ、と振り返る。

「せっかくだから栄も食べたらどうだ? あむぴも、ナンペーも」
「そうだね。私はどれにしようかな」
「なんや、色んな味があるねんなぁ。苺の他は、ブルーハワイ、レモン、メロン、オレンジ……」
「せっかくだから全員、違う味でも良いかもな」

 その言葉に、お品書きを覗き込んで平弥は、並ぶ文字を次々と読み上げた。勿論シンプルな綿飴もあるようで、綿飴というジャンルにこれほどのバリエーションが存在することがまず驚きである。
 他の仲間達もひょいと覗き込み、うーん、と唸って、菜摘が苺を取りやめてメロンを、栄がオレンジを注文した。それから、ミリアムはブルーハワイ、平弥はレモンをそれぞれ受け取って、お互いの綿飴を一口ずつ分け合いながら、わいわいとまた歩き出す。
 が、すぐに平弥の眼差しは、同じ並びに合ったたこ焼き屋に釘付けになった。何よりたこ焼きを愛する平弥が、この屋台を見逃すわけはない。
 ぱっと目を輝かせ、まっしぐらに屋台を目指して走った。さすがにこちらは、街中に店舗を構えているお店と同じ味揃えというわけには行かないようだが、代わりに少なめ・並・大盛りから選べるスタイルになっている。

「そら、男なら迷わず大盛りやろ! おっちゃん、大盛り1つな。爪楊枝は5本つけてか」
「あいよ!」

 ガッツポーズで注文した平弥に、気前良く返事をした屋台のおじさんは、ちょっとおまけなと笑って2〜3個サービスしてくれた。上にはかつお節をたっぷりかけて、青海苔もちょっぴり山盛りになっている。
 ふぉぉぉぉ、と喜びの声が漏れた。零さないよう、慎重にトレイを手のひらに載せて仲間達の元へと戻る足取りも、知らず弾んでいる。

「やっぱたこ焼きはえぇなぁ〜」
「おぉ? ナンペー、私も食べたいな」
「うん、もちろんえぇよ。爪楊枝、みんなの分ももろてきたから」

 目を細めてはふはふ頬張りながら、そう言ってたこ焼き山盛りのトレイをずいと差し出すと、すぐさま4本の手が伸びてきた。そうして全員ではふはふと、爪楊枝で盛り上がったたこ焼きをつついて、一緒に頬張る。
 自分1人でも勿論美味しいけれども、皆で食べたらなんだか、ソースの味が強調された屋台の安っぽいたこ焼きも、そんじょそこらのお店にも負けない味わいに感じるのだから、不思議だ。やっぱえぇなぁ、ともう一度、しみじみと呟いた。
 その次は射的の屋台で誰が一番大物を取れるか競争した。その次はお面の屋台だ。呆れるほどに様々なお面がずらりと並び、ぽっかりと空いた眼差しが、なんだかこちらを見ているようにすら感じられる。
 そんな中、ふと平弥は隅の方に、おどろおどろしい表情の鬼面がかかっているのに気がついた。その、夏祭りという場所には恐ろしく似つかわしくない表情に、思わずまじまじと見つめてしまう。

「うわぁ……こんなん、誰が買うんやろ」

 考えてみたけれども、ちょっと、想像がつかない。そこらの子供がうっかり見てしまったら、夕暮時もとっくに通り過ぎ、すっかり夜の帳が下りたこの時間では、確実に泣き出しそうだ。
 とはいえ屋台の明かりと、あちらこちらに点けられた街灯の明かりのおかげで、ちっとも夜の闇は感じない。じっと見つめ合っているうち、ふと悪戯心が沸いて、平弥は仲間達に隠れてこっそり鬼面を購入した。
 そうして、他の仲間たちもそれぞれに好みのお面を買って、歩き出した所でさりげなく距離を置く。この人混みの中では、どうやら皆、平弥が居なくなった事にもなかなか気付かないようで、からころと次のお店を物色しているようだ。
 だが、眼差しの先のこよりがひょいと首をかしげた。

「……あれ、ナンペーは?」
「あれ? さっきまで居たと思ったんだけど、なんぺーくん、どこ行ったんだろうね」

 いぶかしむこよりの言葉に、ミリアムも水風船をばいんばいんと叩きながら辺りを見回して、こくりと首を一緒にかしげている。そろそろ頃合か、と鬼面を被り、そっとそんなミリアムへと近付いた。
 栄とミリアムが、「久遠くん、いつからなんぺーくんが居ないか、気付いてた?」「いや……というかあむぴ、いくら水風船だからって人の顔の傍で叩くなよ。危ないだろ」「え? うふふ、つい」と話している声が、聞こえる。脅かすなら間違いなくこちらだろう。
 だから平弥はそっと、そっとミリアムに近付き――ぽん、と肩を叩いた。

「きゃぁぁぁぁッ!?」
「うわ……ッ!!」

 その拍子に、驚かせた平弥も驚くほどの悲鳴と、ミリアムの叩いていた水風船の破裂音が響く。それでびしょぬれになって、栄もまた大声を上げた。
 振り返ったこよりと菜摘が、驚き眼で駆け寄ってくる。

「久遠、先輩……?」
「どうしたんだ、栄、びしょぬれじゃないか!」
「突然、水風船が耳元で割れて……」
「ごめんね、久遠くん……びっくりしちゃって、つい力が……」

 上半身びしょぬれの栄と、割れた水風船の名残をぷらぷら指に下げているミリアムがそう説明すると、全員の視線が平弥へと集中した。気まずい。ものすごく、気まずい。
 だが名乗り出ないわけには行かない。平弥はおず、と鬼面を頭の上に引きずり上げた。

「ご、ごめんやで、ミリアム。そないに驚くと思わへんかってん……」
「ナンペー!!」
「なんぺーくん!?」
「木南さんだったんですか……」
「何をやってるんだ、なんぺー……」

 そうして、全員の非難のこもった声が上がって、しゅん、と平弥は肩を落とした。ほんのちょっとした悪戯のつもりで、本当に、これほど驚かせるつもりはなかったのだ。
 のだ、けれども。

「じゃあナンペー、あむぴを驚かせた罰だな。あそこの屋台で焼きそばを買って、具を当ててみようか」
「えぇッ!? うぅ、しゃーないな……」
「私はその間に、カキ氷を食べてるからな。頑張れよ――栄はそのままで大丈夫かな」
「夏だからな。すぐに乾くだろう」
「あの、久遠先輩、これ良かったら……」

 こよりにビシッ、と扇子で近くにあった焼きそば屋の屋台を指されて、平弥はちょっと顔を引きつらせた後、がっくり肩を落として屋台へと向かっていった。お祭屋台の焼きそばは、大体総じて具がないか、入っていたとしても細切れ状態でなかなか、判別するのは難しいのだ。
 そんな平弥を他所に、こよりは近くのカキ氷屋でバニラアイス添えブルーハワイを買うと、ミリアムに「あーん」とカキ氷を差し出していた――女性同士の特権、という奴であろう。

「うわ、なんかごっつ羨まし……ッ!?」
「自業自得だ。――もう大丈夫だ、ありがとう、真田」

 ほかほかの焼きそばとにらめっこしながら、その光景を目の当たりにして叫んだ平弥に、くいっと頭につけた白兎のお面の位置を直しながら、栄が大きなため息を吐いた。そうしてハンカチを貸した菜摘に礼を言い、浴衣の襟元を少しいじる。
 濡れたハンカチを仕舞った菜摘が、美味しいですかこより? と笑顔を向けた。そんな菜摘にもあーんとカキ氷を食べさせる、こより達を横目に見ながら唸る平弥の背中を、ぽん、と栄が叩く。
 遠くに、金魚すくいの文字が見えた。





 底の浅い水槽には、数え切れないほどの金魚が泳いでいた。それは良い。金魚すくいなのだから、当然だ。
 だが問題は、そこに泳いでいる金魚、そのもので。

「え、金魚すくいが出来ない!?」
「こんなんじゃ、ちょっと、お客さんにすくってもらう訳にゃいかんからな」

 金魚すくいを所望したこよりに、首を振った屋台の親父はそう言って、心底困った風情で首を振る。こんなんじゃ、という言葉につられて平弥はもう一度、底の浅い水槽を見下ろした。
 数え切れないほどの、様々な大きさの金魚。ただし、その色はすべてがことごとく、青い。
 少なくとも、これが元々青い金魚ではなかったことは、屋台の親父の様子を見れば明らかだった。それに、青い金魚なんてそうそうお目にかかる事はないわけで。
 親父さんによれば、もちろん仕入れた時には普通の、赤い金魚だったらしい。けれどもここで店を広げて、しばらくしてちょっと目を離したら、その間に一匹残らず真っ青に変わってしまっていたのだという。
 となれば――

「事件だな」

 ぐっ、と拳を握るこよりである。何しろ彼らは探偵倶楽部。こんな不思議な事件、ミステリーに遭遇して、そうですかと黙って通り過ぎる訳には行かない。
 なぁ? と仲間達を振り返ったこよりに、だから力強く頷き返した。それに、よし、と満足そうに笑ったこよりに目を細め、改めて底の浅い水槽を泳ぐ、青い金魚へと向き直る。
 とはいえ、ただ普通に泳いでいただけのどこにでも居る赤い金魚が、目を離した隙に真っ青に変わっていた、というのはちょっと、どんな事態だったのかにわかに想像は出来なかった。

「他に何か、変わった事はなかったか?」
「誰か、不審者が近付いたとか……」
「何かが落ちた音がしたとか」
「金魚の数が変わってるとか」

 だから口々に、思いつくままに金魚すくい屋の親父に質問する。そうして何か、手がかりを掴もうとして、とくに思いつかないと首を振る親父にちょっと落胆して――あれ? とこよりが辺りを見回した。

「なっつんは?」
「あれ?」

 言われて平弥も辺りを見回してみたけれども、菜摘の姿はどこにも見当たらなかった。けれども確か、ついさっきはこよりの傍で、優しく微笑んでいたはずなのに。
 一体、どこに行ってしまったのだろう? ミリアムも栄も、菜摘がいつの間に姿を消したのかは解らないようで、困った表情を浮かべている。
 とまれ謎解きは後回しだと、手分けして辺りを探す事にした。

「なっつーん!」
「真田、どこだ?」
「真田さーん!」
「菜摘ー!?」

 口々に菜摘を呼びながら、うろうろと辺りを探し回っていたら、すぐに菜摘がちょっと照れたような笑顔で「すみません」と小走りにやってきた。心なしか、少し息が乱れている。
 菜摘は浴衣の左の襟をちょっと押さえながら、からからと下駄を鳴らして走ってくると、ぺこんと大きく頭を下げた。

「ちょっと、何かが居たような気がして見に行ってたんです。ごめんなさい」
「なんだ、そうだったのか。声をかけてくれたら良いのに」
「で、捕まえられたのか、真田?」

 ちょっと拗ねた口調のこよりに、ごめんなさいこより、とやっぱり笑顔で菜摘が言う。そうして栄の、冗談なのか真剣なのかよく解らない言葉に破顔して、いいえ、と首を振った。
 とまれ、無事に探偵倶楽部のメンバーが揃ったからには、改めて推理開始である。今度こそ菜摘も一緒に、うーん、と青い金魚の前で腕組みをして考え始めた。
 最初に推理を口にしたのは、ミリアムだった。

「もしかして、カキ氷のシロップが混ざったんじゃない?」
「俺もそう考えてた。ちょうど、九神がブルーハワイを食べてるところだしな。すくってみたら案外、普通の金魚かも」

 それにうんうんと頷いて、同意の声を上げたのは栄だ。両方から、のみならず全員の視線を手元に受けて、こよりは「落としてないぞ」とぷるぷる首を振った。
 確かめる為、ポイではなく親父さんの網を借りて金魚をすくってみたら、金魚は青いままだった。うーん? と実際に真っ青な魚体を見ると、謎は深まるばかりだ。
 真剣に考えていた菜摘が、思いつかなかったようで小さく息を吐いて肩を落とした。それからひょい、とこよりを振り返る。

「こよりは何か、解りましたか?」
「うん? そうだな。私の扇子から逃げ出したに違いないな」

 笑いながらそう言って、ぱらりと扇子を広げて見せたこよりに、思わず苦笑した。だが、こうなってくると推理の頼りは、まだ何も推理を披露していない平弥だけ、かもしれない。
 仲間達の視線を受けて、けれども平弥はしばらくの間、うーん、と考え込んだままだった。皆のように、すぐにはなかなか思いつかず、ちょっとだけ焦る気持ちが胸に沸き。
 ようやくぽつり、と「エサ、とかかなぁ?」と呟いた。

「金魚にやったエサが、何か変わったヤツやったとか。おっちゃん、エサ変えてへん?」
「エサは金魚問屋から仕入れたいつものだがなぁ……」

 しゃかしゃかとエサのケースを振りながら、やっぱり困り顔の金魚屋の親父に、そっか、とがっくり肩を落とす平弥である。こうなるともはや、なぜ金魚が青くなってしまったのかは、お手上げだった。
 ぬぅ、と唸る探偵倶楽部たちに、仕方ないから店仕舞いするよ、と親父が肩を竦める。が、その時栄が、あっと大きな声を上げた。

「金魚が……!」
「え?」

 慌てて底の浅い水槽を見下ろすと、先ほどまで青かった金魚が、再び赤く色づいている。まるで魔法でも使ったとしか思えないような、それは見事な光景だった。
 なんで? と再び首をひねったけれども、やっぱり謎は解らない。だがその時、ドーン、と大きな音が裏山から聞こえてきた。

 ドー……ンッ!
 ドドー……ンッ!

 つられて裏山のほうを見上げると、真っ暗な夜空にぱっと華やかな花火が広がる。幾つも、幾つも。夜の空気を震わせて、大きな花が夜空に咲く。
 誰からともなく、互いに顔を見合わせた。金魚が青くなったのも、再び赤く変わったのも、不思議なミステリーだけれども謎は謎のままで良い気も、する。
 よし、と笑顔でこよりが言った。眼差しの先には、先ほど栄が射的で取ったクマのぬいぐるみ。

「じゃあ改めて、金魚すくい対決だな。今度は栄に負けないぞ」
「わ、私も負けませんよ。こより、頑張りましょう」
「一緒に頑張ったら勝負にならへんのちゃうん? でも、俺も頑張るでー!」
「じゃあ、皆で協力して久遠くんを打ち負かそうか」
「おい!?」

 あっという間に形勢不利になって、栄が焦った顔になる。それにくすくすと笑い声を上げて、こよりが金魚すくい屋の親父に改めて、5人ね、と告げた。
 うぐぐ、と苦虫を噛み潰した顔で、ポイを握った栄が真剣に、どの金魚をすくうか睨めっこし始める。その横で残る4人は、わいわいとどの金魚が良いだろうとか、協力すればたくさんすくえるんじゃないかとか、賑やかに相談し始めた。
 夏祭りの夜はまだ続く。花火もどうやら、まだまだ賑やかに夜空を彩るようだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 /    PC名   / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja0431  /   真田菜摘   / 女  / 16  /  ルインズブレイド
 ja0478  /   九神こより  / 女  / 15  / インフィルトレイター
 ja2400  /   久遠 栄   / 男  / 19  / インフィルトレイター
 ja2513  /   木南平弥   / 男  / 14  /    阿修羅
 ja7593  / ミリアム・ビアス / 女  / 20  /  ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
こうしてご縁を頂きました事に、まずは心からの感謝を。

探偵倶楽部の皆様での、賑やかな夏祭りの夜のひと時の物語、如何でしたでしょうか。
息子さんの推理を調べてみて初めて知りましたが、金魚の色を鮮やかにするのに、餌にも気を使ったりするのですね。
とはいえ1度限りでは変わらないだろうと、謎のまま終わらせて頂きましたが、僅かなりとも息子さんのお気に召すものであれば幸いです。
精一杯努めさせて頂きましたが、ほんの少しでもイメージと違う所がございましたら、いつでもどこでもお気軽にリテイクをお願いします……ええ、ホントに躊躇いなく……(土下座←

息子さんのイメージ通りの、楽しい夏のひと時のノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
常夏のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年08月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.