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『水晶よりも素晴らしき 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)&(登場しない)


 ファルス・ティレイラは、ほえー、と目の前の豪邸を見上げた。
 とにかく、大きい。お城と言われても、納得できそうなくらい、大きい。
「お姉さま、今日はどうしてこちらに?」
 隣に立つ、シリューナ・リュクテイアにティレイラは尋ねる。
「ここは、知人の家だ」
「こんなに大きな家にお住まいなんですか」
「そういえば、ティレを連れて来るのは、初めてだったか」
「はい。こんなに大きな家、来たら覚えてます」
 きっぱりと言われ、シリューナはくつくつと笑う。ちょっぴり拗ねているようにも見える。
「色んなものをコレクションしている奴でな。たまに顔を出しているんだ」
「そうなんですか。今日、素敵なものがあると良いですね!」
 ティレイラの言葉に、シリューナは含んだように笑う。
 そうだな、と頷きつつ。


 家主は、女性であった。彼女はシリューナとティレイラを満面の笑みで向かえ、家の中へと誘う。
「わあ、凄い!」
 一歩家に踏み入れた瞬間から、ティレイラは目を輝かせる。見た事もないような、呪具や魔具が所狭しと並んでいるのである。
「これ、綺麗」
 飾られたペンダントを見てティレイラはいい、そっと手を伸ばす。
「それは、体を透明にしてしまうペンダントだ。一度触れると、元に戻る術が見つかっていないぞ」
「えっ」
 シリューナに言われ、慌ててティレイラは手を引っ込める。
「あ、危なかったです!」
「どうせなら、もっと良いものに触れてくれ」
「え?」
 思わず聞き返すティレイラに、シリューナはただ笑む。
 過去の出来事を色々思い返し、ティレイラは思わず「ははは」と笑い返す。あれは、本気だ、と。
「それで、何か新たなものは手に入れたか?」
 シリューナは女性に尋ねる。女性は「そうねぇ」と頷いた後、新たに手に入れたもの達を紹介していく。
「そうそう、そういえば」
 女性はそう言い、奥のほうから水晶を持ってきた。「これ、見て欲しいの」
「魔力が籠められているな」
 一目見て、シリューナは言う。
「そう、魔力。どんな魔法や攻撃も弾き返せる、保護の魔力が籠められているわ」
「なるほど、効果を発動させてみたいのだな」
「ご名答」
 シリューナは「ふむ」と頷き、軽く魔力をあててみる。水晶はチリ、と一瞬発動の兆しを見せたものの、すぐに動かなくなってしまった。
「軽い魔力では、ものともしないようだな」
「強い魔力が必要なんでしょうね。だから、あなたならいけるかと思って」
「なるほど」
 シリューナは頷いて水晶を見、続けてティレイラのほうを見る。
 ティレイラは、飾られている様々な道具達を楽しそうに見つめていた。目をきらきらさせ、時折触ってしまいそうになりながら。
 そしてそのうちの一つに、そーっとそーっとティレイラは手を伸ばす。
「ティレ」
「は、はいっ!」
 びくっ、とティレイラは体を震わせて返事する。
「ななななな、なんでしょうか、お姉さまっ!」
 驚いているティレイラに、シリューナは水晶を手渡す。
「これに、魔力を籠めてみろ」
「この子に?」
「なあに、ティレでいけるだろう」
「え、ええと、何でしょうか?」
 訳も分からず小首を傾げるティレイラに、シリューナは「大丈夫だ」と返す。
「ティレは、彼女をサポートするんだ」
「サポート、ですか」
「そう、サポートだ」
 シリューナに促され、女性も水晶を持つ。それを包み込むように、ティレイラも水晶を持った。
「さあ、魔力を籠めろ」
「はい」
 ティレイラは、集中する。水晶へ魔力を注ぎ込む事だけを頭に入れて。
 両手から、魔力が流れ込んでいく。
「ほう」
 途端、ヴヴヴヴ、と水晶が震えだす。
 女性は「あ」と声をあげるが、ティレイラは何も言わない。魔力を籠めることに集中しすぎて、水晶に起こっている出来事に気付いていないのだ。
 徐々に水晶は光を帯びてゆき、ついには保護の魔法が発動する。
「まあ!」
 女性は嬉しそうに声を上げたが、それは一瞬であった。
 一瞬で、歓喜の表情のまま、魔法金属へと変化してしまったのだ。
「ほほう?」
 シリューナが興味深そうに声を上げると、ようやくティレイラは現在の状態に気付いた。
 つまりは、一緒に魔力を籠めていた女性が、魔法金属へと変じてしまったと言う状態に。
「なななな、何事ですか!」
「発動したんだよ、ティレ」
「だから、何がですか!」
 ティレイラは慌てたように叫ぶ。が、シリューナは落ち着きはらったまま、魔法金属に転じた女性を感心したように見るだけだ。
「なるほど、保護の魔法とはこういうことか」
「だから、一人で納得しないでくださいよぉ!」
 ティレイラは叫び、はっとする。
「こ、こうなったら、止めるしか!」
 ティレイラは、魔力を籠めることをやめる。止まらない。
 水晶から手を離してみる。止まらない。
 魔力を逆に放出してみる。止まらない。
 水晶の動きは、止まらない!
「あ、ああ」
 ついに、ティレイラの指先から金属へと転じ始める。魔力の強さが幸いしたのか、女性とは違って、ゆるりゆるりと金属化が進んでゆく。
「確かに、こうなってしまえば、保護の役目として担っているな。攻撃も、魔法も、傷つけることは出来なさそうだ」
 金属と化した女性を指でなぞりながら、シリューナは言う。口元に笑みを携えて。
「お、お姉さま、私も金属に」
「そうだな」
「ちょ、お姉さ……!」

――ぱきんっ!

 完全にティレイラも金属と化してしまった。
 シリューナは笑いながら、視線を女性からティレイラに移す。
 つう、と指でなぞると、ひんやりとした触感が指先をくすぐった。
 攻撃も魔法も受け付けぬ、完全なる金属の二人。
「なるほど、素晴らしい水晶ではあるな」
 ちらり、と水晶を見る。ほのかな光と振動を残す水晶は、未だ発動中であることを示していた。
 この光と振動が収まった頃に、二人は元の体へと戻るのであろう。
(まだ、時間があるということだな)
 光と振動の具合からいって、あと一時間と言うところか。
 シリューナはそう判断し、ティレイラに指を這わす。
(可愛い)
 今は、素晴らしい水晶には興味がなくなっていた。シリューナの興味の対象は、水晶よりも可愛らしく、素晴らしい、魔法金属と化したティレイラだ。
 慌てたような表情のまま固まって、最後の言葉が自分への呼びかけ。
 金属特有の滑らかな表面と、ティレイラが元々持っている艶かしい肉体が、良く融合している。
 シリューナは、最初はそっと、だんだんしっかりと撫で始める。冷たいはずの触感が、徐々に熱を帯びているようにも感じてくる。
「こうして触れられていることが、分かるのか?」
 ふふふふ、とシリューナは笑う。
 ティレイラは答えない。答えられない。金属だから。魔法金属となってしまったから。
 可愛らしいものに、なってしまったから。
「ほう、ここもしっかりと金属となってしまったようだな。布と肌の境目があるものの、同じ金属だから分かりにくいな」
 指先が、ティレイラをなぞる。掌で、撫でる。頭から足の先まで、舐めるように存分と観賞する。
「良いものを手に入れてくれたな」
 同じく金属と化している女性に、シリューナは言う。
 やはり、聞こえていないかもしれないが。
 ちらりと、水晶を見やる。先ほどよりも、光と振動が弱い。
「では、最後までしかと楽しませて貰おう」
 シリューナはそういうと、再びティレイラへと向き直った。
 可愛らしい魔法金属を、しかと堪能するために。


<素晴らしい水晶には目もくれず・了>
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年09月03日

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