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『蛍 〜 花に託して 〜 』
青空・アルベールja0732



 その日は雨が降っていた。
 一つ一つ丁寧に細工をしながら、青空・アルベール(ja0732)は悲しげに空を見上げる。
 待ちに待った祭りの日だった。
(晴れないかなー)
 丁寧に仕上げをしながら祈るように空を見る。
 何度も。
 何度も。
 時計が学業の終了時間を示す。
 ちょうど終わった作業に一息つき、青空は何度目かの空を見上げた。


 雨が止もうとしていた。







「雨、やんでよかったねぇ!」
 雲間から挿す光に目を細め、青空・アルベール(ja0732)は嬉しげに両手を広げた。水気を含む夜の空気が肌に心地よい。ラフに着崩した青の浴衣から伸びる手は、優雅だが男らしい線をしていた。
「皆がいい子だから止んだんだろうな」
 一緒に学園を出てきた百々清世(ja3082)が笑いながら言った。青空は目を目を丸くして清世を見る。
「清兄ちゃんが保護者してる」
「なんで驚いた目で見るー?」
 問われて、あれなんでだろう? と自分でも首を傾げた。
「うん。兄ちゃんはいつも皆のお兄ちゃんだ」
「おー」
 清世が破顔した。
 青空にとって清世は「頼りになる兄ちゃん」で間違いない。なんとなくびっくりしたのは、清世に保護者っぽい気配を感じたからなのだが、上手く説明できる気はしなかった。それに、きっと口にしてどうこうというものでもないのだろう。
 青空はひっそりとそう結論づけ、ちょうど目に入った女性三人に笑顔で手を振った。
「なたねえー! ネアー! カタリナー!」
 呼ばれた七種戒(ja1267)、ギィネシアヌ(ja5565)、カタリナ(ja5119)がからころと下駄の音を鳴らしながら手を振り返す。清世も笑顔で声をかけた。
「おー。華やかだなー。よく似合ってる」
「ちょー着付けがんばった!」
 戒が笑顔でサムズアップする。
 さらにその後方から、フレイヤ(ja0715)と若杉英斗(ja4230)がやって来た。
(あ! 黄昏!)
 青空は慌てる。
 黄昏の魔女ことフレイヤに渡すものがあるのだが、しかし、困った。いつ渡せばいいのだろうか!
(ど、どのタイミングがいいのかな!?)
 荷物になってもいけないし、かといって渡しそびれたらそれはそれで悲しい!
 まだ到着していない危険戦闘依頼に入っていた久遠栄(ja2400)の話題をする面々にうんうんと頷きつつも、頭の中がいろいろとこんがらがる。
(せんぱいのことも気になるし、心配だし、黄昏に渡す物あるし、えっと、どれからどうすればいいのかなっ!?)
 青空、一人パニックである。
「大丈夫か?」
 ややも挙動不審だったのか、英斗が心配そうに青空に声をかけた。青空の目はぐるぐるになっている。
「だ、だいじょうぶ。ありがとー」
 大丈夫大丈夫と背をぐいぐい押されてはそれ以上問うのも憚られる。心配げに見やってから、英斗は川面に視線を馳せた。
 青空はフレイヤを見ながらさらに考える。だが考える暇は実のところ無かった。
 ザッと動いた気配に顔を上げれば、戒達が笑顔で道の向こうを見ている。手があがり、戒と清世が声を揃えた。
『さかえんおつー!』
 視線の先で、久遠栄(ja2400)が笑顔で手を振っていた。








 まずは腹ごしらえから。
 一番手に入ったやきそば屋で、青空は後ろを振り返った。
「黄昏も食べない?」
 英斗とギィネシアヌが先に美味しそうに頬張っている。ソースの匂いにすきっ腹が「まだですかー」とさっきから催促しっぱなしだった。
「あ、青のりつくと大変なのよ」
 応えにしょぼんとした青空に、フレイヤは言葉を続ける。
「食べないとは言ってないわよ?!」
 ちょっと声のトーンがいつもより上がってた。
「美味しいねー」
「(意外と)いけるわね」
「(わりと)量も入ってるしな」
 店先のため良くない系言葉はこっそり隠して語り合う。そうだこのタイミングで渡したらどうだろう。青空はパッと顔をあげ、プレゼントを取り出そうと……あ! 焼きそばが邪魔で取り出せない!
「リンゴ飴とか超気になるんだけど……あるかなぁ」
「あるある! 買ってやんよ」
 嗚呼! しかも別の場所に行っちゃったー!
 一生懸命焼きそばを頬張ってる最中に旅立つフレイヤと清世に、青空はちょっと涙目になった。しかし「待って」と呼び止めるのも気が引ける。
 仕方なく食べ尽くし、次のたこ焼きを頬張りだした所で二人が帰ってきた。しかし、タイミングを逸してしまった青空はこのタイミングでさて渡していいものかと不安になる。
(リンゴ飴持ってるし、荷物になったらいけないだろうし)
 うんうん唸る。戒にたこ焼きを譲るのは即できたのだが、やはり感謝の品を渡すのにはちょっと心構えがいった。
「船、乗れんの?折角だし乗ろーぜ」
 どうしようかなと思っていると清世が高瀬舟の看板を目にして提案する。
 高瀬舟で渡すとかどうだろう!?
 名案な気がした。それに舟で蛍見物とか楽しそう!
 戒の突撃命令と共に、青空は笑顔で走り出した。
 無論、高瀬舟の席はフレイヤの前をちゃんと取った。





「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
 八人を乗せた高瀬舟は、岸を発った瞬間からぐらんぐらんに揺れていた。ベテランの船頭さん達らしく舟転覆はないが、周りの人が「えっ!?」と視線を向けるほどには揺れている。
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 速攻で「めっ」と怒るカタリナの顔も羞恥に赤い。黄昏ことフレイヤは舟の揺れにあわあわしていてとても声をかけるどころではなかった。
 そして転じた視界に映し出される幻想的な光景。
「わぁ……」
 思わず身を乗り出した。
 蛍の発光は種族的な求愛信号だと言われている。そのため、蛍のいる水面にはライトをあてることもカメラを使うことも禁止されている。屋台も川縁から離した陸側にだけ設置され、証明もそちらに光がいかないよう工夫するほどだった。
 そうやって守られた川の上の光景は、あまりにも美しい。
 闇は深く、空気は冷たく、さわさわと揺れる葦の葉に止まった蛍がそこここで光の信号を発している。虚空を飛ぶのは光の固まりのような群れ。いくつもの群れが飛ぶ様は、一種恐ろしいほどの迫力だった。
「蛍ってさ、綺麗な水のところにしか住まないらしいぜ。フフフ…ここはいい処なんだろうな」
 ギィネシアヌが少し遠い目でそう語る。蛍の向こうに何を見ているのだろうか。やや寂しげな眼差しに、戒がぎゅーっとその体を抱きしめた。
「うにょら!?」
「ネアちゃんが儚げ系をアップしたと見て!」
「してねぇええええ!?」
 わいわいやってる女性二人に、見ていたカタリナがふっと笑みを零す。
「確か遙か上流に遡れば日本の滝百選に選ばれた滝があったはずですね。写真にあった昼の川の透明度を見るにかなり水質も良さそうです。あと、カワニナもタニシも豊富だと解説にありましたね」
 資料にしっかりと目を通しているカタリナ女史の声に、ほぇー、と感嘆の声をあげる一同。ふむふむ、とフレイヤが頷いた。
「そしてこの光景である。ということであるか」
「あ。よしこ。髪に蛍とまっとる」
「よしこ言うなし!」
 いつもの光景がそこにある。なんとなく笑って眺めて、急がなくてもいいかなと青空は思い直した。
 その瞬間、ふわっと光が後ろから溢れた。
「わっ」
「わぁっ」
 ふいに増す明かり。至近距離にまで迫る緑光の固まり。
「なにこれすごい!」
「お、うは、口開けると入ってくるんじゃないか? これ!」
 青空の声に、栄が笑いながら応える。思わずきゃー! と笑い混じりの悲鳴をあげた。
 蛍の光はとても強いのに熱くない。
 熱のないその光は、どこか幻のように儚かった。





 舟から降りて後は射的大会となった。どうしてかは分からない。
 しかも何故かギィネシアヌとフレイヤが競り合っていた。何か魂に通じるところがあるのだろうか?
「なぜだかとっても、キミには負けたくないのである…!」
「その勝負、受けた!」
 姉妹みたいだと青空は思った。
「白熱してるねー」
 自身で射落としたぬいぐるみや貰ったぬいぐるみを抱えて言うと、フレイヤがこちらを見た。青空はハッとなった。
 渡すのなら今!
 不思議そうな顔でこちらを見ているフレイヤに慌てながら、懐から今日作った品を取り出す。手渡すと、フレイヤが目を丸くした。
「コンボルブルスの花をね、象ったんだ。花言葉は縁とか、絆」
 フレイヤには感謝を抱くも素直にそれを言えなかった。だから作った。
 今日の日のありがとうと、早く恋人出来るといいねという願いを込めて。
 けれど、やはり面と向かって口にするのは少し照れる。迷い、悩んで、青空は精一杯の笑顔で告げた。
「は、はやくぼっちじゃなくなるといいな!」
「一言多いーっ!」
 フレイヤが軽く腹パンする真似をして、吹き出す。
 青空も笑った。

 本当はもうぼっちじゃない。
 自分達がここにいる。


 伝えたい言葉を託した花は、フレイヤの胸で誇らしげに咲いていた。







登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

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