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『夏のクロッキー帳 〜真世と尖月島で〜 』
雪切・透夜(ib0135)


「よい、しょっと」
 どさっ、と砂浜に丸めた敷物や大きなパラソルなどが放り出された。
――キラリ。
「さすがに南国の太陽は高いみたいだね」
 雪切・透夜(ib0135)が、掌をかざしまぶしそうに空を見上げた。
 鬱陶しくならない程度の短い髪は黒いが、どこか淡い印象がある。水辺できゃいきゃい遊ぶ子どもたちの姿を見て微笑した瞳も黒いが、やはり月夜の闇のように淡い。ジルベリア人の血が半分混ざっているからかもしれない。
 ここは、泰国南西部の南那という地方。
 その沿岸にあるリゾート無人島、尖月島。
「南那には来たことあるけど、こんな所があったとはね」
 弓なりに広がる見事な砂浜に、海の上に立つ高床式のコテージ。
 水平線は遠くおぼろで真っ白な入道雲がもこもこ。海と空の青を分けていた。
「はぁい。いい男ね♪ 後で一緒に泳ぐ?」
 突然、通り掛かった赤いビキニ水着のお姉さんに手を振られた。
「あはは……。僕には一緒に泳ぐ女性がいますので」
「あら、残念♪」
 お姉さんは豊かな胸を揺らして去っていった。
「からかわれただけだろうな」
 あっさり引き下がる女性の姿にそんなことを思う透夜だった。というか、どこにいっても年上女性からからかわれるようで。これはもう体質としかいいようがなく。
 それはそれとして、海水浴客は多い。
「じゃ、準備を……」
 透夜、気を取り直して大きな日除け傘を開き砂浜にしっかりと立てる。
 続いて、丸めた茣蓙を広げた時だった。


「やっほ〜、透夜さ〜ん」
 呼ばれて見ると、深夜真世(iz0135)が手を振りながら走ってきていた。黄色いビキニ水着は白い襟型のデザインで上下がまとめられている。右胸のハイビスカスの模様が大きく花開いて見えるのは、まあ大きさがそれなりだから。手にしたパレオをなびかせながら走ってくる。
「真世。水着、よく似合ってるよ。とても可愛らしいや」
「ああんっ……」
 にこりと淡くほほ笑む透夜。駆け寄った真世をそのままぎゅっと抱き寄せる。真世は吐息を漏らしながら俯き加減にもじもじしたり。
「その……。太ってない、かな?」
「大丈夫だよ」
 瞬間、わあっと元気を取り戻し透夜の顔をのぞき込む真世。
「ホント? うれしいなぁ。……あっ。もちろん透夜さんも水色のハーフパンツ水着がとっても爽やかだよ☆」
 真世、抱かれながらも透夜の水着をじろじろ見る。つんつん触りそうな勢いだ。
「ちょ、真世。僕の水着を見たってどうしょうもないでしょ? 誰得だよ?」
「私得にきまってるぢゃない、やだなぁ。……で・も、そんな恥ずかしいならちゃんと隠さないとねー」
 何と! 真世は自分の手にした黄色いパレオを透夜の腰に巻いたではないかッ! もちろん、女性モノである。
「真世〜」
「あははっ。ついでに水着のトップがあればつけちゃうのになぁ」
 ああ、何という不幸中の幸い。真世は予備のビキニを持ってなかったので女性用水着着用の憂き目を無事に逃れる透夜だった。
「駄目だって」
「あっ、透夜さん逃げたっ。待て待て待て待て〜っ!」
 たまらず透夜はパレオを外し海に逃げ出す。すぐ追う真世。
 ばしゃ〜んと水しぶきが上がる。
 やがて浅瀬でばしゃばしゃしたり。そして今度はなぜか真世が泳いで逃げ始めて透夜が追いかけて。
 でもって、どぱーんと透夜が追いついて抱きがぼがぼもつれて沈んだり。ぷはっ、と顔を出し、お互い見つめて笑って――。


「あははっ。楽しかった〜っ」
 パラソルの下まで戻って、どさっと茣蓙に腰を下ろす真世。その横に、満足そうな笑みの透夜が静かに座った。
「その、透夜さんから誘われたとき、嬉しかったのよ」
「一緒の海はまだなかったしね。だから、どうしても来たくてさ」
 膝を立てて座った透夜に、足を崩してしなだれるように身を寄せてきた真世。ぽふり、と濡れた髪の毛を撫でてやる。
「……ちょっと 恥ずかしい気もするけど、だから誘ったんだ」
「あ……」
 照れる当夜。つられて視線を外した真世が近くの荷物に気付いた。
「あ。……あはは」
 透夜も気付いて笑った。そういえば日焼け止めを持ってきていたのだ。
「もう焼けちゃってるね。透夜さんの肌、白いから」
「いいんだよ。それより真世の肌の方が心配だ」
 視線を合わせてくすくす笑い合う。
「そ、それじゃ透夜さん。お願い……」
 寝転がる真世。が、何故か仰向けだ。
「逆だってば!」
「うふふ、冗談よ。……水着の紐も外してね」
 そう言って反転すると、ん〜とのびをしつつ力を抜く。夢見るように瞼を閉じた横顔。
「うん」
 真っ赤になって真世の肩紐の蝶々結びに手を掛ける。ぷつん、はらっ、というあまりにもあっさりした手応えにドキドキする。続いて背中の後ろの蝶々結び。真世の背筋が、「ううん」とよじれた。ぷつん、はらっという手応えと、また真世の吐息。
「じゃあ、いくよ」
 赤くなった透夜だが、真世に見られることはない。
「腰の紐は外しちゃ駄目よ」
「い、言われなくても……あ」
 真っ赤になった透夜が気付いた。
 周りから自分の顔が見られないよう、パラソルをぐっと下げる。
 そして日焼け止めを自分の手になじませ、優しく撫でるように真世の背中に塗っていく。


 そして、お昼。
「透夜さん、はい」
 にこっ、とお弁当の秋刀魚の天ぷらを箸でつまむ真世。透夜に「あ〜ん」と促す。
「あ……ん」
 ぱくっ、と食べると、真世が喜んだ。
「どう? 前の依頼で習ったのよ」
「ああ、美味しいよ」
「えへへ……。早起きして作った甲斐があったな」
 褒めると顔を洗う猫のようにもじもじと照れた。
「それじゃ、お昼を食べたらお返ししないとね」
「え?」
 にっこり微笑む姿に、期待のこもった視線を向けてくる真世。
「後でコテージの方に行こう」
「うん。あっちも楽しそうだモンね」
 そしてお腹はいっぱい。荷物をまとめてコテージに。
「あら、午前中の……。可愛い恋人さんがいたのね」
 途中で赤い水着のお姉さんとすれ違った。透夜に手を振っている。
「え、何?」
「いいんだよ。真世は気にせず僕の側にいれば」
 美人にウインクされた透夜を不思議そうに見る真世。ぐっと腰を抱き寄せ安心させる。
「……胸、おっきかったね」
「大丈夫。僕は真世を見てるんだから」
 不安そうにする真世だったが、この後すぐに安心することになる。透夜の言葉が真実だったからだ。
「そうそう。椰子の実ジュースを抱いてコテージの濡れ縁に腰掛けて、足はぶらっと下に」
「ぶらっと?」
 コテージに到着すると、早速透夜はクロッキー帳を取り出す。
 入り口階段のやや下に陣取り、濡れ縁に座った真世と海、そして入道雲の空を描き始める。
「う、動かない方がいい?」
「大丈夫。すぐ終わるから肩の力を抜いて。のんびりした姿の方が可愛いよ」
 ちらっと透夜を見る真世。当夜は真世の水着姿を見ても赤くなることはなく、真剣な眼差しで筆記用具を走らせていた。そんな姿にほっとする真世。透夜が自分だけを見ている幸せを改めて感じていた。
――じり……。
「ん……」
 とはいえ、南国の日差しは強い。真世の顔に汗がにじみ始めた。
「お待たせ。さ、すぐに中に入ろう」
「もうできたの?」
「速写画っていうんだ。これを元に後から本格的に完成させるつもりだよ」
 透夜の説明にほっとする真世。
 ほっとして……。
――どさっ。
「わっ!」
 コテージに入ったとたん、真世がベッドに倒れこんでしまった。腰に手を回していた透夜も巻き込まれてベッドに。
「真世……」
「大丈夫。重くないよ」
 気付けば、真世に覆い被さって倒れこんでいた。柔らかい身体を気遣いすぐに身を起こそうとする。が、真世は辛そうな表情をしていた。
「ごめん。もうちょっと早く……」
「ううん。お弁当で張り切りすぎて、寝不足だっただけ。……ね、透夜さん。お願いがあるの」
「寝ても、いいよ」
「いやん。せっかく一緒の海だもの、一人はイヤ。……ほら、耳を澄ませば波の音が下から聞こえるのよ?」
 覆い被さったままの透夜の優しい視線に、気だるくいやいやする真世。
「じゃあ、一緒に。……いくらでも甘えて構わないよ」
 改めて真世の横に寝転がる。
「じゃあ、透夜さんのドキドキ、聞いていたい」
 そう言って真世は胸板に耳を――いや、抱き付いて頬ずりをしてきた。
「とくん、とくんっていってる。……幸せ」
 しばらく透夜の鼓動を聞いていた真世だか、やがて意地悪そうに見上げてきた。
「透夜さんも、私のドキドキ、聞いてみる?」
「僕……? 僕は、ほら、そういうの恥ずかしいから……ああもう」
 問答無用でむぎゅう、と透夜の顔を胸の谷間に抱く真世。いつもならフードで真っ赤になった顔を隠すが、今はフードはない。成り行き上、真世の胸に顔を隠してしまう。
「ふぅ……」
 とくん、とくんという胸の高鳴りをしばらく聞いていた透夜だったが、力の抜けた真世の腕に顔を上げる。見ると、真世は睡魔に襲われ限界が近かった。弁当作り、本当に頑張ったのだろう。
「真世。何時も、ありがとう……大好きだよ」
 ずり、と真世の胸から這い上がると、夢うつつで震える真世の赤い唇を自分の唇で塞いだ。感謝と愛のささやきと共に。
「ん……んんん……」
 真世の言葉は、透夜の唇に塞がれて出てこない。もどかしさに身をよじる真世と、ベッドの衣擦れの音。
 長い、長い口付け。
「んもう……。次、私から……」
 ようやく開放された真世は言うが、眠気と今交わした口付けで腰砕けになっている。上体を少し起すこともできず髪を乱すのみ。
「はいはい。真世からだね」
 透夜、優しく言って添い寝して、やっぱり自分からキスをしてやる。それでも満足そうに透夜を求める真世。いや、一瞬唇を離したぞ?
「だいすき……」
 言って、改めてキス。
 そのままベッドに沈む二人。
 透夜は、寝ている真世を速写してもいいかもと思ったが、両手に抱く温もりと柔らかさ、重さを感じて痛いと思い直し、ぎゅっと力を入れた。
 ざざん、という波音に包まれるのを感じながら。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0135/雪切・透夜/男/16/騎士
iz0135/深夜真世/女/18/弓術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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雪切・透夜 様

 いつもお世話様になっております、瀬川潮です。
 真世といつも仲良くしてくれてありがとうございます。ご想像の通り、なんだかいつもな二人に仕上がったようで。それでもやっぱり女難は外せず。部分的にご笑納いただければ幸いです。

 諸事情でお便り短くてスイマセン。二人の夏の素敵な思い出、ありがとうございました♪
常夏のドリームノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年09月07日

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