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『+ 夏と言えばこれ! + 』
工藤・勇太1122



 その人物の手には一枚のチケット。

 それは移動手段のものか。
 アトラクションの入場チケットか。
 祭りの特別席のチケットか。
 はたまた手作りの何かなのか。

 だけどそれを手にしている貴方は思う。


 「夏と言えばこれだ!」……と。



■■■■■



「夏の暑い時はここが一番にゃ!」


 にゃんにゃん♪と楽しげにチビ猫獣人化した俺、工藤 勇太(くどう ゆうた)は夢の世界を闊歩する。夢ならば夏の暑さは無視出来るし、むしろスガタとカガミ達と遊べて一挙両得というもの。良い気分のまま彼らの元へと行こうとするが何も無いはずの空間にふと何かが落ちているのが見えた。
 興味をそそられ、それを拾い上げてみればなんと遊園地の無料招待券。内容的に「わーい!」と彼は喜びながらもう一方の手でその券を掴もうとする。だが。


「ぎにゃー!」
「なに、どうしたんですか。工藤さん!」
「どうした、勇太!」
「スガター、カガミー!! 券が、券がー!」
「券?」
「あ、コイツまたやりやがった」
「にゃああー!! 遊園地の券が俺の手にペタリと張り付いたまま剥がれないにゃー!! どうにかしてにゃー!!」


 この時自分を含めてスガタとカガミもまたこの状況に呆れ返っていたと思う。
 何故なら自分は過去全く同じようにこの世界で呪われたウェディングベールを拾い、何となく被った途端脱げなくなった苦い思い出がある。それを浄化した方法は「結婚式を行う事」だったが――今回は一体どうすれば解決に導けるのか。


「また呪われるとか嫌にゃー!!」


 手から離れないチケットをそれでもぶんぶん振り回しながら俺はカガミに突進し、泣きつく事にした。



■■■■■



 さて、訪問してきた俺を見て、ミラーはイイ笑顔で開口一番こう言った。
 「君には学習能力はないのかな?」……と。


 あの後、前回同様ミラーとフィギュアの住む一軒屋にやってきた俺達三人は、かくかくしかじかと説明に入る。……といっても「散歩してた時に拾った券が手から離れません。今回も呪いですか?」と簡単に説明できるものだったが。
 あいかわらずフィギュアには「初めまして、<迷い子(まよいご)>」と言われ俺の心の何かが削られてしまったが、そろそろ慣れて来たのも事実。ミラーから記憶伝達を行ってもらった後、彼女とスガタにチケットが一体何なのか視てもらい、やがて結論が出される。
 その最中もミラーは皆の為にお菓子と紅茶を出すのを忘れない。しっかりと礼儀尽くしてくれる辺りが彼の良いところだと本当に思う。


「どうやらこれは廃園になった遊園地達の悲しい想いが具現化したもののようだわ」
「今一度子供達と遊びたいという願いが結集して工藤さんに張り付いたチケットを生んだみたいです」
「それで、そのチケットはどうすれば満足してくれるのかな?」
「チケットを見ると『一家族五人ご招待券』って書いてあるから……行けば満足してくれると思うの」
「ああ? でもそれ場所とか書いてあんのかよ。だってそれ複数の遊園地の具現化なんだろ」
「それがね、カガミ。ここに小さい文字で印字されているんだよ。『準備が出来たら案内所へお連れ致します』って」
「にゃ? それってどういう事にゃ?」
「つまりだな。行く奴五人くらい揃えて、皆の準備が出来たらチケットの方から呼んでくれるんだろ。――あ、ミラー。この桃のタルト美味いわ」
「先日遊びに来てくださった方が差し入れてくれたんですよ。腐らないよう術を施してありますから安心して食べて下さいね」


 五人。
 俺は猫手のまま今いる皆の数を数える。いーち、にー、さーん……。


「ぴったり五人にゃ!!」
「何だよ、いきなり叫んで」
「カガミ達、俺と一緒に遊園地に行って欲しいにゃー!」
「はぁ?」
「だってこの世界で見つけたものなのにゃ! だったらこの世界の知り合いで行きたいにゃ!」


 俺は手に付いたチケットをずずいっと彼らに見せながら主張する。すると彼らは互いに顔を見合わせて、苦笑した。


「僕は別にいいですよ。面白そうですし」
「まあ、別に付き合ってやっても良いけど」
「僕はフィギュア次第だね。どうする?」
「あたしは行ってみたいわね。その廃園の想いの強さも見てみたいし」
「じゃあ、決定だね。準備をしよう」
「準備って……このまま行きゃいいじゃん」
「カガミ、チケットの招待人数の項目を良く見てごらん。そして出来れば口に出して読んでごらんよ」
「んー……『一家族五人ご招待券』、……あ」
「気付いたかな。つまり、遊園地に行くには『家族』じゃないと認めてもらえないのかもしれないね」


 さあ、準備をしよう。
 まずは父を――ミラーが四十代程の男性へと変化を遂げて。
 続いて母を――フィギュアがそれよりもやや年下の女性へと成長し。
 最後に兄二人を――スガタとカガミが十七歳ほどの少年へと年齢を上げる。


 その見事な変化っぷりに俺は感動し、ぱふぱふと両手を叩き合わせてしまう。
 相変わらずチケットは手に張り付いたままだったけれど、なんだか幸せな光景だった。さてチケットはこれで認めてくれるだろうか。ちらっと俺は手を見下ろす。


「にゃー!?」


 俺が叫んだと同時に券が発光し、周囲を包む。
 そして室内全てが白に塗り変わった瞬間、自分達はどこかに転移させられるのを感じた。



■■■■■



 そして目の前には見たこともない大きな遊園地が存在しているわけで。


「無事着けたようだね。フィギュア、車椅子の座り心地は大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ」
「これはまた複合体とだけあって広そうな……」
「うっわー、どでかい遊園地! 何台アトラクションあんだよ、これ」


 ミラーがフィギュアの為に用意した車椅子を押しながら入園ゲートへと向かう。
 そこは異空間に存在する遊園地のためだけの世界。遠くの方から同じように誘われたらしい誰かの笑い声が聞こえてきた。ジェットコースターが頭上を通るたびに黄色い声が響き、無事機能している事を俺は知る。
 俺は皆に付いて歩き、やがて入園ゲートへと辿り着くと手に張り付いていたチケットを見せた。そこに居た案内人の女性はにこやかに俺の手からチケットを剥がす様に受け取り、『家族五人』を中へと導く。
 あの時「楽しい時間を」と行ってくれた笑顔を俺は忘れない。


―― 家族って認めてもらえたのかにゃ?


「認めてもらえたんじゃないですか?」
「っていうか、マジでこれ一日遊びつくしていいわけ? っていうか勇太だけ身長制限掛かったりすんじゃねーの」
「にゃー! そうにゃ! 今の俺様は  チ  ビ  猫  獣  人  !」
「嫌だったら高校生の姿に戻っても良いんですよ?」
「そしたら絶叫系に振り回すだけだけどな」
「……カガミの目がキラキラと嫌な意味で輝いてるからこのままでいいにゃ……」


 くすんっと肩を撫で下ろしてしまう俺。
 後ろでは両親役となったミラーとフィギュアが呆れた様に、でもどこか楽しそうな目で自分達三人を見守ってくれていた。


「それで、貴方達はどれから遊ぶの?」
「じゃあ俺はミラーハウスに入りたいにゃ! ミラーとフィギュアの家のおかげで俺様きっと何の迷いも無く進めるはずにゃん!」
「うちは壁一面鏡張りだからねぇ。いいよ、三人で行っておいで」
「わーい、スガタ、カガミ行くにゃー!!」
「うわっ」
「げっ! 身長差考えろよ、お前! 走りにくいっ」
「今の俺様は気にしないのにゃー♪」


 ミラー達に見送られ俺はスガタとカガミの手をとり走り出す。
 前屈みになった格好で走る羽目になっている二人の困惑をよそに、すぐ傍にあった鏡張りの迷路施設へと足を運ぶ。入場前にはっとフリーパス用のチケットなど貰わなかった事に気付いたが、スタッフは何も気にせず自分達を中に通してくれた。


 最初はなんでいつもこんな事に……と嘆いていたけれど、やっぱり誰かと一緒に遊べるのはいい。それが家族だって認めてもらえた面々ならば尚更の事。
 入ったミラーハウスは当然『自分』を沢山映し出す。けれど大丈夫、手探りで、いつものように進んでいけば迷わない。やがて見えてくる出口に俺は嬉々として両手を上げ外に出た。


「一番乗りにゃー!!」
「「 一番最後の間違い 」」
「――ありゃ?」


 だが既に自分より先に出ていたスガタとカガミの突っ込みに俺様はぷっくーと頬を膨らませた。



■■■■■



 その後も足の悪いフィギュアとはコーヒーカップやメリーゴーランドに乗ったり、ミラーとも様々なアトラクションを体験した。
 残念ながらフィギュアの足の悪さと俺自身の身長制限のせいで、そんなに多くのアトラクションには乗れなかったけれど、絶叫系コースターに乗るスガタとカガミは楽しそうで良かった。
 そっと俺は胸元に手を当て、そしてぽつりと呟く。


「そういえばこんな風に家族で、なんて遊園地来た事ないから……」
「あら、じゃあ初体験を貰っちゃったわね」
「フィギュア、ショールを巻いて。そろそろ冷えてくる時間だよ。それで<迷い子>、君はこの遊園地に来て楽しいかい?」
「うん、楽しいにゃ!!」
「それは良かった。――おや、スガタにカガミおかえり」
「うー……酔いそう」
「あー、あのコースター揺れがきつくて首がくがくー。高さとかは別に平気だったんだけどさー……」


 構図的には遊んできた二人の子供に声をかける父。
 よほど疲れたのか、スガタとカガミはぐたりと傍にあったベンチに腰掛け、その背もたれに両肘を乗せて項垂れている。
 猫手のまま俺は慌てて飲み物を二人に差し出し、彼らは素直にそれを受け取って飲んだ。そして不意に流れ聞こえてくる音楽。それはこの遊園地が閉園するという合図であった。


「帰らなきゃ駄目ね。おいで、勇太」
「フィ、フィギュアに呼び捨てにされたにゃ!?」
「あら、だってあたしは今あなたのお母さんですもの。呼び捨てにしても何にもおかしくないわ」
「……た、たしかにそうにゃ。じゃあ、お邪魔してー」
「ほら、そこの似非双子も帰るよ」
「「 はー……い 」」


 ずいぶんと覇気の無い声でスガタとカガミが応答する。
 車椅子に座っているフィギュアの膝に俺がちょんっと腰を下ろし、ミラーがその椅子を押す。そしてその後ろをよろよろと二人が追いかけて来れば、不思議な家族の光景が出来上がり。音楽が流れ出した事により、他にも遊びに来ていたグループやカップルなどがゲートへと向かい始める。その流れに逆らうものはいない。


 『本日はご来園ありがとうございます』
 『気をつけてお帰りくださいませ』


 そんなスタッフの声を聞きながら自分達はゲートを通り抜ける。
 そして全員が固まったその瞬間――またあの光に包まれた。


「にゃ、にゃ!?」


 俺はきょろきょろと周囲を見渡し、そこがフィギュアとミラーの住む家である事を確認する。そして皆もまた変化した姿のままそこに存在していた。


「遊園地達は満足したようね。良かったわ、楽しいひと時を過ごせて」
「フィギュアは慣れない車椅子で疲れただろう。今日はもう休んだ方がいいかもね」
「そうね、早めに……」
「で、君は一体いつまでフィギュアの膝の上を占領しているつもりかな?」
「にゃー!! 殺気を飛ばさないで欲しいにゃー!!」


 ぞくりと背筋が凍るような気に慌てて俺はフィギュアの膝から飛び降りる。
 しかし座らせてくれていたフィギュアはちょっと残念そうに笑う。


「きっと同じような事がまた起きるかもしれないけど、想いを浄化させてあければ大丈夫よ。あたしはもう忘れてしまうでしょうけれど、貴方にとって今日の家族ごっこは楽しかったかしら」


 未だ、『母』としての表情を保ちながら彼女は問う。
 そして『末っ子』として設定された俺はといえばほんのりと照れくさそうに頬を引っかきながら。


「えへへ、凄く楽しかったのにゃ!」


 満面の笑みを浮かべ、心からの感想を述べた。






―― Fin...










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、常夏ノベル単品版です!
 今回は当異界メンバーと共に遊園地に遊びに行くというお話でほのぼの致しました^^
 家族の役割分担がナイス過ぎて……!!

 しかしフィギュア=「母」はさりげなく工藤様の母上を被らせてしまいそうでどきどきしております。
 今回は参加有難うございました!!
常夏のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年08月27日

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